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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第一章

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第八話 基礎性能チェック

 別世界の管理者を名乗る小太郎に背中を押され、たたらを踏むようにして扉をくぐれば、そこは一町とプレイヤーたちに呼ばれている「レクーア」。

 まさに進化の扉だと言って入っていった壁の前に戻ってきていた。



「うわっ」

「っと、大丈夫? さっき行ったばっかりなのに早かったね。

えっと……ブラット? でいいんだよね?」



 相変わらず可愛らしいキャラで、前のめりに出てきたブラットを受け止めたHIMA。

 けれど進化した姿を知らないので、確信はあったが念のためにと彼女はそう尋ねた。



「うん、ブラットだ。ちゃんと進化できたよ、HIMA」

「うんっ、うん! おめでとう! ブラット」



 ブラットよりも感極まったのか、ギュッと泣きそうな顔をしたHIMAに抱きしめられた。

 どれだけ頑張ってきたのか近くで見て、ずっと気にしてくれていた親友に対して、ブラットもそっと手をまわして抱きしめ返した。



「ありがとう……」

「頑張ったね……。ほんとうに……」

「あー二人とも? 熱々なところ申し訳ないんだけど、ここじゃあ目立つから私たちのクランホームに行かない?」

「「え?」」



 サクラの声で我に返って周囲を見渡せば、抱き締め合う女性と少年に注目が集まっていた。

 しかも少年のほうはパツパツの腰布を巻いただけの状態と、ツッコミどころ満載だ。

 急いではるるんのクラマス権限によって、彼のクラン──百家争鳴ひゃっかそうめいのホームへと直接転移して逃げた。


 百家争鳴のクランホームは大きな庭付き一軒家。本をベースにしたクランシンボルが、一番目立つところにペイントされている。

 そのクランホームの庭に四人がやってくると、サクラが改めて進化したブラットを見てその格好に苦笑した。



「格好もそうだけど、髪も伸び放題だね。あとで私が切ろうか?」

「あ、うん。ありがとう、サクラさん」

「それまではとりあえず適当に縛っとく?」

「そうしとく」



 アラクネであるサクラがスキルで出した糸を撚った紐を渡され、ブラットは適当に前髪を後ろに流し後ろで縛って視界を確保した。

 どうせ後で切るのだからと、まとまりきらなかった髪がぴょんぴょんあちこちから飛び出しているが気にしない。



「おお、イケメンだな」

「ちらちら見えてたからなんとなく分かってたけど、かなり綺麗な顔ね」

「顔立ちからして妖精かエルフ系が入ってそうだが、耳は人のものだな……。謎だ、実に興味深い。

 部位ごとに細かくスクショ撮っていいか?」

「いいよ」



 許可を取る前から撮っていただろうにという言葉は出さず、兄に撮影の許可を出す。



「う~ん、なんか見た感じ色んな種族がごちゃごちゃしてるけど、ブラットはいったいどんな進化をしたの?」

「なんか私の場合、全部乗せが選べたから片っ端から根源を混ぜてみた」

「全部乗せって、ラーメン屋さんみたいね」



 言い方が面白かったのか、サクラにクスクスと笑われた。

 けれどブラットのほうは「小春さんもラーメン屋とか行くんだ」と、そちらのほうに少し驚いたがあえて口にしない。



(よく考えれば治兄がそういう店に連れてったりとかもしそうだしね)

「というか、もっといろいろ進化のことについて詳しく話してくれ。

 私の場合? 全部乗せ? どういうことなんだ?」

「あー………………つまり~」



 とりあえず話せる範囲で、アウトになりそうな、ここにいる三人ならば小太郎や運営に対して怒ってくれそうなことはぼかしたり嘘を混ぜたりしながら、ブラットはなんとか説明をしていった。



