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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第三章

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第五七話 猫の首領

 大量の船に囲まれるよりはましな状況なのかもしれないが、この猫海賊団の首領(ドン)はかなり強いことがうかがえる。

 さらにやっかいなことに首領がカットラスを握り締めていない左手には、猫海賊団を呼び出す猫の肉球マークの付いたホイッスル──【呼び笛】がジャラジャラと握りしめられていた。

 ブラットたちが手に入れたものと同様に金色や銀色、銅色も当たり前のように混じっている。


 そんなものを持っているなら、こっちの船に来る前に全部吹いてくれば完全にブラットたちは詰んでいただろうが、何をおいてもブラットたちに追いつきたいという思いが先走り、すっかりと失念していたようだ。

 とはいえモンスターなので、そこまで知恵が回らなかったというのもあるのだろうが。



「あの笛は絶対に鳴らさせちゃダメだな」

「何をしてでも阻止するよ」

「こうなりゃやけだ! やってやる!」



 首領が駆け上ってくるときなどアワアワしていたしゃちたんも、ことここに至っては完全に腹を決めやる気に満ち溢れていた。


 一方首領の方はと言えば改めてブラットたちの姿を見て、「なんだこんな雑魚どもだったのか」とでも言いたげな完全に侮った表情をする。

 残虐な表情で笑みを浮かべながら左手に持った笛を、なんの警戒もなしに口元に持っていこうと片腕を動かす。

 この程度の相手、自分が戦うほどでもなかったとでも言わんばかりに。


 だが、それを許すわけにはいかない。



「──はっ!」

「ッニャ!」



 HIMAが足の下に小さな爆発を起こし、その推進力で素早く突撃する【爆進歩法】を用い、槍先を首領の目玉に向けて飛び込んでいく。

 思っていた以上の初速で目に向かって突起物が迫ってきたことで少しだけ動揺し、カットラスで槍を弾こうとする動きが大振りになる。

 それを利用してブラットはカットラスから逃げる軌道でルートを張って、斬撃の隙間を潜り抜けるように後ろに回り込み、すかさず【根源なる捕食】を発動。


 根源たる存在──【白銀狼】の獣と【輝星核】の創造の二重特攻効果が働き、その分のダメージと補助効果『移動能力強化』『防御能力強化』が発動。



(え? 創造系の根源持ち? どこが?)



 獣系の根源だけだと思いきや、思わぬ根源を有していたことに驚きつつ、ブラットはスキルの反動で一瞬硬直してしまう。

 予想以上のダメージを受けたことに首領も驚きながらも、HIMAから絶えず放たれる連続槍突きをカットラスで相手取りながら、固まったブラットに鋭い突きのような後ろ蹴りを放っていく。



「どっせい!」

「ニャッ……」



 だがそれを見越したように、蹴りの隙間にしゃちたんが割って入ってきた。

 スライムが元から持っていた物理ダメージ軽減に加えて、セーラスライムの特性【セーラスコート】によって威力が激減。

 大したダメージを負うことなく、しゃちたんはそのまま足に【吸着】し【溶解液】【吸収】【雷触締め】で追加ダメージプラス回復までやっていく。



「ニャルゥアアアッ」



 左足に絡みつかれ不快そうな表情をしながら足をブンブンと動かし振り払おうとするが、スライムの体全体による吸着に加えて触手まで絡みついているのでそう簡単には外れない。

 地味なダメージに加えて嫌がらせとばかりに、くっついたまま動いて足を動かすときの重心をズラしてもくるので、ただ動くにも微妙にバランスが取りにくいため非常に鬱陶しかった。


 だからと言ってカットラスで切り払おうにも、HIMAに加えてブラットまでもが執拗に目玉や鼻、ヒゲ、歯茎、耳の穴など嫌なところばかりピンポイントで槍や【魔刃】で突いてくるので、そちらの対処に追われて使えない。


