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第一羽 月本 美月少年と大空へ飛び立つ渡り鳥

こちらは趣味の作品です!



 はじめに。この物語はフィクションです。県名以外の地名や登場人物、事件や出来事はすべて架空であり、実際のものとは一切関係ありません。


——————


 一人の小学六年生の男の子が、今日も病院に入院している友達の病室へ向かっていた。


 そう、それが僕――月本つきもと美月みずきだ。


 僕は、生まれて間もなく父が交通事故で亡くなり、母も仕事が忙しかったため、母の兄である伯父さん夫婦に預けられ、お世話になっていた。


 小学三年生の頃、伯父さん夫婦と知り合いらしい女性が、突然自分の娘を伯父さん夫婦に預けて姿を消してしまった。

 そうして同じ家で暮らすことになったのが、今お見舞いに向かっている、家族の妹のような存在――春咲はるざきつばめだ。


 僕は昨日、燕が食べたいと言っていた駄菓子を買って、病室を訪れた。


「燕、入るよー……。あれ?」


 燕が入院していたはずの病室には、誰もいなかった。

 燕が横になっていたベッドは、布団が綺麗に畳まれている。


 その時、一人の看護師さんが病室に現れ、僕に何かを告げた。


「……!」


 僕は、手に持っていた駄菓子の袋を力なく落としてしまった。


 次の瞬間、僕の視界に映ったのは――お墓だった。

 あれ? さっきまで病室にいて、燕のお見舞いをしていたはずなのに……?


 目の前にあるお墓は誰のものなのか。

 隣には、千葉県にいるはずの母が、黒い服装で立っていた。


「美月、これを燕ちゃんに」


 母からお線香を渡された。

 状況が全くわからない。病院から今に至るまでの記憶がない。


 ――ただ、理解したくなかった。

 現実として受け入れたくなかった。

 だから、僕は無かったことにしようとしていた。

 知らないことにしようとしていた。

 燕がいなくなってしまったという現実を。


 だから記憶がなかったのだ。

 しかし、このお墓を見て、ようやく燕がいなくなった現実を受け入れたからか、はっきりと意識が戻った。


 僕は、それに気づいて――現実なのだと知って、ただ泣くことしかできなかった。


 伯父さん夫婦の家に帰ってから、僕の目に飛び込んできたのは、白いガムテープがベタベタに貼られた箱だった。

 それは、以前、燕が僕に渡してきた箱だった。


『ねぇ? 美月ちゃん! 私に何かあったらこの箱を、生き別れのお姉ちゃんに渡してくれないかな? 私が無事に退院できたら自分で渡すけど! とりあえず美月ちゃんに預かっててもらえない?』


 あの時は「燕が渡せばいいだろう?」と、僕は言って預かったけれど、その後は「元気になったら燕が自分で渡せよ」と言って、お姉さんの名前を聞いていなかった。


「ちゃんと聞いておけばよかった……燕の双子のお姉ちゃんの名前」


 燕の母に尋ねたかったけれど、燕の母親は燕の入院中、一度もお見舞いに来たことがなかった。それどころか、自分の娘のお葬式にすら来なかったのだ。


 噂では、燕の母は夜逃げしたらしいと言われていた。


 父親に関しても、現在の住所や連絡先を知る人は誰もいなかった。


 だから、燕の姉の本名を僕が知ることはできなかった。


 僕は、その箱を抱きしめた。

 妹のような存在だった燕。五年生の半ば頃までは、毎日一緒に遊んだかけがえのない存在だった燕。


「燕、必ずこの箱をお姉さんに渡すからね!」


 僕はそう決意した。必ず、燕の双子のお姉さんにこの箱を渡すと。


 ※※※


 あれから一年がたった。

 僕は今、伯父さん夫婦と暮らしていた茨城県の星ヶ美咲ほしがみさきを離れ、千葉県にある河岸市かがんしという場所で、生前父が購入した家に母と一緒に暮らしている。


 小学校を卒業する頃、親友の篠山ささやまあきらが両親の都合で千葉県の河岸市に引っ越すことになり、母が住む場所からわりと近いと知った僕は、燕も千葉県から茨城に引っ越してきたことを思い出し、お姉さんの手がかりがあるのではと思って、母に頼み込んで千葉県側へ引っ越したのだ。


 結果、親友と中学でも同じ学校に通えることになったので、本当によかった。


 しかし、結局なんの手がかりもつかめないまま、もうすぐ中学二年生になろうという時期を迎えていた。


 ※※※


 ある日、桜色の長いポニーテールに、うちの学校のジャージ姿の女の子が、歩道でおばあちゃんの荷物を持って歩いている姿が目に入った。


(あの子は……鳥羽さん?)


 その人物は鳥羽とばつくみという同級生で、噂では同級生とケンカして骨折させたとか、高校生のヤンキーをボコボコにしたなどと言われている、超問題児の一年生女子だった。


(燕と同じ桜色の髪、小柄な体型に「鶫」って確か鳥の名前……まさかね?)


 一瞬、彼女が燕のお姉さんかもしれない、と思ったけれど、本人に聞くのはやめておくことにした。


 そのまま、僕は家へ帰った——。


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