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難題:異世界でマヨネーズは作れるか 前編


 「これは圧巻だな……」


 ジンバに連れられて、俺はリザードマンの村にあるテントのひとつにお邪魔していた。

 ここは彼らの食糧庫兼調理場のひとつで、床や棚には所狭しと調味料が並べられていた。おなじみの味噌や醤油は勿論、色とりどりの岩塩に配合が異なる粉末状のミックスハーブ達、何種類ものスパイスなどなど。

 しかし話には聞いていたが、こうして見るとリザードマン達の調味料に対する並々ならぬ情熱を改めて感じるな。醤油ひとつとっても、香味野菜やハーブ、それに貝類を漬け込んだものなど片手では数え切れないほどの種類が置かれている。 


 「コッチハ ビネガー。熟成期間毎ニ味ワイガ変ワル」


 「おお、華やかな香りだな。穀物酢じゃなくワインビネガーってやつか。こいつはどう使うんだ?」


 「油、スパイス、塩ト混ゼ ビネガーソースヲ作ル。魚ト野菜、ドッチニ掛ケテモ美味ダ。

 ビネガーニ塩ト砂糖ヲ混ゼテ、ソコニ魚ヲ数日漬ケル事モアル。身ガ締マッテ、コレモ美味」

 

 なるほど、マリネに酢〆めか。どっちも美味そうだ。

 やはり酢があれば色々と捗るよなぁ。和食なら酢の物に南蛮漬けにサッパリ風味の煮物に照り焼きか……ああ、良い。それに、寿司なんかも作れるかもしれないな。

 それに和食以外だってピクルスやドレッシング、ステーキソースなんかにも大活躍だ。中華なら酢豚にかに玉に酸辣湯、おっと餃子の味付けにも使えるよなぁ。

 ああ、うちでも作れないかなぁ、ビネガー……。


 「欲シケレバ、少シ持ッテ行クト良イ」


 「え、良いのか!」


 余程物欲しそうな顔をしていたのだろうか。涎が出ていないか慌てて口を拭って確かめてしまった。

 ジンバは再び口をガバっと開き、ギザギザの歯を見せて笑う。


 「色々ト面倒ヲ見テヤレト父ニ言ワレテイル」


 「え、父って?」


 「族長ノ ギーヴァハ ジンバノ父ダ」


 そ、そうだったのか……!

 筋骨隆々で威圧感があるギーヴァに比べてジンバは小柄で気さくだから、親子だとは気づかなかったな。 


 「ということは、ジンバは次期族長なのか?」  


 「イイヤ、尾無シハ 族長ニハナレナイ。誇リヲ失ッテイルカラ」


 ジンバが自身の半分に切れた尾を振って見せる。

 随分前に切れたのだろう、断面は塞がっているがやはり痛々しいものだ。

 そうか、リザードマン達はこの尾を使って舟を操り、魔物狩りで戦士としての勇を示すんだったな。となると族長の子と言えど、今の彼の村内の地位はあまり良いものではないのかもしれない。


 「すまん……嫌なことを聞いてしまったな」


 「イヤ、イイ。大牙魚ニ尾ヲクレテヤッタ代ワリニ、コウシテ陸デ料理ガ出来ル。今ノジンバハ ソレガ楽シイ」


 「そっか。うん、料理って楽しいもんな。なぁ、今日の料理はジンバも作るんだよな?」


 「アア、ソウダガ?」


 俺も混ぜてくれないか、と尋ねるとジンバは嬉しそうに頷いた。



 「すごい手際だな……」


 テントの外ではリザードマンの女衆が、目にも止まらぬスピードで魚を捌いている。見たことがあるような魚から、魔物と見紛うようなグロテスクな魚まで種類様々だ。

 その横では熟練の雰囲気を醸し出す年配のリザードマン達が、鮮やかな手つきで貝を開き中身をくり出しと大忙しだ。他にもエビにカニに、魚卵も捨てずに使うんだな。

 ……これだけたくさんの海産物、市場でもそうそう見ないぞ。

 こうして切り身やむき身になったそれらがテント内の調理場に運び込まれ、ジンバを筆頭とした調理担当の手によって様々な味付けを施されていた。


 「ミズヒシオ(醤油)、ワインヲ混ゼル。砂糖モ少シ。ソシタラ、切リ身ヲ漬ケル」


 ジンバが手慣れたように漬けタレを作り、中にポイポイと刺身を放り込んでいく。

 なるほど、リザードマン流のヅケ醤油か。ワインと醤油……あまり馴染みがない組み合わせだけどどうなんだろう。


 「ワインノ酸味ハ魚ノ生臭サヲ消ス。ミズヒシオ(醤油)ノ旨味モ活キル」


 「なるほど、こういう洒落た調味料はなかなか使わないからなぁ」


 元の世界で住んでいた俺のアパートに常備されていたのは、醤油に味噌に味醂に料理酒とスーパーでお馴染みの面々だ。横文字の調味料なんてとんと縁がなかったものでな。

 ルルフゥ達の為にも料理のレパートリーは是非とも増やしておきたいからな、ここはしっかりと勉強させてもらうとしよう。


 「コッチハ ミンチニシタ魚ノ上ニ、ヒシオ(味噌)ミズヒシオ(醤油)、刻ンダリーキ(長ネギ)、香味ヲ幾ツカ入レテ刃デ叩ク。音ノ通リ、タクタクト言ウ料理ダ」


 硬いまた板の上で包丁を軽快に振るう音は、確かにタクタクと聞こえなくもない。俺にはトントンなんかに聞こえるけど、文化が違うと表現も変わって面白いもんだな。

 それにしてもこいつはなめろうか?見たこともない香味野菜がいくつか入っているが、叩かれた魚がそれらにねっとり絡んで如何にも美味そうだ。こいつを熱いご飯に乗せたら最高だろうな。くそ、メメ公を連れてくるんだったな。


 「っと、俺は俺でやらせてもらう事にするか」


 ジンバの鮮やかな作業をもっと見ていたかったが、俺も俺でやることがある。

 なにせこんなに潤沢な調味料を見せられたら、あれやこれや作りたくなるじゃないか。


 「で、本当に火を使っても良いのか?」


 「構ワヌ。ヒシオ(味噌)等ヲ作ル時、ソレカラ客人ヲ迎エル時ハ、村内で火ヲ使ッテモ良イ。ナイヤース様モ、オ許シニナル」


 なるほど、それで鍋やかまどなんかの調理器具も揃っているんだな。ということで、お言葉に甘えて火を使わせてもらう事にする。 

 メインの料理はジンバ達に任せるとして、俺は調味料好きの彼らの為にわき役を揃えていくとしましょうか。


 気合を入れて腕まくりをし、俺は食糧庫内の物色を始めるのだった。


次回の更新は今夜中を予定しています。

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