「それじゃあブラットがこれから進化していくには、別サバのBMOのようでBMOじゃない別ワールドの方で素材集めとかしなくちゃいけないんだ」

「しかもそっちでは一回死んだら、もう二度とそこへは行けなくなると」

「そうなると進化できないってのは、ちょっとどうなのかなぁ」



 モドキの進化について回る難易度の高さに、サクラが苦言を呈す。

 今回話したのは小太郎が言っていた妄想設定をそのまま口にするのも……と考え、別サーバーに進化したモドキ専用の進化素材を集められる場所が用意されていて、これからはそちらも探索しなくてはいけない──というようなことにしておいた。


 正直未だにブラット自身消化しきれていない情報だらけなうえに、つい今しがた進化の動画とともに送られてきた追加説明や補足事項などが書かれたメッセージにも目を通していないので、語ったのもそれくらいだ。



「あ、ちなみにこれが私の進化したときの映像データね。

 好きに使っていいから──って、データ量でかっ」

「録画データがあるのか!? 助かる! おおきたきた──って、ほんとだ。

 いったいこの尺で、この画質で、なんでこれだけの容量が必要に……?」



 数分の動画データで画質もそこそこなくせに、数百ギガバイト近くあった。

 中身はだいたいあのときのブラットの光景を客観的に録画した程度だが、18禁になりそうな部分はしっかりと修正された状態に編集されていた。



「こんなに作りこんでまぁ……。

 この進化モーション、ブラットが進化しなかったら永遠にお披露目されなかったかもしれないのに。ここの運営何考えてんだろ」

「そういう趣味の人がいるのかもしれないね。どうせ誰もみないと思って、自分の趣味全開で作ったとか」

「それはありえるな」



 なかなかに生々しい映像だっただけに女性陣の反応は若干引き気味だったが、はるるんは貴重な映像だと何度も連呼しブラットに同じくらい礼を述べていた。


 それからもいくつか質問されていったことには、できるだけ正直に語っていき、はるるんの興味は次へと進んでいく。



「それじゃあ、そろそろその体のスペックについていろいろと調べていこう!

 どうみても根源の多さはピカイチだし、なにか他とは違う不思議能力が隠れているかもしれない」

「うきうきだなぁ。うちのクラマスは」

「あなたの彼氏ですよ。もう少し抑えさせてくれませんか、ちょっと恐い……」

「それをいうならブラットくんのお兄ちゃんよ? がんばって!」

「おふ……」

「ブラット的にも知っておいて損はないし、私も手伝うから。一緒にがんばろ」

「うぅ……、HIMA~」

「おーよしよし」



 優しい言葉を投げかけてくれる親友に抱き着き心を静めてから、さっそくギラギラした目を向けてくる兄に見守られながら能力調査に乗り出していった。


 まずは基本能力から。

 このゲームでプレイヤーが確認できるステータスは基本的に──、

 『種族Lv(レベル)』『職業Lv』

 『EXP(経験値)』

 『HP(ヒットポイント)』

 『MP(マジックポイント)』

 『ST(スタミナ)』

 『HUN(空腹値)』の6要素に加え、


 『ATK(攻撃力)』

 『DEF(防御力)』

 『MAT(魔法攻撃力)』

 『MDF(魔法防御力)』

 『AGI(素早さ)』

 『TEC(技術力)』

 『RES(状態異常耐性)』

 ──となっている。


 この中で『Lv』と『EXP』のみ、正確な数値として確認することが可能。

 けれどそれ以外の『HP』から『RES』までのステータスは数値として表示されず、基本的にA~Fで評価されている。

 (※ただしHP、MP、ST、HUNは棒ゲージで全体の今の割合を確認することは可能)

 

 それらはその種族にとっての今の評価であり、他の種族のA評価と自分の種族のA評価では、同じATKなどでも実際の強さに違いがある。

 力自慢のキャラの物理攻撃力のA評価は全プレイヤーから見てもA評価相当だが、非力な魔法キャラの物理攻撃力のA評価では全体から見たらC評価以下──のようなイメージだろうか。


