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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第二一章

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第五九四話 カラスへの対策

 ユグ・ガーゴイル討伐後の亡国のお宝探しにて、少し気になることが書かれた資料を見つけてしまったのだが、他にもハイエルンの土地やら、渡界モンスターとの戦い。

 週一での異世界マップ「ヴェラニア」での探索や訓練、魔王狩り、箸休めにビアバレルの鍛冶資料でお勉強、魔導学の研究だって手を抜かない。

 また【謳われぬ剣】や【名もなき剣】のレパートリーや、新技の開発にも勤しみ、新天地開拓もガンガン進めて、新しいモンスターや素材も集めて回り、零世界で必要になりそうな物資も掻き集めて課金拠点の倉庫に詰め込んである。

 そしてさらに、月一のPVP大会も荒らしに荒らした。


 PVP大会の結果は個人戦は圧勝。やはり一対一でブラットと正面切って戦えるプレイヤーはいなかった。

 そしてパーティ戦も完勝。前回はこちらの手をメタられて負けてしまったが、あれからさらにブラットの手札が増えた。

 タヌファンネルや灰天使化したスキルも使ったが、ハーピーたちを封印した状態で勝つことができたのは大きい。



(これでクラン戦にも出られる。プレイヤーたちだってどんどん強くなっていってるし、そっちも楽しみだな)



 別にパーティ戦で優勝しなければ、個人でのクラン戦参加は認められない──なんていう決まりはない。

 だがパーティ戦で優勝もできていないのに、クラン戦に出場するのはさすがにイキりすぎだとブラットは自重していた。

 だが今回の結果を見て、自分でも次に進んでいいと納得できる戦いができた。次はクラン単位での人数が、一斉に超位職を使ってブラット一人に攻撃してくる。

 パーティ戦の何倍も難易度が上がる戦いができると、今から次のPVP大会が待ち遠しくて仕方がなかった。


 そんなふうにあれこれ忙しく活動しながら、灰天使の力も零世界でも実戦で安心して使えるレベルまで鍛え上げられたところで、いよいよ零世界の時間を進める決心がついた。

 もっと職業を鍛え上げ、実力を底上げしてからでもいいかとも思ったが、そんなことを言っていたらきりがない。

 それにBMOも非常にリアルに作られてはいるし、感覚だってほぼそのままだが、年齢制限や法律的な観点から百パーセント、現実そのままの感覚というわけでもない。

 あの現実の世界としてのブラットとしての感覚を忘れて、ゲーム感覚でこれからの強敵に挑むというのも怖い話だ。

 楽しいゲームの時間を切り上げて、カバン一杯に荷物を詰め込み、零世界に移動した。


 BMOとも違う、久しぶりの現実でのブラットの感覚を思い出すように目を覚ます。

 最後に寝たのは、不安がるスフィアとマリンを同時に抱いて安心させた日だ。

 可愛らしい寝息を立てて、左右からブラットに抱き着いている裸のスフィアとマリンにホールドされて動けない。

 我がことながらスケコマシ野郎だなと、長いこと地球のある世界にいたため色葉としての感覚の方が強くなっていたのか、このシチュエーションに苦笑してしまう。

 だがもうそれも今更だ。何人だろうがかかってこいと開き直りながら、二人を起こさないよう体の形状をいじってすり抜け起き上がる。



(さて、今日も頑張りますか)



 BMOでリフレッシュもできて、トライデント戦後にカラスにしてやられ、重くのしかかっていた暗い気持ちも晴れている。

 過ぎたことを気にして仕方ないと、こちらもまた開き直ってやれることをやろうと朝食の準備に向かった。


 一日開けたとはいえ、トライデント戦でカラスたちの不気味な行動でまだ少し心が休まり切っていない皆のためにもと、朝食はいつもより少し豪華にしておいた。

 それが功を奏したのか、少し暗い色を落としていた瞳にも活力が戻ってきている。



(腹が減っては戦はできぬなんていうけど、美味しいもの沢山食べてお腹が一杯になれば、気持ちも前向きになるよね)



 自分のようにBMOでリフレッシュできない皆のために、奮発してよかったとブラットも笑みを浮かべているが、皆の活力が戻ったのはその落ち着き払ったブラットのおかげでもある。

