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第三九二話 伝説の称号

 いったい自分が何を入手したのか早く知りたくて、ブラットは最短距離でポータルから課金拠点に戻ってきた。



「伝説は気になりすぎるけど、メインディッシュとして最後に取っておこう」



 すぐさまゲームのシステム画面から称号一覧を選択し、まずは元からあった【大精霊の友人】からアップグレードして【三大精霊の盟友】になったこちらから、内容を確認していくことに。



「追加されたのは……うわ、結構凄いかも。さすが三段階もアップグレードされた称号って感じ。

 この任意で三つの上位職の取得難度緩和ってやつとかも、なんか凄そうだし」



 一段階目の隣人で、ゲーム内時間において一日一回、任意のタイミングで全回復。職業枠+1。

 二段階目の友人で、三大精霊の一部のイベントアンロック。三大精霊との親密度小アップ。──が追加。

 そして今回の盟友では、三大精霊および三大精霊に連なる精霊・妖精たちのイベントオールアンロック。三大精霊および三大精霊に連なる精霊・妖精たちの親密度大アップ。職業枠+3。任意で三つの上位職の取得難度緩和──と、元からあった効果が拡張増加されたものと新たに追加されたものがあった。


 上位職に関してはまず三つまで、取得RPが1/10に。さらに上位職はそれに連なる通常職をカンストさせていなければ取得できない仕様になっているのだが、この称号によって三つまでその条件が大幅に緩和されていた。

 本来二つの通常職をカンストさせていなければ取得できないはずの上位職を、片方だけカンストしていれば取れてしまう。もしくはもう一段上の通常職をカンストさせなければいけないのに、それを飛ばして取得できる──といったように。

 他の上位勢に職業育成で遅れを取っているが、これにより強引に上位職を取得して詰めることもできるかもしれない。



「あとは精霊、妖精たちのイベントが全部アンロックされたってのも大きいかも。余計なフラグを無視して、発生させられるっぽいし」



 中には面倒なフラグを立てなければ発生しないイベントなどもあったのだろうが、精霊や妖精関係に限りスルーできるようになった。

 そういう面倒なイベントはことごとく報酬もいいときているので、そこで有用なアイテムや素材を荒稼ぎ──なんてことも今後はできるかもしれない。


 続いて【スイ=エレの加護】。こちらは他二人と似たような効果で、宇宙・時空に属する適性上昇。威力強化。職業枠+1。となっていた。



「宇宙と時空? スイ=エレ様って時空も管轄に入ってるんだ。ルキアもそれ系使ってくるのかな。やばそうだ。

 けどそんな属性がついてそうな職業、これまでみたことない。今ならなんか出てるのかも?」



 称号取得で適性が上がり、新しく取れるようになった職業というのは今までもあった。試しに職業一覧を覗いてみれば、予想通りいくつか追加されていた。



「うーん……でも、もともと星の属性を持ってるってわけじゃないからか、称号で適性が上がっても微妙なのしかないかも。やっぱこの属性、そもそもの取得が難しいみたいだなぁ」



 星を見ることで、数日間の天候を読み取れるようになる【星天予報士】。

 星の出ている夜、星座の力を借りることで自分にバフをかけることができる【座天の使徒】。

 星を見ることで吉凶を占えるようになる【占星術師】などなど、自身の取得可能一覧では見たことがない職業がいくつか取れるようになっていたが、正直言ってそのどれもこれもがスフィアができることの下位互換でしかなさそうだった。

 それに時空に関係していそうな職業はハードルが高いからか、一つとして出てきていない。



「これはとりあえずスルーかな。さすがに必要のない職業に割くリソースはないし、進化していったらなんかの適性が生えてきて有用になるかもだしね」



 とにかく現状では「それスフィアに頼めばよくない?」で済むものばかりなため、その系統に手を出すのは止めておいた。中途半端に手を出すのが一番良くない。

 そして最後。いよいよ聞いたこともない、伝説称号について効果を改めていく。



「──ぶっ!?」

「フリィ?」



 さぞ凄いだろうと身構えていたというのに、ブラットは思わず吹き出すほど驚いてしまう。

 近くで寝転び休んでいたフリーも、何事かと首を持ち上げる。



「職業枠+7、上位職取得権限×5、超位職取得権限×2、アイテムドロップ+1~3、運値ラック上昇、【精霊の絆力】取得? …………ちょっと待って、ぶっ壊れじゃないのこれ」



