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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第三章

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第七六話 ルサルカの情報収集

 変態ダコ戦での拾得物の確認も終わり、残しておく必要のない換金アイテムなどを売ったり、役場の確認など情報収集もしたりと町でいろいろと作業をしていたら、ブラットたちの今日のプレイ時間も終わりが近づいてきていた。



「ちょうどポータルの島にいるし、今日はこの辺にしておくか?」

「なら明日は学校お休みだし、朝からやっちゃう?」

「普段早起きとか苦手だけど、このゲームのためなら頑張って起きるよ」



 しゃちたんも含め、全員やる気に満ち溢れていた。

 明日は朝から三人で揃ってイベントを進めることにし、そのまま解散……する前に、最後に船楽器を鳴らしてみようという話になった。

 船楽器は船の記憶によって音が変わっていくという。ならばあれほど乱暴な使い方をしたのだから、少しくらいは変わっているかもしれないと思ったのだ。



「それじゃあ、押すよー」



 HIMAが船楽器のペダルを出して踏みつける。すると──ぼこぼこっと何かが泡立つような音がするだけ。

 あのモンスターの鳴き声のような音を奏でることはない。



「えーと、もしかして壊れた……のか? マニュアルには、ちゃんと直るって書いてあったのに……」

「えーーっ!?」

「ちょっと見てみよ」



 三人で船首の縁に立って船楽器の場所まで登って点検してみれば、変態ダコに突き刺した角──笛のようになっている穴の中に、粘液のようなものが入り込んで空気が上手く吸えないようになってしまっていた。



「これ、どうみても変態ダコの粘液だね……」

「死んだときに体が消えるならこっちも消えてよ、もー!」



 船楽器自体の破損は船の修復機能で綺麗に直せたが、中に入ってしまった異物まではどうにもできなかったようだ。



「これは、どうにかしないとダメっぽいな。水を流せば落とせるか?」

「でもそうすると今度は和琴みたいな根本の部分に入っちゃって、もっとよくわからないことになるかもしれないよ?」

「付いてる場所的に水が入るのはいいんだろうけど、このドロドロが入っちゃうとどうなるかわかんないもんね……。どうすればいいんだろ」

「うーん……ならもう素人判断しないで、船の専門家にみせてみよう。

 【リミナル・ウェッジ】のクールタイムは、とっくの昔に回復してるしさ」



 船楽器も船の一部なら、船大工の親方に見せれば解決するのではないか。

 そんな提案に二人も乗って、この場所に紫の楔を打ち込むと、さっそく犬獣人の親方こと『ゴンド』のいる港町へと緑の楔を選択して船ごと転移した。


 着くなり取る物も取り敢えず船を直ぐさま駆け下り、ゴンドを探してみてもらう。



「船楽器か、また面白いもんを付けたな。んじゃあ、とりあえずみてみるか」

「頼む」「おねがいします」「おねがーい!」



 ゴンドは身軽に船楽器のところまで登って、中に入り込んでいる粘液の存在を見て、楽器の構造を確認して降りて来る。



「おう、こりゃあしっかり洗浄する必要があるな」

「そうすれば直るのか?」

「ああん? 誰に言ってんだ。船の事なら俺に任せときな。完璧に戻してやる。

 ただ船楽器は繊細だ、ちと時間がかかるがいいか?」

「ええ、大丈夫です。しばらく私たちも用事で乗れないので」



 用事というのは単にログアウトするというだけなのだが、HIMAは世界観を大事にするためそう答えた。



「なら問題ないな。あとはそうだな、近代化も次の段階ができるようになってるが、そっちもやっておくか」

「お金ならまたたくさん手に入ったから、やっちゃっていいよ! おっちゃん」

「羽振りがよさそうで何よりだ。んじゃあ、そっちもやっておくか。

 他には何か、やっておいてほしいことはあるか?」

「そうだな……」



 今なら変態ダコのおかげで、贅沢すぎるほどにお金を使うことができる。

 せっかくだから他にも何か手を加えられないかと、改修項目のメニュー表のようなものを見ながら三人で話し合い、親方の意見も聞きながら追加でいくつかオプションを付けておくことにした。

