戦闘
虫の声ひとつ聞こえない、静かな夜だった。
村中に焚かれたかがり火が、満月の寒々しい月明かりを押し返すように周囲を煌々と照らす。
人間を守護する炎の女神フレイヤの加護が宿るというこの魔法の火は、マリー婆さんと人間族の子ども達が灯したものだ。その火の輝きは力強く、見ているだけでなんとなく勇気が湧いてきた。
「……っ!来たよ!」
風の魔法を巡らせて索敵をしていたルルフゥが鋭く叫ぶ。
投石用のスリングを持ち直し、壁の内側に組み込まれた足場から眼下を覗く。まるで闇から這い出るかのように、黒毛の狼達が一匹また一匹と姿を現した。どいつもこいつも俺の知識にある狼と比べてかなり大きい。奴らと比べたら大型犬だってまるで子犬のようだった。
魔狼たちは吠えるでもなく暴れるでもなく、静かに村を取り囲みこちらを観察している。数はおおよそ五十匹、想定していたより少し多いな。だが棘付きのバリケードがあるため迂闊に近寄れないようだ。
――ゾクリ
「~っうぁ!?」
一瞬、心臓を掴まれるような感覚に陥った。
森の一角から、強烈な圧を感じる。乱れそうになる呼吸をどうにか整え、俺はその場所に目を凝らす。
草をかき分け悠然と現れたのは、見事な銀色の毛を持つ大狼だった。
「あれが連中のリーダーか……ありゃかなり魔石を食っている個体だ、一筋縄ではいかねぇぞ」
ガブが苛立たし気に唸る。魔物たちは、魔力の核である魔石をその身に宿している。肉食の魔物の中にはそれを食べる者もいて、そうして魔石食いを繰り返した個体は通常個体を遥かに凌駕した力を付けるのだという。
銀狼は防備を固めた俺達をじっと観察すると、その顔に老獪な笑みを浮かべる。無駄な事を、とでも言いたげな顔だ。そうして近くの大岩にひらりと飛び乗ると
「ウオオォォォォオォォォォーーォォォォン!!!!」
遠吠え、と呼ぶにはそれはあまりにも凄まじかった。
ガツンと殴られたような衝撃に思わず姿勢が崩れる。ビリビリと空気が震え、髪の毛先がチリチリと焦げ付く。魔狼が放つ魔力の衝撃波が、遠吠えに乗ってグワングワンと押し寄せたのだ。
「オォォォォォォォ!!!!」
「アオオォォォォォォン!!!!」
一匹、また一匹と銀狼に続くようにして遠吠えを始める。重なり合うその声はどんどん増幅し、それに比例して襲い来る衝撃波が強くなっていくのが分かる。
大きな波が次から次へと立て続けにぶつかってくるような衝撃に、壁がミシミシと音を立てて軋み、立てかけていた槍がバタバタと倒れる。なんて威力だ、遠吠えでだけで壁が壊されかねない。
それどころか、だ。棘付き柵のバリケードの一部が既に吹き飛ばされ始めている。まずい、このままでは総崩れだ。
「ギャイン!!」
不意に、悲痛な鳴き声が響く。
遠吠えをしていた魔狼の一匹が大きく吹っ飛んだのだ。地面にひっくり返り身体をピクピクと震わすその魔狼には、握りこぶし大の石がめり込んでいた。
「ボサッとするな!撃て撃て撃てぇー!!!」
投石スリングをギュンギュンと回しながらガブが吼える。ビュンと音を立てて放たれた石が、もう一匹の魔狼の頭を正確にかち割った。
「うおおおおおお!!!!」
ガブに続くように、俺達は叫び声を上げて反撃を開始する。
箱に満載にされた石を、魔狼目掛けて次々と放つ、放つ、そしてまた放つ。やはり付け焼刃の技術ではなかなか命中しないが、それでも次々と飛んでくる石に魔狼達もたまらず遠吠えを止めて散り散りに逃げ始めた。
「やぁっ!」
