05. 【side of レイ】
「全貌が見えないが、何やらおかしな動きをしているのには、いつも黒髪の男の特徴がみられる」
「名は?」
数少ない少数精鋭の騎士団で結成されたこのグループは貴族に情報を伝えないように集められた口固く、信頼ができる者たちばかり。いわば、国王直属の部下なのだ。
「名は分からない。」この隊を指揮しているのは、我らが団長、エリック・シュミット。「だが決まってその場には黒髪の男が現れる、とのことだ」
「黒髪?それは本当ですか?」
父の日誌に書かれていた記録を疑うわけではない。だがあの場、ルナ以外に生きたマヒーア族はいなかった。しかし、俺の家にいる王女さんの侍女といい。実はまだ帝国にはマヒーア族の生き残りがいるのかもしれない。どのくらいいるのだろうか?分からない。だからこそ、備えなければ。
「フローレンスのところの黒髪は?」
「それが…」団長に伝えがたい。「皆、命令は分かっているのですが、その…。記憶がないんです。黒髪を尾行している記憶だけ」
ざわざわと隊全体が困惑した声をあげる。
「やはり魔法がまだ存在するのか?」
「俺たちは操られているのか?」
それぞれが疑心暗鬼の声を出し始める。
「男も女も、黒髪の人物についての疑いは晴れているわけではないが、怪しいところに立ち入るのも、私たちの記憶がないのも、きっと関係している。とりあえずは、調査続行。フローレンスのところの黒髪を尾行しているものを、尾行する係を決めよう。そうしたら、彼女がどこに行っているのか、さすがに少しはだろう。ただし、彼女にお前たちも尾行していると悟られないようにしろ。それから、フローレンスも。尾行というよりは、パトロールをしている風に先回りをしたり、遅れてついて行ったり、あらゆる手を使って、彼女の真意を探れ。お前が言い出したんだから。彼女が少し怪しい、と」
「次」
「大物が連れました。帝国のメンス公爵です」
俺は次の報告をしている中年騎士の声を右から左に流しながら聞いていた。
ティエラという侍女が【今はまだ何もしない】と言ったことが気になって、それをベンジャミンに監視するよう伝えたところ、まわりまわってそのことが隊長に知られた。「ちょうど、新たな秘密部隊を立ち上げるところだから、腕ならしに」と侍女と監視をするようになって数日。全く進展がない。
「そういえば、少し年配の夫人とよく合うんだ」
「年配?」
「はい」レイは思い出す。首筋や手のハリも十分に若いこのように思うが、顔は少しやつれた30代後半のようなあの夫人を。「いつも侍女を待っているのですが、その侍女の姿を見た記憶はありません。ただ、その侍女を追う騎士の騎士を追尾する時に、いつもではありませんが、高確率でその年配の夫人に合うんです」
「では、その夫人に任意同行を頼んでみるか?」
「悪いことをしたはわけではないのにですか?」
「あるいは、話を聞くだけでいい。最近物騒だ、とか言って。話を聞くだけでもいい」
「分かりました」
でも、その次の日からその年配の女性に会うことはなくなった。
まるで俺たちの行動が丸見えであったかのように、忽然と姿を消してしまった。
「クソッなんで急に出てこなくなったんだ」
「こっちの事をよくわかている人物じゃないですか?例えば、誰の記憶にも残らない、副長のところの侍女さんが一番怪しいですよ」
「じゃあ、あの女が黒だって言いたいのか?」
「逆に聞きますけど…ほかに怪しい人物には会ってないんですか?」
「あやしい…?」そう言えば今度は良くある女の子の二人組を見るようになったと思う。ぼんやりとしたことしか思い出せないが…。
「ほら、やっぱり何か幻術的な魔法をかけられているんじゃないんですか?その侍女さんの警戒を特には、雇い主の奥様を懐柔するしかありませんって」




