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新築祝いはおつまみ尽くし~ビア缶チキンと枝豆も~


 「いいなぁログハウス、男の憧れだよなぁ」


 上質な木材をふんだんに使った見事なログハウスを前に俺はため息をつく。

 

 ドワーフ達の技術と精霊達の神秘が詰まった平屋の一軒家。

 窓飾りや木目の合わせ方一つとっても職人の拘りがあるのが素人目にも伝わってきた。

 曲木を組み込んだ小洒落た玄関ポーチから中に入ると、人間の俺でも見上げるような高い天井が目を引いた。


 「それにいい香り。ボク、切ったばかりの木の匂いって好きだな」


 ルルフゥがすんすんと鼻を鳴らしてうっとりと目を閉じる。

 真似して嗅いでみれば、新築特有の爽やかな木の香りで鼻がくすぐったくなった。


 「頑丈なカジャの木を使っているからな、雪の重みだって平気だ」

 

 「巨人が乗ったって大丈夫だぜ」


 俺達の反応を満足そうに眺めて、ガジムとギジムは揃って胸を張った。


 そう、今日はドワーフ達の住居の完成日だ。 

 驚くことに本当に二日で立派な家が建ってしまったのだ。

 突貫工事で作られた小屋なんかではない、現実世界でこんな家を建てたら金がいくらあっても足らないだろう。


 片手間に作ったというテーブルや椅子もしっかりとした造りだし、寝床はなんとハンモックだ。

 羨ましそうに見ていたら、ガジムが笑って「今度お前とルルフゥの分も作ってやるよ」と約束してくれた。


 「ところで、ここには三人で住むんだよな?それにしては少し広すぎる気がするけど」


 暖炉にハンモック、テーブルが置かれたメインの部屋の他に、ドワーフ達の仕事道具を仕舞う物置部屋や作業スペース。

 そこまでは分かるのだが、他に空き室が二つある。ガジム達の個人部屋……なら部屋数が足りないよな。


 「ほっほっほ、儂から説明しよう。ここは客人用の部屋として設けさせてもらった。

 今後この森に領民を招いても、新たに家を建てるにはまた数日かかるじゃろうて。

 それまではこの部屋に住まわせようと思うてな。なに、簡易宿と思うておくれ」

 

 宿か、それは考えもつかなかったな。

 急な来訪者があってもこれなら大丈夫だろう。俺の気が回らない所までサポートしてくれるドワーフ達には感謝してもしきれない。


 「みんな、本当にありがとう!釣り合うお礼が出来ないのがもどかしいのだが……」


 「水臭い事を言うな、領主さんよ。俺達をその気にさせたのはアンタなんだぜ?だが、そうだな……」


 「ああ、強いて言うなら、だ」


 ガジムとギジムが顔を見合わせて頷く。

 次の言葉を図りかねていると、ロウシが笑いながら続けてくれた。


 「お前さんの飯が食べたい、そういう事じゃな」





 揚げ油の中で、ジュワジュワと細かな泡が躍る。

 揚げられているのは衣が付いた玉ねぎ、オニオンリングだ。

 キッチンと外の焚火を行ったり来たりしながら俺はツマミ作りに大張り切りしていた。

 せっかくだしな、ドワーフ達の働きを労うためにちょっとした酒の席を設けることにしたんだ。


 俺が元の世界から持ち込んだ缶ビールの残りは五本。

 勿体なくて取っておいたものだが、せっかくだから今日はそれを全て振舞うとしよう。

 といっても大酒飲みのドワーフをもてなすには量が足りなすぎる。残りの酒は彼らが持ち込んだ火酒に頼るとして、俺は料理の方を頑張らせてもらう。


 「はーい、揚げたてオニオンリングだよ!熱々を召し上がれってさ。甘くてサクサクで美味しいよ!」


 配膳を頼んだルルフゥがちゃっかり味の感想を伝えてる。

 さてはつまみ食いしたな。


 「おう、俺達だけじゃなんだ。領主さんもルルフゥも、こっち来て乾杯しようじゃねえか」


 「そうそう、乾杯だけは皆一緒じゃないとな」


 料理途中ではあるが、せっかくなので呼ばれることにする。

 手に掲げるのは、俺とドワーフ達は湧水でキンキンに冷やした缶ビール、ルルフゥは柑橘で作ったレモネードもどきだ。


 「では、三人の家の完成を祝しまして……乾杯!」


 「乾杯!」と声を合わせ、めいめいに缶やコップを打ち合わせる。

 そうしてグイっと流し込めば、シュワシュワの炭酸が喉を一気にかけ落ちる。ああ、やはり冷えたビールは最高だ!


