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23 テスト週間

「ひぃ……ふぅ……みぃ……ま、マジかよ……」


2月初旬、オープンして初めての週末を乗り切った俺は、誰もいない店舗で金の計算をしていた。


チェキ付きの割高フードも飛ぶように売れたため、手元には大量の諭吉がいる。チェキの売上は諸経費を差し引いてメンバーにキックバックがある契約。


だが、このままのペースで行くと高校生に渡すような金額ではない額になってしまいそうだ。


正当な報酬だし渡すべきだとは思う一方、これを受け取った卯月、茉美、虎子、世莉架の四人の金銭感覚が壊れてしまわないかと心配になる。


「うーん……どうしたもんか……」


腕を組んでこの悩ましい問題と直面していると、平日の早い時間なのに卯月がやってきた。


「こんにちは〜!」


「おう、卯月。学校は良いのか?」


「今日からテスト週間なんだ。再来週には学年末テストだよぉ……うぅ……」


「あー……じゃあ他の皆もそうなのか」


「虎子ちゃんと世莉架さんと高校は違うけど日付はほぼ同じだってさぁ」


世間話をしながらも卯月の目は明らかに札束に向いている。まぁ無理もないか。学生がお目にかかるような量のお札ではないし。


「売上の集計だよ。バイト代、とんでもない事になってるからな」


「そうなの!? わぁい! 楽しみだなぁ!」


「大事に使えよ」


「うん! 黒子さんにプレゼントしたいなぁ。何か欲しいものある?」


「何で俺だよ……」


「えー。良いじゃんかぁ。今から勉強も教えてもらうわけだし。家庭教師代だよ」


「なるほ……ん? お前、もしかしてここで勉強するつもりなのか?」


卯月はコクリと頷き微笑む。


「学校が終わったら皆も集まるってさ! 賑やかになるねぇ」


「ここは図書館じゃないからな……」


「けどお店は開けられないし、練習も出来ないよね? 私達が有効活用してるんだよ!」


「物はいいようだな……」


「テストが終わったらお買い物行こうよぉ。二人で」


「なんでだよ……」


「楽しみがないと勉強頑張れなーい! 赤点取ったら補修でここに来られなくなっちゃう〜」


「それは頑張れよ……」


「だから、頑張れる要素を増やしたいなって。90点以上が4教科以上でぇ……遊園地かな? 3つで水族館。2つで映画館。一つでお買い物。どう?」


「なんで俺が……誰か他のやつと行けよ」


「ふぅん、じゃあ良いんだぁ? 私が他の男の人と遊びに行ってぇ、たくさん貢いでぇ、手を繋いでぇ……」


卯月は俺を試すように意地悪な顔をしてそんな質問を投げかけてきた。


「注目度を考えたら好ましくはないな。ま、変装すりゃそうそうはバレないだろうけど」


「だよねだよね!? よくないよね!? いやぁ……だーったら黒子さんが相手になって未然にそういうのを防止すべきじゃないかなぁって思わない!?」


「思わな――」


いや、それもそうか。悪い虫がつかないようにする事もできるし、一緒に出かけて金遣いが荒くならないようにチェックしたり出来る。それで勉強のモチベーションが上がるなら安いもんだ。


「思うな」


「思うの!?」


何故か提案してきた卯月が驚く。


「なんでお前が驚くんだよ……」


「あ……あはは……まさか乗ってくれると思わなくて。嬉しいなぁ……」


卯月は本当に嬉しそうに唇を内巻きにしてはにかみ、可愛らしく視線だけを横にそらした。


「ま、点数次第か。普段はどんなもんなんだよ」

 

