突然の来客と中華まん 前編
ルルフゥが来てからというもの、日々の作業の効率が目に見えて上がった。
なにせこの世界で生まれ育ち、日々の糧を得るために野山を駆け回って暮らしていたルルフゥだからな。
山歩きを少し齧った程度の俺では到底足元にも及ばない。それにルルフゥの風魔法は強力だし、最近では得意だという弓も手作りして使うようになった。
これがまた凄まじいのなんので、風魔法による軌道の調整も相まってかなりの命中精度を誇るんだ。
おかげで狩りは順調で、獲ってきた肉を保存用に加工するのもひと苦労だ。嬉しい悲鳴ではあるんだがな。
一方の俺はと言うと、当初は狩りに同行していたのだが今は留守番だ。
魔法が使えず戦いの心得もない俺ではひたすらルルフゥの足を引っ張るだけだったのだ。
薪割りなどの肉体労働で少しは筋肉がついたと自負しているのだが、ルルフゥに言わせればまだまだのようで、しばらくは鍛錬が必要そうだ。
それにしても気配を消せずに獣に逃げられるわ、獲物を追跡するルルフゥに付いていけずに取り残されるわ、うっかり崖から足を滑らせて助けられるわ……。
大の男である俺が細っこいルルフゥに抱えられて助けられた時の事なんて、未だに思い出すだけで情けなくなる。
……っと、そういえば何となく聞きそびれたままなのだが、ルルフゥの性別ってどっちなんだろう。
顔立ちは整っていて結構、というかかなり可愛らしいのだが、体つきも声もとにかく中性的と言うかなんというか。
まぁ気にするほどの事でもないか。男だろうと女だろうとルルフゥはとにかくいい奴だからな。
少々話が逸れた。
そんなこんなで狩りや採集は現地人のルルフゥを頼りつつ、俺は俺で出来る仕事を着実にこなすまでだ。
俺の仕事と言えば、鍛錬を兼ねた薪割りの他には家周りの整備や食事作りだな。なにせ長年放置されていた場所だ、あちこちが壊れていたりでそのままでは使いものにならない。
壊れた柵の囲いを直したり、井戸を呑み込みつつあった雑草を引っこ抜いて中のゴミをさらったり、野外にあったトイレを整備したりと毎日大忙しだ。
この家に来るまでの道中で人夫達が話していたのを聞いたのだが、どうやらここは先代領主が趣味の狩りをする際の宿泊地として整備させていたらしい。
結局使われないまま時が経ち、管理人が老いて街へと下ったのを最後に放置されていたようだが、井戸は枯れずに残っているし家や倉庫の造りも領主が使うだけあって古いなりにしっかりしているからありがたい。
これらがなければ、単なる一般人の俺ではとっくにゲームオーバーだっただろう。
そうそう、荒れ放題だった畑だが、余裕が出来たおかげで少しは手をかけられるようになったんだ。
森に自生していた芋を種芋にして植えてみたり、沢で見つけた山ワサビの株を植えたりだな。これらは生命力が強いから農業素人である俺でもどうにかなりそうだ。
ちなみに山ワサビはルルフゥを拾ったサワクルミの群生地で見つけたんだ。山ワサビはああいう場所によく生えるからな。前の世界で山菜取りをする時はよく世話になったもんだ。
雑草もこまめに抜くようにしているから玉ねぎもマメロも絶好調、俺と一緒に異世界転移を果たしたジャガイモ君もスクスク芽吹いている。
一応万事順調ではあるのだが、それでもまだ十分とは言えない。
「そろそろ他の野菜の苗も欲しいところなんだがな……」
今後領民を募ってここに村を作るためにも、安定した量の食糧を領内で自給自足出来るようにしたい。年間を通して色んな種類の野菜が収穫できるのが理想だ。
ルルフゥの故郷では土が悪く野菜がほとんど育たなかったために採集や狩り頼みで生活していたが、それだけでは追いつかずに結果として口減らしの子売りが横行したという。
やはり自然の恵みだけで大人数を賄うのは限界があるだろう。幸いルルフゥの見立てによればこの森は土が良く、大抵の野菜なら育ちそうとの事なのでこれを利用しない手はない。
それから家畜だな、こちらも是非とも欲しいところだ。卵や乳があれば料理の幅も広がるだろうしな。
「家畜を飼うとなれば飼育小屋を建てなくちゃいかんし……そもそも村を広げるなら他の住人の家も必要だよな。
職人を雇ったら一体いくらかかるんだ?それに農業や酪農の知識がある人も招くとなると、ううむ頭が痛い」
そもそも、取引できる場所だってどこにあるやらだ。
コノースの森があるのは、メイン街道から外れた旧街道沿い。ここに来るまでのルートを思い出してみるが、メイン街道まで出てそこから近くの街を目指すとなれば徒歩で一体何日かかるやら見当もつかない。
それに、先立つ金も心もとない。
一応少しばかりの金貨は食料と一緒に支給されているんだが、ルルフゥに聞くとこれはモーギュと呼ばれる乳牛が一頭買えるかどうかといったところらしい。
となると新たに金を稼ぐ必要がある訳で、ルルフゥは時折食用に適さない魔物なんかも狩ってくる。角や皮といった素材や魔石と呼ばれる核が売れるからだ。
ルルフゥが狩り、俺が解体を担当してちまちまと貯蓄中ではあるが目標までは果てしなく遠い。
「とはいえ出来ることからやるしかない、だな」
生地で肉餡を包みながら呟く。
ちなみに今俺が作っているのは中華まんである。実は最近、天然酵母作りを始めたんだ。
天然酵母の作り方はいたって簡単で、熱湯消毒した瓶にカットしたマメロの実と湯冷まし、それに砂糖を入れるだけ。
あとは冷暗所に置き、一日一回蓋を開けて中身を揺する。それを繰り返せば、季節にもよるが大体4日ほどで酵母液の完成だ。
今回はトマトの代用でマメロの実を使ったが、他の甘みのある野菜やフルーツなんかでも作れる。婆ちゃんがよくリンゴの皮で作っていたのを思い出すな。
こいつのおかげで小麦粉料理の幅がぐっと広がってな、ナンや焼きパンなんかも作れるようになった。
そのうち石窯でも作って本格的なピザやパンを焼いてみたいという野望も密かにあったりなんかする。
さて、そんなこんなで本日用意したのは、味噌を効かせた肉まんとカレーまんの二種類だ。
そろそろルルフゥが腹ペコで帰ってくるはずなので量はたっぷりと作っておく。育ち盛りのルルフゥは最近ますますよく食べるからな、うんうん良い事だ。
「後は蒸すだけだし、その前にスープでも作っておくかな」
なんて考えていたその時だった。
「なんじゃ、先客がおるのか!」
庭の方から、野太い声が響いた。
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