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ジャンクなお味と夏の訪れ~ハンバーガーとフィッシュバーガー~


 「うわぁ!いい匂い!」


 昼下がり、広場にルルフゥの歓声が響く。

 爽やかな森の風に乗って辺り一面に漂うのは、芳ばしい焼きたてのパンの香り。広場に作られた石窯の中にはふっくらと焼けた丸パン達がお行儀よく鎮座している。

 

 そう、我が拠点に念願の石窯が出来たのだ。

 俺達がリザードマンの村に行っている間、暇を持て余したガジムが作り始めたらしい。帰宅後はドワーフ三人でああでも無いこうでも無いと改良を重ね、最近やっと完成したのだ。

 これがまたかなり立派な大型の窯で、今後拠点に人が増えたとしてもパンの大量生産が容易にできるだろう。こいつがフル稼働する日が今から待ち遠しい。

 石窯の使い方はルルフゥに教えてもらったんだが、こいつが難しいのなんの。ボタン一つでパンが焼ける前の世界とは違い全てが真剣勝負だ。

 初めの頃はタイミングを計り損ねて焦がしてしまったり、温度が低すぎて生焼けになったりと失敗もあったが、今ではどうにか人並みに扱えるようになった。


 そうそう、作ってもらったのは石窯だけではない。なんとその近くには野外炊事場も設けられたのだ。

 雨が降っても炊事が出来るよう東屋の如く屋根が取り付けられたそのスペースには、大きなかまどと作業台が置かれていた。

 今の人数の食事なら俺の家に備え付けられたキッチンでギリギリ賄えるけど、今後人数が増えた時を考えるとそうもいかないから、これは実にありがたかった。

 何より作業スペースが広いから、食材を切ったり捌いたりするのもやりやすくて助かる。最近じゃめっきり自宅キッチンを使わなくなったな。


 「よっと」


 木べらを使ってフライパンの上の塊をひっくり返す。

 フライパンの上でジュワ~っといい音を立てているのは、デスファング(大猪)のミンチ肉で作ったハンバーグパテだ。

 肉からはジュワジュワと琥珀色の脂が溢れだし、パテの端をカリカリと香ばしく揚げている。ああ、このまま齧り付きたいほどに美味そうだ。


 「ム、揚ゲ作業ハ楽シイガ、ドウニモ マダ慣レン」


 そう言いながらも、良いタイミングで揚げ油からフライを引き上げたのはジンバだ。

 水神ナイヤースを信仰するため火を用いた調理は極力行わないマガヤ湖のリザードマン達だが、族長の許しを得て村を出たジンバは今ではこうして火を使って存分に腕を振るう頃が出来る。

 今は何にでも興味があるらしく、食事のたびに調理の手伝いをしてくれる。確かに火を使った料理はまだ時々ぎこちない所もあるが、元々センスがいいジンバだ。これからの伸び代に大いに期待といったところだ。

 ちなみに彼女が今作っているのは白身魚のフライだ。ハンバーグパテに白身魚のフライ、それに焼き立ての丸パンとくればもうお分かりだろう。


 「バーガーかぁ……どんな食べ物なんだろう、楽しみだなぁ」


 顔はニコニコ、羽耳はピコピコしながらルルフゥがパンを上下二等分に切り分ける。

 ルルフゥの故郷ではパンは一度に焼いて数日に分けて食べるもの。保存ができるよう固く焼き上げるため、スープに漬けなければ食べられたものではなかったらしい。

 そのせいか、はじめて俺流のパンを食べさせた時はそれはそれは喜んだものだった。パン屋で売っているものには遠く及ばない出来なのに、あそこまで喜ばれたら張り切らずにはいられない。

 フライパンで作る焼きパンを使ったサンドイッチもどきならこれまでも何度か作ったが、ここまで豪快に具材を挟むのは初めてだからな。存分に期待してもらいたい。

 

 まずはハンバーガーから作っていくことにしよう。

 半分に切ったパンに大豆マヨネーズを塗り、水に浸け辛味を抜き絞ったスライス玉ねぎ、マメロ(トマト)、その上に肉汁滴る熱々のハンバーグパテを乗せる。パテには、マメロ(トマト)と香味野菜、ビネガーとスパイスを煮詰めて作ったケチャップソースを塗る。

 その上に乗せるのは、少し厚めに輪切りにした玉ねぎだ。こいつはハンバーグパテを焼いた後の脂が残ったフライパンで焼いてあるから旨味をしっかりと吸っている。程よく付いた焦げ目が香ばしく美味そうだ。

