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簡単パエリアとバーベキュー

今回はほぼ全員出てくるため前書きでの人物紹介は省略します

分かりづらい点などありましたらすみません


 野外炊事場の調理台には種類も様々な食材がズラリと並ぶ。

 アサリやホタテに似た二枚貝にイカに白身魚とエビ。冷凍魔法で鮮度が保たれたそれらは、身のハリといいツヤといい新鮮そのものだ。

 それから野生のコルック鳥の肉、行商市から買い付けたスパイスやニンニクに人参、畑で取れた玉ねぎ。それにメメ公に出してもらった米があるとなれば、見た目も楽しく味も美味しい素敵な大鍋料理が出来るのだ。


 今日作るのは、パエリアだ。

 まずは油を敷いて熱した大きなフライパンで、輪切りにしたイカと一口サイズに切ったコルック鳥の肉を焼いていく。いい感じに焦げ目が付いたら、みじん切りにした玉ねぎ、ニンニク、人参を加えて炒める。玉ねぎが透明になったら、さっと洗っただけの生米を加えて更に炒め、塩、コルック鳥のガラで取ったスープ、カレー粉を加えて全体をよく馴染ませる。

 あとは砂抜きしたアサリとエビ、それに白身魚を乗せたら蓋を閉めて弱火で炊き上げていく。この時先に炒めていたイカやコルック鳥も、焦げ付かないように一番上に配置しよう。

 炊き上がったら火を消し、蓋を開けずにしばらく蒸らす。十分ほど放置すれば、サフランの代わりにカレー粉を使った簡単パエリアの完成だ。

 ひとつの鍋では勿論足りず、行商市で買った鍋や家の鍋も総動員して、調理中はあっちに行ったりこっちに来たりの大忙しだ。


 「わ、すごいです!」


 火加減の監視を手伝ってくれていた年長のリディアが、蓋を開けるなり歓声を上げる。

 鍋の中には鮮やかな黄色に炊き上がった米に、色とりどりの具材達が鎮座している。カレーの香りが湯気と共に立ち上り食欲を大いに刺激した。


 「リディア」


 俺は笑いをこらえて指をさす。鍋を覗き込んでいたリディアの眼鏡は湯気で真っ白になっていた。


 「あ、あまり見ないで下さい」


 耳まで真っ赤にして慌てて眼鏡を拭くリディアは、先程までの生真面目そうな仏頂面とは打って変わって子どもらしく微笑ましかった。


 「セージお兄ちゃん、もう食べても良い?」

 「この大きいエビは俺のー!」

 「ずるいー!じゃああたし、こっちの大きなお肉にする!」

 「じゃあクリッケはどっちも食べちゃおうかな!」


 そうこうしている内に匂いを嗅ぎつけたリック、トビー、エレーン、クリッケの年中組がやって来るので、彼らには食器を配るように頼む。

 手伝いができる事自体が嬉しいのか、四人はきゃあきゃあとじゃれ合いながら我先にと野外の即席テーブルに配置していく。孤児院の頃からこうして手伝いをしていたのだろう、ふざけながらも要領よくこなしていた。マリー婆さんに良く躾けられているな。


 「うおー、こっちもすげぇぞ!でっかい肉がジュウジュウ言ってる」

 「このソース、とってもいい匂い!」

 「ミズヒシオ(醤油)ヲベースニ作ッタ。美味イゾ」

 

 焚火の横では、年長組のアレンとジャックがジンバと一緒に串に刺した肉や海鮮を焼いている。そう、作っているのはバーベキュー串だ。

 肉と野菜を交互に刺した肉串には醤油ベースのバーベキューソースがたっぷりと絡まり、エビやイカや貝類を刺した海鮮串は醤油がサッとひと塗りされている。

 じっくりと炙られ、じゅうじゅうと煮え立つ具材の汁がバーベキューソースや醤油と混ざり合い、なんとも言えぬいい匂いを辺り一面に振りまいていた。


 「ああ、本当に美味しそうな匂いだねぇ」

 

 畑をいじりながら、マリー婆さんが目を細める。

 老人とは思えないほどの勢いで新たに起こされた畝は、俺なんかでは足元が及ばないほどに見事なものだった。ここには大根の種を植えるそうなので、俺はひそかに冬に作りたい料理のラインナップにおでんを追加した。


