18話 魔道具技術の先生
寄宿舎へ荷物を整理をするため、自分たちの部屋へ向かった。
(急いで、荷物整理して通信魔道具を作らなくちゃ…)
エレニが考え事をして歩いてたら、手に抱えていた杖を落としてしまいコロコロコロっと転がっていく。
前方から、杖を突いて歩いてくる男性の足元に、エレニの杖が吸い付くように止まった。
男性は、エレニの杖を拾いあげ杖を窓の光にあてながら見る。
「すみません、杖を拾ってくださりありがとうざいます…」
男性は、ジッとエレニの顔を見つめる。
その目は、メガネごしに何か見定めるかのような目だった。
「ふむ…。これは、君の杖だと言ったな…」
「はい…」
「ゼニス様の刻印がされておるな…」
そう言って、杖を渡す。
エレニは、はっ…とした。
確かに、ゼニス様とお会いしたとき杖に刻印がされた…。
「私の名は、ストス。このアカデミーで魔道具技術を教えている教師だ。少し、私の書斎に付き合ってもらっていいかね」
「はい……」
(うわぁ……。何聞かれるんだろう……)
心中穏やかじゃないエレニの思いを余所に、ストスは書斎へ案内する。
「まぁ…入りなさい」
「失礼します…」
「ここは結界がされており、安心して話ができる」
「……?」
「まぁ、座ってくれ」
ストスは、突いた杖を置き自分の机の椅子にゆっくり座る。
向かい側の椅子に、エレニも座る。
「しかし、驚いたな…。まさかその杖を持つ者と会う日が来るとは思わなかった。君の名前は何と言う?」
「エレニと申します…。私の杖をご存じなのですか?」
「勿論だとも、その杖を作ったのはこの私だ」
「ええっ?本当ですか?」
「嘘などつくものか、それにその杖を作ったのにも訳がある」
「確かに、先生は杖を持っても痛みとかなさそうでしたね…でも訳って…?」
「私は、ヘラの息子だ。しかし、ヘラは私が足が弱く醜いと言って下層階に捨てたのだ。幸い、私は育ての母であるテティスに拾われた。そして、私に魔道具を作る技量がある事を知り、それを開花してくれた。ある日ゼウス様とレダ様の間に子供が出来たという噂を聞いた。その子が身を守る事が出来るよう作ったのがその杖なのだ」
エレニは、話しを聞いて胸がいっぱいになった。
同じ、捨てられた赤子…。
そして、私の身を案じてくれてた人が他にも居たこと。
「エレニ、単刀直入に聞こう。そなたはゼウスの娘なのか?」
「……はい。おっしゃる通りです。ゼウス様とお会いし、アカデミーに入るよう勧められました。しかし、ここでは雷の魔法を封印し魔力を抑えるよう言われております」
「そうか…そういう事か。よくわかった。とにかく、会えて良かった。その杖も持ち主が見つかって喜んでおる。引き留めて悪かったな」
「とんでもないです。私もお会いできて嬉しかったです」
「こんな話を聞かれたら大変だから部屋に呼んだのだ。ヘラは狡猾だからな…。まぁ何か、手伝いが必要な時は遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます…。あ…」
エレニは、通信機の事を思い出した。
「あの!実は、私には人間のジーノとケット・シーのリオという仲間がおりまして、離れていても会話できる通信機が欲しいと思っていたんです」
「ほぅ…通信機か…」
「すぐに連絡が取れるようにしたいのですが、魔道具で作ろうと思っていたんです」
「なるほどな、それは面白そうだ…。よし、早速作ろうではないか。隣の部屋に来なさい」
「え?良いんですか??」
「構わん構わん」
隣の部屋に行くと、そこはストス先生の工房になっていた。
「うわぁ。めずらしい魔道具がいっぱい…」
「勝手に触ると、作動するから気を付けるんだぞ」
「はい…」
(危ない危ない、うっかり触るとこだった…)
「まずは、どんな形がいいかの…」
「そうですね…。ピアスとかイヤリングみたいな耳の装飾道具がいいかなと」
「ふむふむ…。お互いを認識する方法は、何がいいだろうなぁ」
「うーん…。血液か…瞳か…声紋…?」
「ほぉ!大したもんだな、それらで個人を認識できる事がわかっているとは」
「えぇ…まぁ…あははは…」
(前世の知識万々歳だ!!)
「声紋なら、この小さい装飾品でも作れるな…。必要なのは3人分か?」
「えーっと、はい。とりあえず…。」
「ふむ。ならば、あとは複製が作れるようにだけ細工してと…」
3つの耳飾りが、光が渦を巻き魔力が注ぎ混まれる。
「よし、できたぞ!試してみるか…。まず、ワシの声を記録する。あーあー私の名はストス。次に、エレニの声を記録してみなさい」
「私の名前はエレニ」
「どれどれ、隣の部屋に行って耳に着けて…。ストスだ、聞こえるか?」
「はい!聞こえます!!」
「おぉ!聞こえるぞ。成功だ!!こりゃ便利だな…」
「ストス先生!ありがとうございます!」
「いや、何、大したことはしとらん。私のほうこそ発見があった。こりゃ、入学早々課題クリアしたようなもんだな。ハハハハハ」
(何年ぶりに笑ったであろうか。)
ストスの楽しそうな笑い声が書斎に響いた。




