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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第七章

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第百八一話 クモの巣

 ダンガムたちのパーティと別れたブラットたちは、フリーの権能とやらについては本人も分かっていないようなので結局謎のまま、『インヴィジブルモニター』がいるといわれている座標までたどり着き、拍子抜けするほど簡単に【慧眼】で見つけることができた。


 運が良かったというのもあるが、かなり隠れるのが上手いインヴィジブルモニターを短時間で見つけるられるというのは、やはり【慧眼】あってのことだろう。



「ギィィ」

「たーんとお食べ。たくさんあるからね」

「ギィイイ♪」

「なかなか迫力ある食べっぷりだ」

「ほんとにね。ここまで大きいと、もはや恐竜みたい」

「戦い的に毒も使うかな~って期待してたけど、そうでもなかったか~。残念」



 それぞれの感想を胸に、無事にインヴィジブルモニターから【召喚:不可視蜥蜴】の加護を貰うことに成功。


 召喚系の加護はゲーム内時間で一日一回とインターバルが入る上に、加護を授かったときほどでないにしろ〝次〟を願うなら好きな食べ物も用意しておく必要がある。食べ物がなければ、そこで加護は消えてしまうから。

 また召喚した個体が止めを刺した場合、報酬もドロップ品も経験値もなくなってしまうというデメリットまであった。


 その代わりいつでもどこでも対象のモンスターが環境によって、いるだけでダメージが入るような場所でもなければ協力してくれる便利な加護だ。


 帰り道には川にいた知の眷属に属するピンクのイルカから【水中探索】という、水の中で呼吸でき移動速度が上昇する水中での探索ができるようになる加護を貰えたりと、なんだかんだと収穫も大きかった。


 それから順番に時間をかけ、土の魔法を得意とする闘牛の『ツチウシ』から【召喚:土牛】を。

 一撃一撃は軽いが非常に素早い三兄弟の『カマイタチ』からは【召喚:鎌鼬】を──と、三種から加護を得ることができた。他にも道中で得られた加護も、いくつかある。



「あと二か所残ってるけど……時間的に明日だな」

「最初から分かってたことだけど、やっぱり時間がかかるね」

「けどクリア目指すならここはもう割り切って、どれだけ時間を使っても助っ人はたくさん用意しておくに越したことはないからね~」

「助っ人って言っても、ずっといてくれるわけじゃないし、連続で何回も好き勝手呼べるわけでもないしね。数こそ正義だよ」



 まだ予定のαモンスターは残っているが、その二種に会いに行くまでに時間をかけすぎて本日は時間切れ。

 ブラット、HIMA、しゃちたんの学生組は、ここでログアウトを余儀なくされた。




 翌日、期間限定イベント三日目。ランランが来るまでの間にブラットたちは、昨日の探索で得た加護を使えば加護を貰いに行けるαモンスターもいるのではないかと再度調べ直し、水中に隠れている『アイアンクラブ』という鋼のような甲殻を持つ大きなカニのモンスターもピックアップした。


 できうる限りランランがくるまで情報を漁り、探索の準備も万全に。彼女が合流したら、すぐ出発だ。


 次に目指すのはドリルのような螺旋状の角を持つ大きなカブトムシ──『スパイラルビートル』。

 攻撃力、防御力、HPにスタミナは、ブラットたちが加護を授かれそうなαモンスターたちの中でトップ。

 それでいて機動力もそれなりにあり、空も飛べるので空中での戦闘もこなせる──と戦闘能力だけで言えば超優秀な助っ人だ。しかし……。



「ただでさえみんな食いしん坊な子ばかりなのに、その子は他の三倍は食べさせないといけないっていうね……」

「オレの最大まで拡張してるカバンの中、ほとんど食料で埋まっちゃってるしなぁ……」



 最初に用意する食料の量もトップ。呼び出した後、次も望むための食費もトップ。強いが何度も呼び出していれば、確実に破産するレベルの大食漢なのだ。



「けど切り札としては、確保しておきたいからね~」

「呼び出すかどうかはともかく、お守りとして確保しておきたいよね。カブトムシさん」



 夏のように暑い気候の地域で、どこからともなく響いてくるセミの音を耳に、森を四人と一体はゆっくりと進んでいく。

 ただこの森は木々の一本一本や生えている草花、キノコなど、どれをとってもスケールが大きく、まるで小人になって森に迷い込んできたかと思うような錯覚を起こさせる風景が広がっていた。