 「おお!なんと鮮やかな切れ味のエールじゃ!こりゃたまらんの!」とガジム。


 「街で飲むエールよりは軽いが、強烈な炭酸のおかげでそれがむしろ心地よいな!香りも気に入った!」とギジム。


 「このキリっとした飲み口にオニオラのフライ(オニオンリング)がよう合うときた。油でこってりとした口をエールで洗って……むほほ、止まらんのう止まらんのう」とロウシ。


 三者三様に俺の世界のビールを気に入ってくれたようだ。

 あの味がもう飲めなくなるのは寂しいが、この世界の仲間と分かち合えたのは嬉しく思う。


 「ぶー!ボクだけビール無しなんてつまんないよ!そりゃ、このジュースも美味しいけど……すごく美味しいけどさ!」


 ルルフゥが口を尖らせる。

 ビールに興味津々のルルフゥだったが、まだ未成年だからな。代わりにルルフゥには専用のビールメニューをこっそり用意してあるんだ。

 まだ少し時間がかかるから、それまでは我慢してもらう事にしよう。


 さて、名残惜しいが俺は飲みかけのビールを持ってキッチンに戻る。

 ツマミは出来立てからどんどん出してやりたいからな。

 相変わらず食材が乏しい我が家だ。作るとすればありもの料理になるのだが、精いっぱい腕を振るうとしようか。


 「山菜の天ぷら盛り合わせだ、塩をつけてどうぞ」 


 コゴミ、アザミ、ミツバの天ぷらに山ワサビのかき揚げだ。


 「うおお!こりゃまた豪勢だな!手づかみで行かせてもらうぜっと。アチチ!」


 揚げたてを手づかみして悲鳴を上げたガジムだが、熱さに負けじとそれを口に押し込んでいる。

 ハフハフと息を吐き目を白黒させながらも、次の天ぷらに手を伸ばすのを見る限りお気に召したようだ。


 山菜の季節もそろそろ終わるからな。

 保存食ばかりでは勿体ないし、やはりこの食べ方だけは外せない。 

 それにしても味付けが塩だけとシンプルなお陰で、山菜のほろ苦い風味が活きて食欲を更にそそる。

 たっぷりのツユにつけたり、天丼にして甘辛いタレの味で食べるのも良いけれど、やはり山菜天ぷらの揚げたては塩で食べるのが好きだな。


 「お次は川エビの素揚げをどうぞ、お好みで柑橘を絞ってもいいぞ」


 「ほう、鮮やかな赤が眩しいな。そしてシンプルじゃ!シンプルじゃが、間違いなく美味いな!!ええい、俺は火酒に切り替えるぞ!」


 「儂はエビの頭の中身をチュっと吸い出すのが好きじゃ。これで火酒をちみちみ舐めて、ほっほっほ、こりゃ良いぞ」


 川エビはしっかり泥抜きしておいたので丸ごとパリッと食べられる。

 揚げたての一匹を摘まめばエビの香ばしい風味が口の中で大暴れだ。そんでもって、これにビールが合わない訳がなかろうて。

 