 洗浄代よりオプションの方が、むしろ高くついてしまうが今のブラットたちは強気に注文する。



「じゃあ、そっちの用事とやらを片付けて来い。その間に全部完璧に仕上げといてやるからよ」



 力強い親方の言葉にお礼を言いながら別れ、少し街中の広場でおしゃべりをしてから、その日のイベントを終えた。

 この日は同盟も大して話すことが皆なかったので、そちらで情報共有することもなかった。


 それからブラットはいつものように、イベントマップから出た後に炎獅子と戦うのを忘れずにこなしながら。




 イベント五日目。今日は学校もなく朝ご飯を食べてすぐログインしたため、いつもより長く遊ぶことができる日だ。

 昨日ログアウトしてから、イベントマップの時間軸では既に数日が過ぎている。

 さすがにゴンドの改修作業も終わっているだろうと、船のある場所に向かうと案の定、いつものように親方が船の側で待っていた。



「おう、来たか! こっちはもう終わってるぜ」

「おおぉ……、迫力あるな」

「めっちゃ強そうじゃん!」

「けっこう外見も変わりますね」

「そりゃあな。あんなでかいもんつけりゃ、見た目も変わるってもんよ」



 三人とゴンドの視線の先にあるのは、今回のオプションとして付けてもらった、小型船用の主砲。

 船室の扉から少し先──上から見ると中央より少し手前側の甲板に、昨日入手した【魔力充填式銃塔】など目じゃないほど大きな砲台から飛び出す砲身が、デカデカと設置されていた。

 小型船用の主砲ということで小さい方だが、それでもタレットとは比べ物にならない威力を有している。

 その代わり、このサイズでもブラットたちにとっては一発すら気軽に撃てるような代物でもないのだが。


 プレイヤー単体の火力の貧弱さを補うためにと頼んだもので、今回は依頼料の半分以上の額をこれ一つが占めてしまっていた。

 けれど実物を目にしたときの迫力をみれば、それは間違っていなかったと思わせてくれる。



「船楽器の方も直ったぞ。あー…………試しに鳴らしてみな」

「うん?」



 なんだか含みのある言い方にブラットはもちろん、HIMAもしゃちたんも首を傾げるが、とりあえずゴンドと一緒に船に上って船楽器の演奏ペダルのある場所へと向かう。

 主砲を付けたこともあって手狭になった甲板を抜け、演奏ペダルを出して一番左側の低音部分を踏んでみた。


 ──ボギィヤャァゴルルルウウゥウゥウオオオオォオオーーッ!!



「「「……………………え?」」」

「その……なんつーか。これは俺のせいじゃねーぞ? お前たちの行動を見た、この船の鳴き方がこれってだけなんだからな。

 にしても……、ここまでおどろおどろしい音は俺の船大工人生でも聞いたことはなかったが」



 元から大型モンスターの鳴き声のような音色だったのだが、変態ダコ戦を終え、詰まりも綺麗に洗浄しただけであら不思議。

 荒れ狂う……と言えばいいのか、キレ散らかしているとでも言えばいいのか……、触れるもの全てを壊していきそうな暴力性をこれでもかと煮詰めたようなものに早変わりだ。


 恐る恐る他の四つのペダルを左から順に押していくが、そのどれもが「ジギュリュゥウルゥァアアアー!」だの「ポギュゥイィアアアァァーー!」「シギュヤァアアアアーーー!」「キィィィィイイイイーーー!」だのと、全てが荒れ狂った音色になっていた。



「これもしかして、私たちが乱暴に使ったから怒っちゃった……とかない?」



 しゃちたんの言葉に、さすがにそれは……とは言えずに言葉を詰まらせる二人であったが、それはゴンドによって否定される。



「それは、ねーだろうな。船ってのは言ってみれば道具だ。

 だから使われねーくらいなら、どんなに粗雑だろうが使ってもらったほうがいいに決まってる。

 だが粗雑に扱えば船楽器の音色はひねていく。こんな強い音じゃなくて、もっと卑屈っぽい音色にな」

「じゃあ少なくともオレたちの船は怒っているわけでも、拗ねたり不満を感じているわけじゃないってことか?」

「だろうな。この音色を聞く限りじゃあ、戦意の目覚めってところなのかもしれないな。

 聞けば前の大きな戦いじゃあ、こいつも一緒に戦ったんだろ?