 最後にパンの上半分を乗せれば完成だ。


 お次はフィッシュバーガーだ。

 パンに塗るのはリザードマン自慢のスパイスで辛味を効かせた大豆マヨネーズ、その上に薄切りのスライス玉ねぎを乗せ、白身魚のフライをどーんと乗せる。衣に包まれた厚みがある身がなんとも美味そうだ。

 ソースは粗くみじん切りにして食感を活かした玉ねぎと、たっぷりのタルタルソースだ。こいつをパンで蓋をすればあっという間にフィッシュバーガーの完成。


 「おーい、昼飯が出来たぞー!」

 

 大声で呼ぶと、広場のあちこちからドワーフ達が顔を出す。

 凄まじい勢いで斧を振るい薪を作っていたのはギジムで、二人がかりでなにやら怪しい小型のクロゼットのようなものを組み立てているのがロウシとギジム。

 世界中を旅したというだけあり様々な知識を持つロウシは、最近は物置から用途不明のガラクタを引っ張り出してきては手先の器用なギジムとなにやら相談して弄り回したりしている。一体何をやっているのやらだ。


 「ほらほら、冷めちゃうよ!みんな着席着席!」


 野外に作られた大テーブルにバーガーを並べながらルルフゥが急かす。

 確かにパテもフライも熱々が一番だ、ということでみんなで慌てて席につき、手を合わせて「いただきます」の唱和をする。続いて各々が信仰する神に祈り……俺はそうだな、メメ公にでも祈っておこう。また美味いものを出してくれますようにっと。


 さて、祈りを終えたところでまずはハンバーガーを手に取る。食べやすさを考えてパテは薄目に作ったつもりだったが、それでも十分すぎる食べ応えだ。予算度外視の手作りと言うだけありずっしりと重くて嬉しい。

 ガブっと大口を開けて齧り付けば、柔らかなパンと野菜の新鮮な食感に風味、ジューシーな肉汁と旨味が口いっぱいに広がる。まろやかな大豆マヨネーズとケチャップの酸味も具材の味を上手く引き立ててくれる名アシストだ。


 「おいっしー!すごい、パンはふわふわ!中身はたっくさん!あはは、なにこれ!」


 一口食べたルルフゥが、その美味しさに思わず笑いだした。

 手を使って食べるジャンクな味って、普段の食事とはまた違った美味しさや楽しさがあるんだよなぁ。普段食事に使う味覚、嗅覚、視覚の他に触覚も刺激されるからだろうか。

 そんでもって野外で食べるのがまた格別、ちょっとした行楽気分だ。笑いたくなる気持ちも分かるな。


 「うーん、このホクホクのフライよ。魚のフライといえば儂はミズヒシオ(醤油)も好きなんじゃが、バーガーにするならタルタルソースに限るわいな」

 

 髭にタルタルソースをつけながら、フライをザクザクと噛みしめてロウシが頷く。

 

 「この溢れる肉汁のジューシーな事よ!昼から食べるにゃちと勿体ねえ、こいつを火酒に合わせてぇもんだぜ」とガジム。


 「俺はこのフライのバーガーを辛口のワインでチミリとやりてぇな」と返したのはギジム。

 

 うんうん、分かる。酒とジャンクフードは禁断にして魅惑の組み合わせだ。だから自重して昼ご飯に出したんだぞ。


 「お、そういえばこれは……?」

 

 テーブルに置かれた小皿に目を引かれた。作った覚えはないのだが、これはウロコ豆……を、揚げたものか!

 試しに摘まんでみると、豆のホクっとした食感とカリカリの衣がいい。味付けは塩だけとシンプルなのに食べる手が止まらない。

 なるほど、ハンバーガーと言えば付け合わせにフライドポテトがお約束。それが豆に変わったところで合わないはずが無かろうて。


 「もしかして、ジンバが作ったのか?」


 「ム、豆ガ余ッテイタカラナ。タダ揚ゲタダケダガ」


 「いやぁ、美味いよこれ!俺じゃあ考えつかなかったぞ!すごいじゃないか」


 「ソウカ……ミズヒシオ(醤油)、砂糖、ビネガーノソースヲ合ワセテモ良イカモシレンナ」


 「甘酢のようなものかな?それも良いだろうなぁ。そうだ、半分くらい潰してナゲットみたいにも出来るんじゃないか?」


 「ゴク……ねえ、セージ?それは夕ご飯に出してくるってこと?」


 「食べる事ばっかりじゃの、こやつは」


 「ロウシには言われたくない!」

 