ルルフゥが矢を放つ。余裕の表情でかわした魔狼が、突如「ギャッ!」と悲鳴を上げる。風魔法によって軌道を変えた矢が魔狼の急所を撃ち抜いたのだ。
「ほれほれほれ!おかわりはまだまだあるぞぉっ!!」
「遠慮はいらんぞ!受け取れい!!!」
ガジムとギジムによって召喚された土の精霊達が、彼らと共に投石の雨を降らす。狙いもめちゃくちゃなその攻撃に魔狼たちは悠々と躱そうとするが
「逃ガサン」
魔狼達の逃げ道を断つかのように、地面から突如氷柱が生える。ジンバの水の魔法だ。突如逃げ場を絶たれた魔狼は、ガジム達の容赦ない投石の雨に撃ち抜かれて絶命した。
状況はこちらがかなりの優勢かに見えた。だが当然、魔狼達もただでやられてくれる気はないらしい。
「ガアァァァァァァァ!!!!」
小柄な数匹の魔狼達が、遠吠えの衝撃波で生じた隙間を縫うようにしてバリケードを突破し、壁に爪を立てて這い上がってきたのだ。まるでカーテンを登る猫のような身のこなしだ。
「させんぞ!」
登り切ろうとした一匹に目掛けて、ロウシがつるはしを打ち込む。額を割られた魔狼が悲鳴を上げながら落下していった。
「う、うわぁっ!」
ロウシの攻撃をかいくぐり壁を登り切ったうちの一匹が、近くにいたレオに襲い掛かかる。押し倒されたレオはその拍子に武器を取り落とし、魔狼ともみ合いになった。
「だ、誰かぁー!来てください、助けてぇ!」
「こっちも手いっぱいだ!頑張って押し返せ!!」
レオが半泣きで声を上げるが、どうしようも出来ない。壁登りの有効性に気づいた他の魔狼達が、次々とバリケードの突破を試み始めたのだ。
既に数匹は同様に壁を登り始めている。俺達はそいつらを槍で牽制するのに手いっぱいだった。
「レオ!!」
足場を瞬く間に駆け上る細身の影があった。怪我人の救護に備えて後方に控えていたフラッカだ。彼女はレオが落とした棍棒を持つと、覆いかぶさる魔狼を打ちまくる。
「レオから!今すぐ!離れなさい!!さもなくば!許しませんよ!!」
凄まじい剣幕のフラッカだが、非力な彼女の打撃は屈強な魔狼にはほとんど効いていない。それどころか、魔狼が苛立たし気に足を振るっただけでフラッカの細い身体は吹っ飛んだ。
「キャアァッ!」
足場から転げ落ちるフラッカ。猫獣人の身のこなしですんでのところで軟着陸するが、怪我を負ったのかそのまま地面に崩れ落ちた。
「フラッカ!」
レオが悲痛な声を上げる。それをあざ笑うかのように、遂に魔狼がレオの肩に牙を食い込ませる。肉を裂くメリメリと嫌な音が辺りに響くが……
「よくもフラッカに手を出したなぁぁぁぁ!!!!!」
ガオオオォォォォォォ!とライオンのような咆哮が響く。次の瞬間、レオに覆いかぶさっていた魔狼が宙を舞った。
肩から血を流しながら立ち上がったレオだが、自身の怪我を意に介する様子はない。ワナワナと震える全身からは怒りの感情が噴き出んばかりだった。
幼少期から共に育ったというフラッカを傷つけられた怒りは、魔狼への恐怖を凌駕したようだ。
「グオォォォォォォォォォ!!」
大声で吠えると、レオは近くにいた別の魔狼に掴みかかり、再び軽々と壁の外に放り投げる。普段は気弱で荒事が苦手なレオだが、獅子獣人の恵まれた体格は本物だった。
「僕が相手だ!どこからでもかかって来いっ!」
レオが鬼の形相で叫ぶ。壁を登り切った魔狼を掴んでは投げ、掴んでは投げ。まさに獅子奮迅の働きだ。本当にやる時はやる男なんだな。
「レオはもう平気だ!フラッカ、傷はどうだ!」
「大丈夫、足を少し捻っただけですわ!」
「なら下がって自分の怪我の手当てをするんだ!こっちは大丈夫だから」