 取得権限とは、一切の消費RPも条件も無視して取得できる権限のこと。と説明に記されていた。

 つまりブラットは、五つの上位職と二つの超位職をその権限を行使するだけで取得できてしまうということ。

 ご丁寧に七個分の職業枠まで付けてくれているので、これだけで上位と超位合わせて七つの職業を新規で付けられるようになってしまう。



「とはいえ超位職の方は、五次進化してないから表示されないか……。ワンチャンこれならと思ったけど、そう甘くもないのね」



 そしてアイテムドロップ+1~3。これは言わずもがな、ドロップ個数を追加する効果。1~3は最小で1、最大で3までランダムでプラスされるということを表している。

 ブラットは既に選定勇者の称号で+1されているため、通常モンスターからでも最低三個ドロップアイテムが手に入り、ボス個体であれば最大で3+1+3の七個ものドロップアイテムが手に入るようになった。



「最低でもボスからは五個ドロップかぁ。うーん、これは美味しい。

 しかもこの1から3のランダム要素、ちゃんと運値ラックの補正が乗るっぽいんだよね。この説明の書き方だと」



 1~3の確率は平等ではなく、+1が一番出やすく+3が一番出づらいよう確率が設定されている。

 だがプレイヤー自身の運値ラックにより、確率は上下する。

 フランソワ(ポチ)のように運が下がっているプレイヤーであれば、下方補正が入って+3がさらに出づらくなる。

 ブラットのようにいくつも運を上げる要素を積んでいれば、上方補正が入って+3が元の確率よりも出やすくなる。といった具合に。



「親切にこの称号自体にも運上げ効果あるし、これオレならかなり最大値で引けそうじゃないか? スイ=エレ様様だね」



 ブラットの首には今も運を上昇させる、スイ=エレからご褒美としてもらった首飾りがぶら下がっている。

 より運が重要になってくるこのタイミングで渡してくれるとは、ブラッドからすればまさに女神のように思えた。



「金策も今まで以上に時短になるだろうし、最高だね。それで後は……【精霊の絆力】か」



 【精霊の絆力】とは、一言で表すのならバフスキルのようなもの。

 説明には、これまで築いてきた精霊や妖精たちとの絆の分だけ、次の一行動時の威力または効果を高める。

 剣撃ならばその斬撃がより強く鋭く、回復魔法ならより対象を癒やし、毒薬を飲ませたのならより毒素を強めてくれる──と、たった一度の行動にしか効果はないが消費アイテムにまでバフ補正が乗る幅の広さが魅力的だ。



