表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追伸、愛しています  作者: 聡子
第4章
32/64

05. 領地からの手紙【side of ベンジャミン】

 「おかしい…」


 ベンジャミンは一人執事室で数通の手紙と睨めっこしながら呟いた。

 旦那様宛とは別に、自分宛ての手紙が二通も来ているから。

 しかも、同じ住所から差出人は別のもの。


 「これは、いつものやつだよな…」


 一通の手紙の封を切る。

 中身はいつもと大差ないもの。月に一度、家令見習いから送られてくる領地の収支の知らせだった。

 本当は旦那様が領地運営をしなければならないのに、彼はまるで興味がない。だから代わりに大旦那様に鍛えてもらっている家令見習いと共に、私が執事の仕事に加えて数字の計算をしているのだ。

 旦那様ももうそろそろ現実を見て、領地運営に尽力を尽くしてのだが…。まぁ、マリアンヌ奥様への風当たりを見るところ、当分はまだ無理だろう…。


 さて、自身の主人に対しての愚痴はここまでとして…。


 もう一通が問題なのだ。

 宛名を再度確認してみる。

 やはり旦那様宛でなく、私、【ベンジャミン】宛てになっている。


 領地経営に何か不備が?

 でもそれならば、早馬で伝達するか、家令見習いの手紙と同封して送られてくるはず。

 だからより一層この別に送られてきたもう一通の手紙が不気味さを醸し出していた。

 


 

 それは大旦那様からの手紙だった。




 恐る恐る封を切り、一気に中身を確認する。


 「ん?んっ!?」


 思わず二度見してしまった。

 一度だけでは頭が処理しきれなかったから。

 だがもう一度読んでも理解しかねる内容。



 【愚息を連れて領地に戻られたし


  日にちは〇日~●日

  或いは、△日~▲日


  休日であることは既に確認済み

  上記のどちらかの日程で調整したまえ

  なお、これらの日に領民たちへ新領主夫婦の顔見世を行う】



 確かに大旦那様も、元々は騎士隊に所属していた。だからOBの特権で旦那様のスケジュールを裏ルートから手に入れることは何ら不思議なことではない…。


 だが、これは私にはかなり不利では?

 なんと説明し、どうやって旦那様を領地に連れ出せというのか…。

 私だけが怒られるような気がしてやまない。

 でも、これは大旦那様からの依頼。無碍になんてできやしない。


 はぁ、とため息をつく。

 大旦那の付き人であるレイチェルからの知らせで、マリアンヌ奥様の動向はほぼ知っている。

 大旦那と会ったことも、手紙を交わしていることも…。そして、本邸の敷地外へと足を伸ばしたがっていることも…。


 確かに、私自身も賛成はできる部分は多くある。

 いくら体が弱いとは言っても、誰にも見せずに、どこにも行かせずに、屋敷内でただ匿うだけなんて不自然すぎるから。

 領民たちも心の中ではこの葬式の後のような重く暗い雰囲気から早く抜け出して、帝国との雪解けを待ち望んでいるものだって多い。そんなことは百も承知である。



 - あぁ、旦那様にいつ伝えようか?



 私の頭の中はもうこのことでいっぱいで、他は何にも手につかない。

 あんなにも、『もう二度とあわない』、と奥様に啖呵をきった旦那様。

 なのにたった数週間で今度はこちらから会いに行かねばならないのだから…。

 この大旦那様の手紙の内容、先に言おうと後に言おうと、どちらにせよどやされることは目に見えている。


 - どう旦那様を説得し、領地へ連れて行こうか?


 手紙の最期の【追伸】の後の文章を読みながら、ベンジャミンは頭を頻りに掻いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