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第八羽・後半 六月一日の渡り鳥と美月少年

今回も少し間が空いてしまいましたが!

続きです!


 今日は、鳥羽さんと遊ぶ約束をした当日。


 着替えてリビングに向かうと、ソファに座っていた母がこちらを見て目を細めた。


「まあ美月、その格好でいいの? 女の子とデートなんでしょ?」


 着ていたのはTシャツにジーンズ。

 母の視線はそれを上から下まで一巡して、ズバリ突いてくる。


「ん? デートって……そういうんじゃないし。それに鳥羽さん、多分ジャージで来るだろうし?」


 軽く返すと、母は唇の端を持ち上げ、意味深な笑みを浮かべた。


「美月……本当にその子が、そんな格好で来ると思ってるの? 美月の話を聞く限り、気の利く子なんでしょ? そういう子は、相手のためにお化粧したり、ちゃんとした格好をしてくるものよ。だからあんたも、ちゃんとしてあげなさい」


 そう言って母は僕のクローゼットを開け、白いTシャツにグレーのジャケット、そして黒いスラックスを取り出した。


「ほら、今日はこれ。いつもの格好じゃなくて、大人っぽく決めちゃいなさい!」


 ※※※


 母さん……ありがとう。

 今日ほど母の言葉が偉大だと思った日はない。


 ——そして、その予感は的中した。


『その子、誰かと遊ぶのに慣れてないんでしょ? だったら予定より早く来ちゃうかもだから、あんたも早めに行きなさい』


 言われた通りに早めに向かった待ち合わせ場所。

 そこにいたのは、桃色の長い髪を風になびかせ、黒いカーディガンに白いワンピース姿の女の子——清潔感のある、思わず見とれてしまうほど可愛い姿。


 声をかけられて、さらに驚く。

 それは紛れもなく鳥羽さんだった。


 母の言ったように、本当にオシャレをしている鳥羽さんの姿に朝の自分の発言が情けなくなる……。


 そして、その鳥羽さんの髪を下ろした姿が、僕の知るあの子にどこか似ている。

 それに——本当に早く来ていた。母の言葉どおりだ。


 「どこに行こうか?」と話し合うが、僕はもともと誰かに合わせるタイプ。率先して決めるのは苦手だ。結局この日もノープランで来てしまったことを、少し後悔する。


 でも鳥羽さんはそんな僕を責めることもなく、微笑んで「美月ちゃんの探してるカードとかないの?」と聞いてきた。


 そこから僕たちはカードショップ巡りをすることになった。……気づけば、完全に僕の買い物に付き合わせている形になっていた。


 ショーケースを覗く鳥羽さん。

 いつもと違う服装がよく似合っていて、別人のようだ。中身も本当に優しい子で……気づけば、見惚れてしまっていた。


「美月……ちゃん?」


 僕の視線に気づいたのか、不安そうに名前を呼ばれる。


「やっぱり……変だったかな?」


「変なんて、とんでもない! すごく可愛いし……僕的に、すごく好みだし……」


 ——あ。

 思っていたことが、そのまま口から出てしまっていた。

 一気に顔が熱くなる。


「……あ、ありがとう……」


 嫌われたかと思ったが、鳥羽さんは少し伏し目になり、横目でこちらを見てくれていた。


 結局、目的のカードは見つからず。

 でも鳥羽さんが「売ってる場所、知ってるかも!」と言ってくれ、バスに乗って移動することに。


 車内で隣に座ると、胸が妙に落ち着かない。

 こんな感覚は初めてだった。


「鳥羽さん、結局僕の買い物になっちゃってごめん」


 ノープランのうえに女子を自分の買い物に付き合わせるという事実が、急に申し訳なくなる。


 けれど鳥羽さんは、優しく笑った。


「いいじゃん。それで? 誰かとこうやって一緒にいる経験なかったから、それだけで私は楽しいよー」


 ……本当にいい子だ。

 逆に、こんな子をノープランで誘った自分が情けなく思えてきた。


 ※※※


「美月ちゃん! こっちこっち!」


 着いた先で、鳥羽さんが僕の手を引く。

 通りには車関係の店やオフィス、洒落た建物が並んでいた。


「河岸市にこんな場所あったんだ!」


「学区外だし、美月ちゃんが知らなくても当然だよ? 小三の頃まで、この辺に住んでたから知ってるんだ」


 そう言う鳥羽さんは、どこか寂しげだった。


「あ! 着いたよ! ここ、昔よく妹とカード漁りした店〜」


 そこは大手チェーンの本屋だった。


 中に入ると、サモザコーナーの一角に大きなカゴがあり、中には雑に放り込まれた大量のカード。


「うわ、このカード、ボロボロだ……」


「懐かしいなー、この“売り物になるのか怪しい”感! よく妹と笑ってたなー」


 そう言いながらカードを探り始める鳥羽さん。僕も手を伸ばす。


「ん? ビーンナイト? アタック1、ライフ1でマナコスト4って、これ何に使うの?」


「なにー! 美月ちゃん、ビーンナイトを知らないだとー!?」


「いや、知らないよ……」


 鳥羽さんはドヤ顔で語る。


「一見弱そうだけど、“仙豆の種”ってカードで無理やり1マナ召喚できる優秀カードなんだぞ? 小三当時の私基準だけど!」


 スマホで調べてみると、仙豆の種の効果は——

 “効果を持たないアタック1、ライフ1の召喚獣をデッキから召喚する”。


「え!? 強っ! 何このカード!」


「ふふっ、強いでしょ? 古いパックだから、知らなくても仕方ないよ」


 やっぱり鳥羽さん、本当にやってたんだ……しかも強い人かもしれない。


 笑いながらカードを探る時間は、あっという間だった。


「あったよー美月ちゃん! アルマトラ!」


 差し出されたのは、探していた悪戯妖精アルマトラ。


「本当にあった!」


「しかも10円!」


「10円でアルマトラ……すごい……」


 店を出る僕は、自然と足取りが軽くなっていた。


 その後、再びバスに乗り駅前まで戻った。


 ※※※


 駅前に戻ると、鳥羽さんが笑顔で言った。


「今日はありがとうね? 誘ってくれて」


「いや、僕の方こそ……付き合わせちゃったから」


「私が楽しかったって言ってるんだから、いいじゃん?」


「でも、次はちゃんとプラン立ててくるよ。なんか悔しいから!」


「美月ちゃんが私に悔しがるの、初めて見たかも!」


 別れ際、手を振りながら歩いていく鳥羽さん。

 その背中を見送りながら、僕もバスに乗った。


 座席に身を預け、少し目を閉じると——

 今日の鳥羽さんの姿が、鮮やかに脳裏に焼きついて離れなかった。


今回も読んでくださり

本当にありがとうございます♪

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