何も出来ない楓
この世界は、魔物が蔓延る世界である。故に魔物と人類の争いが幾度となく繰り広げてられている。そんな世界で、人類は対魔物に対抗する手段としてイリュージョンウェポン(幻想武器)を神から授かるのであった。しかしそれは成人になるまでの子供たちのみ授かる事許されており、成人を迎えた者は自然と使えなくなる。マナという能力により創り出され、各々が創造する物一つだけ与えられる唯一の対魔物に特化した武器である。全ての子供が創り出されると言うわけでもなく、何かしらの力が働いて創り出されるもの。その何かしらの力と言うものは未だに解明出来ていない。そんな中で今日もまた一人の少年が理不尽なこの世界で必死に生きているのであった。
次の日、中等部の登校時間。楓は夜桜との朝の修行を終えて椿と合流し登校した。教室に入ると、一人本を読んでいる高砂をみつける。その様子を他の生徒はニヤニヤしながら小声で話している。
「ねぇ、聞いた?昨日の放課後の高砂さんの事!」
「うん、聞いた聞いた!吉沢君に楯突いたみたいよ。」
「馬鹿だよね。どうにかなるとでも思ったのかな?」
「いくら学級委員長でも形だけなのに。成績も負けてるし、実技の試験でもまともに出来てないのに。」
「まぁ、あの子場合イリュージョンウェポンが本だからね。あの本でどうやって戦うんだろ。謎だよね。戦闘じゃまるで役に立たなそうだし。」
「まぁ、本人が根暗だから合ってるんじゃない?本であることが。」
「戦いになったら真っ先に死ぬだろうね。ざまーみろ!」
など、クラスの生徒達は高砂批判をするばかり。やがて授業が始まり、桜子の出した問題を答えられなかった高砂はクラスの笑いものになる。桜子も高砂を見る目は何処か冷めている。
時は、昼休みになり高砂は一人教室を出ていき楓と椿は共にお手洗いへと向かう。そのわずかな時間で事件は起こる。高砂、楓、椿が居ない教室では、吉沢を虐めグールプのリーダーとして高砂への嫌がらせを開始した。
「おい、例の物を持ってきたな?」
「お、おぅ。朝、校庭の花壇から持ってきたぞ!でも何に使うんだこれ?」
「見ていれば分かる。」
吉沢は、クラスメイトから湿っている泥の入った袋を受け取る。そして、その袋の中にある泥を高砂の体操着の入ったバックに入れ始めた。すると、その様子を見ていたクラスメイト達は、
「うぉー、吉沢は容赦ねーな!」
「吉沢いいぞ!もっとやれ!」
「はははははっ、笑いが止まらねー!これ、どうすんだろ次の授業の体育!」
クラスメイトは、吉沢のした事に対して歓声を上げる。その吉沢が、
「この後、今日あいつが帰るまで、もっと面白いものが見れるぞ期待しておけ!俺の協力者達がとんでもないことをやるからな!」
「マジか!今日は、帰らずに残ってようっと!」
「私も!そこまで言うなら残っていなきゃ損だし!」
「あー、早く放課後にならねーかな!」
「それよりまずは、次の授業の体育だ!ワクワクしてきたぞ!」
その数分後、椿と共にクラスに戻って来た楓は教室の中の違和感を覚える。
(何で、こんな静かなの?こんなに人数が居るのにまるで話し声が聞こえない。)
やがて、体育の授業が始まる時間になり、男子たちは体操着に着替える為別の教室に移動する。自分たちの教室では女子生徒達が体操着に着替える。皆が着替える中、高砂が中々着替え始めないので椿が高砂に声を掛けている。その様子を楓はじっと観察していた。やがて、教室から出た楓は
「椿、先に行ってて!ちょっと忘れ物をしたから取ってくる。」
「え!?忘れ物?体育の授業なのに?」
「うん、デバイスを持ってくるのを忘れちゃった!可愛い私の体育の授業風景を兄様に見せるために録画しておかないと!ってことで、取ってくるね!」
「え!?あ!?ちょ、ちょっと楓ちゃん!」
楓は駆け足で教室まで戻って来た。そして、少しだけドアを開けて中の様子を見る。中を覗き込んだ楓が見たものは、絶望する高砂の姿だった。その後、高砂は職員室へと向かう。
高砂が教室から出たのを確認した後、楓は中に入り高砂のバックを開けて中を見る。すると、そこには泥まみれになっている体操着が一着。
(何よこれ。酷い。誰がこんなことをしたの。こんなのあんまりじゃない。)
高砂のバックを見た楓は怒りに打ち震えていた。そして、呆然とバックの中を見ていた楓は高砂が教室に戻って来たことに気が付かず鉢合わせしてしまう。
「姫崎さん!?」
ハッとやらかしたと楓は慌てて高砂を見る。
「どうして教室に?」
「え!?あ、いや忘れ物をしちゃって。あははははっ。」
楓は突然の事で苦しい言い逃れをするのであった。そして、
「それと姫崎さん、何であたしのバックを開けてるの?」
「え!?これは、その・・・・何でだろう・・・・。」
楓は持っていた高砂のバックを机の上に置いて後退りし、高砂は自分の机の前まで移動する。
「ねぇ、姫崎さんお願いがあるの。」
「へっ!?あ、う、うん。何かしら?」
「この事は誰にも言わないで欲しいの。お願い。」
「な、何でよ!こんなの立派な虐めじゃない!なら、桜子先生に相談するべきだよ。このままだと、もっと酷くなるんじゃ・・・・。?」
「いいの、先生に相談してもどうせ嫌がらせは止まらない。そんなの自分が一番分かってるの。」
「な、なら私が先生に言ってあげ・・」
「ほっておいてよ!!!」
楓が桜子に言ってあげると言いかけた所で、高砂がその言葉を遮る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「いいの、本当にいいの。ごめんね、姫崎さん。せっかく心配してくれてるのに。もう、誰かを巻き込んでその子の人生を棒に振りたくないの。」
黙り込む楓。自分ではどうしようも出来ないのだと思い知らせれる。悔しさで唇を嚙みしめる楓。
「ほ、ほら姫崎さん。早くいかないと遅刻しちゃうよ?最初の授業から遅刻じゃ、先生からの印象が悪くなっちゃうよ。だから、もう行って。私の事は大丈夫だから。」
楓は百合に言われた通り無言で教室を出る。時間も迫っている中、楓は校庭に向かう途中で隣の教室のドアに拳をぶつける。
【ドンッッッッッッッ】
「クソッ」
突然自分たちの教室のドアがすごい強さで叩かれたことにより、その教室に居た生徒達はビクッとする。数人の生徒が、何事かと廊下の方を見ると、怒りに満ち溢れた顔の楓が歩いて行くのを目撃する。
「な、なぁ、あれって隣のクラスの姫崎だよな?」
「う、うん。主席入学の姫崎楓ちゃんだね・・・。」
「何か、すげーおっかねー顔してたけど何かあったのかな?」
「知らないわよそんな事。」
「あ、あぁ。見なかったことにしよう。」
やがて、校庭に着いた楓は椿と合流する。
「楓ちゃん、高砂が居ないんだけど教室に居なかった?」
「え!?あ、あぁ。私が教室に行った時は誰も居なかったよ。」
「そっか。それにしても高砂さん遅いな。何かあったのか?」
楓は椿に高砂の事を話さなかった。もし話したら、クラスメイト全員を敵に回してでも高砂を助けるだろうとわかっていたからである。
そして、体育の授業が始まる。




