第四八五話 星縁天明
宇宙を切り裂くように猛スピードで突き進むフェニキス。今は一ミリでも遠くを目指して進むのみ。
一瞬の静寂の後、後方を映し出すモニターが真っ白に染まる。
「うわぁああっ!? なんとかなれーー!!」
しゃちたんはできるかどうか分からなかったが、目一杯速度を上げながらもワープを選択。賭けではあったが、無事に発動。星核の爆発に呑まれる前に、ブラットたちは離脱した。
「なんとかなったな……」
「ここからでも光が見えるね」
座標は適当だったが、かなり遠くまで来たはずなのに爆発の光は肉眼でもよく見えた。
それが収まるまで見届け、安全を確認してからフィーリアたちに無事を報告する。
無事を喜ばれ、称賛の言葉をもらいながら魔導国最初の惑星のあった場所へ確認のため戻ってみれば……。
「ま、まだ生きてんの……? もはやGじゃん、きもぉ」
「でももう、何もできないみたいだけどね~」
戻って来るともともと惑星があった場所に、二メートル程度にまで縮んだ、依り代の上半身だけで宇宙に漂うボロボロのゼーダの姿があった。
もはや依り代として機能しているのが不思議なほどで、膨大な力を持っているはずのゼーダ自身の魂から能力やエネルギーを引き出すことすらできず、ただただ浮遊することしかできない状態だ。
『このまま破壊するわよ。全軍一斉──』
『待ってください! 少し確かめたいことがあります! 壊すのはその後でもいいかと』
『確かめたいこと……?』
最後にオーバーキルだろうが何だろうが、全力で一斉に攻撃を放って塵に変えてしまおうとフィーリアが号令を出したのだが、それを六賢人であるルビアに止められた。
ブラットたちの動きを察してまた戻ってきてくれたシリウスたちが遠巻きに見守ってくれる中、警戒しながら六賢人やエルザたちとともに近付いて、いったいどういうことだろうとゼーダの様子を確認する。
本当に何もできないようで、「──死ね──死ね──死ね──よくも恥をかかせてくれたな──死ね──死ね──」と壊れたレコードのようにヒビ割れた瞳でこちらを睨み、何の力も籠っていない呪詛を吐き続けていた。
六賢人たちはそんなゼーダの状態を魔法でなにやらスキャンすると、ゼーダには聞こえないよう通信に切り替えて、ルビアが代表し結果を教えてくれる。
『やはり思ったとおりでした。このゼーダは、依り代の封印機能が中途半端に機能して、自分では出られない状態になっているようです。これも中途半端な状態で受肉した後遺症でしょう。
となるとここに、二つの選択肢ができました』
『ここで選択肢ということは、その状態のまま封印するということかしら』
『さすがフィーリア議長、察しが早くて助かります。この何もできない状態で封印することで、別の外世界のどこかにあるゼーダの肉体に魂は帰れぬまま、冥主という強大な敵を一体ここに無力化したまま保管できます』
『それは魅力的な提案ね。ではもう一つの案というのは?』
『もちろん破壊です。このゼーダというのは余程自信があったのか、ほぼ完全な状態でこちらに受肉しようと、依り代に強固に結びつくことを自分で選択したようです。
そのため依り代をこの魂が捕われた状態で破壊できれば、ここで三割……いえ我々の魔法でもっと結びを強固にしてしまえば五割は、ゼーダに生涯癒えることのない魂の損壊を与えることができると思います』
つまり封印を選択すれば、それが維持できる限りゼーダという存在はいなくなったのと同義。こちらを選べば、そもそも冥主という危険な敵を一体無力化し、今後戦わずに済む。
逆に破壊を選んだ場合は、ゼーダの魂は本体のいる場所へ戻ってしまうが、五割もの魂の損壊を起こさせ、永続的なデバフともいえる弱体化を引き起こせる。
『そうね……。それじゃあ、ここは評議国らしく多数決を取りましょうか。魔導国の方々もいるけれど。
今回の戦いの功労者であるブラット、HIMA、しゃちたん、ランラン、フランソワ、Furan。あなたたちも加えてね』
『分かった』
フィーリア側からは、エルザ、ヴァルン、エアロ、リリシア、ユリシアと六賢人やブラットたちと同じ人数の票数を持ち、合計一八人でゼーダの処遇について決を取ることに。