登ってきた魔狼の一匹に槍を突き刺す。
ズブリと肉を貫く嫌な感触が返ってくる。すっかり慣れっこになった獲物の解体とは違う、今まさに生きている者の命を奪う感触だ。一瞬だけ様々な思いがこみ上げるが、そのまま槍を首筋に深々と刺し込んだ。
「グギャアァァァァァ!!」
血走った目で絶叫しながら、魔狼は刺さった槍ごと落下し、棘付きのバリケードに全身を貫かれ動かなくなった。
「…………」
予備の槍に持ち変えて眼下を睨む。壁の外は、今や倒れている魔狼の方が多い。残る数は銀狼の他は十匹程度だ。
だというのに、リーダーの銀狼は悠然と大岩の上で伏せてこちらを眺めている。まるで痛くもかゆくもないといった様子だ。
事実、彼に向けて放たれた投石も矢も、尾の一振りで全て叩き落されてしまっていた。残った少数の魔狼も同様だ。彼らは先に倒れた他の魔狼と比べて際立って大きく、そのせいでバリケードを突破できないのだが、反対にこちらの攻撃も効いていない。
「……っけ、嫌な目をしてやがるぜ。連中、一体何を企んでいるんだか」
ガブが肩で息をしながら呻く。小型とはいえ、数にものを言わせて押し寄せる魔狼との戦いで俺達はすっかり疲弊しきっていた。そもそも俺を含めて戦い慣れしていない者が大半だ、肉体的にも精神的にも限界が近い。
「だが……消耗狙いにしても、相手だってこれ以上の打つ手はない筈だろ?」
その時だった。まるで待っていましたと言わんばかりに、銀狼が身を起こす。めくれ上がった口元はまるで俺達をあざ笑うかのようだった。他の狼達も次々に銀狼に続いて立ち上がる。
「逃げていった……?」
くるりとこちらに背を向けて、村とは反対の方角に歩いていく銀狼と手下たち。さすがにこの状況が不利と悟ったのだろうか。と思いきや、魔狼達は方向転換するとこちらに向かって一気に駆け出した。
そしてバリケードの直前で大きく跳躍すると、まっすぐ壁に向かって突っ込んできたのだ。
「馬鹿な、まさかヤケクソかぁ?いくら魔石食いったって、こんな遠くから跳んで壁を越えられる訳がねぇ!落っこちてバリケードに串刺しだぜ!」
ガブが驚いたように叫ぶ。だが、銀狼はそれすら鼻で笑い飛ばすようにして
「ガァッ!!!!」
仲間の一匹を足場にし、空中で更に大きく跳躍した。踏みつけられた魔狼はそのまま落下しバリケードの棘に穿たれ悲鳴を上げた。
他の大型個体たちもそれに倣い、次々と近くの仲間を足場にこちらに向かって飛んでくる。
「来るぞー!全員構えろー!!!!」
そう叫び終わらないうちに、壁の上に銀狼と三匹の魔狼が降り立った。
※
目の前に、見上げるほど大きな狼がいた。
銀色の見事な毛並みが満月の明かりに照らされて輝く。一瞬だけ、見とれてしまいそうになった。
「セージ!」
ルルフゥの鋭い声で我に返った。
反射的に飛びのくと、さっきまで俺がいた場所に銀狼の鋭い爪が振り下ろされていた。たったの一撃、それだけで俺が立っている足場は大きく崩れ、メキメキと音を立てて傾いていく。
「しまった……!」
そうして俺の身体は、大きく宙へと投げ出された。このままでは何メートルも下の地面に思い切り叩きつけられる。
「うおおおおおおお!」
こうなったら一か八かだ。
迫りくる地面に向かって、握りしめていた槍を突き立てる。衝撃が腕全体にビリビリと走り、俺の体重を受けた槍が大きくしなった。
「ぐわっ!」
はずみで槍から手が外れ、俺はそのまま地面にべしゃりと落ちる。畜生、かなり痛い……が、槍で衝撃を殺したおかげで大きな怪我は無さそうだ。