「けどそんなにホイホイ使わせる気もないよ、と」



 ただし注意項目として、※ゲーム内時間で168時間のクールタイムあり──とも記載されていた。

 日付ではなく時間指定なため、使用してからゲームの中でぴったり一週間分の時間が経たないと再使用できない。

 リアル時間に換算しても、84時間は使えない計算になってくる。



「けどこれだけ長いクールタイムを付けてくるってことは、かなりそのバフ量に期待が持てそう。どこかで試し打ちして、どんなもんか見ておかないとか。

 あとはせっかく精霊妖精関係のイベントがやりやすくなったんだから、そっちもできる範囲でフラグを回収していくのがいいかもしれない。

 そういうところであちこち絆を深めていけば、いざというときの切り札強化にもなりそうだし。

 ……というか、たぶんこれ堕精霊ルキアイベ関係の称号っぽいし、これで皆の想いをのせて倒してねってことなのかも。

 そうなるとこれを使ってルキアにラスアタ決めれば、何か特殊演出とか入るんじゃ……? 深読みしすぎかな。 うん、一応その可能性も頭に入れておこっと。

 負けたら嫌だから、流れによってはさっさと切っちゃうかもだけど。あー、にしてもどうしよっかなー!」

「フリー?」



 称号の確認も済んでスッキリしたところで、ブラットはニコニコしながら頭を抱える。

 その不思議な行動にフリーは疑問を浮かべながら近寄っていき、ブラットに捕まり抱っこされた。



「だって超位職はまだ取れないっていっても、上位職はもう取れちゃうわけで……いったいどれを取ればいいのか悩ましいったらないんだよ、これが」



 一気に選択肢が増えたことで、何をどう自分の力として加えていくのか悩みが増えた。

 もちろん次はこれかと狙っている上位職はいくつかあったが、ここまで緩く取得できるのなら、もっと取得しづらい条件の上位職に使うべきではないのかとも考えてしまうのだ。



「別の誰かが似たような称号を取得して超位職をたくさん取る前に、さっさと進化してオレが超位職では優位に立たないと。ここが一気に最上位層と距離を詰めるチャンスだ」



 などといっているが、まだまだ近々伝説称号に届きそうなプレイヤーは他にいない。

 というのもやはり選定勇者の全NPCへの友好度バフが、ブラット自身実感していないがチート並みの活躍をしてくれたからこそ、このタイミングで取れたのだ。

 でなければもっと地道に三大精霊たちの友好度を上げて、他の上位精霊たちとも仲を深めて信頼を得て──と、イベント進行はもっとずっとゆっくりだった。

 もちろんその友好度バフに加えて、ブラットの謎の嗅覚でイベントを適確に進めていけたというのも大きいのだが……。

 運営もこの超位職が実装されてたいして経っていないタイミングで、伝説称号を取るプレイヤーが現れるなど想定すらしていなかったことだろう。



「これは数日かけて、夜中にじっくりと考えていかないといけないな!」



 ブラットは……というより色葉は、ゲームを実際にするのも大好きだが、こうして自分のビルド構成をああしたらこうしたらと考えるのも大好きだった。

 『私が考えた最強のブラット』にするには、どうするのが最適解なのかと考えだすとわくわくが止まらない。



「けど……これだけてんこ盛りで渡されたってことは、最低でも超位職二つ、上位職五つを無料であげてもいいくらいの相手ってことでもありそう。

 これくらいはちゃんと育てておかないと、お話にもならないぞって感じで」



 BMOが無双ゲーであればプレイヤーが気持ちよくなるために用意した伝説称号となるのだろうが、そういう趣旨のゲームでないことはブラットもよく理解している。

 逆にこれくらい先に渡しておかないと、無理ゲーレベルの鬼畜難易度を用意しているよと、運営はニコニコ笑っているに違いない。



「いいじゃん、やってやろうじゃないの。ますます燃えてきた。強敵? 上等だ。きっちり強くなって挑んでやる。そのためにも──よいしょっと」

「フリーー」



 抱っこしていたフリーを課金拠点の自室の机上に置くと、いつもの日課となった英傑召喚をやっていく準備をしはじめる。

 まだゲームできる時間はあるが、どんどん挑戦時間も伸びていき、余裕を持ってはじめなければ夕食に遅れてしまう。



「あ、いた。そりゃ精霊剣作るのに協力した三人の上位精霊もいたんだから、その一部となった人がいないわけないよね」



 装備を調えながら英傑召喚の名簿を確かめてみれば、新たにスイ=エレとトール=ルニルの名前が増えていた。

 スイ=エレに関しては加護をもらった時点で確定したようなものなので、疑ってもいなかった。そちらよりも名簿に載っているのか気にしていたのは、トール=ルニルの方である。