 この世界の人類の支柱であり、このパーティの要でもあるブラットが、余裕をもってどっしり構えてくれているだけでも、仲間たちにとっては安心できる要因になれるのだ。

 皆食べ終わって満足しているところで、ブラットは今後の方針について語っていくことにする。



「まず何をするつもりなのか分かってないけど、急ぎ国の防衛強化に専念するべきだと考えている」

「そうデすね。カラスはもう、我々のことを敵とシて認識しているでしょウし、この国の場所もとうの昔から割れてイますし妥当かと」

「人間なんて相手にもされてなかったから、こちらに意識を向けていなかったというだけで、それでなくてもカラスたちは立地的にも人類国側だから攻めやすいものね……」

「トライデントを狩ったのが俺たちだと、シカ陣営にばれれば、あっちも黙っていなさそうというのもあるか……。あっちも人類国側にあるからな……」



 懸念点はカラスだけでなく、グリードがいうようにシカ陣営にもある。

 間に距離があるとはいえ、カラスとシカたちの縄張りは人類国側に面している。

 ワーム、スライム、カエル陣営のように、完全に間に他陣営が入っていれば、そこが防波堤になってくれたかもしれないが、その二陣営と人類国の間にあるのは空白地帯だけ。

 攻めようと思えば、いくらでも攻めてこられる立地にいるのは間違いない。



「けどその二つだって、僕らの国にばっかり意識を割いてたら、他の陣営に裏をかかれたりしそうだよね」

「だから余計に私たちの国を、ガチガチにしておけばいいってことだよね」

「ああ、こっちは攻められても最低限の時間稼ぎさえできれば、勝手に他の陣営が手薄になったところを後ろから攻めてくれるはずだからな」



 人間であれば敵の敵は味方という理論も成り立つ場合があるが、モンスターの場合は自分たちの同胞以外は全員敵という姿勢で生きている。

 人間がなにかやってる。先にあっちを皆で倒そう!という状況には、まずならない。

 むしろ人間に手を出すふりをして、逆に寝首をかこうとするのが当たり前なのだ。

 陣営によって平均知能に大きな差はあれど、群の主はカラスに限らずそれなりに知恵が回るものばかり。どこも信用ならないと本能レベルで刻まれている。利用することはあっても、手を取ることなど絶対にありえない。

 だからこそ人間であるブラットたちは、その関係性を使って狡猾に立ち回り、生き残らなければならないのだ。



「というわけで、各勢力の様子を見ながら守りを固めていこう。それに少し面白い物も手に入れてきたしな」

「美味しい食べ物?」

「今、食べたばかりだろ……マリン。そうじゃなくて、防衛に便利そうなのを持ってきた」

「ほお……なニやら、面白そうナ気配がシます」

「さすがアイゼン。こいつを置いてみたい」



 そう言いながらブラットが取り出したのは、台座部分も合わせれば五十センチほどの大きさとなる石像が二つ。

 頭と翼はワシで体は人間、下半身はドラゴン……ユグ・ガーゴイルそっくりな見た目の石像だ。

 アイテム名『ユグ・ガーゴイルレプリカ』。ユグ・ガーゴイルを倒して出てきた宝箱の中に、これが二つも入っていた。



「効果はこれを設置した場所に結界を張ってくれる防衛モードと、その結界と同等規模の閃光ブレスを放つ──攻勢モードの選べる二タイプで運用できる。

 ちなみに攻勢タイプのブレスは、オレの魔法を押し返して腕を吹き飛ばせるくらいの威力がある」

「なにそれ凄いねぇ。今のブラットくんの力でそれってさ」

「ただし魔力を先に充填しておく必要があるし、フル充填でも十発で切れちゃうんだけどな。逆に結界はその十発を受けきれる程度の攻撃で、魔力が切れて停止するようになっている」