 ならこいつもお前たちと共に戦う存在なんだと、自分の事を認識したんだろうさ。

 今思えば、だからだろうな。俺が主砲を取り付けるとき、妙にコアに根付きやすかった気がしたのは」

「私たちと共に戦う存在……ですか。確かに今の私たちと船は、そんな関係なのかもしれませんね」



 HIMAはそう言って微笑みながら、そっと船の縁に触れて撫でていく。



「なんかそう言われると、この音色も頼もしく感じてきたかも!」

「主砲も付いたことだし、これからもよろしくな」

「まぁでも……、私たちはこれで融和を目指すつもりなんだけどね」

「あー……」「おふ……」



 なんだかいい空気になってきたところで、HIMAの一言に現実に戻される。

 この音色はどう考えても仲良くしましょうと言うより、かちこみに来たぞとしか思えない音色だ。

 「波乱に満ちた旅路の音を好んでいるように思う」と六合の宮の仏像さまは言っていたが、果たしてこれが当てはまるかは疑問が残るところ。



「まあ、とにかく直ったんだしよしとしよう。

 親方、ありがとう。これが今回の料金だ。受け取ってくれ」

「おう、またなんかあったらすぐに俺のとこに来な」

「そーいえば、おっちゃん。この前言ってた違和感?とかいうのは、まだあった?」

「ああ? あー、あれな。前と変わらずしっかりあったな。

 とはいえ船自体に影響のあるもんじゃねーから、俺にはそれ以上わからん」



 ザラタンのカギだったとするなら、時間が進めばコアに馴染んで違和感もなくなるかとも思っていたが、そうでもないようだ。


 直ったことも確認でき、料金の受け渡しも終わり、ゴンドは別れの挨拶を告げ船から降りて行き、三人はその背に手を振りながら礼を言って別れた。



「じゃあ、軽く他のところも確認していこう」



 今回は主砲の取り付けに、いろいろと持ち帰りたいものが増えたこともあり、さらに収納量の増強。

 あとは三回目の近代化で付けられるようになった、探知機の取り付け。外付け装備の内部接続化である。


 内装はそれほど変わっていないが、船室や操舵室の外側の材質がより上質なものになり、敵に乗り込まれてもある程度立てこもれるくらいの強度を手に入れた。


 三度目の近代化を行ったことで簡素な探知はできるようになっていたが、それにちゃんとした探知機を付けることで、より精確に長距離の敵船や敵モンスターの捕捉が可能になった。

 探知機は奮発してグレードの高いものを取り付けたので、その精度と情報量は高く、操舵室にあったマップと連動し設定した危険度に応じて警告音を鳴らすこともできる。


 さらに外付け装備──【魔力充填式銃塔】を船のコアと内部的に繋いでもらったことで、探知機と連動しオートタレットのように、設定すれば自動で充填した分が尽きるまで敵に向かって発砲してくれるようにもなった。

 自動運転も探知機のおかげで精度が上がり、設定した危険度に応じて敵船にばれない経路を進むこともできる。



「運転はもう趣味みたいなもんだから、あんまり使わないだろーけどね」

「でも三人とも甲板に出ているときでも、いざとなったら自動運転で操作できるのはいいよね」

「今回の近代化で音声での指示が、もっと細かくできるようになったしな」



 アクションは手動でのボタン操作が求められるが、それ以外は手放しでもそれなりに運転を任さられるようになったのは大きいだろう。

 なにせブラットたちは三人で船を回しているのだから、どうしても運転以外に手が欲しいということも何度かあったのだ。


 船の確認を軽く済ませ、近代化でまた向上した挙動も三人それぞれ運転して慣らしてから、【リミナル・ウェッジ】の紫の楔を選んで昨日まで進めたところへ戻っていった。




 昨日は変態ダコ戦で時間を取られてしまったが今日はそういうこともなく、軽く狩りやリーサル海賊団などの強敵が来たときは遠回り──なんてことをしながらも、ルサルカの座標付近まで順調に行くことができた。