ブラットたちは簡単にゲーム内通話で話し合ったところ、全員同じ意見だった。
フィーリアもこれしかないと答えがあるようで、その瞳に迷いはない。その部下であるエルザたちも、彼女の意見を分かり切っているといった様子だ。
逆に六賢人たちには、どちらを選ぶべきかそれぞれ迷いが見られた。
そんな状態で多数決が行われた結果────封印四名、破壊一四名と圧倒的な票数で破壊が決まった。封印四名は、全員魔導国側の人たちだ。
『決をとった後にこんなことを言うものではないのだろうが、封印の方がいいんじゃないか? 破壊では戻ったときに、ゼーダから相当な恨みを買うことになるぞ』
『もう充分に買っているでしょうし、こんな特大のリスクをいつまでも残しておけないわ。いつなんどき、またあなたたちの国のように不測の事態が起きるとも限らないのだし』
六賢人のシリウス戦で助っ人として来てくれたカイルが封印を再度提案してくるが、フィーリアにそう切って捨てられた。ブラットもその言葉に頷きながら、会話に入っていく。
『こんな特大の爆弾を、将来のこの世界の人々に残し続けていくのか?
今回みたいにやばい思想を持った連中がまた出てくるかもしれないんだから、もしかしたら何十年何百年後かに封印を解くだけじゃなくて、依り代を修復までするやつが出てくる可能性だってゼロじゃない。
だったら封印なんていう、いつか最悪の状態で解かれてしまうような可能性をもった選択に頼るより、ここで破壊して確実に実を取れる方を選ぶべきだとオレも思う』
『こんな間抜けな馬鹿が冥主なんて偉そうな立場にいられるってことは、狂夢人の中じゃ力がある方が権力も高いって思ったほうがいいだろう。
そうなるとここで弱体化できれば、ゼーダの向こうでの発言権も大幅に下げさせることにも繋がる。どう考えても壊し得だろう』
ヴァルンも続けて、自分が選んだ理由を口にする。
考え方が違うためまだ納得してはいないようだが、封印を選んだ四人とも理性的ではあるため、素直に多数決の結果に従ってくれた。
『では私が合図をしたら、一斉に最大の攻撃をして破壊してください。依り代への破壊力が強ければ強いほど、魂へのダメージも上がりますので、四凶の力も借りられるのであれば、もしかしたら七割近い魂へのダメージすらいけるかもしれません』
『ってことで、アルファルド、最後にお願いしてもいい』
『仕返、絶好機会。全力、焼尽』
アルファルドはゼーダの魂を壊せると知り、嬉々としてHIMAの提案に乗ってくれた。
シリウスやアルゴル、ヴォイドも言っている意味は理解してくれ、協力を約束してくれた。
アルファルド以外も、クロキモノが嫌いで嫌いでしょうがないようだ。
六賢人たちが六芒星を描くように六方向に位置どって、ゼーダを取り囲む。
ゼーダは愚かにも自分の状況も状態も理解していないようで、帰ったらどうやって復讐してやろうかということしか頭になかった。もう少し現状を確認できるだけの冷静さがあれば、気付けただろうがもう遅い。
気付けたところで、ここまで来てしまえばどうせ何もできはしないのだが。
巨大な六芒星の魔法陣が宇宙に浮かび上がり、光の鎖が依り代に巻き付いて、さらにゼーダの魂との結合を強固なものに変えていく。
ゼーダはここにいたってなお、自分の動きを封じるためのものだと思ったようで、呑気にさっさと壊して俺を元の世界に返せと尊大に鼻を鳴らす。
『今です!』
『全軍に告ぐ──目標はゼーダ。撃てーーーーーーーーっ!!』
全艦隊から強力なレーザー砲が放たれ、四凶たちも各々最大火力の攻撃を浴びせていく。
ブラットたちやエルザたちも、自分にできる限界まで高めた攻撃でゼーダを破壊する。
時空すら歪む凄まじい攻撃の圧に、ゼーダの依り代は呑み込まれていった。
「──ア゛アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?──ナゼッ!?──ナゼッ痛いっ!?──だまじぃっ──ワレのだまじぃがっ──ごわっ──────k」
