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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第八章

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第二一四話 クリスマスの狩り

 イブを二人で過ごした色葉と葵は、そのまま翌日も朝からBMOにログインする。

 今日はクリスマスである25日限定、全マップでランダムスポーンする『サンターキー』を探して狩るという簡易的なお祭りイベントが行われるので、それに紗千香と一緒に参加するために。



「ん? なんか運営からメッセージが届いてる。なんだろ」



 ブラットが課金拠点の方にログインすると運営からの全体メッセージが届き、メリークリスマスの文言と共にプレゼントが配布されていた。



「ふむふむ、男女別のサンタとトナカイのコス配布かぁ。

 効果は特にないネタ衣装みたいだけど無駄に作りはいいな。汚れ防止に修復機能付き、大きさはどんなサイズにまでも調節されるみたいだし、零世界での進化のときに着せるとかありかも?」



 プレゼントの中身は、計四着の衣装。男バージョンはネタに使えそうなガチのヒゲ付きサンタ衣装に、トナカイの着ぐるみ。

 逆に女バージョンはオフショルダーで付属のケープを外せば胸元が大胆に見える、可愛らしいスカートのサンタコス。モコモコの上着に角のカチューシャ、生足が際立つショートパンツにトナカイの尻尾が付いた、ややボーイッシュながら可愛らしいトナカイコスとなっていた。

 ちなみに男アバターだから女ものの衣装が着れないなどという制限はこのゲームにないので、ガチムチの男性キャラが胸元の開いた女性用サンタコスを着ることもできたりする。


 これらは、あくまで見た目重視の何の効果もない衣装。

 クリスマス以外に着ていたら浮くこと間違いなしで、コレクターや自分のアバターを着せ替えて遊ぶようなプレイヤーでもない限り、倉庫の肥やしになるだろう。


 しかし零世界であればクリスマスなど関係なく、ただの派手な衣服の一つでしかない。

 戦闘に着ていける性能はまったく有していないが、ころころ進化で大きさが変わる世界なので、自動調節機能がついているだけでも一時的な服として持っていく価値はあるだろう。

 そんなことを考えながら、とりあえず今は四着とも倉庫送りにしてHIMAと合流を急いだ。


 フリーを連れて二人で待ち合わせに指定した三町で待っていると、しゃちたんが少し遅れてやってくる。



「メリークリスマス。二人ともやっほー」

「「メリークリスマス、しゃちたん」」

「フリーフリーー」



 お決まりの挨拶をしたところで、さっそくサンターキーなる未知のニワトリ系モンスター探しに乗り出していく。

 討伐することでクリスマス限定のアイテムなどが入ったプレゼントを落とすので、欲しい人は今日中に狩っておく必要がある。



「プレゼントで何がもらえるのか分からないけど、最低でも【サンターキーの羽根】を100枚分はゲットしときたいな」

「羽根と【プレゼントボックス】っていうアイテムが交換できるんだっけ?」

「そうそう。クリスマスイベントの説明に、そう書いてあったからね」



 サンターキーを倒すことで、プレゼントの他にもう一つ確定で羽根が一枚手に入る。

 羽根は【サンターキーの羽根】、【サンターキーの銀羽根】、【サンターキーの金羽根】の三種類。

 どれが落ちるかは運次第で、銀は普通の羽根一〇枚分、金は百枚分の価値がある。


 当然価値が高いほどドロップしづらくなっており、金は現実時間で丸一日かけて狩りに勤しんでも、一枚出るかどうかといった超低確率。

 銀も普通の羽根より出づらくなっているので、基本的に落ちればラッキーくらいの気持ちで百体を目標に狩りに出かけるのがいいだろう──というのが運営の説明だ。


 そしてそれらの羽根を百枚分の価値だけ入手することで、現実時間で一日一回ログインするたびにアイテムが出現する【プレゼントボックス】と交換できるようになる。

 肝心のアイテムは、基本的に少額のゲーム内通貨や消耗品。なくても別にいいけれど、あったらあったで使うかな?といった粗品程度の代物だ。


 しかし極稀ごくまれに入手が非常に困難、もしくは今では入手ができない過去の期間限定イベントの超レアアイテムが出現するという説明もあり、さすがにブラットも無視できなかった。