「さっそく会いに行ってみようか。どんな人だろ、オレの英傑強制師匠化計画に乗り気だと嬉しいんだけど」



 ブラットはすぐに試練の間に行くと、トール=ルニルを召喚する。

 場所は他のニア=エレの周りにいた三人と似たような平原に変わり、ブラットの正面に逆立った金髪の若々しい顔立ちの精霊が現れた。



「ん……? ここは………………なるほど。理解した。お前が選定勇者だな」

「はい。よろしくお願いします。ブラットです」

「ああ、よろしく。俺と現世で縁があるということは既知の仲なのだろうが、自己紹介しておこう。俺の名はトール=ルニルだ。

 しかし今代の選定勇者はとんでもないな。ニア=エレ様だけでなく、他の大精霊様たちからも加護を授かっているとは驚きだ。

 ならば俺もお前の試練として、立ちはだかろうではないか。存分に俺を役立てるといい。──武器を構えろ」

「あの……その前にちょっといいですか?」

「なんだ。やらないのか。ならば何故、俺を呼んだ」

「いえ、戦ってもらいたいはもらいたいですが、その前にトール=ルニルさん。あなたは──堕精霊ルキアとの戦いの記憶はありますか?」

「はあ? 何を言っている。できることなら俺が叩き潰してやりたいところだが、どこかに隠れて出てきていないではないか。どう戦えというのだ」

「ああ、やっぱりか……」



 この試練で呼び出される英傑たちは、最も強い時点での肉体と記憶をもって呼び出される。

 若きゼインが現世のゼインと同じ記憶を共有していなかったのと同じで、今ここにいる彼はまだ自分がルキアと戦うということすら知らない頃のトール=ルニルだった。

 それもそのはずで、基本的に彼ら特別な上位精霊たちは主が近くにいるときが一番強い。

 それほどあからさまに変わるというわけでもないが、それでも主から一時離れルキアと戦ったときの彼よりも、その前のニア=エレの従者として近くにいた頃の彼のほうが強いとAIは判断した。

 ここではニア=エレが近くにはいないが、近くにいた状態での最高の状態のトール=ルニルとして呼び出されている。

 となると彼は、自分が既に死んでいることすら知らない。今も現実の自分はニア=エレの側で、友と一緒に仕えていると疑ってすらいない。



(けど精霊剣だしたら、一発で分かるよね)



 壊されていたとはいえ自分の核が吸収されているのだから、気づかない訳がない。

 そしてそこに自分の核があるということは、現実の自分はどうなっているのか分かるというもの。

 英傑召喚で呼び出された、仮想の英傑であっても感情はある。記憶も前に呼び出したときのことを、引き継ぎ覚えている。

 なので彼が自分の死を知ったとき、ショックを受けて試練どころではなくなってしまうのではないか。という心配事が発生しているのだ。


 ブラットは訝しげに見つめてくる彼にどう伝えるべきかと少し考え、変に隠したりできるものでもないのだから、はっきりと分かるように伝えていくのが誠実だろうと覚悟を決める。まずは理解してもらわないと、何も進まないと。



「落ち着いて聞いてくださいね。そして今から言うことは、冗談でもありません」

「……先程からなんなんだ。いいからさっさと言え。俺は三大精霊様方から加護を授かる男が、いったいどれほどのものか早く試したいのだ」

「なら端的に。オレの知っているトール=ルニルという上位精霊は、堕精霊ルキアの二度目の襲撃時にルキアと直接対決し、敗れています。つまり、亡くなっているんです」

「なにを馬鹿な──」

「これを見てもそう言えますか?」

「な……──────馬鹿なっ!!」



 上位精霊である自分が死ぬわけがないという自信があり、言葉だけでは信じないだろうと精霊剣シルヴァーナを取り出した。

 その瞬間、トール=ルニルは目を見開いて大声を上げた。たしかにそこに、自分の核を感じたのだ。

 それは自分の死体を直接見せられたようなもの、誤魔化しなど効かない真実がそこにあった。



「俺が負けた……? あの女にか……?」

「はい、二度目の大侵攻の際にスイ=エレ様の元に一軍の将として派遣され、そこでルキアとの戦いにより討ち死にされたと、ニア=エレ様から聞いています」

「にあ……えれさま…………ニア=エレ様は大丈夫なのか!? お怪我はされていないのか!?」

「わっ」



 ブラットですら反応できないほど素早く近づかれ、胸ぐらを掴まれた。

 彼にとっては自分の死より、確認しなければならないと必死に問いかけられる。自分が死ぬような状況で、主は無事なのかと。

 ブラットは落ち着かせるように掴まれた腕をポンポンと叩き、彼にとっての吉報も聞かせていく。



「ニア=エレ様は今もどこも怪我なく元気ですよ。今日オレと話してましたし、間違いないです」

「ならばスイ=エレ様は! ハオ=エレ様はご無事なのか!?」

「お二人共無事ですよ。スイ=エレ様はその侵攻時に手傷を負ったらしいですが、今はもう治ってますし」

「怪我をっ!? 俺は何をしているのだ!! 馬鹿者が!!

