序章 ー別れー
暑い夏が続いていたが、今日はひさしぶりの雨。
ひさしぶりの雨で涼しくなるかと思いきや予想以上の大雨だ。
昼間にしては、外はどんよりと暗く、窓の外からは雨の音が勢いよくザーザーと聞こえる。
キッチンで夕飯の支度をしながら、リビングにあるテレビのスイッチを入れる。
『この後、150ミリから200ミリを超える大雨となり河川増水や床下からの浸水、土砂災害の恐れもあり警戒が必要です。』
「ママー?今日のご飯なーにー?」
大雨の不安をよそに、献立を気にする娘。
「今日は、オムライスだよー。手を洗っておいで」
「ニャオ~ン」
猫のリオも、足元をスリスリしてゴハンをおねだりする。
「手洗うついでに、リオにゴハンあげてくれる?」
「はーい」
娘は、リオに洗面所に手を洗いに行く。
シングルマザーの私は、小学校5年生になる娘の麗と二人暮らしだ。
2人ともテーブルに着くと、手を合わせ「いただきまーす。」とスプーンを手にした、その時…。
ゴゴゴゴゴゴ…
地鳴りのような音がしたかと思うと壁をぶち破ってドサアアアっと一瞬のうちに家の中に土砂が入り込み全く何も見えなくなった…。
そして、息もできない、もがく事もできない。
あぁ、こんな事ならもっと早く非難すれば良かった…。
娘は無事なのだろうか? 呼びたくても声もだせない。
ごめんね…ごめんね…。ただそう思いながら意識が遠くなっていった。
ただ、「遠くで大丈夫だよ…。」そんな声がした。