第六九話 次の目的
しばらく寝転んでいる間に復旧したコアに資材を投入し、すぐにボロボロとなった船を修復していく。
「また資材も集めないとな」
「船を強化すればするほど、こうなったときの修復に必要な量が恐ろしいことになってくるからね」
「今回ので私らの船も、またカツカツに逆戻りかぁ」
「でもしゃちたん。ただ逆戻りしたわけじゃないだろ」
「それにお金だって今はたくさんあるよ」
「まあね~」
ザラタンのイベント領域付近にいる他のプレイヤーには盾代わり……というわけではないが、警報装置兼護衛になってもらい、三人は船室に行って蒼く輝くカギを取りに行って。
それは宝飾品として飾っておくだけでも見栄えのする、なかなかのお宝に見える。
「うーん、でもこれなんなん? 綺麗だねーで終わったら、マジで困るんですけど」
「それはさすがにないだろ。ザラタンから盗ったカギがただの鑑賞品じゃ、プレイヤー全員怒るだろ」
「ってわけで、これの出番だね。ディテールド・アナライザ~」
「「お~~」」
金縁のレンズを掲げるHIMAに、ブラットとしゃちたんはノリよく拍手する。
このカギはアイテムスロットに入れることもできないので、アイテム説明を見ることもできない。
そこで、このアイテムの【詳細解析】で見てみようというわけである。
HIMAがカギにレンズを向けて、三人で頬を合わせ覗き込む。
【蒼輝の鍵】──隠されし島に渡るために必要なカギの一つ。シップコアの資材として消費することで効果を発揮する。
消費することで、スペシャルアクション『収束波動砲』を追加。
カギの効果範囲内にて特定の魔法で隠されているものを、【ディテールド・アナライザー】と併用することで見破れる、または見ることができるようになる。
「スペシャルアクション、収束波動砲……? なんか字面だけ見ても、めちゃくちゃ強そうなんだが」
「なにそれめっちゃ撃ってみたい!」
「でもスペシャルって言うくらいだから、そんなにポンポン使えそうな感じじゃないと思うけどね。
あとは魔法で隠されてる~とかって、もしかしてドレークの手記の空欄とかでも使えないかな?」
「それもあるかもしれないし、他でも使えるかもしれない。
とりあえずシップコアに入れなきゃ使えないみたいだし、さっそく入れちゃおうか」
「「うん」」
ただ飾っていてもしょうがない。ブラットたちは迷わず苦労して手に入れたカギを、自分たちの船のシップコアに入れて、資材を消費するときと同様の方法で使用した。
するとコアのある方から──ブォォォンという音が響き渡り、青色の光が船を通り抜けて直ぐに消えていく。
《スペシャルアクション『収束波動砲』が追加されました》
「ほんとに覚えたな。どんな仕様になってるんだろ」
「さっそくマニュアルに追加されてるね」
「見てみよ!」
『収束波動砲』。本イベント中たった一度だけ使える、ザラタンの破壊光線と同等の威力と範囲を持った極大砲撃。
その一撃はザラタンの分厚い甲羅すら貫通し、その体に風穴を開けることもできる。
ただし強力がゆえに、これの通った先には何も残らない。
「威力がヤバそうだけど、一回しか使えないのか。使いどころが難しそうだ」
「でもエリクサー症候群にならないようにしたいところだね」
「えりくさー症候群? なにそれ?」
「貴重なアイテムを使わず溜めこんで、そのままゲームをクリアしちゃうような人のことだな」
「いわゆる、もったいない病だね」
「あー、ちょっとわかるかも。でもこれさえあれば、ザラタン倒せるのかな?」
「頭か心臓を撃ち抜ければいけそうだけど、今のところわざわざこれをザラタンにってのも、もったいない気がするな」
「だね。カギ取る前だったら、最悪討伐してって選択肢もあったんだろうけど。