「なんか……ここだけめっちゃ静かじゃない?」

「何かあるのかもしれない。ランランとフリーは【隠密行動】の加護を発動しててくれ。オレたち戦闘班は最警戒で行こう」



 ここまでの道中はα、β問わずモンスターがあちこちにいたのだが、何故かぱったりとセミの音もなくなり、なんのモンスターもいない不自然な場所に足を踏み入れた。

 明らかに何かあると不気味さを感じながら、【慧眼】で上から下まで辺りを見渡し、これまで以上に速度を落として進んでいく。


 するとブラットが何かを発見する。



「あれは……? みんな、あそこ」

「あれって……クモの巣?」

「ねー。あっちもない?」

「それを言うならあっちにもあるよ~。でも変な張り方だね~」



 透明すぎて【慧眼】がなければ気づかっただろうと言えるほど、巧妙に張られて広がる直系二メートルサイズのクモの巣。

 普通ならば木と木の間に張っていそうなものなのに、不自然に地面にシールでも張るようにあちこちに設置されていた。


 気になったブラットたちは糸に触れぬよう恐る恐る近寄ってみれば、その巣が張られた下は落とし穴のように穴が開いていることが判明。

 木の葉や土をかけて、見た目ではそこに穴が空いていると分からないほど丁寧な仕事ぶりだ。



「ここに体重を乗せると、自重で底に落ちながらクモの巣に包まれるって寸法か。確かこんなβモンスターの情報、見た覚えが……」

「これじゃない? ピットフォールスパイダー」



 HIMAがすぐさまスクショを出して共有し、皆でそのクモの情報について目を通していく。


 それによれば、この種はあちこちに落とし穴を作り、その下にアリの巣のように本体が住まう居住スペースと食料保存庫、宝物庫。産卵期になれば産み付け部屋と呼ばれる産卵用の部屋をと、複数作って過ごしている。


 食料はもちろん落とし穴に引っかかった人間やモンスターで、超が付くほど肉食で狂暴。

 あの地面に張られた巣の一つ一つが糸で主の部屋と繋がっており、それを手繰り寄せて捕食もしくは保存庫に収納する。



「宝部屋? なにそれ? モンスターなのに、そんなのあるの?」

「カラスみたいにキラキラした物が好きみたいだね~。

 金貨だったり、宝石だったり、鎧だったりとかはそこに保存してるんだってさ~」

「出所はまあ……気にしないでおこう。それでどうする?」



 ブラットのどうする?は、もちろん宝部屋に行ってみるかどうか。

 上手くいけば、そこでも珍しい何かが手に入る可能性は充分にある。



「主の部屋に繋がる糸に触るとさすがにアウトだろうけど、それに気を付けながら静かに行けばいけそうではあるよね」

「お? じゃあいっちょやってみちゃう?」

「これから先も入用になるだろうし、ここらで一稼ぎもいいかもね~」

「なら決まりだな。ランランは──」

「──ここで隠れながら見張りとフリーの護衛だね~。おっけ~」

「フリー♪」



 すんなり決まったところで、ブラットが持つ大量の食糧は一度ランランが隠れる場所に置いていき、収納スペースを広げてからトライ開始。

 クモの巣に触らないよう近くに穴を掘り、落とし穴に繋がる横穴を作っていく。



「これだけ大きければ、もし逃げ帰るってなったときも安心だ」

「それじゃあ降りるよー。二人とも私に掴まって」



 ブラットもHIMAもできるだけ翼を折りたたみ、近くの木に【アリアドネ】の糸を巻き付けたしゃちたんにくっつき、ゆっくり穴を降りていく。

 今回は念には念を入れて【隠密行動】の他にも、昨日道中で入手した周囲が暗ければ暗いほど気配が薄くなる【闇のとばり】、相手が格上なほど敵から見つかり難くなる【小さき者】と身を隠せる加護は全部使って。