 ブラットは約半年もの間まともに期間限定イベントに参加できず、入手しそびれたレアアイテムも多い。そこに極僅かな可能性だろうが、取りこぼしたアイテムの入手手段があるのなら絶対に手に入れるべきだろうと。

 それは後発でやりだした、しゃちたんも同じこと。HIMAもあって困るものではないので、是非とも手に入れようと考えている。



「ってことで、私らはどこで狩ろっか」

「出現場所は全マップなんだから、他の通常モンスターに邪魔されても面倒だし序盤のとこでやった方がいいんじゃない?」

「でも狩りたい人は皆、そう考えてそうじゃないか? ほら、ここだってもう結構な人が集まって来てるし」

「「あーー……」」



 ブラットたちを見に来ている人がいるのも確かだが、それ以上に湧きの確率も変わらず、場所もどこでもいいのなら、わざわざ高難易度な通常のモンスターが強い所でやるよりも、簡単に蹴散らせるマップで狩りをしたほうが効率的だと考え、序盤の三町にプレイヤーが密集してきていた。


 当然ながら一部の場所に人が集まり、多すぎればAIが自動的に別の世界軸にプレイヤーを送って人数整理してくれるようにはなっている。

 だがそこは、世界的にプレイ人口の多いBMO。それでもさばききれないほどの数が、今このときも序盤のマップに集まりはじめていたのだ。



「まあでも人が多いっていってもBMOは広いし、人がいなさそうなとこもあるんじゃない?」

「そうなるとサンターキーの前に、狩りスポット探しからはじめた方が良いかもしれないね」

「スポットを探しながら、ついでにいたら狩るって感じでまずは周ってみようか」

「フリーー」



 場の空気を読んで話に区切りがついたところでフリーが合いの手を入れてきて、三人はその頭をよしよしと撫でてから、さっそく人があまりいなさそうな方へと出発した。


 ゲーム内時間で一時間ほどウロウロして、ようやく良さげな場所に三人と一匹は辿り着く。

 三町からはかなり離れた、小さな町が近くにあるだけの草原地帯。

 通常モンスターも序盤の敵と比べると歯ごたえはややあるが、ブラットたちにとっては強くなく適当にあしらえる程度。

 さらに草原ということもあり見晴らしも良く、特定のモンスターを探すにはもってこいの場所。人も見える範囲に数人いる程度で、サンターキーの取り合いに発展することもない好条件な場所だ。