 でっ、ではホルス、キーリ、マリンナはどうなった!? 今ニア=エレ様をお守りしているやつは、ちゃんといるのか!?」

「そのお三方は、今もニア=エレ様の側に控えています。この剣を作るときも、手伝ってくれましたし」

「そ…………………………そうか………………」



 三人が無事と聞いてようやく、トール=ルニルはブラットから手を離して地面に座り込んだ。



「……あの三人がいるのなら、ニア=エレ様も安全だ。きっと俺の抜けた穴も、あいつらなら上手く塞いでくれるだろう」

「信頼してるんですね」

「当たり前だ。どれほどの時間、奴らと一緒にいる──いや、いたと思っている。三大精霊の方々の次に、この世で信頼できる者たちだ」

「それで、死んだことには納得してもらえましたか?」

「ああ、嘘をついているようにも見えないし、その剣もニア=エレ様が下賜されたものだろう。それほどまでに信頼されているお前が、俺を騙すわけがない。

 ではもう一つ聞かせてくれ。なぜ俺は死んだ後に、お前の剣の一部となっているのだ?」

「それは、トール=ルニルさんが望んだからですよ」



 ブラットは、この剣に移植された経緯をできるだけ詳細に彼に伝えていった。

 疑問ばかりが浮かんでいた彼の瞳にも、ようやく納得の色が浮かんでいく。



「そういう……ことか。俺のくせに負けてスイ=エレ様にお怪我までさせたというのは許されざることだが、もしそのような状況になってそのような状態になったのなら、俺はそうしているだろうと簡単に想像ができた。