 あえて受けてもそこまでのダメージにはならないのだろうが、それでも本能的に反応してしまう所ばかり狙ってくるのでつい動いてしまうのだ。

 目が良すぎるがゆえの問題ということなのかもしれない。


 さらに腕はもう片方あるが、笛を持った手で攻撃してしまえばアイテムが壊れてしまうので、そうもできないときている。

 本当に嫌らしいほどに、徹底して笛を使わせない立ち回りをされてしまっていた。

 なんならブラットは絶妙な隙をついて笛を壊してこようとまでしてくるので、大雑把に大きな動きをしようとすれば、あっという間に使い物にできなくされるだろう。



「ニャァ……」



 首領はなぜ自分がこんな木っ端者たち相手に、このような茶番を続けているのかと苛立ちが湧き上がってくる。

 もうどうでもいい。ここにいる奴らを皆殺しにしてそれで終わりだ。

 そんな感情のこもった低い唸り声をあげ、急激に沸騰したヤカンのような気配から冷え切った氷のような雰囲気に様変わりする。



(なにかしてくるっ──)



 ここで手を打たなければ確実にまずいことになる。

 そうブラットの直感が働き、手持ちスロットから閃光筒を取り出し手に持った。



「二人ともっ!」

「「「──っ!」」」



 その黒い筒を目にし、その先に何が起きるのかすぐに二人と一体は予想した。


 首領はアレが何かちゃんと覚えていた。

 だからこそブラットが筒を下に叩きつけようとする動作を見せた瞬間、目をつぶり耳を押さえた。こうすれば対処できるものだと学習していたから。


 だが──その瞬間グイっと左手が引っ張られるような感触と、持っていたものがすり抜けていくような感触が同時に起きる。

 その代わり爆発も発光も、いつまでたっても起きはしない。



「「盗《と》った!!」」

「うえぇっ!?」「ニャッ!?」



 一体どういうことだと首領が目を開ければ、左手に持っていたはずの笛の束はブラットとHIMAの手に握られていた。

 そのことに仲間であるはずのしゃちたんも、驚きの声を首領と一緒にあげる。


 なんていうことはない、閃光筒はブラフ。

 首領が学習していることを見越した上で、わざと目立つように視線を筒に集めさせ、狙い通りに目と耳を自分で塞いでくれた隙にHIMAと一緒に笛を盗んだのだ。


 事前の打ち合わせもなかったために、しゃちたんだけは勘違いして目を閉じてしまったが、ただ声をかけただけでブラットがどうするつもりなのか理解できてしまう、HIMAの察しが良すぎるだけなので仕方がない。