「他のプレイヤーの船が、けっこう増えてきたね」

「ザラタンのときみたいに、ルサルカイベントをしに来た人たちだろうな」

「ってことは、やっぱここで間違いないみたいだね。

 とりあえず、この近くでポータルのある場所を探してみよーよ」



 いきなり行く前に、近くの町で最後に情報収集はしておきたい。

 ブラットたちはプレイヤーたちの多くが向かっている方角にはまだ進まず、目的地を中心にぐるっと回るように船を動かした。


 すると少し行ったところに、ちょうどポータルの島を発見。

 ブラットたちと似たような考えで来ているプレイヤーが多いのか、それなりに混み合っているが船が停められないほどではなかった。


 タラップを下ろし町のポータルの方へ向かっていると、前の方から見知った顔ぶれのパーティがやってくるのが視界に入る。



「あれ? Zooooo!のメンバーじゃないか」

「あー! Ash redじゃーん。奇遇だねー」



 相変わらずのメイド服を着たカンガルーのルールゥが、ブラットの声に反応して近寄ってきた。



「そっちは、もうルサルカに挑戦?」

「その前に、できるだけ情報を集めていくつもりだけどな。そっちは?」

「私たちは今、おつかいイベント中だよ。

 報酬で昔使ってた【リミナル・ウェッジ】をくれるっていうNPCがいたから、この辺の島を昨日からずっと転々と動いてるの。

 すんごいめんどくさい内容だけど、やれば確実に手に入れられるっぽいから頑張ってるとこ」

「そうなのか。手に入れたら今度はオレたちがザラタンのほうに楔を挿しにいくから、今度会ったときにでも言ってくれ」

「うん、そのときはお願ーい。あ、ルサルカの情報が欲しいなら、町の商店街の奥の方にある薬屋さんのおばあさんに薬草を持っていくと、いい情報が聞けるかもしれないよ」

「そうなのか、行ってみるよ。じゃあ一方的に貰うだけなのはあれだし、こっちも一つ情報を出そう。

 陽光と月影の祠で手に入れられる楽器を、そのままルサルカに使うのは確定で殺されるから気を付けてくれ」

「え? ……それって、もしかして六合の宮に行くっていう流れのやつ?」

「ああ、よく知ってるな──って、もしかしてその薬屋さんで手に入る情報っていうのが……?」

「……うん。殺されるとまでは言ってなかったけど、それよりもっといい楽器がもらえるから、そっちにしておけって言われたんだ。ちぇ~、なんだもう知ってたのか~」

「オレたちの場合はお助けキャラというかなんというか、たまたま漂流しているところを助けたNPCが教えてくれたんだ」



 もしあそこでコンスタンティンが教えてくれなかったら知らずにここまで来て、また六合の宮へと引き返す羽目になっていたようだ。



「なんだぁ。それなら、もう行かなくていいかもね。ごめん、無駄足踏ませちゃうとこだったかも」

「いや、それでも念のため行ってみるから気にしないでくれ」



 その老婆でなくとも六合の宮イベントを済ませたことで解放される会話イベントも、どこかに転がっている可能性は高い。

 なんといってもここは、用意されたようにルサルカにかなり近い場所にある島なのだから。



「そっか、ならよかった。あ、じゃあ、この情報は知ってる?

 この島からずっと北東の方角に行くと、巨大ポータルのある島があるよ」

「それは知らなかった。じゃあこっちからも一つ助言を、祠の地蔵にお布施を出すときはケチらないほうがいいぞ。

 そうすると頼めば楽器にシンボルを刻んでくれるから」

「ああ、そうなんだ。おばあさんもシンボルがどうのこうの言ってたけど、条件までは知らないみたいで言ってくれなかったんだよね。助かったよ~。

 それじゃあ、私らはもう行くね。お使いが、まだたくさん残ってるから」

「ああ、それじゃあまた。そっちも頑張ってくれ」

「うん、そっちも頑張って~」



 Zooooo!の面々と手を振り別れ、ポータルを解放したブラットたちは早速、薬草を持って商店街の奥にある薬屋の老婆を探した。

 薬屋は本当によく見ないとわからないような、嫌らしい配置に隠れるようにひっそりと建っているさびれた店構え。

 けれどちゃんと店はやっているようで、店内に入るとすぐカウンターの後ろで座っていた老婆と目が合った。



「「「こんにちはー」」」

「おや、こんにちは。何かご入用かい、坊やたち」

「薬草を持ってきたんだけど、これでおばあさんの知ってるルサルカの情報を教えてくれないか?」

「ルサルカだって!? まさか、あんたたち行く気なのかい?