 穴の深さは五メートルほど。下に降りると、しゃちたんは自分の糸を切り離し彼女も装備品を解除し【隠密行動】を発動させる。



『この奥に宝部屋もあるはずだ。【暗視】の加護があるから、暗いままでも問題なし。このまま進もう』

『『うん』』

『がんばって~』



 上で待つランランの声を通話ごしに聞きながら、斜め下へと洞窟のように掘られた穴を進んでいく。

 幸いアリの巣のようにあちこち部屋があるわけでもなく、迷う心配もない。主の部屋まで伸びる糸を踏まないよう気を付けながら奥へと三人で行く。



『四方向に伸びた分かれ道か……』



 クモにバレることなく二〇メートルほど下り坂を行くと、前方に四つ又に分かれた道に行き当たる。これが示すところはつまり──。



『この真ん中右の糸が伸びてる道の先は主の部屋だとして、他に三つあるってことは……産卵期でもあるってことみたいだね。産卵用の部屋があるってことだろうし』

『産卵期だと余計に狂暴ってのも、HIMAが撮ってきてくれたスクショに書いてあったよね?

 やだなぁ。でっかいクモってだけで嫌なのに、その卵なんて見たくないよ』

『三分の一を引かないことを祈るしかないな』



 などと言ってしまったせいか、どうやらフラグが立ってしまったようだ。

 ブラットたちが選んだ先にあったのは、繭玉のように糸で守れた卵が五つ壁に産みつけられた部屋に辿り着いてしまう。



『誰が選んだんだっけ?』

『まあまあ誰だっていいじゃないか。ははははっ』

『よくよく考えたら産卵期になったら作る部屋なんだし、両角のどっちかが産卵部屋だったんだよね』



 考えてる時間がもったいないと、ブラットが適当に左から総当たりでいいだろうと進んだ結果、しゃちたんが見たくなかった場所に大当たり。



『これはどうすんの?』

『無視するしかないんじゃない? 下手に手を出してここの主に気づかれたら、お宝どころじゃなくなっちゃいそうだから』

『だなぁ。ってことで、この卵は見なかったことにしよう。人類のためを思えば、ここで破壊しといたほうがいいんだろうけど』



 藪蛇やぶへびはごめんだと、ブラットたちはすぐに来た道を引き返し、その隣の道──正面から見て中央左の道へ向かう。

 今度こそお宝があってくれと願ったその先には──。



『…………マジか』

『これはさすがに、ほっとけないかも……?』

『そうだけど……今の私には荷が勝ちすぎてる気もする……』



 二分の一の確率も外し、ブラットたちは食糧庫に行きついた。

 そこには糸で簀巻きされた、αモンスターの子供が大量に転がっていた。しかも生きた状態でだ。

 死んでいるのなら手を合わせてサヨウナラでも良かったのだろうが、弱ってはいるがちゃんと生きている。

 この子たちを無視して放置していくのは、さすがに気がとがめた。


 だがその一体一体に付けられた糸は、そう簡単には剥がせないよう壁や地面にがっちり粘着させられていて、これを剥がそうとなると主に気づかれずにやるのは不可能だろう。



『確かあの情報によると、産卵期には生まれた子供に食べさせるためのエサを多めに確保するようになる……とも書かれていたっけ。

 十中八九、この子たちは子供のエサ用に腐らないよう生かしてるんだろうな』

『じゃあ、すぐに食べられちゃうわけじゃないってこと?』

『だろうね。すぐに孵化しそうな気配はなさそうだったし』

『だとすると応援を呼んでくるっていう手もあるかもしれないけど……オレたちだけで助けられるならそっちの方がいい気もする』

『ゲーム的な考えで言っちゃうと、ここで子供を返せば確実に親御さんは感謝してくれるだろうしね』

『ああ、そっか! ここにいる子たちの数だけ加護が大量ゲットできるかもってことだね。確かにそれは嬉しいかも』

『とりあえず初志貫徹ってことで~、お宝部屋に行ってみれば~。