 ブラット、といったな。お前は俺が見るに、多少なりともイカヅチを扱えると思うのだがどうなのだ?」

「まだまだ修行中ですが。今はこんな感じです」



 精霊剣に雷の刃を発生させ、それをトール=ルニルに見せた。

 座り込んだままそれをちらりとみると、彼はゆっくりと立ち上がる。



「若い割には少しはやるようだが、まだまだ半端な雷だな。そんなんじゃ俺を殺せたアイツを倒すなんざできやしないぞ」

「そうですね。だからいっちょ、オレに本物の雷ってもんを教えてはくれませんかね?」

「はっ、俺から言う手間が省けたな。むしろ嫌だと言っても、俺を呼び出す限り教えてやろうと思っていたところだ。

 お前に俺の人生全てで培った、雷の真髄を叩き込んでやる」

「ちなみに黒雷とかは使えたりとか?」

「ああ、使えるぞ。こんなふうに──な!」

「おおっ、やった!」



 黒雷の巨大戦鎚を手に発生させると、トール=ルニルはブラットから離れた場所に打ち付けた。

 すると一瞬で大地は蒸発し、巨大な穴ができあがる。

 黒雷の使い手の大天狗ジンライも英傑召喚で呼び出せるが、あちらはここまで協力的ではない。

 ようやく黒雷までの道筋をしっかり導いてくれる師匠ができたと、ブラットは満面の笑みを浮かべ喜んだ。



「黒を見せたくらいで喜んでいるんじゃない。あの女も黒を使うぞ。俺の黒は幼い頃アイツのを見て、真似してできるようになったんだからな」

「げっ、黒まで使いこなしてるのか……」



 黒は純粋なる破壊の象徴。ただでさえ馬鹿げた星の力を持っているであろうルキアが、さらに黒まで使って火力を上げてくるときている。

 ならば戦いまでに、ブラットも黒を使いこなしていなければ戦いにもならないだろう。さらにそこに灰が加われば、鬼に金棒だ。是非ともそこまで持っていきたいところ。



「そうだ。だが安心しろ。お前には俺がついている。俺がちゃんと順を追って教えてやるから、お前はそれを使いこなせるだけの肉体を早く手に入れろ。

 まだまだそれでは足りない。中途半端に黒雷が放てても、今のままでは待っているのは自滅だぞ」

「もっと進化しろってことですね。分かってます。もう次の進化の目星もついてますし」

「ならばよし。そうと決まれば厳しくいくからな。しっかりと付いてこい、ブラット!」

「はい!」



 熱血教師のように拳を突き出してきたので、ブラットもそれに合わせて自分の拳を軽くぶつけた。

 これでブラットの雷属魔法の師匠は確保できた。その事実にまた喜んでいると、そんなブラットを真面目な顔でトール=ルニルが見つめてくる。



「ありがとう、ブラット」

「なんですか、突然。お礼を言うのはオレの方でしょう」

「いいや、俺も感謝しているんだ。お前は、また俺にチャンスをくれた。

 そっちの俺はブラットの刃となり、こっちの俺はその切っ先を届かせるための道を切り開く。

 無様に死んだ男の敵討ちとしては、これ以上ない意趣返しだろう。

 絶対に勝てよ。ブラット。そのためならば、ここにいる俺は俺の全てをお前に授けよう」

「はい。勝ちます。トール=ルニルさんから教わった雷で、トール=ルニルさんが宿った剣で戦って──絶対に倒してみせます」

「──よく言った! ならばもう何も言うまい。ブラット、これより俺のことはトールと呼べ。いちいちフルネームでは面倒だろう」

「師匠、とかじゃなくていいんですか?」

「俺はもう死んだ身なのだろう? それもニア=エレ様のためにではなく、ただ戦いに負けて死んだ愚か者だ。

 今はお前に教える立場ではあるが、そんな呼び方をされるほど上等な存在ではない。敬語も不要だ!」

「……分かった。でも、あなたが凄い人だってのは間違いないんだ。あまり自分を卑下しないでほしい。オレの雷の師匠なんだからさ」

「ああ、覚えておこう……。こいっ、ブラット。今のお前の全力を俺に見せてみろ!!」

「望むところだ!!」



 言われた通り、ブラットは全力で戦った。雷魔法だけでなく、自分の持つ全てを駆使して。

 だがその全てが通用しなかった。まだまだ届かなかった。

 これほどの人物を正面から打ち破った存在を、自分は倒そうといっているのかと、今の自分の立ち位置を改めて思い知らされたような気がした。



「この程度で折れてくれるなよ」

「これくらい、なんともない。次はもっと厳しくていいくらいだ。オレは何がなんでも強くなりたいんだから」

「ああ、それでこそ選定勇者だ」



 最後はブラットが欲している黒雷で消し飛ばされ、課金拠点の自室に強制的にリスポーンした。



「はー、やっぱまだまだオレは弱いな! でも弱いってことは、もっともっと強くなれるってことだ。これからまた、いっぱい強くなっていこう。そのための手段は、今日で沢山手に入ったわけだしね」



 やる気いっぱいのブラッドを応援するようにフリーが入れてきたお茶を飲み干すと、ボロ負けしたことすら楽しみながら、次の英傑たちへと戦いを挑んでいった。

次は火曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 金策改善おめw ……ただでさえ必要経費かさむ境遇なのに佳境突入中ですからねぇ [一言] ルキア討伐成功で伝説称号は変化するのか、それとも増えるのか、楽しみにしてます
[一言] 称号効果ぶっ飛んでるなー。簡単ではないけど、最終的にこのゲームをやりこんで行くと今回のやつみたいな伝説称号が9個手に入って、上位職45に超位職18の解放がデフォルトになるのかな……?将来的に…
[一言] >>たぶんこれ堕精霊ルキアイベ関係の称号っぽいし、これで皆の想いをのせて倒してねってことなのかも。  そうなるとこれを使ってルキアにラスアタ決めれば、何か特殊演出とか入るんじゃ……? …
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