突然の来客と中華まん 後編
キッチンの窓から見える庭で、コルック鳥たちが寛いでいるのが見える。
雄が1羽に雌が2羽、ついでに孵化直前の卵が5つ。トサカが大きく茶色い羽毛が雄で、トサカが小さく白い羽毛にまだら模様が付いているのが雌だそうだ。
鶏程度のサイズのこいつらをよくもまぁこんなに連れて帰ってこれたもんだと呆れつつも感心する。
肥料の為に取り置いておいた野菜屑やデスファングの骨粉を撒いてみたところ、コルック鳥たちはクルクル鳴きながら暢気に地面を突いている。
先ほどまでは狂乱状態だったのに、今では柵もないのに逃げる様子もない。
切り替えが早いんだかおバカなんだか分からないな。
「さて、そろそろかね」
シュウシュウと音を立てる鍋の蓋を開けると、湯気がぶわっと立ち上る。
フカフカに蒸し上がっているのは、ドワーフ達の来訪前に作っていた中華まんだ。蒸籠がなくても深めの鍋の中に皿を置き、皿が浸からない程度に水を張れば代用できるのだ。
山盛りの中華まんを大皿に盛り付け、庭先に木箱を並べただけの即席の食卓に運ぶ。
そして、未だに呆気にとられたままのドワーフと目を輝かせているルルフゥの前に、ホカホカのそれをドンと置いた。
「さあ、熱いうちにどうぞ」
とは言ってもドワーフ達は戸惑いがちに顔を見合わせるばかりなので、最初に俺が食べて見せることにする。
「いただきます!」とルルフゥと声を合わせ、俺は熱々の中華まんに齧り付いた。
甘みのあるモチモチふわふわの皮の下から、味噌が香るひき肉餡が顔を出す。こっちは肉まんだな。うんうんいい出来だ。
具材はデスファングの肉に玉ねぎと山菜と至ってシンプルだが、大猪の濃厚な肉汁がスープのように溢れて最高に美味い。
玉ねぎや山菜のシャキシャキとした歯ごたえも良いアクセントになっている。
「こっちはカレーの味がする!ボク、カレーの味って大好きなんだ。
それにこれ、皮の甘さと辛い中身がぴったりですごく美味しいよ!」
ルルフゥはカレーまんを半分に割って食べながらニコニコと上機嫌だ。
カレーメンチを振舞って以来、ルルフゥはカレー味が大好物になったようで食事のたびに期待している節がある。
うんうん、喜んでもらえて何よりだ。やはりカレーはどの世界でも通用するよな。
「お、俺も頂くぞ」
「ずるいぞガジム!俺はこっちだ!」
美味そうに頬張るルルフゥの様子に我慢が出来なくなったのだろう。
ガジムが肉まんを、ギジムがカレーまんをそれぞれ手に取り、双子らしく同じタイミングで大口を開けてガブリと齧り付く。
そして同時に「美味い!」と叫んだ。
「こいつぁ驚いたな!中に肉がたっぷり詰まっていやがった!それに、ほふっ!美味いスープが溢れてたまらんな!」
「こっちはピリリと辛い味が付いた肉が入っていやがる。不思議な味のスパイスだが、こいつが後を引く美味さだ!火酒が欲しくなるぞ」
あっという間に一つ目を平らげたガジムとギジムは、次は逆の味の中華まんを口に運びやはり同時に「こいつも美味い!」と仲良く叫んだ。
こうして美味い美味いと食ってもらえるなら作った甲斐があるというものだ。
「ふむ、変わったパンに見えるが。せっかくだから馳走になるかの」
ロウシもまた肉まんに手を伸ばす。
興味深そうにひとくちサイズに千切り、ゆっくり口に運んだところで「ほう!」と目を見開いた。
「なるほど、こいつは美味だな。デスファングの肉をこの様に使うとは面白い。
それに肉に付いたこの風味……マメヒシオだな」
「マメヒシオ……?味付けに使ったのは『味噌』という調味料だが、もしかして知っているのか?」
キッチンから味噌を持ってきてロウシに見せる。
ロウシはそれを指で掬って舐めると力強く頷いた。
「そうだ、間違いなくマメヒシオじゃ。しかし、人間がこれを使うとは珍しいものよ」
「俺の故郷では毎日のように食べているぞ。ところでロウシさん、一体これをどこで知ったんだ?」
少なくともルルフゥは味噌を見たことも聞いたこともなかったそうだ。
地方や種族によって違うのだろうか。
「ふむ、儂らはマガヤ湖の採掘地から来たと言ったな。そこにはリザードマンの戦士たちが暮らす集落があってな、時折採れた鉱石と食料なんかを物々交換をしておったのじゃ。
マメヒシオは奴らがそこで作っておる調味料じゃよ。他にもミズヒシオといってな、黒い液状のものもあるのじゃが、こいつを焼いた魚にチョロリと垂らすとまた格別でのう」
「しょ、醤油まであるのか!!」
なんということだ、この異世界にも味噌と醤油が存在していたとは……!