 そんなところで呑気に考えてても危ないし~、作戦を練るにしても外の方がよくな~い?』

『それもそっか。食糧庫ってことは、お腹がすけばここに食べにくるってことだろうしな』



 固定されていない死んだ状態の食料もそこそこあるので、この子たちが優先的に食べられるということはまだないだろう。

 比較的猶予(ゆうよ)はありそうなので、ブラットたちは上でフリーと待っているランランの意見を採用し、急いで引き返して最右の道へ。



『おお! 思ってたより大量だ。持ち帰れるかな?』

『クモが集めたってことだから、もう少し控えめかと思ってた! すごーい』

『これだけあるなら、一回支部に戻るのもありかもね。それなら最悪食料を森に置いてけるし』



 今回の目的であったカブトムシのαモンスターに渡す予定だった大量の食料を、ここで捨てて行ってもお釣りがくるほどの金銀財宝の数々が無造作に散らばっていた。

 金貨などはもちろん、なんだか高そうな鎧や指輪など装備品としても価値がありそうなものまで沢山ある。

 これを置いていくのは、もう一度ここに来なおす面倒さと天秤にかけても断然こっちだと選べるほどに。


 ここへはできるだけ身軽にしてから入ってきたので、カバンの容量は充分だ。

 最大まで拡張されたブラットのカバンに、HIMAやしゃちたんのカバンもフルに枠を使って全部詰め込んでいった。



『それじゃあ、あの子たちは心配だけど、とりあえず後は戻るだけだね』

『気を付けて帰っといで~』

『はーい。すぐ帰りますね。それじゃあ行こ、ブラット。…………ブラット?』



 取る物は取ったと一時撤退しようと動き出す二人に対し、ブラットは何かを考えるように顎に手をあて立ち止まっていた。

 HIMAがどうしたのと肩を叩くと、ようやく意識が戻って来る。



『提案なんだけど、ここの主の部屋も見ておかないか?

 どんなやつなのか、どんなところでどんな風に過ごしているのか、そういうのを直に見たほうが、救出の作戦も考えやすいと思うんだ』

『あー……、それは確かにあるかも。しゃちたんはどう思う?』

『うーん……、あんま気は乗らないけど、二人がそう言うなら見てきた方がいいのかも。

 もしかしたら、呑気にお昼寝しててくれてるかもしんないし』

『こっちはクモのおかげか平和なもんだから、少しくらい遅くなっても大丈夫だよ~』

『なら決まりだ。行ってみよう』



 食糧庫に行かなければ、このまま憂いなくウキウキ気分で立ち去っていただろうが、ブラットたちは交差点まで戻ると、主が住まう部屋へと伸びる道を行く。

 ここからはいきなり出くわす可能性が一番高いので、身を潜める加護もあるが、できるだけ慎重に慎重を期して進んでいった。


 そして、この巣に住まう主を三人は目撃する。



『残念ながら寝てはなさそうだ』

『うげげー。でっかいクモー。しかもなんか食べてるし……グロー』

『私やブラットは、もうゲームとかで慣れっこだから平気だけどね。グロもクモも沢山あったし』



 そこは一番大きく広い部屋。床にも壁にも天井にも縦横無尽にクモの糸が張り巡らされ、全長ニメートル半ほどの巨大蜘蛛が謎のモンスターの亡骸を貪っていた。

 骨は邪魔なのかペッと吐き出し、床面に張られた巣の下にある穴に、ポイっと捨てる。

 見た目に反して綺麗好きなモンスターなので、ゴミ箱用に一段掘り下げているのだ。そこにゴミが溜まれば、外に捨てるか引っ越すかという生活をしている。


 加護のおかげか、はたまた食事に夢中なせいなのか、かなり大胆に覗き込んでもバレることはなく、部屋の構造をコソコソと確かめスクショを取ると、ブラットたちは今度こそ外へと脱出を果たした。

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