 絶対に取り返されないよう、二人ともすぐにアイテムスロットにしまい込んだ。

 これで、もう首領は増援を呼ぶことはできない。


 それを唖然とした表情で見つめていた首領は、体がプルプルと震えはじめる。

 敵の前で目と耳を覆うという行為をしでかしたというのに、その結果がこれである。無様極まりない。

 他の誰かが見ていたら、なんて間抜けなやつだろうと笑うだろう。

 首領は羞恥と怒りで頭がどうにかなりそうだった。


 嫌な予感がしたのか、しゃちたんはすぐに離脱してブラットたちと合流する。そして──。



「ァァァァアアアアアアアアアアアア…………。

 ──ニャァアアアアアアアアアグゥゥゥウウルゥァアアアッーーー!!!」



 漫画のように赤い闘志のオーラをほとばしらせ、体毛は全て硬くピンと逆立ち、右目に当てていた眼帯が吹き飛んだ。



「ひぇっ、めっちゃオコだよアイツ」

「まぁ、あんな搦め手にいいようにかかっちゃったわけだし? モンスターなりにプライドは、ズタズタだったんだろうねぇ」

「それもそうだけど……そうか、創造系はそこのことだったのか」



 眼帯の下には目蓋《まぶた》はなく、眼孔の骨に直接フレームが打ち付けられ、まるでサイボーグのような眼球が納まっていた。

 SFチックな魔道具の義眼はたった今、起動させたのかじんわりと緑色の光が灯り燐光を周囲に放出しはじめる。


 カットラスを持った右の肩を回し、左手の関節をゴキゴキと鳴らしながら握ったり開いたりを数度繰り返す。

 それが終わると腰をグッと落として、完全な臨戦態勢を取ってブラットたちを睨みつけた。



「──きたっ!!」

「ニャ──」



 真っ先に狙われたのは、ブラットだった。

 彼にとって足に纏わりついていたしゃちたんよりも、よほど嫌な相手だったらしい。

 先ほどまでがお遊びだったかのような俊敏さで、カットラスの上段斬りをブラットの頭に向かって振り下ろしながら飛び掛かってくる。


 逃げスキルも使いカットラスをよけ、そのまま後ろに回り込もうとするも、見越したかのように首領の右足が腹部に向かって飛んでくる。

 それが絶妙に後ろに行ける道を潰し、ブラットは仕方なく急遽バックしてそれを避けるが、今度は左手による拳が飛んでくる。

 それをまた避けてもカットラス、蹴り、殴り、それらが完璧に合わさった流れるような連撃を、HIMAとしゃちたんも加えた三人に向かってやってみせた。


 技量、パワー、スピード。そのどれもがブラットたちにとっては高水準で、剣術と格闘技を合わせ持つ近接ファイターかと思いきや、距離が開けば……。



「わちょっ!?」

「もー飛び道具まで使ってくるとかズルだよ、ズルー!」



 義眼から、緑色のレーザービームまで撃ってくる。

 HIMAが慌ててかわすと、船の縁に当たって穴をあけた。下手に距離を開けてビームを撃たれ続けると、あっという間に船が穴だらけにされてしまう。


 さらに問題は山積みだ。闘志のオーラをまとってから毛皮が異常に硬くなり、こちらの攻撃がほとんど通らなくなっていた。

 しゃちたんのセーラスコートに近い、全ダメージ軽減系のスキルを使っているのは間違いない。



「これはちょっと、こっちも侮ってたかもしれない……。まるで勝ち筋が見えないんだけど」

「こんなことなら、この船の中に罠でも仕掛けとくべきだったね」



 本気を出した猫たちの首領はお世辞抜きに強かった。

 こちらの攻撃は全て剣で切り裂かれ、格闘技でいなされる。

 派手な技はレーザーくらいで、あとはどこまでも堅実で隙の少ないスキルで構成されていて逆に手を出しづらい。


 逃げと避けることを得意としたブラットを最優先で潰そうとしてくれているおかげで、まだなんとかなっているが火力も高く、物理系に強いしゃちたんですらHPが減り続け、手持ちにセットしてあったポーションの残りも心もとなくなっていた。


 相手に油断はなく、つけ入る隙も完全になくなっている。どうやっても、お手上げ状態だ。

 このまま時間をかけて生き残り続けても、どのみちジワジワと磨り潰されてしまう未来が見えるよう。


 ならばもういっそのこと、わざと死んでリセットして最初からやり直したほうが時間的にも効率的なんじゃないか──なんていうネガティブな考えすら浮かび上がってしまうような頃合いに、それは起きた。



「ニャグゥルゥア!」

「──っつ」「──きゃっ」



 ブラットは何とかカットラスの斬撃をかわしたが、HIMAは左フックに気を取られている間に、死角からスキルの乗った突き蹴りをくらい後ろに吹き飛ばされる。

 躱せないとわかってすぐに後ろに飛んだことで即死は免れたが、追い打ちとばかりに義眼からビームが放たれた。


 回復していないHIMAが、そのレーザーを受けたら死んでしまう。

 三人だからこそ何とかもっていたというのに、二人になってしまうとその均衡も崩される。

 これまでか──とHIMAの心が折れそうになったそのとき、ボンッという小さな破裂音を響かせながら、しゃちたんのスライムボディが強引に射線に割り込んだ。



「【ミラーリフレクト】!」



 本来なら絶対に間に合わない場所にいた、しゃちたん。

 けれど手持ちスロットに忍ばせていた小さな爆弾を使い、HIMAが足底を爆発させて移動したスキルを強引に再現して、なんとか間に合わせる。


 さらにレーザー系のスキルと相性のいい反射系の防御スキルを行使することで、【セーラスコート】と合わさってダメージ軽減効果もある。

 自爆分のダメージにレーザーのダメージをくらっても、この状態のしゃちたんならまず死なない。



(これでまだ持つっ!)



