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紗恵さんのご両親に捧げる ①

作者: Momo Yoshimi

村中紗絵先生にはじめてお会いしたのは、井草リハビリテーション病院に入院してすぐだった。新井のリハビリのメインの担当者のひとりだった。娘と同い年のスラッとした美人で、リスをイメージする顔のかわいらしさを醸し出していた。

村中さんは、美人揃いのリハビリテーション部の中でも際立って美しかった。自然体ナチュラルな美しさを享受していた。

ハニカム笑顔も含めて、新井には彼女自身から”中性”を想起させた。女性を前面に出してしまうと女性慣れしていない男に、微笑みかけられたとか都合よく解釈されてつきまとわれた経験があるので、そうなってしまったのかもしれない。でも、新井には、60歳くらいになった時の村中先生の内側から滲み出る美しさが一番際立つようになると直感していた。その直感が正しかったとすぐに自己完結した。



リハビリの先生の腕の見せ所のひとつは、克服できなかったり、もう少しで克服できそうな課題を患者にしてもらい、リハビリの効率性を上げることであるが、輪投げや布の下にある視認性のない積木を不自由な側の手のひらで、円柱とか直方体等の図形を当てさせたりしていたが、患者の障害内容を考慮しながら,柔軟に的確に、他の井草病院のリハビリの先生のように対応じていた。




村中紗絵先生と歩行器で一緒に歩いていただいて訓練してもらっているところ、困ったこまったことや改善してほしい要望をがあれば、(皆様のお声をお聞かせくださいと標語が記載されている)目安箱がここに設置されているので。用紙に記入の上、ポストに投函してくださいと説明してくれた。4階建ての4つのビルの各階には。目安箱が設置されているとのことである。


誰もまともな意見をポストには投函しないだろうと新井は真っ先に頭に浮かんだ。皆さんの意見をお聞きして、よりよい病院をめざしています感を来訪者にアピールするにはいいのではないかと思っただけだった。それというのも、以前勤めていたグローバル企業に、システムで実施される目安箱があったからである。従業員は、指定されたURLに、申請内容に証拠書類(メールも含む)、音声データなどを添付して送信する。送信先は、本社がニューヨークなので、NYでその企業と取引がある数社と契約し,ランダムにある弁護士事務所が選ばれて、そこからは、ニューヨーク本社の人事部と法務部→ローカルの人事部と法務部(日本の事務所であれば日本、ソウルであれば韓国の事務所といった具合にである)そして、ローカルの人事部と法務部が状況を調べて、ニューヨーク本社の人事部に報告されるというシステムだった。

何年前から井草病院に目安箱が設置されているのか知らないが、かつて外資系の企業に務めていたと自慢したいと見られるかもしれないと思われても、村中先生は経営にはあまり関与していないと新井には思われたので、彼女にご迷惑をかける可能性は限りなくゼロと推察して、新井は村中先生にクイズをだしてみた。「 目安箱をひと目見て、これでは誰もまともにはこの箱には投函しないだろうと思いました。なぜだと思いますか?』とすると『(同じ病院に勤務する)ご主人はクイズ好きだから、夕飯時に話してみます』と答えてくれた。』

翌日律義にも改善点を教えてくれた。新井が改善点もあったらと質問していたからである。新井が、ある外資系企業のやり方を村中紗恵先生に(簡単に)説明すると、彼女は、「目安箱に投函された要望が、井草病院では誰に読まれるのかがわからないということか」と呟いた。改善委員会に選出された委員(たとえば、各部門長を委員として目安箱委員が責任者となりますと目安距箱のポストに記載しておけば問題ないだろう。そうすれば、看護婦に対するクレームを書きたいのに、看護婦たちがチェックしていたら、【あのやろう!こんな事書きやがってとボツにっされたり、いじめにあうかもしれない】という危険性から開放されるからである。



脳出血を患った人間が最も簡単に,再び運転免許証を取得するには、入院中に体のリハビリと同時期に、運転の適性検査をパスして、施設内にあるドライビングマシンでのテストにも合格して、鴻巣にある免許交付センターにて交付してもらう手順との説明を受けだが、新井がこの説明を受けたのは、一通りの脳トレのレッスンが終了して、新井から説明要請した後だった。(このように事前に説明されているという認識は新井にはなかった。説明していたというのであれば、説明用プレゼン資料をみせていただきたい。)

その結果連絡も稚拙きわまりなかった。なにしろ、入院している個室への帰り道の廊下で、次のステップに進めないので、奥さんと今後についてご相談くださいとのことだけでしたから。新井としては、正解率が〇〇%でスピードも◯◯秒たりないから合格できませんでしたなどの説明もない。

もはや運転免許取得支援で、井草病院を全く信用できなくなっていた。退院してから、他の施設で、免許の取得を目指すとひどいプロセスへの怒りに身をまかせていて、他の施設のお世話になると決めていた。関心は他の施設でも免許の取得が可能なのかどうかだった(インターネットで調べたら、可能とのことだった。)


村中先生から、運転免許証の取得の担当者から、トラブルがその担当者と新井の間で発生したので、間に立って欲しいとなんらかの相談があったと推察した。免許取得前に他の施設に衣替えされたのでは井草病院としても立つ瀬が無いのであろう。村中先生には、食事の場所問題で不満を聞いていただいたこともあり、新井は結果ではなく、プロセスを重視しているっことを村中先生はご存知だし、全体を見て本質を見極められるお方と村中先生をおみうけしているので、怒りがぬけないまま、新井がなぜおこっているのかの思いをぶちまけてしまった。村中先生は、穏やかによくぞ言ってくださいました。ここでは系統だっていないところがわたしも感じていますのでと言ってくれた。

「やはり、先生はこの組織の弱点を理解されている。いいところを削ぎ落とさないで、より良くしてくださる先生であると新井は確信した。』


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― 新着の感想 ―
中村先生の人物描写が丁寧で彼女の優しさや聡明さが伝わってきました。新井さんの病院への不満、特に目安箱や運転免許取得支援のプロセスに関する問題提起は読者としても共感できる部分が多く非常にリアルに感じられ…
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