痛みをこらえながら、地面に突き刺さった槍に縋ってどうにか立ち上がる。
「孤立するな!近くの仲間と固まって戦え!」
足場の上ではガブが果敢に吠え立てて指示を出している。
ルルフゥとジンバが背中合わせに構え、ガジムとギジムの双子がロウシを守るように立ちはだかる。暴れ狂うレオの死角をガブが固めていた。
「セージ!大変、セージが!」
「領主さん、俺達が行くまで持ちこたえてくれよ!」
「大丈夫だ!こっちはこっちでなんとかする!」
と、強がっては見たものの……どうすればいいんだろうな。思わず変な笑いがこみ上げる。そんな俺の目の前に、音もなく優雅な所作で銀狼が降り立った。
めくれ上がった口からは鋭い牙が覗き、たった今足場を粉砕したその爪は一本一本がナイフのように鋭い。獲物を品定めする金色の目が、まるで楽しんでいるかのようにニタリと歪んだ。
足が勝手にがくがくと震える。汗が滲む手から思わず槍が滑り落ちそうになる。本能が叫んでいる、こんな化け物にたった一人で立ち向かうなんて無茶だと。
だけど、逃げる訳にはいかない。泣きたいけど恐ろしいけど、俺がここで食い止めなければ次は仲間がこいつの餌食になるんだ。
「来い……俺はただではやられないぞ」
……槍を構え、じりじりと距離を取る。長丁場の戦いは無理だ。俺に勝ち目があるとしたら、どうにか隙を見つけて一瞬で急所を貫くだけだ。
そんな俺を意に介す様子もなく、銀狼はゆっくりと構えると
「クッッ!!!!!!」
真っ赤な口を開き、首筋目掛けて突っ込んできた銀狼を、すんでのところで身をよじって躱す。
突進の風圧で姿勢が崩れそうになるのをどうにか踏みとどまってこらえる。なんていう馬鹿力だ、突進だけでもまともに喰らったら命取りだぞ。
「らぁっ!!」
方向を転換し再びこちらに向かってくる銀狼、それをギリギリまで引き寄せて槍を大きく突き出す。
入った!
銀狼の肉を穿つ感触が手に伝わる……が、浅かった。
「グオオオォォォォォ!!!」
鬱陶しい!と言わんばかりに銀狼が大きく吠えてブルンブルンと身震いをする。
たったそれだけで、渾身の力を込めて突き立てていた槍ごと、俺の身体はいとも簡単に吹っ飛ばされた。
「うぐっ!!」
地べたに思い切り叩きつけられ、背中に強い衝撃を感じる。受け身も取れないままにゴロゴロと転がる俺の身体は、かがり火のひとつを巻き込んでようやく止まった。
かがり火はガラガラと音を立てて崩れ、反動で火の粉がバッと舞い上がる。倒れたまま動けない俺に火の粉は容赦なく降り注ぐがそれを払う気力がない。激しく打ち付けられた全身がズキズキと痛む。息を吸おうとするだけで、胸に鋭い痛みが走った。
どこかの骨が折れてしまったのか、起き上がろうにも身体に力が入らない。それでもどうにか視線を動かして、俺は絶望した。
「はは……マジか……」
頼みの綱の槍は、吹っ飛ばされた時の衝撃で遥か遠くに転がっていたのだ。
「フルルルルル……」
ズシリと胸元に重みを感じた。途端に肺から息が追い出され、圧迫感で顔が熱くなる。
いつの間にか近寄ってきた銀狼が、俺の胸を前足で踏みつけたのだ。そうして苦しむ様子を楽しむかのように、少しずつその足に力を込めていく。
鋭い爪が俺の皮膚を裂いて肉に食い込み、生ぬるい液体が溢れるのが分かる。ジンジンと熱い痛みが広がっていく。肋骨がミシミシと音を立て、呼吸が出来ず意識が朦朧とする。
ああ、ここで終わるのかな……
眼前にゆっくりと迫る銀狼の真っ赤な口を成す術なく見つめ、意識を手放そうとしたその時だった。
