第四羽 渡り鳥の何もない五月十四日
続きです!
第四羽 渡り鳥の何も無い日
今日も、目を覚ます。
顔を洗って、いつものジャージに着替える。
リビングのテレビ台の上、縦に飾られている一枚のカードが目に入る。
——「四季見獣 季節を渡る者・燕」
それは「サモン・ザ・サモン」のジュニアチャンピオンになったとき、優勝者特典として作ってもらった“クラフティングカード”の一枚。
公式で使える、世界に一枚だけのオリジナルカード。
強すぎる効果でなければ、どんな内容でも作ってもらえる特典だ。
私は、自分と妹、それぞれの名前でカードを作ってもらった。
二羽の渡り鳥——「燕」と「鶫」が、繋がり絵になるようにデザインされた二枚のカード。
妹は私の名前のカードを、私は妹の名前のカードを使っていた。
サモザのカードは、妹と別れるときに全部あげた。
でも、このカードだけは「持っていてほしい」と言われて……私は今も大切に持っている。
「唯一、リボンと同じように——燕ちゃんと繋がっていられる気がする……」
はぁ……とため息をつく、家にいてもやることがないので、とりあえず外へぶらつくことにした。
※※※
駅前まで来たけど……どうしようか? ヤングボールでビリヤードでもやりに行こうかな。
しばらくぶらぶらして、私は学校にいった。
教室に入ると、ちょうど給食の時間だった。
「鳥羽ああああああ!!」
「えへへ……やっほー、柊木ちゃん!」
鬼の形相で説教してくる担任――柊木先生。
去年からの付き合いで、唯一私にガチ説教してくる女教師。
……案外、嫌いじゃない!
自分の席に着くと、後ろの席の男子――月元美月に向き直って、ちょっかいを出す。
別に、クラスメイトと関わる気はないから、普段こんなことは絶対にしない。
だけど……この男子には、なんかちょっかいを出したくなる。
「みずきちゃーん! 遊んで遊んでー!」
「うん、いいよ! 遊んであげる!」
そう言って、彼は清掃用具ロッカーから箒を持ってきて、私に渡してきた。
「何? これで戦う遊びー?」
「うん、“掃除”する遊び」
……来たか、その返し。
私がウザ絡みすると、誰もが何か理由をつけて逃げていくのに——
この人物、美月ちゃんは、違う! 強い!
「あ? 私に掃除をしろとおっしゃるのですか? みずき様は?」
「はい、そうで御座います! つぐみお嬢様!
ここはわたくし、風紀委員・月元美月のために、どうかよろしくお願い申し上げます!」
——本人も笑いを必死に堪えている。
私にふざけた受け答えで返してくるなんて……やるな月元美月!
「っふ、まぁいいわ! 掃除くらい、この鳥羽鶫にかかれば……逆に教室中を汚して差し上げますわよ?」
「お嬢様! そんなことをしたら、もれなく今回も! 給食の残飯運搬のお仕事の特権をお譲りいたします!」
「っう……それはイヤだなぁー」
私たちのやり取りに、クラスメイト数名が笑いを堪えているのが見えた。
でも、私が一瞬、周囲を見渡したと気づいた途端——皆の表情は凍りつく。
……誰かにも絡んでほしいとは思っていない。
でも……心に何かが突き刺さる。これは——寂しさだと、自分でもわかっている。
だからこうして、美月ちゃんにウザ絡みしているんだ。
構ってほしいんだと、わかっている。
ぐるぐると胸の奥で何かが渦を巻く。
最近こんな気持ち、全然なかったのに。
予想外の美月ちゃんの扱いとノリのせいだ。
構ってもらえて、嬉しかった——
ただ、それが……なんか、ちょっと悔しい。
「くぅ、仕方ない! この鶫様に箒を持たせるとは……美月ちゃん、強いな!」
「ふふ、それじゃあ鳥羽お嬢様! 一緒に、楽しいお掃除の時間にしましょう!」
最後までこのノリで来るんかい……!
でも、誰かとふざけて話したのは久しぶりで——何だか楽しかった。
「ご苦労様、鳥羽さん! ちゃんとやれば上手いし、できるじゃん!」
「……もうやらねーわ!」
「鳥羽さん? 可愛い女の子がさー、そんな言葉遣っちゃダメだと思うよ?」
「うげぇ……さっきのノリと言い、よくそんな痛いセリフを平然と使えるねーみずきちゃん」
「ん? 普段の鳥羽さんよりは全然マシだと思うよ? 本気でね」
「ぐぅー! やるな……今日は負けといてやる! けど、これからは超ウザ絡みしてやるから覚悟してね、美月ちゃん!」
「うん、ちゃんとしてくれるなら、絡んでもらって構わないよ?」
がぁーっ! 何このすました顔で平然と! 強すぎる!!
私は、前から気になっていたけど……
この日を境に、月元美月という存在に、さらに強く惹かれていった。
今回も読んでくださり
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