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追伸、愛しています  作者: 聡子
第4章
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07. はじめてのデート?

いつも誤字報告ありがとうございますm(_ _)m

 『私もお義父様やお義兄様と同じ色の服がいい…』

 

 銀に輝く刺繍の入った瑠璃色のお洋服。なんでこの色のドレスを着てはいけないのか分からなかった。


 『ルナはおにいちゃんが好きなんでしょ?』


 お義母様の優しい声にコクリと首を縦に振る。

 

 『もう少しの辛抱よ。おとうさまが全て終わらすから、そうしたら家族皆でお揃いの服を着て祝いましょう』




*****




 - ふふ。可愛い♡


 目の前に座っている旦那様をチラチラ見ながら、マリアンヌはほくそ笑んでいた。



 あの後、駆け寄ってきた執事のベンジャミンが何度も繰り返す謝罪であの場は解決した。


 【領民たちへの顔見世は、やはり夫婦揃っての方が幸先が良いから】


 たった一言の大旦那の声をそう伝えただけで、旦那様の怒りは少し落ち着いた。

 だけどベンジャミンったらあんなに謝って…。一体どんな嘘をついて領地まで旦那様を引っ張ってきたのだろう?さすがにルナの記憶を辿っても想像がつかない。


 

 それにしても…。斜め前に腰掛けるお義兄様。

 本当は隣に座りたかったけれど、お義兄様が心底嫌そうな顔をするもんだから、少しでも距離を取るためにこんな風に筋向いに腰をかけている。

 でも距離をとるって言ったって、ここは狭い馬車の中。わずかだけれども、お義兄様の膝と私のドレスの端がどうしてもぶつかってしまう。

 私としてはお義兄様に触れられるチャンスに思えて嬉しいけれど、この思いは一方通行。やっぱり旦那様は少し嫌みたい…。まるでこのイライラの気持ちを落ち着かせんと、外の風景を車窓からずっと眺めている。


 うん。分かってる。旦那様はマリアンヌが嫌いだということを。でも…。


 - もうダメ…。いや、でもあと少しだけ…。あとちょっと…


 ダメだと分かっているのに。お義兄様に余計嫌われるに違いないのに…。


 でも…でも…でも!

 あんなにも逢いたかったお義兄様。そんな彼が今、目の前にいる…。

 あぁ。ずっとずっと見ていたい。どんな表情も見逃したくない…。


 罪悪感を少し感じながらも、顔を赤らめ、お義兄様の美しい横顔をチラチラと盗み見るマリアンヌ。欲望に駆られ、その熱い眼差しをなかなか外すことができないでいた。


 「どこにいくんだ?」


 射るような強い視線に耐えきれなくなったのか、マリアンヌの意識を逸らすために、お義兄様は一度もこちらを見ることなくぶすっととそう呟く。


 - どこにいく…?


 ……!!!どうしよう!考えてなかったわ。

 大旦那様とのお出かけだと思っていたから、殆どスケジュールなんて立ててなんていないし…。だって、お義父様の後についていくだけだと思っていたもの…。

 

 ティエラはベンジャミンの申しつけで、今日はお屋敷でお留守番になってしまったし、ハンナは仕事が終わってないからとの理由でついてきてくれていない…。ああ、どうしよう?誰からの助言も受け取ることができない…。


 ん?でも、あれ?おかしくないかしら?

 使用人が誰も付き添うことなく、二人だけで馬車に放り出されるって…。元王女に対してこんな扱いするもの!?誰か警備でもつけるのが普通の感覚ではないの!?


 だって、だって、だって…。

 お義兄様と二人きりって…。

 それって、それって、そんなのもう……。デート・・・じゃない!

  

 長年の願いだったお義兄様と二人きりのデート…。

 デートなら、幼いころからずっと思い描いていたデートコースがあるの…。


 まずは、あの飴ちゃん細工の店にいくでしょ?そこでそれぞれの名前入りの飴細工を作ってもらって、飴ちゃん交換♡その後は、紅茶菓子の有名店で行ってるお菓子教室に行って、いつものサンドウィッチで休憩がてらランチ。最後に、お義兄様の大好きなチェリーパイの美味しいあのカフェでおやつタイムしたあとは…♡


 皆に隠しているけれど、私は知っているの。お義兄様は大の甘党だってことを。


 「ンフフフ…♡」


 ソフィアお姉様に教えてもらっていた、王族秘伝の技、ポーカーフェイス。マリアンヌはずっとその顔で過ごしているつもりだった。

 だけど、デートという単語に浮かれているマリアンヌは上手にポーカーフェイスなんて出来ておらず、どうやらずっとにやけた顔のまま妄想していた様子。お義兄様が皺を寄せ、難しい顔をしているところが、視界に僅かに入ってくる。


 - あぁ、でもそんな顔も素敵だわ…♡


 あのお義兄様の表情は〝こいつは何なんだ!?〟って少し困惑しているときにみせるもの。だけど、そんなの構わない。お義兄様の困惑なんか無視して、もう少しだけ束の間の妄想を楽しむことに決めた。




*****




 「あ、そうか…」

 「??」

 なんだろう?

 もう直ぐ市街地に到着する。そんな時にお義兄様は何か閃いたのか、そう声をあげる。


 「まぁ、王女さんはきっと周りが先を見越して用意してくれていたのか…」

 「???」

 お義兄様の言いたいことが分からない。


 「女性から口に出して言うものでもないしな…」


 一人分かったような声を出す義兄。どうしよう…。全く分からない。


 「御呼ばれしている舞踏会や、社交界シーズン用のドレスとかアクセサリー類が必要なんだろ?まあ、王都でなく、わが領土でそれらを揃えようとしている点は十分評価するけど…。だから親父に媚び売って…」


 「あ!」


 ぶつぶつと一人勝手に話を進めるお義兄様。上から目線で少しイラっとはしたものの、すっかり忘れてた!


 - そうよ!もうすぐ舞踏会だわ!結婚式後に招かれた晩餐会で、国王陛下に招待されていたんだった!!


 『マリアンヌ王女の王国での社交界デビューは、年明け後にある我が国のデビュタントボールはいかがでしょうか?』って!


 お義兄様が領地の、しかも本邸からでるな、って言ってたから何も用意していないし、むしろ体調不良で、とお断りのお手紙を書こうと思っていたのに!

 え、でもこの流れだと、今からお義兄様はドレスを用意してくれるってこと!?

 一緒に舞踏会にいけるってこと!?!?!?


 「そ、そうです。も、もちろんです」


 - お義兄様の好みの服ってどんなのかしら?全く見当がつかないわ


 はやる気持ちを抑えながら、再度お姉様直伝のポーカーフェイスを使って、マリアンヌは自身の興奮を見抜かれないように、余裕のある表情でレイの話に合わせることにした。


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