 また自分自身のステータスであっても、ATKのA評価とMATのA評価では同じ強さというわけではなく、やはりその種にとってそこまでできればその評価という意味なのだ。


 あくまで自分の仮想体にとっての査定であり、鍛えることによってどんな種でもF評価の能力であってもA評価に底上げできる。

 なのでオールA評価にすることも、無理ではない。

 ただ初期値でF評価ということは、その種が最も苦手とする分野ともいえる。それをA評価にするには、それなりの努力を要求されてしまう。


 また番外としてSとZ評価も存在して、Sは本来その種にとって最高値であるAを超えた評価、Zは本来その種にとって最低値であるFを下回った評価を意味している。

 これらは自然になることはまずなく、自分で意図してやらなければお目にかかれない評価でもある。

 しかしS評価もZ評価も何らかの進化条件になっていたりもするので、積極的に目指すプレイヤーも多い。


 余談だが進化前のひ弱なブラットの能力表は最初からオールA評価。

 見た目的には壮観だったが、君にはなんの成長の余地もないよという意味なので逆にむなしくなる評価だった。


 そして注目の〝今〟のブラットのステータス評価は──。

 『種族Lv.1』、『EXP.0』

 『HP:C』『MP:C』『ST:C』『HUN:C』

 『ATK:C』『DEF:C』『MAT:C』『MDF:C』

 『AGI:C』『TEC:C』『RES:C』

 ──と、見事にオールC評価となっていた。

 職業レベルはまだ何も取得していないので、そもそも表示すらされていない。



「こんなの見たことないな……。全てにおいて苦手も得意もなく、高水準でまとまっていると考えればいいのか」

「みんな何かしら苦手はあるはずなんだけど、ブラットのは生まれながらにして特別製って感じだね」



 テストでC評価は嬉しくないが、BMOの初期評価でCは通常得意分野に表記されていると考えられている。

 例えばゴリゴリの前衛アッタカータイプに向いている種であれば、最初からATKのみが『C』評価、それ以外は『D』評価以下──となっていることが多い。



「そのC評価に、どの程度の能力が秘められているかでも変わってきそうね。

 C評価なのにこれ?って強さじゃ意味ないから。

 とはいえ、見た感じその心配はなさそうだけど」

「自分で言うのもなんだけど、この体、一次進化にしてはかなりいい性能してると思うよ。

 HIMA、ちょうどいいから手合わせしてもらえる?」

「うん、いいけど……その格好で?」

「私も、はたから見てて腰布が取れそうでハラハラするかな。

 壊しちゃってもいい服を貸そうか? ブラットくん」

「あー……お願いします」



 着るものと言えば、服飾系生産職の上位プレイヤーでもあるサクラが専門だ。

 すぐにクランホームの自室に走っていき、彼女にとっては何の価値もない衣服を持ってきてくれた。


 上はTシャツ、下はハーフパンツ。体育の授業でよく見るスタイルだ。架空の校章らしきロゴまで入っていて芸が細かい。

 どちらもサクラが初期の頃に練習で作ったもので、同じものがまだ何着もあるから気にせず使ってくれと複数枚渡してくれた。



「進化の情報とかも約束通り教えて貰っちゃったし、後でちゃんとブラットくん専用のも作ってあげるからね」

「ありがとう! サクラさん」



 本来なら羽が邪魔になるが、既に渡されたもの全てにスリットが入っており、すぐにでも着れるようになっていた。

 ブラットはお礼を言いながら、さっそくそれらを着こんでいった。



「よし。これで準備オッケー。いくよ、HIMA」

「いつでもどうぞ、ブラット」



 ブラットは本気の構えだが、HIMAは自然体で立ったまま。

 しかしそれが今の実力差。片や職業すら取っていない進化したてのヒヨッコと、最前線を行く前衛プレイヤーなのだから。

 ブラットも胸を借りる気で狼の獣足に力を込めて突撃する。



「──っわ!?」