 「ねぇ、フラッカ。スープの味なんだけど、本当にこんなに薄くていいの?」

 「ええ、赤ちゃんのミシェルにはこの位がちょうどいいんですよ」


 追加の食器を取りに家の中に戻ると、ルルフゥとフラッカが台所で肩を並べて料理している。

 そういえばミシェルのご飯を作ると言っていたな。赤ちゃんにはたっぷりの栄養を取らせるんだと張り切って食材をあれこれ持って行ったようだが出来栄えははてさて。


 「お、白身魚に野菜か。豪勢だなぁ」


 丁寧に裏ごしされた野菜のスープからはほのかに海鮮出汁の香りがする。

 これに少し塩を振るだけで大人でも美味しく食べられそうなくらいいい出来だ。ミシェルもきっと喜ぶだろう。


 「魚も野菜もたっぷり使っちゃった。なんたって、育ち盛りだもんね」

 「ミシェル、きっと喜びますわ。最近は食べる量もどんどん増えていますもの」


 ルルフゥとフラッカが顔を見合わせて笑う。二人はどうも世話を焼きたがりという点で気が合うようだ。


 「スープが出来たんだって!楽しみだねーミシェル!!」

 「ねー」

 「だぁー!」

 「メェー!」


 ミシェルが寝かされているベッドの周りでは、ツムツムとサミュエル、それにメメ公がめいめいに寛いでいる。彼ら年少組はそれぞれがマイペースだが、意外にもメメ公がよく面倒をみていて、危なっかしい事をするたびに実力行使で制している。

 「お前、案外賢いよな」と撫でると、メメ公は絵に描いたようなドヤ顔でふんぞり返った。その様子にフラッカがクスクスと笑う。


 「メメちゃん、本当に賢いんですよ?それに、この子からは我ら獣人の神であるシルフィーネ様の気配を強く感じます。もしかしたら、シルフィーネ様の御使いの神獣様なのかも……」


 「女神様の?ないない、だって見てよ、この顔をさ」


 メメ公の柴犬の如きもちもちの頬っぺたを伸ばす。

 みよーんと柔らかくどこまでも伸びていくその頬っぺたはまるで餅のようだ。こんな間抜け面の女神の遣いがいるなら是非とも会ってみたい。


 「あ、セージ!またメメちゃんをいじめてる!」

 「やだなぁ、いじめてないって。これはスキンシップだよな、メメ公?」

 「メ!!!!」

 「ぐっ!!」


 どうやら調子に乗りすぎてしまったらしい。重い頭突きを顔面に受けてしまった。

 ご機嫌取りにナデナデをすると、メメ公はジト目でこちらを睨んで深々とため息をついた。しばらくはからかうのはよそう。


 ※


 すっかり日が落ちた森に、パチパチと音を立てて爆ぜるキャンプファイヤーの明るさが眩しい。

 火を囲むようにぐるりと腰掛けて、皆期待に満ちた目でその時を待っていた。


 「さあ、みんな揃ったところで……いただきます!」


 みんなで声を合わせて唱和し、それぞれの神への祈りの言葉を続け、そうして大人も子供ももう待ちきれないとばかりに食事に手を伸ばした。


 「うわぁ、これはたまりませんねぇ」

 「ああ……けしからんな。あまりに美味すぎる」


 レオが目尻を下げてため息をつき、隣のガブがうんうんと頷く。

 ニチリ草のおかげで身を起こせるまでに回復した二人も、こうして外のキャンプファイヤーを囲んでの食事に参加している。よかった、これなら完治までもそう日はかからないだろう。

 獣人の大きな口でガブリと豪快にバーベキューに齧りつく様子は本当に美味そうで、俺もめいいっぱい口を開いて真似てみる。


 「熱っ!……うまっ!!」


 先に食らいついたのは海鮮串。

 ホタテに似た貝は噛むなりじゅわっと汁が溢れ、貝柱の繊維がほろろとほどける。噛めば噛むほど口いっぱいに貝の旨味と少し焦げ付いた醤油の風味が広がって至福のひと時だ。モーギュの乳が採れるようになったらバターを作って、バター醤油味に仕立ててもいいかもしれないな。

 続いて殻ごとパリパリに焼き上がったエビ、香ばしい殻の下にぎゅっと詰まった甘い身が最高に美味い。ぷりぷりを通り越してブリンブリンの歯ごたえがたまらない。イカも甘く肉厚で、噛むたびにムチムチとして楽しい。

 お次は肉串だ。ジンバ特製のバーベキューソースは肉にも野菜にも驚くほど合う。甘みと辛味、それに野菜や香辛料で出された深いコクが、野趣あふれる肉の味を格段に引き上げていた。ああ、ここにビールがないのがつくづく惜しい。

 それにしても、これだけの量のバーベキュー串をアレンとジャックとジンバだけで作るとは脱帽だ。アレンとジャックを見れば、二人はニッと笑ってVサインを作ったので俺も笑ってサインを返した。


 続いてパエリアを口に運ぶ。慣れない大鍋で作ったが、炊き加減もばっちりだ。

 コルック鳥の肉と海鮮の旨味をぎゅっと詰めて炊き上がったライスはもうただひたすらに美味いの一言だ。さくっと歯切れの良いイカは先に炒めておいたおかげで焼き目の味わいが香ばしく、アサリからは貝の旨味がこれでもかというくらいに出ていて深い味わいを持たせている。