この世界全ての恨みを浴びせられたかのように、ゼーダの魂に強大な負荷がかかり壊れていく。
魂が壊れる激痛にようやく、この依り代が壊される意味を悟ったが、その頃には魂の八割近くを損壊して元の世界へと帰っていった。
ヴァルンが予想した通り、ゼーダは冥主という強さがあったからこそその地位でいられた。
だがそれを八割も失っては同胞たちから馬鹿にされ、負け犬として死ぬまで扱われ、その身分も大幅に落として軍事への発言権はほぼ失ったといっていい。
シリウスたち四凶が最後に協力していなければ、そこまで地に落ちることはなかったのだが、ブラットたちが四体全てを救ってしまったものだから、ブラットたちの世界線においてゼーダは狂夢人という怪物たちの世界において社会的に終わった。
いくらゼーダや狂夢人といえど、ここまで壊された魂を戻す術などないのだ。
《ありがとう。異なる世界の同胞たちよ──》
『『『『え?』』』』『はぇ?』『はい?』
それが確定した瞬間、まるでゲームのシステム側からの通知音声のような声が、いきなりブラットたちの脳内に響き思わず気の抜けた声が出てしまう。
かと思えばブラットたち六人は宇宙空間にいたはずなのに、見たこともない何もない白い空間に立っていた。
そして目の前には、顔も表情も何も分からない人型の光が立っていた。思わず武器を構えそうになるも、敵意もなく静かに頭を下げる光に警戒が薄れる。
「誰か聞いてもいいか?」
《私はいわゆる、この世界の神といえる存在だ。そして君たちがテロリストとして、冤罪を掛けられたのも、私がしたこと。許してほしい。それもこれも、この世界のためだったのだ》
男とも女ともとれぬ機械音声のような声でそういうと、今度は土下座までしはじめた。
ブラットたちは「お前のせいか!」と怒る前に、思わず「どういう状況?」と互いに顔を見あってしまう。
「えっと、じゃああなた──神様? が、私たちがテロリストになるように仕向けたと、そういうことかしら?」
《そうなる。映像に細工をしたのも私だ。そうすることで、この世界でクロキモノ──狂夢人に立ち向かうだけの知恵とカリスマ性を持つ人間、フィーリアを生かす未来を掴めると思ったのだ。だから一時的に、君たちの世界とのゲートを繋いだ》
ブラットたちをただ呼んだだけでは、皇女であるフィーリアと関係を築くのは難しい。
ただこの世界にいるだけでなく、フィーリアという狂夢人へ立ち向かう希望となりえる唯一の人間を生かすために、彼女が起こしたテロ事件の犯人に神の力を使って仕立て上げたというのが真相だったようだ。
「そりゃどうやって調べようが、偽造されたものと思われないわけだよ。神様が関わってたんだもん」
「神様のわりに腰が低そうだけど、なんか神様なんだな~ってのは分かっちゃうみたいだし、もう疑いようはないかもね~」
《ここに至って嘘はつかない。本当に済まないと思っている。
だがどれだけ未来を予知しても、フィーリアという存在がいなければ、どうやってもこの世界は狂夢人に乗っ取られる未来しか見えなかったのだ。
だから何としてでも彼女を正気のまま生かし、この世界の人間の道しるべとなってもらいたかったのだ。そうすれば彼女の死後も、また次の希望に繋がってくれる。
だがこの世界の住民だけでは、どうやってもその未来は見えなかった。そこで君たち、異世界の者の力を借りようと決心した》
「そんなに重要なキャラ──じゃなくて、人だったのね。フィーリアって」
「この世界に必要不可欠な人材だから、他世界の住民の力を借りて何とかしたと。なんとなく、理解はできました。
けど神様が直接、助けちゃダメなんですか? とかは言わないお約束ですかね」
物語的に神は手を出してはいけないとか、そういう設定なのだろうとFuranは勝手に納得するが、神は律儀に神が直接でてしまうと──とよくあるお約束的な設定を語ってくれた。
「それはまぁ、もういいか。結果的に、オレたちとしてもいい結末に持っていけたみたいだし。
けどなんで、最後に種明かしをしようと思ったんだ? まさかもう帰れとかいうためじゃないよな?