 一番驚いたのは自分自身。走り出そうと地面を蹴っただけなのに、ぴょーんとたった一歩で距離がゼロになる。



「おっと」



 けれどHIMAは冷静に体をずらして、突進ともいえるブラットをひらりと躱す。



「こなくそっ!」

「おお~いいね~」



 負けじとブラットも対応し、蹴り出した右足とは逆の足で地面を蹴って即反転。と同時に右足での鮮やかな後ろ回し蹴り。

 ブンっとHIMAの側頭部に向かってかかとが向かうも、これもあっさり軽くしゃがんで避けられ頭の上を勢いのまま通り抜けてしまう。



「ふんがー!」

「わおっ」



 しかしそれも予想していたとばかりに、今度は翼をはためかせて種族スキル【飛行】での強引な着地。

 着地した衝撃で曲がった膝を伸ばすように、反動をつけて右手でアッパーをかます。

 これには少し驚いたような顔をされるが、後ろに顎を引いて避けられてしまう。



「でりゃあ!」

「なんのなんのー」



 だがどうせそうなるだろうとアッパーの際に体にひねりを加えており、その回転のままに今度は左足による後ろ回し蹴り。

 顎を引いたときに視線を外していたはずなのに、HIMAは読んでいたとばかりに後ろに下がってそれも躱した。

 ブラット……というよりも色葉の考えそうなことは、長い付き合いの中で予想できてしまうのだ。


 その後もブラットの攻撃をじゃれ付く子犬を相手にするように、HIMAがいなしていく光景が続いていく。

 そしてそれを見守る二人の視線。



「ねぇ、はるるん。あれ、どう見ても職業を何も取ってない一次進化したての子の動きじゃないよね……」

「もともとブラット自身のプレイヤースキルは、モドキの幼年期で磨きに磨かれていたんだ。

 あの体のスペックの高さもあるだろうが、それに即応する勘の良さもあってこその動きだろう。 

 あいつもう、あの体を使いこなしてやがる」

「モドキを進化させるだけの実力があったんだもん、それも当然かぁ。

 それで? 百家争鳴のクラマスとしての、あの種に対しての評価はどんな感じ?」

「中身のやつの能力値を度外視しても、一次進化の中では超が付くほどの規格外だな。

 王族種のプレイヤーになら、三次進化相手でも今の状態で勝てるだろう」

「一次進化っていえば、まだまだ子供って扱いなのにねぇ。

 二次、三次と進化していったら今までの遅れなんて吹き飛ばして、先に行ってるプレイヤーたちをバクバク食べちゃいそう」

「この先の進化でどうなるかはまだ分からないが、現状を見ればそれも充分あり得るだろうな」



 最高の技術を持った中身に、ようやく外身も追いついてきたと言っていい。

 この先、進化が止まらなければ間違いなく上位陣に食らいつき、食い破る姿がぼんやりと二人には想像できた。


 やがてブラット側のSTが切れかけてきたので組手は終わり。

 結局一撃も当てられなかったことを悔しがっているようだが、最前線をゆくHIMAの実力はそんなに甘くもないのだ。

 むしろそんな相手に向かってこれだけの時間、全力のパフォーマンスを維持できたスタミナ量にはるるんたちは驚愕していた。

 一次進化したての状態ともなれば、選別された劣等種の進化種であってもここまでSTが持つわけがないからだ。



「悔しいけど、このゲームでこんなに思い通りに体が動いたの初めて!

 戦うのってチョー楽しい!!」

「だよね! 一対一のPVPとかもいいけど、うじゃうじゃいる敵に突っ込んで殲滅するのも最高に楽しいよ! いつかやってみて!」

「絶対やる! ばしばし殺す! どしどし殺す!」

「花の女子高生たちの会話じゃねーなぁ……」

「こらこら、ここでリアルの話はしないしない」

「おっと、なまじ中身を知ってるだけについな」



 仮想の体を見ているものの、どうしても中の人物たちを重ねてしまうはるるんこと、治樹なのであった。

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