楓の入学式 其の一
この世界は、魔物が蔓延る世界である。故に魔物と人類の争いが幾度となく繰り広げてられている。そんな世界で、人類は対魔物に対抗する手段としてイリュージョンウェポン(幻想武器)を神から授かるのであった。しかしそれは成人になるまでの子供たちのみ授かる事許されており、成人を迎えた者は自然と使えなくなる。マナという能力により創り出され、各々が創造する物一つだけ与えられる唯一の対魔物に特化した武器である。全ての子供が創り出されると言うわけでもなく、何かしらの力が働いて創り出されるもの。その何かしらの力と言うものは未だに解明出来ていない。そんな中で今日もまた一人の少年が理不尽なこの世界で必死に生きているのであった。
遂にこの時がやってきた。待ちに待った楓の入学式だ。本当なら俺は、高等部がに行かなくてはならないはずなのだが、なんせ今の俺は、停学中だ!この機を逃すまいとさっそく準備を始める。
停学中でなければ高等部の制服で行くのだが、今日はあらかじめ買っておいたスーツに腕を通す。元々身長のある俺は、我ながら似合うと自負しているのだ!
「よし、バッチリだ!そろそろ行くか。」
楓は学年1位の順位で入学するので、代表挨拶のリハーサルがあるため先に家を出ている。真斗も時間が迫ってきたため家を出る。中等部は高等部の隣に建てられているため、停学中の真斗は人目を気にしながら楓の待つ中等部に向かう。校門に着いた真斗はさっそく入学式が行われる体育館に向かう。向かう途中で生徒の保護者や、生徒たちにジロジロ見られるのであった。
「何あの人、誰かの保護者?」
「スーツ着てるから誰かの保護者なんじゃない?」
「それにしても、ずいぶんイケメンだよね!」
「そう、それ!すごくかっこいい!」
「どうにかお近づき出来ないかな?」
なんて言葉が聞こえてくる。
「いやー、だいぶ不味いな。注目されちゃってるよ。どうしようかな・・・・・・」
すると、一組の夫婦が真斗に話しかける。
「あれ、真斗さんじゃないですか?先日はお世話になりました。おかげさまで、無事に椿の入学式に出ることが出来ました。ありがとうございます。でも、真斗さんがどうしてここに?」
それは、九条椿の両親であった。
「あっ!こんにちは。妹の楓が今日入学式なんです!楓には、両親が居なく俺が保護者として預かっているんです。」
「あぁ、そうだったのですね。こんな素敵なお兄さんが居るなんて妹さんもさぞかし幸せでしょうね。」
椿の両親にはあえて自分が本当の兄ではないことは伝えなかった。色々と面倒なことになりそうだからである。するとそこへ一人の学生がやってくる。
「あ!真斗さん!こんにちは!この前はありがとうございました。おかけで無事に入学式を迎えることが出来ました。」
そこに現れたのは九条椿であった。新品の中等部の制服をきる。すると椿は真斗の前でくるっと一回りするのであった。大きく育った胸が揺れ、今にも中が見えそうなくらい短いスカートがヒラヒラと舞う。
【ゴクリッ】
真斗は唾を飲み、ジロジロみてはいけないであろうにも拘らず、色んな所に目が行ってしまう。そんな様子に気が付いた椿は、
「あれ!?もしかして、私に見惚れちゃいましたか?真斗さんさえ良ければ、私はいつでも大歓迎ですよ!えへっ☆」
「あ、いや、その・・・・・・・・・。」
「あはははははっ!真斗さんが照れてる。可愛いな。でも、私は本気ですからね!?いつでも好きになってくれて構いませんよ?」
「こら、椿!勝手に私の兄さんを誘惑しないでくれるかしら!兄さんは、私と結婚するの!」
「あら?楓ちゃん知らないの?兄弟は結婚できないのよ?だから、真斗さんは私と結婚するの!」
「残念でした!私と兄さんは血がつながってないの!私は、兄さんに養われているだけ。なので、結婚は出来るのよ!」
「チッ」
椿が小さく舌打ちすると、楓はドヤ顔決める。そんな会話を聞いていた椿の両親が、
「二人で暮らしてるの?生活費とか大変じゃない?何か私達に力になることがあれば・・・・・・。」
「御心配には及びません。一応numbersなので依頼をこなせばそれなりの額になるので暮らしていく分には今の所何の問題もないです。一応、楓の将来の為に貯金も出来ていますし。」
「ずいぶんしっかりしているのですね。まだ高等部の一年生ですよね?」
「はい、この前入学したばかりです。ちょっと問題を起こし今は謹慎中なのですが。」
「え!?謹慎中!」
驚きの声を上げたのは椿だった!椿からしたら真斗はヒーロー的存在なのだが、そのヒーローがまさかの謹慎中だったことは初めて知った!