あ、でも頭を撃ったらカギも消えちゃってそう。これの通った先には何も残らない~って書いてあるし」
「こいつで倒したやつは、ドロップアイテムとかもなくなっちゃうのかな?」
「たぶんそうなんだろうな。キーアイテムを持ってそうな相手に使うのは、やめておいた方がいいかもしれない」
しゃちたんはエリクサー症候群にはなりたくないようで、これぞという使い道はないかと考える。
「じゃあこれでリーサル海賊団を殲滅とかできないかな。
それでアジトのお宝をいただいちゃうとか」
「一発しか撃てないからなぁ……。大物一体だけ倒せばいいってわけじゃないだろうし」
「ルサルカの方は和睦の道があるっぽいしね。それにキーアイテムを持ってたら、それごと消しちゃうかもしれないし、こっちにも使えそうにないね」
「えーじゃあ、どこで使えばいいんだろ」
「一発しか撃てないと言っても船が沈んだらリセットされるんだろうし、船の危機に一発かますってのはありだろうけどな」
「収束波動砲が撃てなくなるだけで、カギを消費した事実は変わらないしね。その選択肢が私らだと一番ありえそう」
「なるほどねぇ」
収束波動砲について話したあとは、操作方法もいざというときのために三人とも確認しておく。
それからカギを使ったことで隠されたものを見ることができると言うので、さっそくコンスタンティンから貰った手記を広げて空欄だった所へレンズを向けた。
すると全てではなかったが、だいたい全体の三分一程度の空欄が見られるようになっていた。
まずザラタン関連の埋められた空白では、『頬の内側に何かが』だとか『破壊光線の後はしばらく動けなくなる』、『痺れは頭だけ他より素早く回復するから気を付けよう』なんていう、今のブラットたちにはもはや無用な情報ばかりが読み取れた。
「まぁ……ね。こっちはもう終わったし、もう別にいいよね」
「そうそう。他のとこも読み取れるようになってるしね!」
続いてリーサル海賊団についての空欄でわかった項目は以下の通り。
『やつらは宝物庫のカギを複数を配下に分けて持たせているのかもしれない』。
『宝物庫のカギは形からして、五つで一つになりそうだ』。
『カギを任されている一族がいるらしい』。
肝心のアジトの場所や、キーアイテムとなりそうなものの情報はなかった。
「けどこれを見る感じだと、カギを任されている一族の船を最低でも五隻倒さなきゃ宝物庫へは行けなさそうだ」
「とは言っても宝物庫の方はプレイヤーに対するブラフで、実はこんなところにキーアイテムが置いてありましたーとかも、ここの運営ならありえそうなんだよね」
「うわぁ~、それやだ~」
「と見せかけて、本当に宝物庫にあったりなんてこともあるだろうな」
「え~!? もーどっちなのさー!」
「さらにと見せかけて、別のところに~なんてこともあるかも?」
「むきー! 二人とも私で遊んでるでしょ!」
「「ごめんごめん」」
「まったくもう」
しゃちたんの反応が可愛かったので、ついブラットとHIMAは少しからかってしまう。
憤慨したフリをするしゃちたんに謝りながら、次にルサルカの空欄を見ていく。
新たにわかった情報は──。
『彼女は皆の言うようなモンスターではないのでは?』。
『彼女は敵意に敏感で離れていても感じ取る』。
『月影の祠の地蔵に石笛を作ってもらった』。
──というもの。
「とりあえずルサルカはNPCと思っても良さそうだな、やっぱり」
「あと敵意に敏感ってことは、戦う気で行けば確実に眠らされて終わるって感じかな」
「じゃあこの石笛とか言うのを吹いて、敵意はないぞーって知らせていけばいいのかな?」
「仲良くなる方法と言ったら、そんな感じかもしれないな。
ってことで二人とも、どっちから攻略を探っていきたい?