まだこっちも狂夢人対策とか情報とか、もっと仕入れておきたいんだけど?」
《ゲートを繋いでいられる期間に限りはあるが、まだ大丈夫だ。それまでは存分に、ここ『ヴェラニア』を探索してくれて構わない。
種明かしをしようとした理由は、私なりの誠意と巻き込んでしまったことへの謝罪を示すため。
そしてここまで完璧にフィーリアと共に過ごし、守り、一緒に戦ってくれた君たちへ礼がしたかったのだ。突然呼びだして済まなかった》
「お礼!? ううん、いいよいいよ! 全然問題なーし。いくらでも許してあげちゃうよ」
「もう、しゃちたんったら現金だなぁ」
「でもくれるって言うなら貰っておかないと~。天ちゃんはいらないの?」
「そ、そりゃ欲しいですけど。それで、お礼は何をしてくれるんですか? ありがとうという言葉だけ、というわけじゃなさそうですけど?」
《もちろんだとも。まずはヴェラニアの神の祝福を君たちに──》
光の両腕が合掌するようなポーズをとると、キラキラとしたものがブラットたちに降り注ぎ、【ヴェラニア神の祝福】という称号を六人全員が入手した。
効果はこの世界にいる間、ステータスが一割上昇。一割と言われると少ないかもしれないが、割合強化なためバフを仲間にかけて貰った場合それこみで一割強化となる。
残りの日数を、このイベント世界でより活動しやすくしてくれる効果だ。
だがそれだけでは、イベントが終わったら意味のないお飾り称号に成り下がってしまうところだが、まだそれ以外にも効果はあった。
『大量のRPと職業枠三つ追加はいいとして、取得可能な超位職の条件を一つ無条件破棄……? 最高だ』
『これ凄く助かる!! 周年アイテム以来の効果じゃない?』
『フィーリアがちゃんと生きてるパーティ限定っぽいし、めっちゃ当たりの称号じゃん! やるねぇ、神様』
『これはさすがの私も全部許しちゃうね~』
『ふふっ、これがあればあの超位職の条件を一つ……。いや、あっちの方が……うーん、悩ましいわ……』
『正直予想外でしたが、これならもうテロリスト扱いされたことなんて安いものですね』
通話は聞こえていないが、喜びは伝わったのか神も嬉しそうにしていた。
《私の祝福ごときで、そこまで喜んでくれるなんて嬉しい限りだ。だがそれは礼というよりも、謝罪の意味が強い。本当の礼はこれからだ》
「まじか!」
このルートは間違いなく、ぶっちぎりで最上級のエンディングだとブラットたちは拳を握ってガッツポーズ。
神様もブラットたちの反応に、許してくれたのだとほっとしていた。
もはやブラットたちは、この世界の恩人といってもいい。そんな者たちに、できるだけ報いたいと心の底から思っていたのだ。
《最後に一つ願いを叶えよう。金銀財宝、珍しい素材でも世界の名だたる武器防具。欲しい物を私の権能で、君たちに授けてもいい》
「それは六人で一つの願いってことでいいのか?」
《もちろんそれぞれの希望に沿うように、一人一つずつでかまわないとも》
これは重大な選択だと、皆で何がいいか話し合ってみる。一人一つでいいとのことだが、自分だけでは生まれないような、よりよい選択肢が出てくるのではないかと期待して。
そこでふとブラットは、これがいいのではないかと思いついたことを口にした。
『────とか、どうかな?』
『えぇ? それはさすがに無理じゃないかな』
『だよね。そんなのが許されるんなら、私だってそれがいいもん』
『でも運営的にも、それはダメって言うんじゃないかな~?』
『そうよ。さすがに型破りすぎるわ』