 諦めの悪いブラットもしゃちたんが爆発で飛ぶのと同時に動き出し、魔刃を出して首領に襲い掛かる。

 首領は身近にいないHIMAとしゃちたんの警戒は最低限に、そちらに意識を持っていく。

 なぜならただでさえ面倒なブラットの動きが、この戦いの中でさらに最適化され続け、攻撃への対処がどんどんやりづらくなってきていたからだ。



「ニャッ──」



 ブラットの魔刃が感覚器官の一つでもあるヒゲに当たり、舌打ちをしながら不快感から反射的に顔をそむけた。



「「「え?」」」「ニャッ?」



 そして奇跡が起きる。

 しゃちたんの【ミラーリフレクト】によって反射されたレーザーが、ちょうど顔をそむけた先にあった義眼に吸い込まれるように着弾する。

 決して狙ったわけではない。遮二無二HIMAを守ろうと、適当に射線に割り込んだだけであったし、そもそも狙った場所に反射できるような技術はまだ持っていない。


 誰もが予想だにしなかった偶然の女神の気まぐれによって、首領の義眼が大爆発を起こした。



「ニャグルゥゥウゥルゥゥゥォゥゥウッ──!?」



 そのあまりの威力に首領は義眼があった方を押さえながら、もだえ苦しむ。



「これは……──エクセプショナルダメージか!」

「うっそ、すっごい偶然」

「え? えくせぷしょんダメージ?」

「エクセプショナルだよ、しゃちたん」



 BMOには特定の条件を満たした攻撃を当てることで、普通ではありえないダメージやデバフが発生する『エクセプショナルダメージ』というものが存在する。

 全ての種にその条件があるわけではないが今回の場合、この首領には『義眼に義眼から放ったレーザー、もしくは全く同質のレーザーを受けたときエクセプショナルダメージ発生』という条件が割り当てられていた。

 そして、たった今それを偶然しゃちたんが引き当てたということだ。



「この好機を逃がすわけにはいかない! 一斉にタコ殴りだ!!」

「ここでリセットは嫌だからしょうがないね!」

「なんかよくわかんないけど、船を壊されるわけにはいかないの! ここで倒されて!!」



 ブラットは今のうちにと【根源なる捕食】で回復と【貯め食い】による回復ストックを取得しながら、バフ掛けと攻撃まで同時にこなす。

 HIMAは槍の先に炎の玉を発生させ、それで突いて爆発ダメージを与える。

 しゃちたんは雷撃が乗った触手を振り回し、ビシバシと中距離から殴る。

 まさにやりたい放題だ。


 しかしそこまでされると首領も黙っておらず、立ち上がって応戦してくるも明らかに動きがぎこちない。さらに──。



「義眼のあったとこだ! そこに攻撃当てるとスタンする!」

「「了解!!」」



 エクセプショナルダメージによるデバフ。

 一〇分間の行動鈍化、破損した義眼へのダメージは特大増加+強制スタン──というブラットたちからすれば、フィーバータイム状態に陥っていた。

 普段ならこうも簡単に発生するような条件ではないはずなのだが、さすがにあそこまで意図せず偶然によって引き起こされた事象まで、彼の中に入っているAIは予想も対処もできなかった。


 結果、哀れな首領はスタンさせられっぱなしでほぼ棒立ちに。

 さらに義眼への攻撃によるダメージ量はすさまじく、一〇分も待たずしてブラットたちの猛攻によりデータの粒子となって消え去った。


 討伐に関わった三人分の宝箱をその場に残して──。



「ひゃっほー! 私らの勝ちだー!!」

「なんか運に頼りすぎな戦いだったけど……勝ちは勝ちだね!」

「でもそう何度も運に助けられることもないだろうし、勝てない敵に対する策も考えておきたいな」

次は火曜更新です!

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