もちろん状況によって得られた情報とかで順番が変わることもあるだろうけど、いちおう方針は決めておいた方がいいだろ?」
「うーん、なら私はルサルカかな。月影の祠っていう固有名詞がわかってるし、リーサル海賊団とは、まだできるだけ接触したくないし」
「私もHIMAにさんせー。とりあえず、その月影の祠ってやつを探してみよーよ」
「そうだな。オレも二人に賛成だ。ってことで次はルサルカ攻略に向けて動いてみよう」
「「はーい」」
目下の方針が決まったところで、まずはザラタンのイベント領域から船ごと転移できる巨大ポータルの港町に進みはじめる。
そこで補給をしてから来た道を一度戻って犬獣人の親方のもとに行き、もう一段階船を改造してもらおうと考えたからだ。
「もう親方ガチャなんて信じない」
「やっぱ私たちの船は、あの親方じゃないとね」
「おっちゃん親方さいこー!」
なんてことを運航中に話していると、同盟チャットに連絡が入った。
簡単に要約してしまえば、『昨日できなかった報告会をしたいけど、都合はいかがでしょうか』といった内容。
ちょうどブラットたちは港町に帰る予定だったので、そのことを伝えておいた。
「親方に改造してもらったら別方向に移動したいし、その前に転移用の楔を打ち込んでもらえるように交渉しないとな」
「他の人たちが手に入れてたら、私たちが今いる港町に挿してあげることもできるしね」
「今ならめっちゃザラタンの最寄り港町だしね」
他の同盟パーティたちとちょこちょこチャットしながら相談していき、ゲーム内時間で一時間後に前回と同じポータルの島で落ち合うことになった。
一時間あれば慌てることなく補給も充分にできるので、ブラットたちにも否はない。
時間にも余裕があるのでのんびりと、けれど最低限の警戒はしつつ港町へと戻った。
船は港町に停めたまま、予定時刻より一〇分ほど前に最初のポータル島に移動する。
マイキーたちパペットモンスターは既に待っており、Ash red、Zooooo!、微笑みの甲殻の順で、どこも遅刻することなく無事に合流を果たす。
まずは地図の同期を互いにしていき、イベントマップを広げてから各々の現状を話していく。
順番にこだわりはないので、来ていた順ではじめていく。
南担当のパペットモンスターは、昔ドレークに憧れて船乗りをしていたという老人の願いを叶えるイベントをこなして、【ドレーク冒険記 三〇巻】を手に入れた。
さらにその老人は、リーサル海賊団が頻繁に通る海路があることも教えてくれたという。
また三〇巻の内容に関してだが、リーサル海賊団が補給基地として使っていると思われる島について書かれていた。
「そしてその島っていうのが、老人の言っていた海路の近くだったんだ。
だからたぶん、その海路を通って補給しに向かっているってことなんだろうと俺たちは考えてる。
避けたいなら今言った座標の近くに行かないことを勧めておくよ」
知らずにその海路に入りこんで、いつの間にか周りはリーサル海賊団だらけ──なんてなったら目も当てられない。
ブラットたちもしっかりと、その座標をメモしておいた。
その座標に一番近いのは南側のパペットモンスター。そのことを考えると、もしかすると南方向に本拠点があるのかもしれない。
続いて、ブラットたちの報告の番がくる。
「まず最初に軽くチャットでも報告してたけど、ザラタンの座標がはっきりとわかった。
この目で確認してきたから間違いない。ザラタンがいたのは、ここだ」
ブラットが地図を指さし伝えると「おおー」という歓声が上がり、それが静まるのを待ってから言葉を続ける。
「それでもってオレたちは、ザラタンイベントの攻略を終えた」
「「「「「はぁっ!?」」」」」
歓声から打って変わり、驚きの悲鳴が周囲からあふれ出す。
他の離れたところにいたプレイヤーたちも、なんだなんだとこちらに視線を向けてくる。
「え、と、ちょっと待ってくれ。そっちがザラタンのとこを直接見に行くってのは聞いてたが、もう攻略しちゃったってのか?」
「あれでおそらくクリアでいいと、オレたちは判断した。
だから次に…………微笑みの甲殻の人たち、どうした?」
最初は皆驚いていて気にならなかったが、他が少し落ち着いてからも微笑みの甲殻のメンバーたちは、そのまま固まったままだったのでブラットは気になって声をかけた。
するとリーダーのサソリ男、ヤブレカブレが理由を口にしてくれた。
「いや、あのさ。港町の親方の情報をくれた姉貴の話はしただろ?」
「ああ、サービス開始からやってるベテラン勢っていうお姉さんだろ」
「そうそう。そんな姉貴たちもザラタンの攻略を開始したらしいんだけど、あっちはまだ終わってないんだよ。なかなか、うまくできずに何回もやり直してるって」
彼の姉のパーティはブラットたちのように摩訶不思議ルートではなく、ザラタンの弱点が鼻にあるというところまでイベントをちゃんと進めて探り当て、その上で運営が想定している道にしっかりそって攻略していた。
だが鼻に攻撃を当て続けるというのは思った以上に難しく、そこで足踏みをしている最中だ。
「それに姉貴らは、そっちよりも先にザラタンの場所を見つけてたんだ。
別に姉貴らはBMOきっての上位プレイヤーってわけじゃないけど、それでもオレたちよりもずっと強いのは間違いないんだよ。それなのにいったいどうやって、こんな短時間で……」
「そこはナイショってことで。ああでも、嘘で攻略したって言ってるわけじゃないからな?
