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第五話・後半 美月少年と五月十六日の騒ぎの後で

第五羽の後半です!


「向こうで、福田さんと鳥羽が喧嘩してるらしいぜ!」


「え? 福田さんと鳥羽って、どっちが強いんだ?」


「福田さんは、高校生に絡まれてた同級生を助けたって話は有名だし……」


 クラスメイトたちが何やら騒がしい。

 福田さんと鳥羽さんが何か揉めていたらしい?


 僕もその現場に行ってみたけれど、すでに鳥羽さんの姿はなく、晶と福田さんだけがいた。福田さんは右腕を左手で押さえている。


「晶!? なにがあったの!?」


「みずき……いや、ちょっとな……紅江、右腕、大丈夫か?」


「うん、大丈夫……」


 あからさまにいつもの元気がない福田さんに、僕も心配になる。


「鳥羽さんがって、みんな騒いでたけど……鳥羽さんに何かやられたの? 晶?」


「鳥羽が晶に絡んでたんだよ。それで、アタシが鳥羽に文句を言いに来たんだ!」


 周囲の生徒たちが、ひそひそと話しているのが聞こえる。


「文句を言いに、って……鳥羽に殴りかかって返り討ちにされてただけじゃん」


「福田さんって、私あんまり好きじゃないから、せいせいした〜。鳥羽さんに睨まれてビビってんのウケる〜。スケバンとか呼ばれてるけど大したことないじゃん」


 一部の心ない声っていうものは、やたらと耳に入ってしまうものだ。

 それは晶も福田さんも同じのようで、晶はさっきから強く拳を握っているし、福田さんは強がってはいるけど、少し震えているように僕には見えた。


「……晶、福田さん、とりあえず保健室で腕を見てもらったほうがいいよ」


「あ、ああ。……紅江、とりあえずそうするか」


「……」


 僕も付き添う形で、保健室へ向かった。


 ※※※


 保健室の先生に福田さんの腕を見てもらっている間、僕は晶にさっきの騒動について尋ねた。


「で? なんで晶のことを鳥羽さんが絡むようなことになったの?」


「いや、俺が最初に鳥羽に話しかけたんだ。美月にちょっかいを出すなってな」


「え? なんで僕?」


「美月が鳥羽にウザ絡みされて迷惑してるって聞いたから」


「え? もしかして、それで鳥羽さんに“僕にちょっかい出すな”って言ったわけ?」


 晶は昔から、友達思いの優しい性格をしている。

 そして正義感も強くて、小学生の頃はみんなのリーダー的な存在だった。

 でも、たまに今回みたいにやりすぎてしまうところがある。


 実際、晶は僕のことを思って鳥羽さんに言ってくれたのだろうけど……正直、僕から見たらありがた迷惑な話だ。

 なにより僕は、みんなが言うほど——鳥羽さんが嫌な人とは思えないのだ。


「ありがとう、晶。でも……僕は鳥羽さんに迷惑になるようなこと、された覚えはないよ。みんなが勝手にそう噂してるだけだよ」


 僕と晶が話していると、そこに福田さんが割り込んできた。


「何? 美月ってアイツに何か弱み握られてるとかあんの?」


「そんなわけないでしょ? それに、福田さんが鳥羽さんに先に手を出したって、本当なの?」


「晶がアイツに絡まれてたからさー!」


「福田さん……いくらなんでも、先に手を出したらダメだよ!」


「なぁ美月? お前、今回やたらと鳥羽の肩を持つけど……やっぱり、なにかあんのか?」


「……僕は、鳥羽さんが“悪い人”には見えないんだよね」


 僕は知っている。鳥羽さんを最初に見たあの日、お婆さんの荷物を持ってあげていたこと。

 それと、廊下に落ちていた画鋲をさりげなく拾っていたこと。

 教室から死角になっていた展示物の机を、そっと安全な位置に動かしていたこと。


 みんなの話す鳥羽さんのイメージと、僕の知る鳥羽さんのイメージはまるっきり違う。

 たぶん、見ている場所が違うのかもしれない。


「……まあ、俺も確かにいきなりあんなこと言ったのは、鳥羽に失礼だったかもな。俺、あんまり鳥羽のこと知らねーし」


「ふん……まあ……確かにアタシ勘違いだったとはいえ、いきなり殴りかかったのは問題だったわ……」


 福田さんはなんだかんだで自分の非を認められる人でよかったし、晶もそういうタイプだ。


「ただ! アタシを“弱いやつ”みたいに言いやがったから! そこだけはゼッテーに許ささない、あの女!」


「まあまあ福田さん、穏便に……鳥羽さんと喧嘩するのはやめてね?」


 僕がそう話すと、晶が真剣な表情で福田さんに向き直る。


「紅江、美月の言う通りだ。鳥羽に手を出すのだけは、もうするなよ?」


「……アイツが何もしなきゃ、アタシも喧嘩なんかふっかけないけど?」


「まあ、それならいいけど」


 福田さんと鳥羽さんの喧嘩騒動はしばらく話題となり、二学年の全教室で持ちきりになった。


 ※※※


 次の日、鳥羽さんが珍しく朝から学校に来ていた。


「あ、鳥羽さん! おはよー!」


「ああ、美月ちゃん、おいすー」


 普通に話しかければ、普通に返してくれる。

 みんなが噂しているほど、鳥羽さんはそんなに喧嘩っ早い性格には思えない。


「鳥羽さんって、いつもそのジャージだけど……制服着てこないの?」


「ジャージでいいじゃん、別にさ? 制服って着るのめんどくさいし。……一度も着たことないかも〜」


「えぇ……それはどうなの?」


「どうなのって? そうなんだから、そうでしょ?」


 鳥羽さんとは、彼女が前の席ってこともあって、最近こうして普通に話すようになっている。


「美月ちゃんってさ……やっぱり、私に話しかけられると迷惑?」


「なんで?」


「いや……もしかしたら、そうなのかなーって」


 晶たちとの一件。晶からは話を聞いたけど……

 鳥羽さん、もしかして気にしている?

 彼女の瞳には、どこか寂しさのようなものが浮かんでいた。


「いや、今日は僕から話しかけたし? 迷惑とは思ってないよ。授業中に邪魔してくるわけじゃないし?」


 そう、鳥羽さんは決して授業中に妨害をするようなことはしない。

 休み時間とか、ホームルームの時間には容赦なくちょっかいをかけてくるけど。

 でも、誰かの邪魔をしているところを、僕は一度も見たことがない。


「美月ちゃんって、お人好しすぎない? なんか心配〜」


「鳥羽さんに心配されたら終わりな気がする……」


「はぁ!? なんでよ〜!」


 そう言いながら、普段はなんとも言えない笑みを浮かべている鳥羽さんが、今は笑顔でちゃんと笑った。

 その姿はどこか懐かしさを感じさせるものがあって、なにより——可愛かった。


今回も読んでくださり

本当にありがとうございます♪

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