突然の来客と中華まん 中編
外から突然聞こえた見知らぬ男の声に、俺は思わず身を固くする。
こんな森の奥の家に一体誰が何の目的でやって来たと言うのだろう。そんな俺の緊張をよそに、外ではガヤガヤと野太い声が重なる。
「間違いない、前に来た時はもっと荒れておったからの!」
「先住者がいるとなると、ここはいかんか。弱ったのう」
「洞窟に戻るのはまっぴらじゃな。あすこは湿っぽくて敵わんわい」
声の数からして合計三人くらいか。
会話の内容から危害を加えに来た類ではないと判断して、俺はそっとドアを開ける。
「ええっと、何か用でも?」
俺の言葉に声の主たちが一斉に視線を向ける。
そこにいたのは、小学生くらいの背丈をした筋骨隆々の男たちが三人。
斧やつるはしを背負い、もじゃもじゃのヒゲを蓄えている彼らは、俺のファンタジー知識が正しければ……
「ド、ドワーフ……?」
「うむ、いかにも!俺はガジムと言う!訳あってマガヤ湖の採掘地から来た!」
ガジムと名乗った、顔に傷のある体格のいい中年のドワーフが叫んだ。
「俺はギジム、このガジムの双子の弟だ!」
そう続けたのはガジムとそっくりの顔をしたドワーフ。
こちらの顔には傷はなく、ヒゲを一束に束ねているガジムに対してギジムは二束に束ねていた。
最後に、白髪で背が曲がった老ドワーフが前に出た。
「儂の名はロウシじゃ。急に押しかけてすまなかった。前に立ち寄った時は空き家だったものでな」
「ああ、最近引っ越してきたんだ。俺の名前はウノ=セージ、一応この森の領主に任命されている」
「ほう、領主とな」「このような森に何故」「他領の主が持て余して放置していたと聞いたが」
領主という答えが意外だったのかドワーフ達が一斉にガヤガヤとまくし立てる。
「まぁ領主と言ってもご覧の通り質素な暮らしさ。それで、何か困っているように見えるけど?」
俺の問いに、ドワーフ達は皆一様に顔を曇らせる。
「俺たちはこの八十年ほど、この森を下った先にあるマガヤ湖の畔の採掘地で暮らしていたんだがな。ここ最近、鉱石が取れる量がめっきり減っちまったのさ」
ガジムたちが属するドワーフの一団は普段は鉱脈の周りに居を構えているのだが、数十年から百数年かけてその鉱脈を掘り尽くしたら次の鉱脈を探す旅に出るらしい。
手付かずの鉱脈を探すのはまさしく当てもない旅で、数年にも渡る過酷な放浪生活をすることもあるそうだ。
「若い連中はともかく、俺たち老いぼれに次の旅はちぃとばかし厳しい。ここで暮らすならあと十年でも二十年でも働けたんだがな」
「そうともよ!それに旅の途中は酒を手に入れるのも一苦労。俺はそんなのまっぴらごめんだね」
「こうは言っているが、二人はまだ働き盛り。全ては儂の為を思っての事じゃ。ここに一人で残ると何度も言ったんだがのう、困った事にこうして付いてきてしもうた」
そう呟いたのはロウシだ。
確かにこの老体では長旅をするのは無理だろう。
「何度も言っているだろロウシ!俺もギジムも、恩あるアンタを置いていくような薄情者ではない!」
「そうとも!俺たちを拾って鍛えてくれたアンタを、今度は俺たちが助ける番だ!」
なるほど、ロウシに恩があるこの二人は老いた彼だけを残して旅に出る事を拒んだのだ。
「それでな、三人ぽっちで元の地で暮らすには危険も不便も多い。だからこうして近くの森で暮らそうと思ったんだが、今度は家を建てる土地が見つからねえ。
なにせ傾斜はあるわ、いい場所を見つけても地盤が気に食わねえわでな。そんでしばらくは洞窟で暮らしていたんだが、ロウシがこの場所を思い出してな。
だが人間の領主様がおるとなってはな……」
ガジムが困り果てたと言った様子でヒゲをかき、ギジムがうんうんと頷いて同意した。
「人間がいて何か不都合があるのか?ここの土地はまだまだ余っているし、住むというなら俺としては歓迎するぞ」
実際この広さなら何も問題ない。現状持て余し気味のこの土地が有効活用されるのはいい事だ。
「な、それは本当か!」とガジムとギジムが声を揃え、目を見開いて叫んだ。
「人間であるお主が、儂らのような流浪のドワーフを領民として認めるとな?」
ロウシが探るような目で問いかける。
その様子を見るに、亜人種が人間から受ける差別はやはり根強いものなのだろうか。
「ああその通りだ、俺はこの地に人間も他種族も共存できる村を作りたいと考えている。もし三人がここに住んで力を貸してくれるというなら心強いのだが」
「信じがたいな!人の街ではドワーフの立ち入りを嫌がる所だって珍しかねえんだ」
「おうよ、その癖に労働力が欲しいときだけ安く使い潰そうってんだからな」
ガジムとギジムが興奮したように憤慨する。
これまでの経験で人間に対する不信感がかなりあるようだ。
「これ、待たんか二人とも。ううむ……嘘を言っているようには思えんが、人間の領地でドワーフが領民として認められるなぞ聞いたことがない」
ロウシが腕を組んで考え込む。
ううん、困ったな。どうしたら信用してもらえるんだろう。ドワーフという種族はどうも頑固そうだ。
そうして三人の説得に頭を悩ませていたちょうどその時だった。
「セージ!たっだいまー!見て見て、すごいんだよ!コルック鳥の巣を見付けちゃってさあ!ぜーんぶ連れてきちゃった!」
大きな籠を背負ったルルフゥが、家を目掛けて嬉しそうに駆けてくるのが見えた。かなり機嫌が良さそうである。
近づくにつれて籠からは「コケー!」だの「ククク!」だのと鳴き声が聞こえてきて、時折隙間からドスドスと嘴のようなものが突き出てくる。
どうやら鳥を生け捕りにして籠に詰めてきたようだ。うーん、この野生児め。
「あれ、お客さん?って、ドワーフ!?」
「あー、とりあえずだな」
驚いているルルフゥとドワーフを交互に眺めながら俺は頭をかく。
「みんなで飯でも食べながら話さないか?」