「それが二つも……。これはかなりの防衛力アップが期待できそうね」



 魔王化する以前のユグ・ガーゴイルには、結界の能力がちゃんとあったことに起因してか、レプリカには防衛モードも搭載されている。

 巨人化したルインが人類国を襲撃したときにこれがあったのなら、十回以上その全力攻撃を防げていただろう。


 そしてブレスの火力はブラットが魔王戦で味わった、あの閃光ブレスとほぼ同等の火力で放つことができる。

 あれならS級モンスターにも風穴を空けられる威力であり、それを非戦闘員が起動して撃たせることができるだけで、その有用性はかなり高い。



(ハイエルン城に設置しようかとも思ったけど、さすがにこっちが優先だよね。二個ともこっちで使っちゃおう)



 ただしこれは設置型アイテムであり、BMOにおいては自分の所有地内の建造物に限り設置できる設定になっている。

 また設置してそこを守るべき場所とガーゴイルレプリカが認識して、はじめて起動できるようになるため、設置してから三日間放置しないと使えない。

 零世界で持ち歩けるならアイゼンに動く砲台になって貰うという手も考えられたが、おそらくそのアイテムの「ガーゴイル」という性質上、動かない場所に設置しなければ起動できないのだろうなと、ブラットはこれまでの経験則から推測していた。


 他にも鳥系モンスターからの攻撃から建造物を守る、ありがたい神社でクエストを数回こなすと貰える『防鳥祈願の願札』を三枚用意。

 こちらも拠点防衛用のアイテムで、壁や柱に張って使う。効果を発動し終えると灰になる使い捨てだが、攻撃を割合でカット(※上限値有り)してくれる優れものだ。

 他にも鳥が近づくと本能的に忌避感を覚える『鳥忌の目』という、畑などに設置されるような大きな目玉の風船のような設置アイテム。

 翼で風を受けづらくするアイテムに方向感覚を狂わせるアイテム、鳥特効の矢などなど……、カラス対策となる防衛アイテムを各種BMOで揃えてきた。

 カラス以外が攻めてくるパターンもあるかもしれないが、やはり人類国が敵とはっきり認識している陣営に対して念入りにしておくべきだろうと考えたからだ。


 装備として持ち歩いても意味はなく、建造物に設置しなければ効果を発揮しないというデメリットはあるが、その分だけ値段や入手難易度のわりには、得られる効果が高めになっている。

 最近は超位職持ちも増えてきたことで、国に属するプレイヤーたちも出世してきて、自分の領地持ちも増えはじめている。

 その影響かこうした設置型の防衛アイテムの需要が増えると見込み、BMOの運営側が二周年のアップデートで大幅に種類を増やしてくれたのも、ブラットにとって追い風になっていた。

 おかげで鳥専用というニッチな防衛アイテムも、入手先も種類も多くあって助かっている。

 ちなみに汎用型でないのは、専用の方が対象が狭くなる代わりに効果が高くなるからだ。



(余裕ができたら他の陣営の専用も集めてきた方がいいかな)



 だが今はとにかく、カラス対策のためにできることをする。

 アイゼンに使い方や設置方法を話し、どこに設置するのかも相談した。

 それからあれこれと話し合って、それらのアイテムを全て設置し、ブラットはユグ・ガーゴイルレプリカに魔力を一杯になるまで充填しておいた。

 ユグ・ガーゴイル以降も数体の魔王を討伐してきたが、その中ではやはり一番火力の高かったユグ・ガーゴイルと同等レベルの攻撃であれば、どこからともなく撃ち込まれても二個で合わせて二〇回は防げるようになった。

 二重起動すればユグ・ガーゴイルの二倍の攻撃にも耐えうる、現状ブラットでもどう頑張っても一撃で破壊できない結界を張ることもできる。



(切っ掛けはハイエルンの領地の防衛のためだったんだけど、結果的に零世界の人類国防衛のためにもなったね。

 他にもユグ・ガーゴイルみたいな魔王がいたら、こういう拠点防衛のアイテムが手に入ったりするのかな。

 もともとは守るために存在した魔王とか、意識して探してみるのもありかもね)



