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入学して

薄暗い空。

小雨が降り、小さな水溜りができる。佐野麻奈(さのまな)の目の前のおかんは、着物を着ている。山吹色の春らしい着物。

今日は私の入学式。


―――毎年、入学式は雨だねえ。兄のときも雨だった

よ。学校は遠いし、着物の裾は汚れる。どうに

かならないもんかね。


いや、スーツを着ればそれで済む話だと思う。だが、おかんはスーツを持っていない。我ながら、面倒くさい母親だ。


―――一年に一回も着ないのに、買う必要があるかい?

スーツを次に着ようと思ったら、腕がきついのが

毎度のことだよ。


呆れ顔で、言われたことがある。それなら、それでいい。本人の勝手だ。


中学校の入学式である。一ヶ月も経たない前、小学校を卒業した。そして、自分よりやや大きい制服に袖を通す。とてもじゃないが、小学生がコスプレしているようにしか見えない。況してや、自分は七福神顔だ。七福神はぽってりした顔をしている。よく言えば、幸せそうな顔だけど。

それでも、子供がどんなに童顔でも親バカは


―――まぁ、ついこないだまではハイハイしていた我が

子が、こんなに大きくなって。大人になったも

んだねえ。


心配無用で、私の親はバカ親だ。親バカではない。そんなセリフはなかった。

ただ、制服を初めて着たとき


しっくりこない。いつか、自分は着慣れたと思え る日が来るのだろうか。卒業までずっと、着慣れ

ないと毎日思っているのではないだろうか。

ブカブカのセーラー服は、卒業式にはピッタリになるとは思えない。既に、身長があまり伸びていない。身長が高ければ、気にしなかっただろう。150センチちょっとである。密かに悩んでいる。

気を引き締めるために、ポニーテールを高く結う。


雨の中、傘を差しておかんと学校に向かった。校門では、人で溢れている。看板の前で、子供の写真撮影をする親がいる。友達とクラスの掲示板を見る人もいる。親同士で話す姿もある。


麻奈は掲示板に向かった。前の人でが、自分より背が高くて見えない。一番前に押し進み見た。


1ー5 18番 佐野麻奈


別に良くも、悪くもない。他の人のことも確認しようとしていると、


「麻奈〜!おはよー。アタシと同じクラスだよ!」


振り返って見ると、希美が手を振っていた。ウサギのようなポニーテールをして、麻奈よりも背の低い希美だ。同じクラスなれて、よかったと安堵した。希美とは、小学生からの中である。麻奈の初めての親友だ。


〚話は、小学六年生の時である。二人は階段掃除をしていた。麻奈が箒で、希美が雑巾がけをしていた。

他愛もない話をしていたが、希美が突然


「麻奈ってさー、結構臆病だよね。」

「私って、何かに恐れてる?」


図星のようで、私は取り乱した。何を言うのだろう。


「なんか…友達と居ても、自分のこと話さないじゃん。あと、人の輪に入るのによく躊躇しているし。」


よく見られているものだ。思ったよりも、自分は他人に見られているらしい。


「えっと…その…気まずいからかな」

「話すと麻奈は、面白いからそんな躊躇しなくていいよ。」

「友達が少ないのはそのせいかな…難しいや。親友もできないし。」

「いや、出来る!」

「はあっ!?」

「アタシが、麻奈の最初の親友だっ!」


バケツから濡れた手を出し、拳にして屈託ない笑みを見せる。今まで人に恐れていたけど、目の前にこんなに良い人がいた。麻奈はニヤリとして、グータッチをした。〛


年月関係なく、希美を親友と思っている。


「おう、一年間宜しくな。希美と同じクラスで良かったよ。」


ニヤッと笑う。


「一緒に騒ごうねー。」


「多分、私だけ騒いでいると思うけど。希美は私のノリについて行けるかな?」


「えへへ、ついて行くよ。」


会話を弾ませながら、昇降口に向う。周りには、小学校が同じ人で溢れていた。新鮮味は無いけど、落ち着く。

この雰囲気がいい。



∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆∆


教室に着く。入ってみると、教室の雰囲気が暗い。まるで、葬式に出たかのよう。皆春休みで、久しぶりに早起きしてしんどいのか。心の中で南無阿弥陀仏とでも唱えているのか。違うだろ。


「せっかくの入学式だから、みんな騒ごうよ。」


両手を上げて、明るく言う。

その一言を行った瞬間、視線が一斉に麻奈に向く。

アラミナサンツメタイ…

自分の言ったことに恥ずかしくなり、思わず下を向く。隣を見ると、希美が必死に声を抑えて笑っていた。


「何やってんの?初日早々面白いねー。」


「止めて!恥ずかしい…」


「自分から言い出したくせに。ぷっ。」


赤面になりながらも、席に着く。初日のクラスの雰囲気は、これが当たり前だろうか。調子こいた自分が恥ずかしい。教科書を捲り、さり気ない風にする。


しばらくすると、担任の先生が入ってきた。若く、小柄な男の先生。スーツを着こなし、パリッとしたイケメンだな。細く上がった眉毛がヤクザみたいだけど。


「私が、今日から君たちの担任です。小宮大矢(こみやおおや)です。」


はきはきと話し、黒板に名前を書く。カツカツと音を立て、明朝体の様な文字を書く。

くるっと回ると、


「今から、体育館に入場します。」


教室の後ろに行き、並ぶ。廊下に出て窓を見ると、外はまだ雨が降っていることがわかる。

静かに階段を降りていく。

体育館の扉で待機しているとき、何も感じなかった。心が無のまま入場する。


校長の話が長い。


いつの時代もそうである。時間の問題ではない。スパッツが、股に食い込んでいるのだ。おかしい。サイズは合っているのに。足が辛い。早くしてくれっ!


まぁ、何ともないごく普通の入学式だよな。

本文を読んでくださった読者の方、ありがとうございます。面白味が欠けているかもしれませんが、最後まで読んでくれたら幸いです。

3年間のエピソードを楽しんで下さい!

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