『願いを一つから三つに変えてくれ──みたいなのに、近い気もしますからね。さすがにそれはちょっと……』
『でも叶えられるなら、そっちのほうがオレはいいかな。オレだけでもとりあえず、それでいこうと思ってる。無理なら別のものを改めて考えればいいわけだし』
それが通るならと、全員がブラットが言った願いを無理だろうが、いちおう叶えてくれと頼んでみることにした。
「全員同じ願いになったから、代表してオレが言ってもいいか?」
《もちろんだとも。それで、君たちの願いはなんだ? 言ってみてくれ》
「じゃあ遠慮なく。この世界にこれからも、自由に来られるようにしてほしい。期間は限られているとか言ってたけど、それをなくしてなんとかできないかな?」
《な……なに? それは…………うーむ》
メタなことを言ってしまうと、イベント限定のためのサーバーをそのまま維持し続けろという、ある意味本当の神である運営への直訴に近い。
そのためにかかる費用を考えたら「ふざけるな!」と怒られそうだが、言うだけはタダだ。
それに膨大な数のプレイヤーに対してではなく、少数のプレイヤーに対してだけならコストもずっと低くなる。EW社という大企業の資本力がついているBMOなら、いけるんじゃないかという可能性に賭けた。
そもそも短い期間で狂夢人対策を考えるより、どっしり腰を据えて考えられる方がいい。
こちらの世界でしか得られない素材や、戦えないモンスターだって沢山いる。期間内に回り切れない惑星だって大量にあるはずだ。
それになにより、今の自分では使えない力を引き出して、その感覚を覚えるのに便利なこちらの世界の宇宙戦闘用装備が魅力的過ぎる。
ブラットたち側の世界では宇宙の法則が違うだのなんだの言われ、そちらでは無限エネルギーは使えないだろうと断言されているため、このイベントが終われば二度と使えない。使えたところで使えば使うほど劣化するため、超科学が世界では壊れて使えなくなる。
だがいつでも来られるなら、こちらに来ればそれを使い続けられるし、リルス星人たちにメンテナンスを毎回頼むことだってできる。
下手にいい装備や素材、金銀財宝、いいスキルなどをもらったりするよりも、ずっとこちらの世界に来られるメリットの方が大きい。そうブラットたちは考えたのだ。
だが神は驚いたような声を出し、考え込むように顎のあたりに手を当て、唸り声をあげ固まってしまう。
『今、神の中に入ってるAIが運営に問い合わせているのかもしれないわね』
『でもどうせ無理なんじゃないですかね。ある意味ぶっとんでるBMO運営なら……とも思いましたけど』
などと通話で話している間に、結論が出たようだ。人型の光が考えるような声とポーズを止めて、真っすぐ立ってこちらを向いた。
《条件付きでなら構わない》
「え? いいの?」
《ああ。だがあちらの世界とこちらの世界、混乱が起きないよう、ここに君たちの世界の法則に合わせて、条件を示しておいた。
もしもそれでも予想外の混乱が起きるようなら、また別の条件も後から追加する可能性もある。それでいいのなら、了承してほしい》
条件が書かれたホログラムモニターが、六人の前に表示された。
そこにはメタな言い回しにならないよう、BMOというゲームの世界観を守った上で書かれているため、非常に分かりにくい文章になっていたが、六人の知恵を合わせて読み解きその意味を何とか理解できた。
『つまり俺たちの現実の日曜日にだけ、二四時間解放される世界になると』