 死ぬかもしれないんだよ、悪いことは言わん。やめておいたほうがええ」

「いや、オレたちはもう行くって決めてるんだ。だから頼む」



 老婆はブラットからHIMA、しゃちたんと視線を動かし全員が行く気だと悟り、深くため息をついた。



「…………そうかい。自分たちで決めたのならしょうがないねぇ……。わかった、わしが知ってる話をしようじゃないか。

 お前さんらは、陽光の祠と月影の祠は知っておるかね?」

「ああ、どっちも知ってるし、その後に六合の宮で船楽器を付けてもらった」

「おやおや、よー知っておるの。なら別の……そうじゃな、わしがその昔ルサルカに出会い、その上で生き延びたときの話をしてやろうか。どうじゃ?」

「「「ぜひ!」」」



 まさにブラットたちが欲しい情報。六合の宮イベントを済ませたことで、この老婆の会話イベントが先に進んだのだ。



「ふぉっふぉっふぉ、そうかそうか。じゃあ、それを話そうかね。

 その昔、旦那と他の仲間たちと一緒に船で冒険をしていてね。わしは、そこで船医をしておった──」



 ドレーク冒険記の真似まねをして陽光の祠と月影の祠に行き、その後たまたま見つけた六合の宮で船楽器を手に入れることができた老婆──『リンダ』たち一行。

 より格の高そうな仏像からの楽器とあって、これは間違いないとリンダたちは意気揚々とルサルカがいると言われている海域へと向かう。


 ルサルカの海域に近づいていくと、微かだがそれはそれは美しい歌声が海風に乗って聞こえてくる。



「ここまでなら、まだ誰でも引き返せる。

 もしも無理だと思ったのなら、この時点で引き返すんじゃぞ?」

「ああ、わかった」



 歌声が微かに聞こえたところで船楽器を鳴らしながら進めば、しばらくは何ともなく行けた。

 しかしずっと同じ音を鳴らしていたせいか、徐々に大きくなってくる歌声と共に眠気がやってくる。

 これはまずいと慌てて、隣のペダルを踏んで音を変えると眠気が嘘のように吹き飛んだという。



「陽光の祠の石琴や月影の石笛の場合は、眠くなったら変えると言った感じでな、交互に音を鳴らしとったみたいじゃな。

 なんでもその場合は変える瞬間を上手くやらないと、そのまま眠らされちまうみたいで命がけじゃったとか。

 けんどもわしらの場合は、眠気が来たら別のペダルを踏むだけでええ。楽なもんじゃったよ」



 今となってはルサルカの逆鱗に触れるだけの琴と龍笛も、昔はそのように使われていたようだ。

 ブラットたちにはあまり関係のないことなので聞き流し、眠気が来たらペダルを踏みかえる、同じ音同士を交互に繰り返すのではなく、全部を順番に踏んでいく方がいいだろうという、重要な部分はしっかりとメモしていく。



「けんども、そうやって五つの音を順番に鳴らして進んでいくだけで、いいというわけじゃあないぞ?