 ぴりっと辛いカレースパイスも、じっくり炒めた野菜の甘みが活きているから尖り過ぎずいい塩梅だ。

 ……参ったぞ、こりゃ食べる手が止まらないな。


 「こっちの串も美味しいよ!甘くて辛いソースが美味いんだ!それにこんなにでっかい肉、初めて食べた!」

 「パエリア、色んな味がして面白ーい!ピリピリしてるのにおいしー!」

 「お肉もお魚も入っているんだよ!もしかして、今日はお祭りなの?」

 「このエビ、すごく甘くて美味しい!ね、マザーマリア!」

 「これ、チビ共、飲み込んでから喋りな。……うんうん、パエリアなんぞ初めて聞くが、これはしみじみ美味いねぇ。大したもんだよ、まったく」


 子ども達はバーベキュー串を頬張り、パエリアを口いっぱいに詰め込み、賑やかに食事を楽しんでいる。それを見守る大人たちも、心から食事を楽しんでいるのが見て取れた。

 カレー味を愛してやまないルルフゥは無言で吸い込むようにパエリアをかき込んでいるし、ジンバはバーベキューソースの作り方についてフラッカから熱心な質問攻めにあっている。

 ドワーフ三人衆はと言うと、ああでもないこうでもないと孤児院の図面と睨めっこしつつも、料理を口に運ぶ手は休みなく動いている。

 

 こんな健やかな食事風景を毎日見るためにも、これからは一層気合を入れて働いていかないとなぁという気分だ。

 

 不意にポロロンと音色が聞こえる。

 見れば、ハーフリングのピリリカがギターにも似た弦楽器を奏でていた。小さな体に似つかわしくないサイズの楽器だが、それが不思議と様になっている。

 「ピリリカはね、旅をしている間、歌と語りで路銀を稼いでいたんだって」とジャックが耳打ちで教えてくれた。なるほど、吟遊詩人のようなものなのだろうか。


 「せっかくのいい夜なんだ、一曲やらせてよ。今日だけはお行儀よくなんて言わないでね、マリー」


 ピリリカはウインクをすると、マリーは「仕方ないね」と笑う。

 一同がわっと拍手をし、お祭り騒ぎが好きなドワーフ達は図面をそっちのけで演奏に合わせてジョッキを振り始めた。異世界の音楽か、楽しみだな。


 「今夜語らせてもらうのは、不思議な森の物語。訪れた者達の傷を癒し、飢えを満たし、心を安らげる不思議な地と、そこに住まう領主様の歌」


 森に領主……って、これって俺の事か。そういえばピリリカめ、料理の支度をしている最中に色々と質問攻めにしてきたのはこの歌を作るためだったのか。忙しすぎて生返事だったが、一体どんな歌に仕立てるつもりだろう。

 俺の困惑をよそにポロロン、ポロロンと甘い音色が響き、そうしてピリリカは美しく伸びやかな声で歌い出した。


 悲運の追放者 辺境の領主 若きその男の名はセージ

 人の住まぬ魔物の森の 小さな家にやって来た

 山の如き魔猪を屠り 湖の戦士と槍を交わし

 数多の異種族を従える大いなる領主


 自分のこと……しかもピリリカによって大いに脚色されたものを歌われるなんてある意味羞恥プレイなのだが、ピリリカの歌声に乗って紡がれるその物語はいつしか耳に馴染み聞き入ってしまう。 

 騒いでいた子ども達も静まり返って音色に耳を預け、ぐずってベソをかきそうになってたミシェルはウトウトと瞼を落とす。

 

 深きコノースの森よ 豊かな恵みの地よ 

 ドワーフの金床の音が朝を告げ 昼はモーギュとメールルが囁き合う 

 若き領主は鍋を振るい 国を追われ慈悲を乞う民にこう言った

 尾も耳も形は異なれど 信ずる神は異なれど 民の間に貴賎なし

 同じ窯でパンを焼こう 共に同じ鍋のスープで腹を満たそう 

 

 ピリリカの朗々とした歌声が続く。

 同じ釜でパンを焼き、同じ鍋のスープで腹を満たすか。俺がいた世界でいうところの「同じ釜の飯を食う」ってやつだな。


 ……しみじみ、いい言葉だと思う。


 今後更に領民が増えていけば、一人一人と関わる時間は減っていくだろう。リーダーシップを取る意味でも時には「領主」としての振舞いを求められることもあるだろう。

 そういう日が来たとしても、みんなと一緒に同じ食事を囲むことだけは忘れないようにしたいな。


 なんて、ピリリカが紡ぐ物語に耳を傾けながら、俺は遠い未来に思いを馳せるのだった。



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