「いたよ! 絶対アイツでしょ!!」

「サンタの帽子に袋を背負った巨大ニワトリ……、にしても顔つきが悪い」

「そんなこと言ってる間にどっか行っちゃうよ、早く狩りに行かないと」

「それもそっか」



 サンターキーは凶悪な顔つきをした、ニメートル超えのサンタっぽい恰好をした白いニワトリだ。

 あれほど不自然な創作モンスターはBMOには存在しないので、名前を確認するまでもない。


 ようやく狩りに入れた三人は急いでサンターキーのいる方へと走っていき、武器や触手を構えるが──。



「コケケッ!? ──コケーーーッ!!」

「「「えぇっ!?」」」「フリィ!?」



 おもむろに担いだ袋からボールのようなものを取り出したかと思えば、それを地面に叩きつけた。

 すると一面に煙幕がたかれ、サンターキーの姿が見えなくなってしまう。

 慌てて駆け寄りブラットが《エアクッション》を使って煙幕を吹き飛ばすも、その頃にはもうすたこらさっさと逃げてしまい、目視できる範囲から消え去ってしまっていた。



「いや忍者かよっ! サンタじゃないのかよっ!」

「フリィィ…………」

「というかモンスターって敵対してくるイメージだったんだけど、逃げちゃうこともあるんだね」

「正直この場合、一番面倒くさいモンスターかも……。さすがBMOの運営、簡単に倒されたら悔しいじゃないですか精神満載だこと」

「これは無策で飛び掛かるのは悪手だな。罠でも張って逃げられない状況にするか、相手が気づく前に一瞬で倒すしかない」

「逆に見晴らしがいいってのも、考えものだったのかもしれないよ。だからここは人が少ないのかも」



 まさにHIMAが言ったことは的を射ており、サンターキーはその逃げ足の速さから逆に遮蔽物のある場所の方がプレイヤーに優位に事が運ぶようになっていた。

 その代わり探すのが面倒になるというデメリットもあるが、それでも逃げられるよりましだとプレイヤーたちは考え、見晴らしが良すぎる場所には集まらないようになっているのだ。



「あー……なるほどねぇ。でも今更また違う場所探すのも、ちょっとダルいよね?」

「だなぁ。とりあえずここでいろいろ試してみて、無理そうなら別のところを探すって感じで行こうか」



 狩りやすいスポットはスポットで、場所もサンターキーもプレイヤーたちの取り合いになっているので、それはそれで面倒なことになる。

 ならば多少狩りづらくとも、ここでチャレンジしてみようとブラットたちは策を練っていった。


 幸い湧きはそこまで渋くなく、見晴らしがいいので直ぐに二体目のサンターキーが見つかった。

 ブラットたちは身をかがめ、相手の視界に入らないよう遠くで監視していく。会話も全て通話に切り替え、細心の注意を払って。



『それじゃあ、まずはオレが行ってくる。作戦通りいこう』

『『うん』』



 ブラットは作戦開始と同時に、白紙のスキルブックを使って覚えた新たなスキル【なばり掩蔽えんぺい】を行使する。

 手で印を結ぶと体から薄黒い霧が立ち込め、その身を一瞬でおおっていく。するとブラットの気配が驚くほど薄くなり、霧が周囲の色に同化して迷彩色のように見えづらくなった。


 これは気配や物音、香りに姿まで薄くする、忍者系統のスキルに属するもの。

 零世界でも敵陣に乗り込むときに便利だろうと、今のうちに隠密系のスキルを一つ取っておくことにしたのだ。



(戦闘中に使うこともできるしね)



 戦闘中でも相手の視界から消えたときに使えば、次に自分を補足するのを遅らせられる。また効果は薄くなるが、複数を覆い隠すこともできるので隊で行動するときにも使えるだろう。


 特殊な索敵スキルもなく、音や香り視覚で近づくプレイヤーを警戒しているサンターキーの背中側からジリジリとブラットが近づいていく。



「クケェェェェ!!」

「よし、捕まえた!! 絶対、逃がさないからな!!」



 アイテムスロットから一瞬で取り出した、しゃちたんが作った縄をその首に引っかける。

 当然サンターキーは暴れ狂い縄を引きちぎろうとするが、しゃちたん製なのでゴムのように伸びて切れることはない。



「させるかっ!」

「クケッ!?」



 袋から何かを出そうと羽を伸ばすが、それはブラットが幽機鉱の翼で弾いて阻止する。

 その間にHIMAが前方から駆け寄って来て──。



「こっちにもいるよ!!」

「コケッ!? コケケケケケーーーーーー!!」



 これ見よがしに槍を構えてやって来るHIMAの方が危ないと、首に縄を付けたままブラットをくっつけ逆方向へ、とんでもない速度で逃げていく。

 逃げ足だけならブラットよりも速いだろう。縄がなければブラットも振り払われていたほどだ。

 しかしそれでも問題ない。向かった先には、しゃちたんが文字通り網を張って待っているのだから。

 ブラットはそれまで頑張って、袋の中身に手を出させないようにするだけでいい。



「いらっしゃーいってね!」

「コケケケッ!?」



 逃げることに必死で、クモの巣のように透明な糸で編んだ網が広げられていることに気づかず突っ込んでいくサンターキー。ブラットはちゃんとその前に離脱したので、巻き込まれることはない。


