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宿
宿の窓に目隠しは掛かっていない。夜が更けて、面した通りからは明かりが消えていた。向かいの店先の火も消されていた。そんな中で部屋を明るくするのは、依頼に出るよりも危険でさえあった。橙色の光は真下の扉の隙間から漏れ伸びているようである。まだ階下に騒ぎの跡が残っており、歩き回って食器を片付ける音が聞こえた。耳の中では彼らが話し続けている気がした。自分が話を切り出したのは締めるとき。黒ずんだ銀貨は、減ってテカリ出しているテーブルに擦りつけると輝きを取り戻す。黙りこくった暗闇でやっと、煤けたみたいな指先のきらめきを見ることができたのだった。