表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追伸、愛しています  作者: 聡子
第6章
60/64

01.マリアンヌの願い

 「大丈夫?」


 痛い。頭が痛い。頭が割れてしまいそう。

 女の子の声が頭に突き刺さるように響き渡る。


 「ここは痛み何てないのよ?それは思い込み。さぁ、目を開けて」


 優しい声が耳を震わす。深呼吸して精神を落ち着かせ、目をそっと開けた。


 「わっ!!」


 そこには子どもが立っていた。


 「はじめまして。あるいは、毎日ぶりですわ」


 そのアメジストの瞳。それは私と同じ濃い紫色に輝いている。いや、違うじゃない。直ぐに理解した。随分と幼い顔立ちだけれど、目の前の少女は本物・・のマリアンヌである、ということを。



*****



 「あ…え…?」

 絶句する。彼女をマリアンヌと認識した途端、まるで雷に打たれたかのような衝撃が走り、滝の流れのように、急速に彼女と話した今までの夢の中での記憶が蘇ってきた。


 何で忘れていたんだろう?私は彼女と何度もこの夢の中で会って、たくさん彼女と話を交わしていたというのに…。


 「マリアンヌ姫…?」

 「今は貴女が私。マリアンヌなのよ?忘れないで」


 優しい口調。でも、彼女の本当の感情を読み取ることはできなかった。顔はほほ笑んでいるように見えるけれど、彼女の目は決して優しいものではなかったから。まるでポーカーフェイスに無理やり張り付いた笑顔のようで、少し怖いものだった。


 「それより、ようやく会えたのね」

 「会えた?」

 「サンに、よ。約束したでしょう?覚えていないの?」

 「覚えているわ」


 一番初めに彼女と会った時の事。まだフワフワの綿毛だったころ。


 『私の体を貴女にあげるから。だから、お願いがあるの…。私の代わりに…』


 確かに彼女に頼まれていた。


 『サンを助けて。サンを救って』


 今ならば、昨日のように彼女との会話を全て思い出せるのに、なぜ今の今まで忘れてしまっていたのだろう?


 「でも、サンって誰なの?私、そんな人と会った記憶がないわ」


 今日のパーティーで挨拶した人たちの中にそんな名前の人なんていなかった。マリアンヌの思い違いじゃないかしら?


 「会ったわよ。確実に」私をのぞき込むマリアンヌ。濃い紫の色に引き込まれそうになる。まるで全てを見透かされているような、なんだか怖いその瞳に釘付けになってしまう。「貴女と同じ魂を感じたもの。あの場にきっとサンが近くにいたのよ」

 「ごめんなさい。分からなくて…」

 「そう…」


 彼女は表情を崩すことはなかったけれども、ヒシヒシと悲しみの感情は伝わってきた。


 そういえば…。


 「以前私と喧嘩していなかった?」

 それは確か…。どこか遠くから幼いマリアンヌと幼いルナの喧嘩を第三者の立場で見ていた気がする。全ての記憶を返すかどうか。でも、返したら、が壊れてしまうっていう話。二人の会話を思い出しても、話の核心は未だ不明のあの頃の会話。

 「喧嘩?ああ、少し前ね。確かにしたわ。ルナの奥底に封印した記憶を全部返してっていう話でしょう?でもその時にも言ったけれど、全て返してしまったら、貴女、壊れるかもしれないもの。だから、まだ私の中にとどめているの」

 「そういういきさつだったのね…。でも、こうして日々を難なく暮らしていくうちに、親友だったリリーのことも、元婚約者だったグレイグ様のことも、私とお義兄様の関係も…。私、全て思い出したいの。私自身に何があったのか知りたい。その思いは日に日に強くなっていくのよ?」

 「でも、私の願いは?私の願いを叶えてくれないのに、貴女の願いばかり、私は叶えなければならないの?返してほしいのなら、せめて…。早くサンを探して。彼を助けてよ!彼の魂だって、日に日に弱くなっているのよ?」


 初めてマリアンヌが強い感情を外に出した。ポーカーフェイスが崩れ、その顔は苦しみと悲しみの表情で歪んでいる。


 「サンという人を見つけて、助けたら、記憶を全て返してくれるの?」

 「ええ、もちろん。貴女は壊れてしまうかもしれないけれど、私は約束を守るわ」

 「分かったわ。目覚めたら、必ずサンを探しに行く。でも、手がかりは?手がかり無しでどう探せばいいの?」

 

 マリアンヌは首を傾げる。

 

 「ティエラに聞けばいいじゃない。彼女なら何か知ってるわよ」

 「でも…。ティエラは私に心を開いてくれなくてそれに…。彼女と約束したの。本当の名を思い出したら、きっと本当のことを全て話してくれるって」

 「そう、ティエラが…」マリアンヌの口元は緩んでいた。きっと、今のマリアンヌの体に別人が入っている事に気が付いている侍女の愛をかみしめているのかもしれない。「ティエラには悪いけど、貴女に彼女の本当の名と、私とティエラの関係を教えるわ。だから、ティエラと行動を共にして、サンを探してね?彼女の本当の名は…」


………


……






 「奥様!奥様!」


 自分の名を呼ぶ侍女の声でマリアンヌは目を覚ます。

 真っ白な天井に右手を伸ばして、グーパーする。

 枕元で、使用人たちの安堵の声が聞こえてきた。


 よかった。今度は忘れていない。ちゃんと夢の中の出来事を全て覚えている。



 そうよ。私はマリアンヌから体を貰った。ルナ。

 決してルナから転生したわけじゃない。

 でも、私はルナだけど、もうルナじゃない。



 さあ、お義兄様にうつつをぬかしている場合じゃないわ。

 早く、早くマリアンヌ姫の願いをかなえてあげないと。



 自分の記憶を全て取り戻すために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