 体中に糸が絡まり藻掻くサンターキーは、一生懸命逃げようとするが上手くいかない。慌てているせいで、余計に抜け出せなくなってしまっているのだ。

 そこへ後ろから炎を翼から吹き出し、ロケットのように突っ込んでくるHIMA。

 上空で精霊剣と英装魔剣を両手に持って、振り上げるブラット。

 体中を煌かせ宙に浮き、【スタータックル】という硬化した状態で流星のように突撃するスキルを溜めていくしゃちたん。


 逃げることに特化したサンターキーに袋の中身のアイテム無しに、これらを受けて生き延びる術はない。



「「「くらえーーーっ!」」」

「クケーーーーーーーーェェッ!?」



 前後と上から繰り出される攻撃に、サンターキーはなすすべなくデータの粒子となって消え去った。

 残されたのは、ラッピングされたプレゼントの箱に羽根が人数分の三枚のみ。



「あれ? なんで箱が四つもあるの?」

「ほんとだ。一人一個なはずなのに何で……? バグかな?」

「あっ、たぶん違う。これってオレの選定勇者の称号【英雄の資質】の効果だ。ほら、オレだけ二つ触れるし」

「なにそれずっこい!」

「あーなんか、ドロップアイテムが一つ増えるとか言ってたっけ。いいなぁ」

「期間限定イベントだと別世界扱いだからか一緒だったけど、こっちなら効果が発揮されるからな。

 にしても、こういう特殊なモンスターにも発動するとは思わなかったけど。あ! しかもオレの羽根だけ銀色だ! ラッキー」

「「えええーーーー!?」」



 【英雄の資質】の称号効果にはドロップアイテムを一つ増やす効果の他に、プレイヤー自身の運を上げる効果もあった。

 それはそこまで強力なものではなく、お守り程度のものなのだが、今回はたまたまブラットだけ銀色の羽根を入手することに成功する。


 とはいえ実は運営は特殊な突発イベントなので、気付いていたらその効果が出ないように設定していただろう。しかし今回は誰かのせいで忙しいあまり、ブラットの称号のことはすっかり忘れてしまっていただけだった。


 そんなこととは知らず二人に羨まし気に見られながら、プレゼントの箱を開けてみれば一つはホールケーキが、もう一つにはフライドチキンが入っていた。

 HIMAとしゃちたんのプレゼントボックスの中にも、ホールケーキが入っていた。



「ケーキの効果は一口食べるだけでHP、MP、ST中回復って、けっこう凄いね」

「チキンも食べれば一時的に空腹値マックス状態維持に、攻撃力アップとかけっこういいな」

「でも一度に食べすぎると、AGIの評価が下がるって説明に書いてあるよ。

 ゲームの中くらい好きに食べさせてよね、まったくもう」

「素早さは下げたくないね。美味しそうだけど食べるときは気を付けなきゃ」



 今回のプレゼントの中身はそこそこ当たりの部類。だがまだ他にも、クリスマス限定のアイテムは存在する。



「よしっ! やる気出てきた。これでいけるって分かったし、あと99匹狩っていこう!」

「これをあと99回かぁ……しんどいなぁ」

「まあまあ、私たちもブラットみたいに銀の羽根でも当たれば倒す数も減るんだから、頑張っていこうね」

「はーい」「フリー!」



 それからブラットたちのサンターキー狩りは本格化していき、けっきょくブラットには銀の羽根が二枚、しゃちたんとHIMAは一枚という結果になり、金の羽根は一度も見ることはなかった。

 だがきっちり【サンターキーの羽根】を百枚分の価値になるだけ集めたうえに、時間が許す限り狩ったので総討伐数は百体を超えていた。

 プレゼントもレアなものもちゃんと出てくれたので、やった甲斐はあったといえよう。



「ふぅ、けっこう美味しいプチイベントだったな」

「だね。お正月にもなんかやってくれるかな?」

「さぁ? でももしあったとしたら、お餅を倒すイベントだったりしてね」

「あははっ、それはそれで楽しそうだ」

「フリーー!」



 こうしてブラットたちの今年のクリスマスは、終わりを告げたのだった。

次話は土曜日更新予定です!

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