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第三羽 渡り鳥と四月四日の朝


 テーブル越しに、私と対面している小学六年生の女の子が泣いている。


 「サモン・ザ・サモン」と呼ばれるカードゲームのジュニアチャンピオンシップ決勝戦。

 勝負は完全に決まり、私の勝利が確定してしまったために、女の子はついに泣き出してしまった。


 私はそのまま優勝し、この年の日本ジュニアチャンピオンとなった。


 表彰台を降りると、母が駆け寄ってくる。


「鶫、これであなたはジュニアチャンピオンになったわ!

 これから毎年の大会も優勝してチャンピオンの称号を小学六年生まで守り抜くの!

 中学生になったらプロサモナーになるのよ! いい?

 あなたは私の夢そのものなんだから!!」


 私は、サモザに才能があるらしい。最初は楽しかった。妹と遊んでいるうちは本当に楽しかった。

 でも、母に言われて大会に出るようになったら、途端に嫌になった。


 ——勝ちなさい。負けは許さない。あなたは私の夢。

 私の知ったことじゃない! 負けたっていいだろ?

 お前の夢? そんなの知らないし、興味もない。


 ※※※


 目が覚める。小学三年の時の嫌な記憶を思い出す夢だった。

 心に深く根付いている、大嫌いな母の面影。


 両親は離婚し、私は父に引き取られたが、そんな父も海外出張で半年以上帰っていない。

 実際、父とも小学六年の時に「妹が亡くなった」と聞かされたきり、会話もしていない。



 リビングに向かい、ずっと閉めっぱなしだったカーテンを開ける。

 地上二十階のガラス戸越しに広がる高い景色は絶景なのかもしれないけれど、私には興味すらない。


 ガラス戸を開けてベランダに出ると、涼しい風が寝癖でぼさぼさの髪をなびかせた。


 両親の離婚で生き別れた双子の妹。

 私は髪を縛るのに使っている、ボロボロになったリボンを手に取る。

 妹と一緒にネオンモールで買ったお揃いのこのリボンだけが、今も妹と私を繋いでくれている気がする。



 ——いつか妹に会う。

 それが私の夢だった。


 でも、小学六年生の時に妹が亡くなったと聞かされ、その夢すら失った。

 父は妹が亡くなったことだけは教えてくれたけれど、場所までは教えてくれなかった。

 父も母と関わりたくなかったのだろう。だから私には何も教えなかったのだ。


 このまま、ここから飛び降りれば……妹、燕ちゃんのところへ行けるのだろうか?

 そんなことを何度も考えた。でもそんな度胸、私にはなかった。


 「……さてと。別に行く理由もないけど、家でぼーっとしてるよりはマシだし、学校にでも行くか……」


 私は学校に行ったり行かなかったり、気まぐれだ。

 気が向けば暇つぶしに行くし、めんどくさければ行かない。ただそれだけ。


 いつものジャージに着替える。制服を着るのはなんとなく嫌だ。

 長い髪は切るのが面倒だから、妹とお揃いのリボンでポニーテールにしている。


 鏡に映った、小柄で残念な自分——それが、私、鳥羽とばつぐみだ。



 外に出るのも面倒な高層マンションを後にし、今日は気が向いたから学校へ向かう。

 途中、同級生を見かけるが、みんな私と目を合わせないようにしている。

 まぁ、私は悪名高い鶫ちゃんだから仕方ないけど、少し寂しさはあった。


 私が悪名高くなった理由は、小学三年の頃、妹と生き別れになった時期に遡る。


 妹が転校してから、私は同級生の男子三人組にいじめられるようになった。

 ある日、奴らに妹とお揃いのリボンを奪われた。「返して」と何度も言ったが、奴らはリボンを踏みつけた。

 泣きながら汚れを落とそうとしたけど、色が薄くなってしまった。

 そして、何かが私の中で崩壊した。


 次の日、また奴らに絡まれた私は、反射的に蹴り飛ばした。

 元々運動神経は良かったので、当時から足は強かった。

 奴はまさか蹴られると思ってなかったのか、変に手をついて骨折した。

 泣き叫ぶ奴を見て、他の二人を睨むと、彼らは慌てて逃げていった。


 後日、父と学校に呼び出され、相手の保護者に謝罪することになった。

 私は何度も「向こうが手を出してきたからだ」と父に言ったが、父は「鶫も謝れ」の一点張りだった。


 父は私を信じず、世間的に「被害者」である奴らに味方するしかなかったのだろう。

 私は子供ながらにそれを悟り、心の何かがもう、どうでもよくなった。


 それからは、絡んできた相手を徹底的に叩きのめした。

 すると噂が広がり、他校のヤンキーまで絡んでくるようになったので、コテンパンにしてやった。

 気がつけば一人ぼっちになり、「超問題児」の称号を手に入れていた。

 父もそんな私から逃げたいのだろうと、私は思っている。


 学校に着くと、自分の席に座り、後ろの席の男子にちょっかいを出した。


「美月ちゃーん! 遊んでー!」


「うん、いいよ?」


 美月ちゃんは掃除用具ロッカーへ向かい、箒を持って戻ってきた。そして私に手渡す。


「あ? 箒でチャンバラですか?」


「ん? 掃除する遊びだよ。まだホームルームまで時間あるし、暇なら掃除でもしてなよ?」


(くぅ、そう来たかー!)


 初めて、ちゃんと私に構ってくれる同級生。なんだかんだと誰かに構ってほしいから、少し嬉しかった。


「しゃーない! この鶫様が逆に教室を汚くして差し上げよう!」


「そんなことしたら、鳥羽さんには給食の残飯運搬というおまけが付くよ?」


「そのおまけはいらないわー!」


「ほら、ならたまには真面目に掃除してみなよ? いい暇つぶしになるから!」


 言われるままに、私は掃き掃除を始めた。

 あまりにも意外な光景だったのか、クラスメイトたちは一瞬だけ私を見た。


「何? なんかあるー?」


 私が一言つぶやくと、クラスメイトたちは慌てて目線を逸らした。


 しばらく掃除をしていると、美月ちゃんが箒と塵取りを持ってやってきた。


「ほら、鳥羽さん、ここに集めて? 僕がゴミを取るから」


 言われるままにホコリを一箇所に集めた。


「鳥羽さんって、なんだかんだで気がきくね?」


「気がきくか……そうだったら、私は今みたいになってない」


「え?」


 私が小さく呟いた独り言が、美月ちゃんに聞こえたようだった。


「今の聞こえた? もし聞いたなら忘れてね?」


「……」


 美月ちゃんは何も言わず、私は掃除用具をロッカーに放り投げた。


「鳥羽さん、ちゃんと箒はそこに立てかけようね!」


 ため息をつきながらも、私は言われた通りに箒を立てかけた。


「鳥羽さん? たまにはいいでしょ?」


 少し微笑む美月ちゃんに、私は小さく笑いながらこう返した。


「まぁ、たまにはね!」

渡り鳥は投稿ペースがゆっくりな作品となるかもです!合間合間に投稿できたらなと思っております!

本当に趣味の作品なので……。


読んでくれてありがとうございます!

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