諦めない心
『ハァーッハッハッハ!どうした雑魚ども、そんな攻撃じゃ俺は殺せねーぞ!』
少年は、村の入り口でゴブリン達の死体の山を築いている。
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
少年の2丁の拳銃から銃声が鳴り響く。
いくら、2丁の拳銃があるとはいえ
弾は無限ではない。人は皆、体の中にマナがありそれを使ってイリュージョンウェポンで攻撃している。それは一ノ瀬真斗も例外ではない。彼は自分のマナ量をきちんと把握しており、近接攻撃で戦う事もある。
そんな姿を目にした村人達が、
『Numbersの救援が来たぞ!これで助かる!
みんなもう少し耐えるんだぁ!』
真斗が来た事により、村人達の士気が高まる。
粗方入り口の所が片付くと、村人の一人が真斗に駆け寄る。
『Numbersの方ですよね!?』
村人は、真斗が着てるコートの裾の部分にあるNo.を見て確信する。
『あぁ、俺はNumbersの七番。一ノ瀬真斗だ!もぅ、安心していい!この村の魔物は俺が一手に引き受ける。みんなは、家の中に避難してくれ!』
そう真斗が言うと村人が、
『姫崎さんの家の方がまだ魔物で溢れかえっているんです、ここはいいので姫崎さんの家の方に行ってあげて下さい。お願いします。』
そう言う、村人は村の奥の方にある一軒の家を指差す。
『本当に平気か?まだ少なからず魔物達は居るぞ!?』
そう真斗が言うと、
『私達は平気です。真斗さんが来てくれたから、村人の士気も上がりまだやれます!』
そう言って村人達は各々が武器を構え、ゴブリン達向かって、走り出す。
『わかった、でもあまり無理はするなよ!無理だと判断したら逃げるんだ!いいなっ!』
そう言って真斗は、姫崎家に向かって走り出す。
『はぁ、はぁ、はぁ・・・・・。』
大分片付いて来たな!
『あなた、油断はダメよ!まだ何処に潜んで居るかわからないのだから。』
そう母親が言うと父親は、
『そうだなっ!気を抜かないでいよう。』
その時だった。少し離れた所に居たゴブリンが弓で母親目掛けて矢を放つ。
『美咲危ない!!』
父親は、母親に覆い被さるようにして自分の背中に矢が刺さるのを感じだ。
『ぐはっ・・・』
『あなたっ!?』
矢の刺さった父親は、みるみるうちに顔が青ざめて行く。それを見た母親は、矢に毒が塗られていた事に気がつく。
『あなた、しっかりして!』
その時、笑い声あろう奇声を発しながらゴブリン達が何体も家の中に入り込んでくる。母親は、その光景に絶望を覚える。私達は助からない。せめて、楓だけは助けないといけない,そう思い母親は父親を抱えて少しでも楓の元からゴブリン達を遠ざける為に部屋のすみへと移動する。
ゴブリン達は、まるでおもちゃでも見るかのように奇声を発しながら、ゆっくり二人に近く。
そこからは、想像を絶する光景が広がる。痛ぶるかのように、持っている棍棒で母親殴り、遊ぶかのように弓矢で父親を撃ち抜く。悲鳴が家の中に轟き叫ぶ。その悲惨にも似た光景に思わず楓が押入れから出て来る。
『やめて!お父さん、お母さん、嫌ぁぁぁぁぁ。』
すかさず、その声にゴブリン達も反応し、新しいおもちゃが見つかったと思いニヤける。
『ギ、ギャ、ギャ、ギャャャ』
ゴブリン達は、直ぐに標的を二人から楓に変える。
母親の美咲は声を振り絞り叫ぶ。
『楓、逃げなさい。』
母親が、そう言うと楓は、
『嫌だ!!嫌だ!!嫌だっ!!』
楓は横たわる父親と母親を見てそう言った。楓が続けてこう言い放つ、
『お父さんと、お母さん、楓の三人で逃げるの!』
そう言うと、楓は母親の近くに居るゴブリンに向けて走り出し突進を試みる
『たぁぁぁあああああっ!!!』
楓のタックルに怯み、ゴブリン床へ転がる。
それを見ていた他のゴブリンは、転がったゴブリンを見て笑っている。
『キヤッ、キヤッ、キヤッ、キヤッ。』
『私は負けない!生きてお父さんとお母さんと三人でまた暮らすんだぁぁぁあああ!!』
《キュィィィィィィィィィッ》
すると、そう音を立てて眩い光が家の中を照らし、楓の左手に大きな白とピンクをあしらった弓が構築されていく。
『これは・・・・。』
母親も、
『か、かえで・・・。』
それは楓の決意に応えたかのように、イリュージョンウェポンが完成する。
『・・・・・これがあればお父さんとお母さんを守れる。』
そう思った楓は、
(何となく使い方がわかる・・・。どうしてだろう。)
楓は右手で矢を構築し、弓に掛けて弦を思いっきり引っ張り、近くに居るゴブリンに向けて右手を離す。
『いっけぇぇえええ!!!!』
矢は、何体ものゴブリンの貫通し、更には家の壁をも貫通させた。
ゴブリン達はパニックに陥り、あたふたしている。楓は、ココぞとばかりにもう一本矢を構築し、先程同様ゴブリンに向けて矢を放つ。
しかし、無情にも矢はゴブリンから大きく外れ家の壁を貫通する。その後、何度も矢を放つが、生まれて今日まで弓矢な触った事無い楓は狙いが定まらず、まともに当たったのは、僅か数本だった。
それでも楓は、
『このっ!このっ!このっ!』と矢を放つ。
次第に楓の呼吸が乱れ始めて、挙げ句の果てには左手からイリュージョンウェポンが消える。
『!?』
『何で消えちゃうの!?もう少しなのに・・・。お願いだから!出て来てよ!!』
楓は、知らない。
自分のマナが完全に無くなり、イリュージョンウェポンが維持できなくなる事を。
『お願いだから、出て来てよ。お願い・・・お願い・・・・お願いします、もう一度だけでいいから出て来てよ。』
楓の願いは届かず、イリュージョンウェポンは構築されない。
ゴブリン達も一時はパニックに陥ったものの、楓の手から弓が消えて絶望をする顔を見ると再び楓に攻撃をしようと仕掛ける。
完全になす術が無くなった楓は、諦めの顔になりただ一点を見つめていた。それは昔、家族三人で旅行に出掛けて幸せそうにしている三人の写真。
そんな中、一体のゴブリンが楓に近づき、奇声をあげながら楓の頭目掛けて棍棒を振り下ろす。
『ギャャャャャャャャャャャャッ!』
楓は、もう死ぬのだと悟った時、
『クソ虫がぁぁぁ!』