『それで日付が月曜日に変わったら強制的に即戻されるし、ゲーム内時間もイベント限定マップと違ってこっちも二倍速になるみたいだね~』
他にもヴェラニアからのアイテム持ち出しなど細かな制約があったが、一番大きなのはその二点だった。
ブラットたちとしても、とりあえずここに来られるというだけでも御の字だ。
「これでいいんだけどさ。どうせならオマケしてもらえないかな。
たとえばオレたちの世界に狂夢人が攻めて来たとき限定で、こっちの世界から助っ人を何人か呼べるとか。
オレたちも助っ人として頑張ったんだけど、それは……ダメかな?」
厚かましいと思われてもいいやと、駄目もとで追加交渉してみると──少しの思考の後に《では本格的な侵略行動のときのみ、それを許そう。ただしこちらの世界に脅威がない状態で、かつ──》とそこまで概ね了承してくれた。
《六人全員の願いでなければさすがに断っていただろうが、総意というのなら私も頑張ってみよう。
互いに狂夢人の情報を共有できるというのは、我々にとっても利はあるだろう》
「助かる!」
事前に話し合って皆を唆しておいてよかったと、ブラットは笑顔でその条件を受け入れた。
唆したとブラットは思っているようだが、HIMAたちにも大きなメリットだらけだ。なにせ他のプレイヤーより、世界が一つ増えるのだから。
彼女たちも問題ないと、全員の総意としてその願いを神へ申し込み、受け入れられ──また称号を手に入れた。
《称号:【ヴェラニア渡界権限所有者】を取得しました》
効果は期間限定マップだったヴェラニアというこの世界に、日曜日だけポータルから行ける権利。それ以外にはなんの追加効果もないが、それで充分だ。
《これからも、この世界の良き隣人であることを願っている。改めてありがとう。──さらばだ》
そう神が言うと、ブラットたちは元いた宇宙空間に戻された。
《イベントストーリー【星縁天明ルート】クリア、おめでとうございます!
ストーリー攻略報酬は、イベント終了と同時に各種ミッション報酬と共に届けられますので、しばらくお待ちください。
他にも多種多様なイベントをご用意しておりますので、時間が許す限り本イベントを心ゆくまでお楽しみください!》
『よし! クリアだ』
『ふぅ、今回も何とか一回も死なずにクリアできたね』
『しかも名前付きルートでだよ! やったね!!』
『これで名付きじゃないなら、意味分かんないとこだからね~。報酬もたんまりもらえそうだし、ありがたいわ~』
『本当、今回も楽しかったわ。ありがとう皆』
『私もです! すっごく楽しかったです! また誘ってくださいね!!』
無事に最難関裏ルート『星縁天明』をクリアし喜んでいるブラットたちに、事情を知らないフィーリアたちからは不思議そうな視線を向けられた。
だがすぐにその場をやり過ごし、ブラットたちは多くの犠牲者たちへ追悼を捧げると、大団円でルミナリア評議国へと凱旋していった。
その後評議国の英雄として扱われたまま、その立場も使って様々なミニイベントを爆速で攻略していったり、世界結界の準備の手伝いをしたり、クラゲモンスターを狩ったり──などなど、六人でイベント期間が終わるまで遊びつくした。
日曜日に来られるようになったとはいえ、イベントとしての報酬が出るのは今だけだと、できる限り楽しみながら頑張ったのだ。
そうしてブラットがはじめて六人フルパーティで挑んだ期間限定ベントは、最高の結果を手にして終えることができた。
次は火曜日更新予定です。そこで掲示板回をいれ今章は終了予定です。




