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いざ、リザードマンの集落へ


 「平パンにジャムに茹で卵、燻製も少し持っておくか。まぁ道中はこんなものでいいだろうな」


 四人分の食料を布に包み革製の鞄に入れる。

 平パンは水分量を控えめにして焼き上げ、茹で卵は殻つきのまま一日半ほど塩水に漬け込んで味を付けたものだ。

 今日は半日ほど歩き通すから、カロリーも相応に必要になる。とはいえ持てる食料の量は限られているから、後は砂糖たっぷりのジャムで補うとしよう。


 「それから着替えも必要か。さすがにこのままではマズいしなぁ」

 

 今の俺の服装はと言うと、召喚された当時のままだ。

 時々洗って騙し騙し着ているが、地味だしくたびれているしでパッとしない。

 今の俺は一応領主だからな、族長に会うなら身だしなみは整えていた方がいいだろう。

 

 チェストを漁ると、前に住んでいた管理人のものであろう服がそのまま残されていた。

 白いシャツに革のベスト、それにスラックスか。シンプルだが今のヨレヨレの服よりはましだ。これに刺繡で模様が描かれたポンチョを羽織る。軽いが丈夫で質がいい。


 「まぁこんなものだろうな」 

 

 これまで履いていた靴の中敷きを革の靴に移し替えサイズを調整してやる。履き心地は現代日本のものと比べるまでもないが、その分頑丈そうだ。

 これでどうにかこの世界らしい格好がついたな。

 

 「セージ、準備はもういいのー?」


 ルルフゥが庭で手を振っている。

 パンパンに膨らんだリュックを背負っているルルフゥの横では、ロウシとギジムが荷物の最終チェックをしていた。


 

 季節は初夏。

 植物たちは生命力に溢れ、コノースの森を吹く風からも夏の匂いを感じる。

 ルルフゥもドワーフ達も、最近ますますよく働いてくれて領地の整備はかなり順調だ。そろそろ次の一歩に踏み出してもいい頃合いだろう。


 この森を沢沿いに半日ほど下ったところに、マガヤ湖と呼ばれる大きな湖がある。

 ドワーフ達が少し前まで採掘をしながら暮らしていた場所で、そこにはリザードマン達の集落もあるのだという。森の中に引き籠っているだけでは物資を消耗する一方なので、彼らとは是非とも交易相手として仲良くしておきたい。

 彼らと長らく交流があったロウシが口利きをしてくれるそうなので、今日は隣人としての挨拶がてらに物々交換を申し込みに行こうという訳だ。


 こちらが差し出せる物資は、森の魔物をコツコツと狩って得た魔石や毛皮や骨などの素材が中心だな。

 リザードマンは戦士の部族だから、武器や装備に加工できる魔物の素材は重宝されているらしい。

 他にもロウシの強い進言で、山ワサビをたっぷり持つことにする。なんでも彼らは調味料に対する拘りが強いんだとか。

 確かに味噌や醤油を自作しているくらいだからな。うーん、調味料が好きだなんて、想像していたリザードマン像と今一つ結びつかず不思議な気持ちだ。


 「留守番は任されたぜ!安心して出かけてきな」


 そう言って俺達を見送るのはガジムだ。

 リザードマンの集落に向かうのは俺とルルフゥとロウシとギジム。ガジムは自ら留守番を買って出てくれたんだ。正直財産である食料や物資を置いて出かけるのは心配だったし、コルック鳥たちの世話も必要だったから助かった。

 そうそう、コルック鳥と言えば五つあった卵が全部無事に孵化してな。総勢八羽の大家族で毎日ピヨピヨコケコケ大騒ぎだ。

 

 「すまんなガジム、よろしく頼んだ」


 「おうよ!向こうの連中によろしく伝えておいてくれや」


 ガッシリと握手を交わし、そうして俺達は拠点を出発した。


 ※

 

 沢沿いの平坦な道を抜け、足場の悪い岩場を抜け、再び森へと入って黙々と歩くこと三時間。

 さすが異世界育ちというだけあり、老人のロウシでさえかなりのペースで歩いている。額に浮かぶ汗をぬぐいながら俺も負けじと歩を進めた。

 

 「ここに来る時に道を作っておいて助かったわい」と呟いたのはロウシ。


 雑草が生い茂っているが、ロウシ達が拠点にたどり着くまでに藪を払い草を踏みならして来てくれたおかげで随分歩きやすい。体力が強化されているとはいえ、足場が悪い場所を歩くのは消耗するから確かにこれはありがたかった。


 「むぐむぐ……ねぇ、リザードマンってどんな種族なの?」


 茹で卵を食べながらルルフゥが尋ねる。

 この辺りは座って休める場所がないから歩きながらの食事だ。なんだか悪いことをしているようだが、それはそれでちょっと楽しいな。


 「誇り高い戦士だな。男たちはスーウィという舟を操って水上の魔物を狩り、己の勇敢さを競うのさ。それがまた面白くてな。

 スーウィは小回りを利かせる為に軽い造りなんだが、これは尾を上手く使わんとバランスが取れねえ。だから立派な尾はより強い戦士の証となるのさ」


 平パンにジャムを塗りながらギジムが答えた。

 なるほど、確かに独特の文化だ。それにしても水上の魔物か。マグロやウニの魔物がいればいいのにと思ったのは内緒だ。

 

 「とはいえ毎日戦っている訳ではない。普段は漁をしておっての。あすこは汽水湖じゃから、海にも出られるでな。海の恵みも湖の恵みも豊富じゃぞ」とロウシが続けた。

 

 なるほど、そいつはすごく楽しみだ。

 海の魚介類は川で取れるものとまた違う美味さがあるからな。特に刺身なんて、川魚では出来なかったから楽しみだ。


 「ほれ、そうこう言っている間に見えてきたぞ。あれがマガヤ湖だ」


 木々が茂る道を抜けると、急に視界が開ける。

 そしてギジムが差す方向を見て、思わずルルフゥと一緒に歓声を上げた。


 まず目を引いたのは、一面の緑の中にぽっかりと現れた深い青だ。

 想像していた以上に大きな湖で、全体的に円形だが海に向かう先端が細く、まるでしずくのような形をしている。

 湖の西の方角を見ると削れた岩壁が露出している平地がある。そこがドワーフ達のかつての採掘地だろうか。

 反対の方角を見れば、湖沿いに小さな家々がいくつも立ち並んでいるのが見える。なるほど、あそこがリザードマン達の集落だ。


 「な、なんだか緊張してきたな」


 「案ずるな、族長のギーヴァは話が分かる男じゃからの。さてさて、久しぶりにミズヒシオ(醤油)で魚が食えるとは楽しみじゃわい」


 「もう、ロウシってば食べる事ばっかりだね」


 「お主もな」


 わいわいと実に賑やかな道中だ。

 なんだかピクニック気分だなぁと思いながら、俺もジャムを塗ったパンをひと齧りする。うん、酸味と甘みのバランスが疲れた身体には心地いい。もうひと頑張りできそうだ。

 さて、湖に降りるまでここからあと二時間といったところか。


 新しい出会いに期待を膨らませながら、俺達は歩を進めるのだった。

7話で報告頂いた箇所を修正しました。誤字報告ありがとうございました。

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