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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!――猫と娘と世界を救う物語  作者: 織田珠々菜
神々の戦い編

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102話 葛藤

「エレニ!!」

「気が付いたか!?」

「エレニ様……!!」


 重なる声に、エレニはびくりと肩を震わせた。


「……わ……たし……?」

 はっと息を吸い込み、反射的に上体を起こす。


「――っ!」

 視界が揺れ、頭の奥がぐらりと傾く。


「無理するな!」

 すぐに、アイアスの手が肩を支えた。


「世界樹は……? 戦いは、どうなったの……?」

 声に出した瞬間、自分でも驚くほど喉が掠れているのがわかった。


「エレニ……良かった……」

 ほっとしたような、泣き出しそうな声。

「気がついたんだね……本当に……」


「……レイ?」

 ぼやけていた視界が、ゆっくりと焦点を結ぶ。

「……レイ!?」


 レイは床に座り込んだまま、ひどく青白い顔で、無理に微笑んでいた。


「エレニ様……大丈夫です」

 静かにそう告げたのは、傍らにいたリオだった。


「レイは……エレニ様を蘇生するために、“息吹”の力を使ったのです」


「……え……?」

 意味が、すぐには頭に入ってこない。


「今は、力を使い過ぎただけです。

 休ませてあげてください」


「レイが……私の、ために……?」


「本気で、心配したんだぞ……」

 低く、噛みしめるような声。

 アイアスが、珍しく感情を隠さない眼差しでエレニを見つめていた。


「……みんな……」

 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

「……ごめん」


 その瞬間――


 ――ゴゴゴ……ッ!!


 床が、壁が、建物全体が大きく揺れた。

 窓の外では、雷鳴と暴風が交錯している。


「……なに、これ……」


 思わず、息を呑む。


「外は……一体、どうなってるの?」


 次の瞬間――


 バターン!!!


 医務室の扉が、勢いよく開かれた。


「エレニ!! 大丈夫!?」


 駆け込んできたのはメリノエだった。


 その後ろから、マカリア、ジーノ、ディオが次々となだれ込む。


「みんな……」

 エレニは、ゆっくりと呼吸を整えながら言った。

「私は……大丈夫」


 そして、傍らで横になっているレイへ視線を向ける。

「……レイが、助けてくれた」


 そう告げてから、改めて問いかけた。

「ねぇ……外で、一体、何が起きてるの?」


 一瞬の沈黙。


 再び、大きな雷鳴が空を裂く。


 ――まだ、終わっていない。


 エレニは、直感的に理解した。


「……クロノスが、怪物を召喚したんだ」


「クロノスが……!?」


「原初の破壊神――テュポーンだ……」


「そんな相手と……誰が戦ってるの?」


 喉が鳴る。


「……ゼウス様だ」


「――っ!?」


 エレニの顔から、血の気が引いた。


「お父様が……!?」


「外は危険すぎる」


 アイアスが、はっきりと言い切る。

「みんな、ここに居ろ。状況は……」


 視線が、天を仰ぐ。


「……アテナ様が、教えてくれるはずだ」


 雷鳴が、再び轟いた。


 戦いは、まだ――世界の外で続いている。


 エレニは、ベッドの縁に手をついた。

 ぎし、と軋む音。


「エレニ様……?」

 リオが、異変に気づいて声を上げる。


「……立たなきゃ」

 自分の声が、思った以上に震えている。


 それでも。

 足に、力を込めた。


「待て!」

 アイアスが即座に動いた。


 だが、エレニは構わず、上体を起こす。

「――っ!」


 一瞬、視界が白く弾けた。

 重力が、何倍にも増したように身体を引きずり下ろす。


「無茶だ!!」

 アイアスが肩を掴み、無理やり押し戻す。

「今のお前は、戦える状態じゃない!」


「でも……!」

 エレニは、歯を食いしばった。

「ゼウス様が……外で戦ってる……!」


 遠くで、雷鳴が轟く。

 その一撃一撃が、胸の奥を打つ。


「レイは……私を守るために、倒れた……」

 視線が、眠るレイへ向かう。

「このまま……何もしないなんて……」


「それでもだ!」

 アイアスの声が、低く響く。


「今のお前が出れば、レイの努力を無駄にする」


 その言葉に。


 エレニの動きが、止まった。


「……っ」

 息が、詰まる。

 悔しさと、恐怖と、焦りが一気に込み上げる。


「……守るって……言ったのに……」

 震える唇から、か細い声がこぼれた。


 そのとき。


「エレニ」


 静かな声が、割って入る。

 メリノエだった。


「今は、立たなくていい」


 彼女は、エレニの手をそっと握る。

「立ち上がる“時”は、必ず来る」


 その言葉に、マカリアも頷いた。

「その時のために、生きていなきゃ」


 エレニは、しばらく俯いたまま動かなかった。


 やがて――


 深く、息を吐く。


「……わかった」

 かすかな声。


 だが、その瞳の奥では。

 雷は、消えていなかった。

 押し殺されただけだ。


 再び立つ、その瞬間を待ちながら。

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