 「揚げ物が続いたので次は焼きおにぎりでも行っておくか。味付けは卵味噌とワサビ味噌の二種類あるからな」


 昨日のご飯がまだ少し残っていたので小さめの焼きおにぎりを作ってみた。

 卵味噌は卵と味噌、砂糖と酒を火にかけながら練り合わせたものだ。焼きおにぎりにする際にさっと焦げ目がつく程に炙ったので、風味が立って更に美味いんだ。


 「おう!小腹が減ってきた頃合いだから助かるぜ!香ばしくてうめぇなこりゃ」


 「あふあふあふっ!表面の焼き目がパリッとしてて美味しい!」


 うんうん、見ていて気持ちがいい食いっぷりだ。

 まだ足りなそうなら皮から餃子でも作ってやるかな。そうだ、ラードを作った時の脂カスを使って濃厚焼うどんなんかも捨てがたい。

 キッチンで缶ビールをチミチミやりながらそんな事を考えているうちに、ルルフゥ専用のメニューがいい感じになってきた。


 「はい、おまちどうさん。ビールが飲めないルルフゥにはこいつでどうだ」


 焼き上がったばかりのそれをドーンとテーブルに置くと、みな呆気に取られたように口を開いていた。

 分かるぞ、俺も初めて見た時はそんな顔になったもんな。


 「キャンプの定番、ビア缶チキン……いや、ビア缶コルックかな。コルック鳥をビールで蒸してじっくり焼き上げたんだ。これならルルフゥも食べられるだろう」


 我が家のコルック鳥は卵を取るために育てているから、こいつは今朝ルルフゥが森から獲ってきて絞めておいたものだ。

 その見た目はと言うと、首を落として内臓を抜き丸鶏状になったコルック鳥の下半身の穴部分にビール缶を埋め込み、立たせたまま焼いてある。

 お尻にビール缶を刺してどっしりと鎮座しているように見えるそのシュールな姿だが、熱されたビールの蒸気で体内から蒸し上がっており、炙られた外の皮のパリッと感と相まって非常に美味なのだ。

 味付けも下味にハーブと塩をすり込んだだけだが、これが侮れないほど本格的な味わいになるのである。


 「なんか凄いことになってる……けど、イタダキマス」


 その見た目にドン引き気味のルルフゥだったが、意を決したようにモモ部分を引きちぎる。

 骨付き肉状になったそれに小さな口で齧り付き、直後に「わぁっ!」と歓声を上げた。


 「すごい!すごいよこれ!皮は香ばしくてパリパリなのに中がとーっても柔らかくて、お肉が口の中でホロホロほどける!

それにすごくジューシーだ!お肉に付いたこの不思議な風味、これがビールの味なのかなぁ?この味、なんだか癖になりそう」


 「おぉ、酒飲みとして将来有望だな」


 コクコクと頷きながら、次々と新たな部位を解体しパクつくルルフゥ。

 ビールを使った料理はいくらでもあるけど、食欲旺盛なルルフゥにはこれにしておいて大正解だったな。

 

 そんなことを考えていたら、なんだか妙な視線を感じる。

 振り返ると、ドワーフ達が酒を飲む手を止めてビア缶チキンを凝視していた。


 「領主さんよ……」


 「それは俺達の分もあるんだろうな?」


 「ほっほっほっほっほ……」


 いかん、皆目が笑っていない。


 「えーっと、みんなの分のメインディッシュはデスファングのステーキの予定なんだが……」


 「無論それも頂こう!だが、だがな領主さんよ!」


 「すまん!ビールはもうないんだ!それにコルック鳥だって……」


 ガジムの気迫に気圧されて、俺はまだ穏やかに微笑んでいるロウシを縋るように見つめる。

 ロウシは年長者らしい落ち着きある様子で俺に向かってゆっくりと頷く。


 「ほっほっほ、コルック鳥なら儂の精霊が10羽でも20羽でも見つけてこようぞ」


 なんてこった、ロウシも自制心を無くしている!

