17話 実力はいかに?
教室では、すでに何人かの生徒が魔力測定を受けていた。
中央の台座には、水晶のように透き通った測定器が置かれている。
そのうえに手をかざすと、内側から煙のような光がたちのぼるようだった。
リオとジーノは、魔力測定の対象ではなかったがエレニに付き添って来てくれていた。
「あなたは、風と水の魔法で魔力量はA。では、次の方どうぞ」
先生の穏やかな声に促され、メリノエが前に出て手をかざす。
赤と黒の煙のようなものが勢いよく渦を巻き、教室中が光輝く。
「火と闇の魔法で魔力量はS。……次の方」
今度は、マカリアが前に出てそっと手を伸ばす。
水晶は、青と黒の煙が渦を巻き強く瞬いた。
「水と闇の魔法で魔力量はS。……次の方」
エレニが一歩前に出る…。
(あまり、雷を封印して魔力もあまり出さないようにしなきゃ…)
ドキドキしながら、ペンダントを片手で握りしめながら、恐る恐る手を伸ばす…。
水晶は、虹色が渦を巻きほのかに光輝く。
「うーん…。あなた闇以外ならいろんな魔法が使えるようね。でも魔力はBと出てるわ」
(…よかった…)
小さく息を吐いたエレニの肩から、緊張が少しほどけた。
その様子を見ていたリオと、ジーノが話かけてくる。
「爆発しないかドキドキしたぜ」
「何事もなく、終わって安心しました」
リオが胸をなで下ろすように言った。
その時、後ろからメリノエが声をかけてきた
「あなた、てっきり雷魔法使うかと思ったわ…」
「え……」
「そのペンダント、雷の魔力を感じたから。でも魔力Bだし、気のせいだったようね」
「あはは……」
「でも、いろんな魔法が使えるって先生おっしゃってたわ。羨ましい!」
隣にいた、マカリアがあどけなく話す。
「魔力が弱ければ無意味だわ」
そう言いながら、メリノエは去って行った。
「もぅ!そんな事ないのに…。嫌な思いしたらごめんね、メリノエも悪気があるわけじゃないの。あの子、人付き合い苦手で…」
「大丈夫。気にしないで」
「それじゃ、また!」
マカリアは、メリノエの後を追っていった。
その様子を見ていたリオと、ジーノが話かけてくる。
「バレたかと思ったぜ」
「でも、油断は出来ませんね」
「気をつけなくちゃ。初っ端から、ドジ踏んだら落ち着いてアカデミーに居られなくなるもんね」
エレニが苦笑すると、ジーノが「まったくだ」と笑い返す。
「次は、俺たちの剣技だな」
ジーノが腰の剣を軽く触りながら言った。
3人は、教室を後にし、訓練場へ向かった。
そこでは、剣技試験がすでに始まっており、木剣の打ち合う音と掛け声が響いてる。
逆光を背に受けながら、テキパキと指示をしているアイアスの姿が見えた。
「アイアス殿!」
「おっと、ここでは”教官”って呼ぶべきか?」
ジーノが冗談めかして言うとアイアスは笑って首を振った。
「ははは、君たちは名前で呼んでもらって構わない。同志だからな。無事にアカデミーに着いたようで良かった」
「お世話になります!」
3人が一斉に頭を下げる。
「ここで、剣技の試験を受けるのは…?」
「オレとリオだ」
ジーノが一歩前にでて答える。
「わかった。それなら、あそこに合流してくれ」
アイアスが指さした先には、木剣を構えてまつ生徒たちの姿があった。
「エレニは、危ないからここらへんで見てると良い」
「うん、がんばってね」
エレニは二人の背中を見送りながら小さく手を振った。
ジーノとリオは、木剣を手に訓練場の中央まで歩み出る。
砂地の上では、他の生徒たちが、真剣な表情で打ち合っている。
木と木がぶつかる乾いた音が響き渡っていた。
「それでは、次の組__ジーノ、リオ」
アイアスの声が響く・
二人は呼ばれると同時に正面で構えた。
「お手並み拝見だな、リオ」
「手加減はしませんよ、ジーノ」
ジーノがニヤリと笑い、リオが頷く。
一瞬の沈黙の後、アイアスの手が振り下ろされた。
「__始め!」
ジーノが地面を蹴り、瞬時に踏み込む。木剣が鋭くリオの肩を狙う。
しかし、リオは軽やかに身をかわし、ジーノの剣を受け流す。
二人の木剣のカーンとぶつかりあう音が、訓練場に響く。
エレニは、少し離れた場所で、その様子を見つめていた。
(ジーノは勢いがあるけど、リオはさすが猫なだけに、身体が柔らかい…)
互いの木剣が何度もぶつかり合うたび、砂が舞い上がる。
リオが一歩退き、すかさず低い姿勢から踏み込む。
木剣がジーノの脇をかすめた——が、ジーノは反転してすぐに間合いを詰め返す。
「いい動きだ!」
アイアスが笑みを浮かべながら声を張る。
その目は、生徒としてではなく、一人の戦士として二人を見ていた。
数合ののち、ジーノが大きく剣を振りかぶる。
だが、リオはその勢いを読んでいた。ジーノの動きの隙を突いて、木剣の先で軽く胸を押す。
「そこまで!」
アイアスの声が響き、試合が止まる。
ジーノは苦笑しながら木剣を下げた。
「参ったな、完全に読まれてた」
「たまたまです」
ジーノが照れくさそうに笑う。
エレニはほっと息をついた。
リオもジーノも無事で、そして何より楽しそうだった。
アイアスは二人の前に歩み寄り、うなずいた。
「よくやった。攻めのリオ、防御のジーノ——いいバランスだ。
この調子なら、すぐに実戦にも耐えられるようになるだろう」
「ありがとうございます!」
二人は同時に声を揃えた。
エレニは両手を頭に二人に向かって拍手する。
その姿に、ジーノが笑って手を振り返した。