 その日はガーゴイルを南北の国門側にある見張り台に一つずつ設置し、一定以上の力が籠った攻撃に対して自動結界を張るように設定し、起動できるまで放置。

 持ち込んだ残りのアイテムも惜しみなく、国壁のあちこちに設置して、これでもかというほど万が一に備えておいた。


 それからしばらくは、拍子抜けするほど平穏な日々が続いた。

 何度もBMOと往復して、初日に持ってきたアイテム以外にもあれやこれやと持ち込んだりと、ピリピリとした空気を漂わせていたのだが、カラスたち側からこちらに攻めてくるような気配はない。

 シカ陣営側もトライデントを失った痛手により、一気に劣勢に立たされ、それどころではなさそうだった。

 ただ警戒していることもあって、情報課の面々も、いつも以上に縄張り内に侵入して探るのに慎重になっているため、情報の集まりが薄いというのもあって、だから安全だろうとも言い切れない微妙な状況なのが、今の人類国の現状である。



「スフィア。やっぱり占いには出てこないか?」

「うん。宇宙から見下ろして観察している限りでも、不審な点はないよ。

 ただカラスに関しては、もうこっちが星属性に干渉する力があることがバレてたからか、のぞき見の対策までしてきてるみたい。

 一見普通なんだけど、偽物の映像を見せられてる気分がするの。だからこれも、あんまり信用できないかなって。ごめんね、お兄ちゃん」

「そうか。ありがとう、スフィア。それで十分だよ」



 さすがに宇宙のかなたからの視線には、カラス以外は各陣営の主たちも対応できずにいる。

 主ともなれば勘がいいのか、偶に空を見上げてくることもあるとスフィアはいうが、分かったところでそれに干渉することはできないので関係ない。


 だがベグ・カウだけは別だ。これはスフィアが宇宙から覗き見ようと考えるだけで、直感が止めろと告げて冷や汗が出るほど。

 つまり見ただけで、今のスフィアに、もしくは人類全体に何かしらの害が及ぶ可能性が高いということ。

 とてもではないが、軽い気持ちで覗いていい相手ではなく、各陣営の主たちですら恐れる存在なのだと痛いほど理解させられた。


 だがまだブラットたちは強くなれる。各陣営の主たちやそれを支えるS級上位のモンスターという糧が残っているのだから。

 そのためにもカラスの出方を伺うのではなく、こちらからも警戒して引きこもっているばかりでなく、打って出て状況を変えた方がいいという思いが強くなってきた。


 なにせこうしている間にも、各陣営の争いはどんどん佳境に向かってヒートアップしていっているのだ。

 このままでは完全に出遅れて、各陣営の主が倒れて糧にされ、主が進化。そうなれば一気にパワーバランスが崩壊し、どこかの勢力が一強になって手が付けられなくなる。

 こうなれば人類は終わりだ。七大勢力の縄張りを全て平らげたら、人間もそのあとでゴミのように滅ぼされるに決まっている。

 他の勢力にリソースを割かなければいけなかったから、人類国が残っているだけだったのだから、当然だろう。



「むしろカラスの連中も、怪しい動きだけ見せて何もするつもりはなかったってオチなんじゃねーのか?」

「何かしてくるかもしれないと不安を煽るだけで、俺たちを国内にとどめているわけだしな……。俺もそんな気がしてきた」

「それに自分たちだけが、人類という脅威があると知っているっていうのは、有利に事を運ぶ材料にもなりかねないもんねぇ。ブラット君はどう思う?」

「ここまで何もしてこないとなると、ただのブラフだったっていう可能性も捨てきれなくなってきたのは確かだ。

 それにいい加減動き出さないと、本格的に不味い気がする。よし、こちらからも打って──なんだ?」



 ──打って出ようと号令をかけようとしたそのタイミングで、異常な力をカラス陣営の方から感知。

 ブラットがいち早く気が付き、アデルたちも一瞬遅れて東に視線を向け、外に出る。



「やばいっ──!!」



 【黒線・転移】で一瞬で東側の国壁の上に立ってその向こう側に視線を向けると、カラスたちの王が高く空を飛び、しっかりとこちらを見据えてクチバシを大きく開け、膨大なエネルギーの塊が飛び出す瞬間を捉えた。