 広場に様々な種族の笑い声が響いた。

 呆れるほどの晴天の下で行われる食事は、会話にも花が咲く。いつしか皿は空になり、うっすら浮いた汗をぬぐう頃。食後の柑橘水を楽しみながら、ふと疑問が口をつく。


 「と、そういえばロウシ達は何を作っていたんだ?」


 食事前にロウシとギジムとでいじっていたあのクロゼットの様な箱、どこかで見覚えがあった気がするんだが。

 するとロウシとギジムが、待っていましたとばかりに立ち上がった。


 「ほっほっほ、よくぞ聞いてくれたな領主殿」


 「見てひっくり返るんじゃねぇぞ!おい、ジンバ!手伝ってくれ!」


 「ム?」


 なにやら二人のスイッチが入ったらしい。二人は得意げな顔で倉庫に走り、その一抱えはありそうな箱を持って来た。

 上下二段に分かれ、開き戸がついたその箱はやはりどこかで見たことがあったが、はてどこで見たのやら……。

  

 「さあ、ジンバ!ちょっくら魔法で氷の塊を出してくれや!」


 「コウカ?ムンッ」


 ジンバが青いモヤのようなオーラを纏う。そうして目を閉じて手を掲げると、ジンバの掌から水が溢れてバスケットボール大の塊になり渦を巻く。


 「凍テツケ」


 そうしてジンバが呟いた直後、周囲にひんやりとした冷気が発生し、パキパキと硬質な音を立てて水塊が凍り付いていく。ううむ、魔法と言うものはいつ見ても圧巻だなぁ。

 

 「ソラ、出来タゾ」


 ジンバが片手を払って冷気のモヤを散らすと、もう片方の手にはレンガのような形に成型された氷のブロックがあった。

 これが水の神ナイヤースの力を借りた、ジンバ達リザードマンの魔法だ。


 「うむ、ご苦労じゃったな。その氷を上の棚に入れてみぃ。すると、ほれ出来た!」


 ロウシがクロゼットもどきの上段に氷のブロックを入れる。

 木製のクロゼットだが、内側には不思議な素材の金属板が張り巡らされ、それらが氷から発せられる冷気を全体に伝え……

 

 「あ!もしかして冷蔵庫か!」


 思い出したのは、前にテレビで見たことがある昔の冷蔵庫。

 電気がまだ広く普及していない頃に使われていたという、上の段に氷の塊を入れることで下段を冷やすことが出来る代物だ。なるほど、既視感はそれだったか。


 「おお、知っておるのか。昔、貴族の家の修繕を任されたことがあってな。その時見たものに似ていたからもしやとは思ったのじゃが、正解だったの」


 「これから暑い季節が来るんだ。塩蔵だけではなにかと不便もあろう。氷を作る手間をかけるジンバにゃ悪いが、これがありゃ大分楽になるんじゃねえか?」


 「ジンバハ特ニ構ワン。料理ノ幅ガ増エルノハ嬉シイカラナ」


 「あ、ありがとう……三人とも!」


 なんと嬉しいサプライズだ。

 まさかこんなものが物置に眠っていたとは。ここは先代領主が整備させた場所だというし、その時の置き土産だろうか。これがあれば、あんなものやこんなものが……うーん、考えているだけで楽しくなってきた。


 「メ!」


 「あ!俺が残しておいたツマミがよぅ!」


 いつの間にか来ていたらしいメメ公が、ガジムの皿のフライドビーンズを平らげ、こちらを向いてドヤ顔をしている。ははは、相変わらずなんとも気の抜けるアホ面だが「任せろ」とでも言っているのだろうか。

 俺がいた世界の植物を枝角から生やせるこの謎生物メメ公。この子と冷蔵庫の力を借りれば、この森の食事事情もますます充実するだろう。

 村作りの為に惜しみない協力をくれるみんなの為にも、次はどんな料理を作ろうかとあれこれ考えてしまう。


 「ああ、嬉しいなぁ、楽しみだなぁ」


 なんだか胸がいっぱいになってしまい、俺は空を仰いだ。

 遠くに浮かぶのは入道雲。木々のざわめきを縫うように、セミにも似た虫の声が響く。

 

 コノースの森に、いよいよ夏がやって来ようとしていた。


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