「いったい何をやれば入学早々、謹慎中になるんですか!?まさか、この前の一件で・・・・・。」
椿と椿の両親は、顔が青ざめる。自分たちのせいで勝手に動いたnumbersの真斗が処分を受けたのではないかと心配している。
「その事については、妹の私が説明しましょう!」
楓が鼻をならし興奮気味に現れる。謹慎の説明をしようとしたのだが、それを、真斗が止める。
「や、やめろ楓!兄さんの黒歴史を掘り返さないでくれ!」
「何が黒歴史ですか!むしろ称賛されるべき行為です!いいですか、耳の穴をかっぽじってよーく聞いてください!実はですね・・・・・」
するとそこへ、一人の人物がやってくる。すらっとした体形で眼鏡をかけていて、身長は高く額には薄っすらと青筋を立てた人物。その人物はなんと楓と椿の担任教師の渡辺桜子であった。
「コホンッ。姫崎楓さん、こんな所で何をやっているのですか?貴方は、今年の入学生代表スピーチがあるのでしょう!?こんな所で油を売ってないで準備しなさい。」
「桜子先生・・・・いや、今から兄さんの武勇伝を話すところで・・・。」
「いいから、さっさと準備をしなさい!いいですね。」
楓は、そう言うと渋々準備をするために移動する。が、ここで桜子がまさかの爆弾発言をしてしまう。
「あなたが高等部で噂の【落ちこぼれのクズ】で有名な一ノ瀬真斗君ですか。まったく、楓さんは優秀なのにこんなクズが保護者の代わりとか楓さんが可哀想でなりません。教師たちの間でも有名ですよ。何でも入学試験最下位で、あろうことか入学早々暴力事件を起こし今は停学中、そして喧嘩を吹っかけて助けに入った佐藤財閥の息子に怪我をさせるという暴力男。まったく、何で高等部はこんなクズを退学じゃなく停学で済ませたのか。はぁ。」
「殺すぞ。」
その一言で周りの空気が凍り付く。数々の生徒が足を止め、この場から動けないでいた。この場から去ろうとしていた楓の手には弓の形を成したイリュージョンウェポンが握られていた。
「え!?」
真斗は慌てて楓の方をみた。すると、大好きな兄を侮辱され真実が捻じ曲げられた動画の情報しかしらない愚かな教師に向けて殺気を放つ楓が居る。
「ちょ、楓。何やってんの!?」
「何って、そこに居る愚か者に私自ら人誅を下すに決まってるじゃない。何も知らない愚かな教師などこの学校にはいらない。それにこんな奴がこれから先、私達の担任とかありえない。」
「な、何を言ってるの楓さん!だって事実でしょ?実力を測るテストでは最下位、暴力事件を起こし女子生徒に乱暴する最低最悪の男じゃない。先生からもお願いしてみるわよ!保護者を変えろと!あなたには相応しくないと。」
「私から兄さんを奪ったら、魔物も倒せず私達にただすがるだけでのうのうと生きる大人達を全員殺すよ。たとえnumbersが行く手をはばいても。皆殺しにする。」
完全にキレてしまっている楓。こうなっては誰も楓を止めることは出来ない。ただ一人を除いては。
「楓、その辺にしとけ。お兄ちゃん悲しいぞ。それに、ここで問題を起こしたら、もう二度と楓はお兄ちゃんと暮らせないぞ?それでもいいのか?」
(ハッ!そうだった。私が問題を起こしたら兄さんがnumbersの本部から責任を問われ、保護者としての権利が失われる)
ブツブツと何やら言っている楓。あまりにも小声のため周囲には聞こえない。
「先生。自分は何を言われても構いませんが、これ以上楓を刺激するのは止めてもらえますか?楓は、俺の事を侮辱されると周りが見えなくなるんです。」
「ま、まぁ、いいでしょう。今回は、楓さんに免じてこれくらいにしておきますよ。でも、くれぐれも覚えておいてください。すべての大人があなたの味方ではないという事を。」
「肝に銘じておきます。」
「フンッ」
言いたいとこを言って渡辺桜子は去っていく。楓も、桜子を睨みつけながらこの場を去る。
「何なのあの担任!すごくムカつくんですけど!真斗さんの実力も知らないで好き勝手言って。あんなのがこの先、担任とか学校生活を全然楽しめる気がしない。」
「ははははははははっ」
実力を知っている椿も椿の両親も、あの教師には嫌気がさしていた。
この後、順調に入学式が続くのだが兄を侮辱された楓が殺気を放ちながら生徒代表スピーチを終えた後から、会場が静まりかえり葬式のように誰一人言葉を発することなく前代未聞の入学式が終わる。たった一人の愚かな教師の行動によって。