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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!――猫と娘と世界を救う物語  作者: 織田珠々菜
神々の戦い編

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104話 奪還作戦

 

 《――アテナよ。そちらは無事?》


 張りつめた声が、通信機から響いた。


 《アテナ様。取り急ぎ、全員無事です》

 《エレニの容態は?》

 《意識は回復しました。ただ――》


 一瞬、言葉が詰まる。


 《レイが“息吹”の力を使いました。現在は深い眠りについています》

 《……そう》


 短く返される声に、重みが滲んだ。


 《外が静まりましたが……ゼウス様は、どうなりましたか?》


 沈黙。


 その沈黙が、すべてを物語っていた。


 《…………敗北したわ》


 《え……?》


 《アテナ先生……それは、本当ですか……?》


 《本当よ。一部始終を、ヘルメスが確認している》


 静かな断言。


 《これから私たちがそちらへ向かう。状況説明と、今後の作戦を立てるわ》


 《……わかりました》


 通信が、途切れた。

 医務室に、重苦しい沈黙が落ちる。


 神王が敗れた――。


 その事実を、誰もすぐには受け止められなかった。


「そんな……まさか……」

「……お父様……」


 エレニは、震える指先でレイをそっと籠に寝かせた。


 いつ目を覚ましてもいいように。

 いつでも、連れていけるように。


 しばらくして――


 空気が、揺れた。

 医務室に姿を現したのは、アテナ、ヘルメス、そしてレモンだった。


「待たせたわね」


 アテナの声は落ち着いていたが、張りつめている。


 いつも陽気なレモンは、肩を落とし、俯いたままだ。


「エレニ様……申し訳ありません!!」


 突然、レモンが頭を下げた。


「私が……私が、ゼウス様に付いていれば……!」


「レモン」


 アテナが、きっぱりと言葉を断つ。


「自分を責めるのはやめなさい。テュポーン相手に、あなたに何ができたというのですか」

「ですが……!」


「それよりも――」


 鋭い眼差し。


「今後のことを考えなさい」


 レモンは、唇を噛みしめ、黙って頷いた。


「ヘルメス。あなたが見たことを、皆に伝えて」


 ヘルメスは一歩前に出て、淡々と語り始めた。


 ――雷霆を奪われたこと。

 ――手足の腱を断たれたこと。

 ――熊の皮で隠され、洞窟に幽閉されたこと。

 ――番人として、デルピュネーが置かれていること。


 すべてを聞き終えた後。


「……それじゃ……」


 エレニが、かすれた声で言う。


「お父様は……生きているんですね?」


「もちろんだ」


 ヘルメスは、はっきりと頷いた。


「ただし――救い出すには、君たちの力が必要だ」


 一瞬の沈黙の後。


 全員が顔を見合わせ、強く頷いた。


「私たちにできることがあるなら……!」


 アテナは、地図を広げる。


「作戦はこうよ」


 指が、洞窟を示す。


「まず、ゼウスの“隠された手足”の偽物を作る。それでデルピュネーをおびき寄せる」


「偽物は、ストスがすでに制作中よ」


 アテナは続ける。


「それを、ヘルメスがおびき寄せ、リオ、メリノエ、マカリアが運ぶ。

 影渡を使って、デルピュネーを引き離して」


 視線が、エレニへ移る。


「その隙に、エレニ、アイアス、ジーノ。

 洞窟内で本物の手足を探し、ゼウスを癒すの」


「ディオは、周囲の警戒。テュポーンとデルピュネーの動向を監視して」


「……了解しました」


「わたしは、引き続きテュポーンの動きを注視するわ」


「レモン、あなたはゼウスの親衛隊長でしょ」


「はい!」


「彼がいつでも帰って来れるよう、準備しなさい」


「了解!!」


 アテナは、最後に告げた。


「彼らは夜より昼の方が動きが鈍い。

 今のうちに、栄養と休息を確保しておきなさい」


「承知しました」


 こうして。


 神王救出作戦は、静かに――

 だが確実に、動き始めた。

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