感激のあまりに思わず涙が出そうだ。狂喜する俺の様子に皆不思議そうな顔をしているが仕方ない。
日に日に目減りする味噌にため息をつき、醤油の味に至っては夢にまで見ていたんだ。こんなに嬉しいことはない。
「それで、リザードマンと物々交換と言っていたが、それは人間の俺でも出来るのか?」
問題はそこだった。
亜人種達が人間に対して不信感を持っているのは、先ほどのロウシ達とのやり取りで身に染みて分かったからな。リザードマンだって似たようなものだろう。
取引を拒否されるだけならまだマシ、戦士の村と言うからには最悪刃を向けられる可能性だってゼロじゃない。
「そこは安心せい。儂が口利きをしてやろう。なぁに、儂は族長が卵だった頃から知っておるからのう。ほっほっほ」
ロウシが朗らかに笑う。
なんと、ロウシが俺に協力してくれるだと?ええと、という事はつまり……
「おうよ、決めたぜ領主さんよ!俺達ははあんたの領地で世話になることにする!力仕事ならこのガジム様に任せておけ!」
「細工仕事は器用なギジム様に任せな!俺たちはまだまだ現役で働けるからな!ロウシもそれでいいんだよな!」
「うむ、無論じゃ」
少し前までとは打って変わってやる気を見せ始めるガジムとギジムに、静かに微笑むロウシ。
一体どうしたんだろう。
「申し出は嬉しいが、何故急に俺を信用してくれたんだ?」
その問いに、ドワーフ達は顔を見合わせるとガッハッハと大声で笑った。
「そりゃあ、こんな美味いもんを振舞ってもらっちゃあなぁ!」
「それに聞いたことないぜ!ドワーフと食卓を囲む領主さんなんてよぉ!」
笑い転げているガジムとギジムが「そんでもって、何よりも!!」と声を合わせて指をさす。
その指し示す先には、両手にカレーまんと肉まんを持って幸せそうに頬張っているルルフゥがいた。
さっきから静かだと思っていたが、余程夢中で食べていたんだろうな。ルルフゥの前に盛られた中華まんだけ綺麗になくなっているし。
「はふっ!んえっ!?な、なに?」
急に注目が集まり目を白黒させているルルフゥを眺めながらロウシが優しく微笑む。
「ルルフゥと言ったか、人間ではないお主の健やかな様子を見ればよう分かる。
領主殿が謳う、人間と他種族が共存する村を作りたいという言葉に嘘はなかろうとな」
そうしてロウシ、それにガジムとギジムは俺に向き直る。
「領主殿、どうか我らを領民として迎えてくれるか」
「あ……ああ。ああ!喜んで!!ありがとう、三人とも!本当に心強いよ」
三人と代わる代わる、がっしりと固い握手を交わす。
節くれ立った厚い手からは、頼もしいやる気が伝わってきた。
「やったねセージ!ロウシにガジムとギジム、よろしくね!」
ルルフゥも羽耳をブンブン動かして喜んでいる。
もうこれ、耳と言うより犬の尻尾だな、なんて思ったらなんだか笑えた。
「さあ、と言う訳で今日は歓迎会だ。じゃんじゃん食べてくれ!足りない分は追加で蒸すからな」
蒸さずに残しておいた中華まんもせっかくだから大盤振る舞いだ。
この体格の男達ではそれでも足らんだろうから、これからは食事作りも色々と考えないとな。
ドワーフ達の熱気に当てられたように、俺もなんだかやる気に満ちてくる。
「ガッハッハ、なんとも働き者の領主さんじゃ。ならばそれに報いるためにも、食い終わったら俺たちも一汗かくとしようかの!」とガジム。
「まずは鳥小屋と囲いを作らねえとな!それに物置の修繕じゃ!俺達の家が出来るまで寝床にするからの、勝手に直させてもらうぞ」とギジム。
ああ、そういえば彼らの家について考えていなかった。
たった三人で家作りなんて、一体どれだけ時間がかかるのだろう。それまで小屋で寝かせるなんてあんまりだ。
夜の間は俺の家に招くとして……ああ、でもベッドが足りないぞ。
それに5人で寝るには家具を色々外に出さなくては……
「ほっほっほ、何やら考え込んでいるようじゃが心配は無用だぞ領主殿。
儂らの手にかかれば大体二日もあれば家が建つからのう」
ロウシが細い目を更に細めて笑った。
「ふ、二日?冗談だろう?」
俺の言葉に、ドワーフ達がまた声をあげて笑う。
ううむ、俺はそんなに変なことを言ったのか。いや、でも二日だぞ。
いくらドワーフがそういう仕事が得意とはいえ、さすがに無理なのではないだろうか。
「信じられぬかな?ならば我らドワーフの力、後々とくとお見せすることにしよう」
悪戯っぽく笑うロウシに、自信に満ち溢れたように頷くガジムとギジム。
一体どうやって二日で家が建つのか想像もつかないが、この様子なら期待せざるを得ない。
「と、その前に!おかわりはまだか!腹ペコなんだ!」
「おうよ、こんなにうめぇ飯を食うのは久しぶりだからな!じゃんじゃん持ってきてくれ」
「これ、少しは遠慮せんか。と、いかんぞ!この肉まんは儂のものじゃ!」
「むぐむぐ……セージ、カレーまんも追加で!次はもっと辛くてもいいよ!」
途端にやんややんやと喧しい仲間たちの声を聞きながら、キッチンに向かう俺は笑いを隠せないのであった。
ドワーフ族のロウシにガジムとギジム、新たな領民が増えたこの日の喜びは忘れられそうにない。
こうして俺達の村づくりは大きく一歩を踏み出すことになった。
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