 ブラットは【オーバーロード】を発動し、二つ重ねて複製したナマクラの盾を国壁を覆うほどの規模で一斉展開。

 銀磁力による斥力で壁に触れさせないよう反発させ、全力で力を込めた──その瞬間、ユグ・ガーゴイルの閃光ブレスが可愛く思えるほどの、馬鹿げた威力のブレスがナマクラ盾に直撃。



「こ────のぉおおっ!!」



 銀磁力と雷魔法による電磁力、さらに風の力も使ってナマクラ盾で衝撃も押しとどめる。

 さすがは頑丈さ一本で世界に記憶されたナマクラだ。そこへBMOのプレイヤーたちが尾びれ背びれをつけて好き勝手に噂していき、さらにその堅牢さは増している。

 それを二重複製して盾にしているだけあって、カラスたちの王のブレスであっても、そう簡単に壊れない。

 だが壊れなくても、このまま押されればナマクラ盾を押しこむような形で国壁は破壊され、ようやく復興した人類国内に甚大な被害がでてしまう。

 スフィアが【ソウルレゾナンス・コネクト】をブラット隊のメンバーだけでなく、誰彼構わず国民中に繋いで、その魔力をブラットに流して補助してくれた。

 おかげで湯水のように魔力を使っても、スフィアを通じてすぐに戻ってくるため、無茶な防衛もできた。

 しかしカラスたちの王は甘くない。そのブレスにジリジリと押し込まれ、二重ナマクラにすらヒビが入りはじめる。

 それもすぐに複製しなおして修復するが、そちらにリソースを持っていかれたことで、押し留める力が弱ってしまう。

 アデルたちもブレスに向かって攻撃して、少しでも威力を削ろうとしてくれているが、それでもまだ足りないうえに、下手に魔力を使い過ぎてブラットへの魔力供給が少なくなれば、それこそこの守りが瓦解しかねないため、全力も使えない。



「結界に頼る……かっ」



 既に異常を検知して、二つのユグ・ガーゴイルレプリカが結界を張っていたが、それだけでは到底防げる威力じゃないのは、火を見るよりも明らかだ。

 なので結界に頼るのではなく、ナマクラ盾を支える壁として使い、ブラットはその攻撃に耐え続ける。



「ぐ──ぅうぅっ!!」



 支えにしていた二重の結界までひび割れはじめるが、ブラット以外の人員がユグ・ガーゴイルレプリカに魔力を注いで切れないようにしてくれているため、自然に切れることはない。

 けれど壊されてしまえば、その努力も意味がないだろう。ちゃんとカラス対策の設置アイテムの効果が発揮されてこれなのだから、堪ったものではないと、ブラットは内心で冷や汗を流す。

 だが、ブラットとてただ漫然と攻撃を受け続けていたわけではない。

 その間にそのブレスを魔導学的に解析し、状況を打破する術を考えていた。



「──────────【パラドクスルール】」



 かなり強引だったが、そのブレスの軌道を斜め上に逸らすように、その魔法のルールを歪めた。

 徐々にブレスがカーブを描いて角度が上がっていき、直に真正面から受けるのではなく、ナマクラ盾で斜め上に逸らすような軌道に変えてみせた。

 カラスの王はその軌道を修正しようと力を籠めるが、さすがに魔導学を理解していないため、対処方法がよく分からず──ついに諦めた。



「────はぁっ」



 止めていた息を吐き出し、酸素を求めて大きく息を吸うブラット。

 まだ続ける気かと、このまま攻めてくるつもりかと、五本の剣を持って構えるが、カラスの王自身もこれ以上目立っては、他の陣営に隙をみせかねないと、空から消えるように縄張り内へと消えていった。


 まさかカラスの王が自ら、他の陣営に消耗したところを付け入られる危険もあった中で、こんな策も何もない力技に頼ってくるとは考えもしなかった。

 ブラットはそれが逆に、少し不気味に思えた。

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― 新着の感想 ―
怖いのは前任の神達だよなぁ、アイツらが今どこで何をしているのやら
横にずらせば他の陣営に被害が出て頂上決戦になってたかも
表舞台に引きずりだすことが目的かなぁ……。 これで壊滅したら御の字、防がれてもそれだけの力を持つ新勢力があることを他の陣営に伝えられますし。
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