「へっ、平均で70点くらい……」


「えらく目標を高く設定したな!?」


「卯月。頑張ります!」


そう言うと卯月は真剣な顔になり、店の隅にある壁際の席に移動して教科書を広げ始めたのだった。



少しして茉美と世莉架、虎子が店で合流。


虎子は案外にも真剣に勉強を始めたのだが、残りの二人は俺の近くに座り、一人で真剣に勉強をしている卯月を遠巻きに眺めている。


「お前らはやらなくていいのか?」


「……私は三年生。大学も推薦だから、今は何もない」


なるほど。世莉架はもう大してやることがないのか。


「茉美は?」


「私は一夜漬けでどうにかするタイプなんすよ」


「あー、ぽいな。じゃあ二人は何で来たんだよ……」


「……来ちゃだめ?」


世莉架が上目遣いで尋ねてくる。これをやられたら断れる人はいないだろう。


妙に照れくさくて顔を逸らしながら「まぁ……ダメじゃない」と答える。


それを見ていた茉美が「なるほど」と呟く。


「……ダメっすか?」


世莉架の真似をして茉美の上目遣いで聞いてきた。


「ダメ」


「なんで!? 態度が違いすぎませんか!?」


「冗談だよ」


「むー……扱いに差を感じますね……そうだ! 黒子さん、アキネイターごっこをしましょう!」


茉美は落ち込んだと思ったらすぐに真顔に戻り、思いついた遊びを提案してきた。


「情緒どうなってんだよ……」


「まぁまぁ。私は今からとあるヒト、モノ、カネ、情報のいずれかを思い浮かべます。黒子さんは質問をしてそれが何なのかを当ててください」


「経営資源!? せめてヒトに絞ってくれるか!?」


「ではヒトで。あ! もっと魔神っぽく腕を組んでくださいよ!」


茉美からの演技指導により胸を張って、その張った胸の前で腕を組まされる。なんだこれ。


「うーん……実在する?」


「はい」


「女?」


「いいえ」


実在する男か。


「俳優?」


「いいえ」


「芸能人?」


「いいえ」


誰だよ……いや、俺か? これ、俺のことじゃないか?


「アイドルをプロデュースしている?」


「はい」


茉美はニヤリと笑う。やっぱり俺か。ならこっちからも遊んでやるか。


「尊敬してる?」


「はい」


不服そうに答えるがそれがまた本当のことを答えているようで笑えてくる。


「普段のレッスンが容赦無い?」


「はい」


「なんだかんだで嫌いじゃない」


「はい」


「自分よりも馬鹿だと思っている」


「はい」


「お前、ふざけんなよ」


「いいえ」


「質問じゃねぇよ!」


「結局この人がいないと成り立たないし、いてくれてありがたい存在だなぁと思っている?」


「自惚れですね」


「『はい』、『いいえ』、『分からない』の3択だろ!?」


「では、はい、です」


「話しやすい人?」


「部分的にそうです」


「なら改善の余地はあるな……」


さて、どつやって終わらせたものか。あまり聞きすぎると「俺?」と聞いた時に気持ち悪い感じにならないようにしないとな。


「……男性として好き?」


何故か世莉架が横から入ってきて茉美にとんでもない質問をぶつけた。


茉美は顔を真っ赤にして固まる。


「わっ……分かりませんっ!」


「……バレンタインのチョコを用意している?」


「はい」


「……本命?」


「回答を拒否します!」


世莉架はゆったり喋っているが、それはあくまで訛りを隠すため。中身は普通の女の子なんだよな。だから質問も結構えげつない。


「世莉架、そこまでにしとけ。茉美もそんなノリノリで演技しなくてもいいんだぞ。終わりだ、終わり」


「では当ててください。私が想像しているのが誰だったのか」


バレンタインのチョコを用意しているという話を聞いた直後に「俺?」と聞くのもかなりキモいやつだ。流石に言えない。


「あー……お父さん?」


「あ、うち片親なんで」


ジーザス!


「す、すま――」


「おい! うるせぇよ!」


完璧なタイミングでの虎子の乱入。


「そうだよな。勉強の邪魔だったよな、すまん」


「わっ……私にもやらせろ!」


「……え?」


「しっ、質問して来いよ! 同じことやらせろよ!」


こいつ、ただ遊びたくて割り込んできたのかよ!

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