それだけはしないってのが同盟のルールだし、そこは勘違いしないでほしい」
ブラット自身もなかなかに難易度が高い方法だったというのは自覚していたので、他人がそれをマネして失敗でもされたら申し訳ない気分になる。
なのでよほど頼まれでもしない限りは、各々で考えて攻略してほしいと秘匿した。
「あっ、すまない! 疑ってるわけでも、攻略方法を聞きたいわけでもなかったんだ! ほんとうに申し訳ない」
「いや、いいよ。気にしてない。逆の立場なら、オレも驚いてたかもしれないしな」
「そう言ってくれると助かるよ」
場の雰囲気も元に戻ってきたので、そのまま報告を続けていく。
ザラタンが終わったので次の危険を探しに行きたいこと。
次はルサルカを目指すため場所いかんでは、西方向の探索から離れるかもしれないということも添えて話した。
「ザラタンの正確な座標はちゃんと共有してくれたし、そっちをクリアしたってんならそのまま西の探索を続けてくれとは言えないな。
この同盟は互いに縛り付けるようなもんじゃないんだし」
「だねー。私もそれでいいと思うよー」
「俺たちもそれでいい」
「あ、でも同盟全体でどうしても西側の情報が必要にってなった場合は、もしかしたら頼むかもしれない」
「ああ、それでいいよ」
ブラットたちの話が終わり、今度はZooooo!の報告がはじまる。
こちらは準備を終えたらやろうと思っていた、アジトの攻略に着手し成功した。
ただ思っていた以上に規模が小さく首領も弱かったせいか、冒険記は一巻と一九巻しか出なかったという。
「でもたぶん、一九巻の内容は結構重要そうだったよ。
なんかルサルカ対策で、陽光の祠ってとこに寄ったって書いてあったの。
もしかしたらルサルカに行くのに必要な場所かもよ」
「陽光? 月影じゃなくて?」
「うん、そう書いてあったけど」
「実はこっちは冒険記とは別口で月影の祠っていうところで、ルサルカ対策のアイテムをもらうって情報を得ていたんだ」
「じゃあ、どっちも行くってことかも。陽光の座標を教えるから、月影がわかったら教えてくれない?」
「もちろん。助かるよ」
月影ではないが陽光の祠についての情報を、期せずしてブラットたちはゲットした。
方角的にはZooooo!が担当している東側、次はこちらに向かうことになりそうだ。
最後に微笑みの甲殻からの報告。
こちらはアジト攻略ではなく、町のお祭りを手伝うというイベントをこなしたことで【ドレーク冒険記】を三冊入手したという。巻数は一巻、二巻、二十三巻。
二十三巻にはシー・オブ・レヴィアタンについて軽く触れられており、今彼らが探索している北側のどこかに存在しているという。
「つまりオレたちが見つけたザラタンは西側。ルサルカは東側。リーサル海賊団は南側。そしてレヴィアタンが北側って感じで、四方向に綺麗に分かれているかもしれないってことか」
「その可能性が高くなってきたな。うへぇ、ってことは俺たちはリーサル海賊団担当になるってことか」
「まだ可能性が高いってだけだけどな。俺らも頑張ってレヴィアタンの海域を探してみる」
「そうなると、こっちはルサルカだね。次からはAsh redと被りそうだけど」
「どっかで会ったらよろしくな」
「ふふ、こっちこそよろしくね」
そんなこんなで報告会も無事に済んだ。
ブラットたちにとっても、非常に有意義な時間だったと言えよう。
だがこれで終わりではない。ブラットたちは最後の交渉に入っていく。
「ここからは四つの危険についてじゃないんだけど、実はこういうアイテムを入手したんだ」
【リミナル・ウェッジ】の説明をしていき、それぞれのパーティにポータルのある安全な島に楔を打ってきてほしいと依頼した。
すると皆快く請け負ってくれ、その代わりにこちらは【リミナル・ウェッジ】の入手した経緯を細かく伝えた。
もし彼ら彼女らが手に入れたら、ブラットたちも同じことをするという条件も一緒に加えて。
「【リミナル・ウェッジ】は上位層ではけっこう出回りはじめてるらしいけど、そっちも既に手に入れてたんだな」
「それも、お姉さんの情報か?」
「ああ、便利だから早めに手に入れとけよーって言われてる。
入手法はいろいろあるみたいだし、俺たちも頑張らないとな」
パペットモンスターとZooooo!は存在すら知らなかったらしいが、微笑みの甲殻はヤブレカブレのお姉さん情報で知っていたようだ。
他二パーティは効果に驚いていたが、微笑みの甲殻は今回は逆にそこまで驚いてはいなかった。
そうしてブラットたちは、パペットモンスターには赤の楔、微笑みの甲殻には青の楔、Zooooo!には黄の楔を無事に配り終えた。
次回は火曜日更新です!