 というかこの間から思っていたのだがこの爺さん、高齢の癖に揚げ物や肉をガッツリ食うんだよなぁ。

 ドワーフの食い意地に年齢は関係ないのか。


 「ビールは……おいガジム!お前一口残しているじゃねぇか!それを使おうぜ!」


 「やめろ!こいつは大事に飲むんだ!そういうギジムこそ残しているじゃねえか!!」


 「ほっほっほ、ならば二人の分を合わせて使えば良かろう」


 まずい、一体どうしてこうなった。

 ドワーフ達の固い絆がビア缶チキンを前に脆くも崩れ去ろうとしている状況に俺は冷や汗をかく。

 救いを求めてルルフゥを見やると、ルルフゥは天使のような笑顔で答えた。


 「セージ、おかわり!」と。


 ……嗚呼、この大騒ぎはしばらく収まりそうにない。



 ※


 「ふう、今日は良く働いたな」


 キッチンの壁にもたれながら、俺は大事に大事に取っておいたビールを啜る。

 ドワーフ達もすっかり酔い潰れ、建てたばかりのログハウスに千鳥足で引き揚げていった。

 疲れ切った俺を気遣い後片付けをほぼ一手に引き受けてくれたルルフゥも、今はすっかり夢の中だ。


 あの後は大変だったな、ロウシなんて本当にコルック鳥を捕まえてきたし。

 結局火酒を拝借してな、それで下味を付けた揚げ鳥を作ってようやく場が収まったっけ。


 「あぁ、やり切った後のビールは格別だ……。これで最後となると、名残惜しいけどな」


 残るビールはもう半分ほど。

 揚げ物なんかは作りながら摘まませてもらったが、それでもこの時間になると何となく口が寂しい。

 最後のビールはせっかくならとっておきのツマミと一緒に飲みたくなるな。

 そう、今浮かぶのは……


 「枝豆が、食いたいなぁ……」


 思わず呟く。

 居酒屋のお通しの定番、それは枝豆。

 ほのかに塩味が付いた皮を口に含んで、中の豆をぷちゅんと押し出せば嗚呼幸せ。

 プチプチパクパク食べている内にビールが進み、気が付けば両方無くなっているんだよな。


 そして冷凍枝豆も手軽で美味いが、枝から外したばかりの味は更に格別だ。

 パンパンに育ったはち切れんばかりの豆を噛めば、たちまち広がる濃厚な風味。

 茹でてよし、焼いてよし、蒸してよし。シンプルな調理方法なのに味の幅が広がるから不思議だな。


 「枝豆……」


 「メメメメ?」


 「うぉっ!って、なんだお前か」


 いつの間にか、足元にメメ公がいた。

 宴会中は姿がなかったのにいつの間に忍び込んでいたのやら。


 「惜しかったな、もっと早くに来れば美味いものがいっぱいあったんだぞ」


 しゃがんでメメ公の頭を撫でまわす。

 モフモフの感触が癒される……と思いきや、ゴチンと頭突きをされた。


 「いってぇ!お前また……って、これは!」


 ドヤ顔のメメ公が光を放ち始める。

 そしてその光が収まると、枝角からたわわに実った枝豆が揺れていた。

 そう、枝豆。産毛がしっかりした、青々とした鮮度抜群の枝豆である。


 「お、お前!まさか俺の為に生やしてくれたのか!」

 

 「ンメメ!」


 「なんて可愛い奴なんだお前は!おお、よちよちよち」


 「メッ!!!!」


 猫なで声で顔を揉んでいたら、腹に重たい頭突きを喰らった。じわじわ痛いやつだ、これ。

 メメ公は角から枝豆を揺らしながら、フンフンと鼻を鳴らしている。いいから早く食べろとでも言いたげだ。


 「分かった分かった、お言葉に甘えるとしよう。お前も食っていくよな!」


 「メ―♪」


 鍋を出して支度を始める俺の後を上機嫌で付いてくるメメ公。

 米に引き続いてまたもや謎の能力を見せたメメ公だが、こいつは植物を生み出す力でもあるのだろうか。

 色々聞いてみたかったが、今は枝豆とビールを美味しく頂くのが礼儀だろう。





 「いい夜、だな」


 「メェー」


 皿に盛りつけた茹で立ての枝豆に、暖炉の熱に当てられてちょっとだけぬるくなったビール。

 こんなビールもなかなかどうしてオツなものなのだ。

 そして枝豆の濃厚な緑のまた美味そうなこと。こんなに新鮮なら塩はほんの少しだけでいい。

 さきほどのツマミ尽くしの宴会と比べれば質素だが、これはこれで最高に贅沢な晩酌だな。

 

 「乾杯」

 

 仲間に、枝豆に、そしてこの世界に、俺は缶を傾ける。

 こうして皆が寝静まった深夜、俺とメメ公の内緒の晩酌が始まるのだった。

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