「セージ兄ちゃん、負けるな―!頑張れー!」
不意に、声が聞こえた。続いて、カンカンカンカンと響く耳が痛くなるような金属音。
俺を踏みつけにしていた銀狼の身体がビクリとすくむのが分かった。
はっと我に返ると、孤児院の二階の窓から子ども達が身を乗り出して鍋を打ち鳴らしているのが見えた。
「魔物め!この俺が相手になるぞ!」
「領主さんから離れろ!実はボクはすっごく強いんだぞ!」
「あたしもよ!狼なんて、ぜーんぜん怖くないんだから!」
子ども達は一斉に叫びながら、めいめいに音を立てて銀狼の注意を引き付けようとしていた。
「かかっておいで!パン生地みたいに叩き伸ばしてやるよ!」
「ほらほら、こっちよ!間抜けな狼の童謡でも歌ってあげようか!」
マリー婆さんが麺棒を振り回し、ピリリカに至っては窓枠に足をかけてロックギタリスト並に楽器をかき鳴らしている。
家畜達もモーモー、メルメル、コケコッコと叫び、ジャルマとグリちゃんも鋭く鳴きながら上空を旋回する。
「メ!!」
最後に年少の子ども達とメメ公が窓から顔を出すと
「あっかんべー!」
と叫び
「あっぷ!」
とどめと言わんばかりに、メメ公に乗っていたミシェルが頬を膨らました。
ああもう、みんなで何をやっているんだ、隠れていなければ危ないじゃないか……。
感覚がほぼない手をどうにか動かし周囲を探る。石でも棒でもなんでもいい、何か武器になるものを……銀狼からみんなを守れるものを……。
不意に、俺の手を温かな感触が包んだ。まるで誰かが両手を添えてくれたような、そんな感覚だ。
『行きなさい、我が愛し子よ』
柔らかな女の声が頭の中に直接響いた。後から思い返せば不思議な話だが、その時の俺はそれを自然に受け入れていた。
「ああ……」
ぐっと手に力を込めると、俺の手にはいつの間にか棒状のものが握られているのが分かった。これさえあれば大丈夫、何故かそんな安心感があった。
「グルルルル……」
急な物音に放心状態になっていた銀狼が、ようやく我に返り、標的を俺から孤児院のみんなに移す。俺の胸から足をどかし、最初に喉笛をかき切る相手を吟味する。
……その隙を俺は見逃さなかった。
「おおおおおおおおおお!!」
全身に力を込めて飛び起き、俺は手に握ったそれを、まっすぐに銀狼の首に突き立てた。
「ガアアァァァァァァ!!!」
驚いた銀狼が再び俺を振り払おうともがくが、絶対にそうはさせない。銀狼の首に腕を回し、渾身の力で首に突き立てたそれをグリグリと押し込む。
ああ、今気づいた。これはマリー婆さん達が灯してくれた女神フレイヤのかがり火だ。先端が杭のように尖ったそれは銀狼の首を深々と穿ち、魔法の炎がメラメラと傷口から迸る。どんどん強まるその炎は、たちまち俺と銀狼を包み込んだ。
「グガァァァァァ!フルッ!!フシュルルルルッ!!」
今や身をよじらせて苦しむ銀狼とは裏腹に、俺を包む炎は優しく心地よい。炎が俺の身体を撫でるたびに、ボロボロの身体から力が湧き出てくるようだ。
「これで、最後だああぁぁー!!」
残った渾身の力で銀狼の首を貫く。凄まじい断末魔の声を上げる銀狼から、炎が噴き出し渦を巻いて柱のように立ち上り……。
「ガッ…………」
フッと炎が消える。
続いてズンっと地面を揺るがすような衝撃と共に、銀狼の身体が横たわる。二、三度大きく痙攣をし、そして銀狼はもう二度と動かなくなった。
「はは……やった……んだな……」
それを確認すると、俺の意識も急速に遠ざかっていった。