 気まぐれのようにそれでも眠気がやって来るもんだから、船楽器の音は維持しつつ慌てて船のあちこちや鍋を叩いて、何でもいいから音を立てる必要があった。

 思えばあれは慌てふためく、わしらを楽しんでおったのかもしれんの」

「性格悪いな……」

「坊や、それを本人の前で言ったら一瞬で殺されるぞ? それを態度に出してもじゃ。わかったな?」

「あ、ああ」



 あまりの剣幕に、ブラットは一歩後ずさりながら老婆に頷き返す。



「そうやって音を絶やさず進んでいくと、ようやくルサルカと会うことができる。

 そしてここで一番、気を付けなければならないことがある。なんだかわかるかい? 坊や」

「えっと……敵意を持たないとかか?」

「そんなものは気を付ける気を付けない以前の絶対条件じゃ。

 そこのお嬢さんや、スライムの嬢ちゃんはわかるかえ?」

「いえ、わからないです」

「うーん……、ちょっとわかんないなぁ」



 やれやれと言いたげに老婆は肩をすくめ、じっと三人の目を順に見つめながら、最後にグッと力を込めて睨みつけるようブラットだけを視線で射抜いた。



「すけべぇな心を抱いてはならんのじゃ!」

「「「…………はい?」」」

「じゃーかーらー、すけべぇな心をルサルカに対して持ってはならんと言っておるんじゃ!」



 ルサルカはそれはそれは美しい容姿をしており、足は人魚と同じく魚の状態だが上半身は大胆なビキニ一枚着ているだけ。

 おへそが丸だしな引き締まった滑らかなウエスト部分だけでも魅力的だと言うのに、ビキニの薄布の奥には、こぼれんばかりに豊満な胸がギュッと押し込められているという。

 正常な男性ならば、スケベな心を持ってしまっても責められない誘惑がそこに潜んでいるのだ。



「実際にわしと一緒に船に乗っておった男どもは、わしの旦那以外、皆すけべぇな心を抱いてしまってな。

 それはそれは嫌らしい、すけべぇな顔をしながら殺されていったわい……」

「い、嫌すぎる……」



 特殊な性癖を持っていない男性プレイヤー専用の罠じゃないかと、ブラットは既に犠牲者が出ていそうな他の男性たちに心の中で合掌した。



「じゃろう。坊や、おぬしも小さいが男には変わりない。ルサルカを見ても、すけべぇな気持ちを持ってはならんぞ」

「いやまぁ……、それについては心配ご無用というかなんというか……うん、任せてくれ」



 なんと言ってもブラットの中身は本物の女子高生。リアルに戻れば自分にもついている乳房に興奮することはない。

 それで興奮するのなら、零世界でアデルに抱っこされているときなど気が気ではいられなかっただろう。


 しゃちたんはそりゃそうだろうとブラットの返答を耳にしながら、「むしろこっちの方が危なくね?」とHIMAのほうに視線を向ける。



「その目は何かな? しゃちたん」

「いや、その……大丈夫かなって」

「大丈夫に決まってるでしょ。女なら誰でもいいとでも? そんなわけないじゃない。

 私が興奮するのは色葉の胸だけだから安心して」



 最高にさわやかな笑顔で、そんなことを言い切られてしまう。

 しゃちたんはげんなりしながら、スライムボディをぷしゅんと少し小さくした。



「それはそれでどうなん……? まあ、イベント的に問題ないなら私はいいけどさぁ」

「ルサルカだろうがなんだろうが、色葉の胸に敵う人なんていないんだから」

「はいはい、ソーデスネー」



 後ろの方でコソコソとそんなやり取りが行われているとは露知らず、ブラットはふと気になったことを老婆に聞いていた。



「でも他の男の人たちは死んじゃったってのに、おばあさんの旦那さんは平気だったんだな」

「当たり前さね。なんてったって、あの人はあの頃から、わしにべた惚れじゃったからの」

「ははっ、そうなのか」

「そうじゃよ」



 そう言って惚気のろけながら嬉しそうに笑う老婆を、ブラットは微笑まし気に見守った。


 余談だが一五歳以下のプレイヤーがルサルカに会いに行くと、ビキニではなく普通の上着になっている。

 それを後で知った中学生男子たちが、たとえそこで死んでいたとしても──と悔しがったりしたとかしないとか……。

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[一言] 殺しの基準が低すぎで共存できない、面倒くさ過ぎる
[一言] デスして欲求不満がパーティーメンバーにバレるの大分生き地獄で草 もう二度と女性とパーティー組めないねぇ
[一言] 同級生女子から大批判食らう事もセットと思っていいかと<悔しがる中学男子
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