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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第七章

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第百七八話 フリーの導き

 スパイダーやセンチピードなんていう物騒な密猟組織の人間がまだうろついているかもしれないと、ブラットたちはここでの探索を切り上げ帰還を選択した。

 一番の目的である通信端末の送信主から、情報を得ることはできたのだから充分な成果といえよう。



「けどあわよくば心の神殿に行けたら──とも思ってたんだけどな」

「あんまり欲張りすぎてもね。もう少しここが落ち着いてきたなら、また来てもいいんだろうし。今回はね」

「あの恐ーいクモのお面被ったやつが、忘れ物したぜ!とか言って戻って来るかもしんないしね」

「それだけは勘弁だね~。とくに暗殺系の人って、毒耐性とか解毒剤を常備してる場合がほとんだし~。今の私の天敵みたいなやつだからね~」

「今の、ですか?」

「うん、〝今の〟だよ~天ちゃん。元々の実力が発揮できるなら、そんなの無視して毒殺してやるんだから」

「それはそれで凄いな……」

「けど次はもう少しマシな毒が作れるかも。面白い物も手に入れられたしね~」

「「「面白い物?」」」「フリィ~?」



 今はHIMAの頭の上にいるフリーも一緒にブラットたちと首をかしげていると、ランランはアイテムスロットからゴム栓がされた小さな試験管を取り出した。

 その試験管の中には、ほぼ無色透明な水にしか見えない液体が。



「あのゴブリンさん、こんなの隠し持ってたから治療中にかすめておいたんだよね~」

「それはなんなの? パンダさん」

「これはね~。私の本能が、結構な毒物だって伝えてくれてるんだよ~。

 これは本マップじゃなかったものっぽいし、みんながログアウトしてから研究してみようと思ってるんだ~。

 ふふふふ……楽しみだなぁ~。どんな毒なんだろ~ふふふ、ふふふっ」

「心強くはあるけど、マッドな笑い方だなぁ」

「フ……フリィ……。──フィィ?」



 怪しく笑いながら毒物だという液体にうっとりするランランは、なかなかに怪しさを感じさせるものだった。

 フリーでさえその笑い方に少し引いていた……のだが、ふいに何もない方向へ視線を向ける。



「どうしたの? フリー」

「フリーー?」



 HIMAの頭の上から耳の翼をはためかせ離れると、ゆっくり気になる方へと飛んでいく。

 ブラットたちはその不思議な行動を止めず、フリーの特殊性を信じて何かあるのだろうと後を追う。

 すると数メートル進んだところで止まり地面に着地すると、何もない空間に向かって短い前足を正面に突き出した。



「フィ~フリィーフリィィィイ」

「なんかフリー虹色に光ってない? 普段の私みたい」

「前足パタパタさせて可愛いな~。けど何してるんだろ?」



 動きがいちいち可愛いので、四人はホッコリしながら敵襲に注意はしつつもスクショを撮っていると、フリーの目の前の空間が歪み楕円形に波打ちだした。



「フリー!」

「えっと、そこに入れってことでいいのか?」

「フリィ~♪」

「そうみたいだね。どうする?」

「フリーが入ってほしいならいいんじゃない? 何があるのか気になるし」

「だよね~。それに、この子が私たちに悪いことするわけないし~」



 悪いことにはならないというのは四人の共通認識だったこともあり、少しも迷うことなく、その空間へと足を踏み入れた。



「特に変わった様子はないけど……そっちに行けばいいのか?」

「フリーー」



 波打つ薄い膜のような空間を潜り抜けたが、景色は特に変わりない。先ほどまで見えていたものと同じ森が広がっているだけ。

 だが四人が通ると波打つ空間はすぐに消え、フリーがこっちこっちと帰り道とは違うほうに向かって手招きしてきた。


 ここで梯子はしごを外すなんて選択肢はなく、最後まで案内を受け入れることにし、ぱたぱたと前を行くフリーの背中を追いかけて行く。すると──。



「フリィ~~」

「これって……神殿だよね?」

「まあそうかもなとは思ってたけど、ほんとに来れちゃったのか……」



 知の神殿をギリシャ風とするのなら、ここにあるのはインド風な小さな神殿。少し苔むしていたり、ツタが絡んでいたりはしているが、そこまで古いという印象は感じさせない。

 そんな神殿が、フリーに案内された先にあったのだ。



「神殿の形が違うってことは、知の神殿じゃあなさそうだし、やっぱり心の方の神殿かな~?」

「そーかも。あ、でもそうだったらだよ? フリーは心の主の眷属ってことになるんじゃない?

 ちょっとだけ、この子のことが分かっちゃったかも?」

「うーん……それにしては前の子ザルのときと違って、強引に道を開けたようにも見え──ほら、違うってさ」

「フリィ~~」



 しゃちたんの三大天が一体──心の主の眷属かという言葉に対して、フリーは心の眷属じゃないよとでも言うように首をプルプルと横に振った。



「いろんなαモンスターの加護がコピーできて、麒麟……もしくは三大天?側が閉じてた道も開けられるって、ますますフリーって何者なんだろうってなってきてるよね」

「やっぱり麒麟の卵だったとかは? それなら、そのくらいできそうじゃん?」

「そりゃあこの世界の神様みたいな存在と同じなら、それくらいできるんだろうけど、どうみてもこの子は麒麟って見た目はしてないだろ」

「麒麟に進化する前の姿がこの子って可能性はゼロじゃない気もするけどね~。

 けどま~けっきょく全部憶測の域を出ないんだからさ~。とりあえず神殿の中に行ってみな~い?

 もしホントにここにあるのが心の神殿っていうなら、ダイジャっていうそのまんまの名前のおっきなヘビがいるんだよね~? 会いに行ってみようよ~」

「確かめるっていう意味でも、それがいいかもしれないな。フリーもそれでいいか?」

「フリー!」



 むしろ入ってくれと大きく頷くと、定位置のようにブラットの頭の上に飛び乗り短い前足を突き出し先をうながした。

 その姿に笑ってしまいながらも、念のため警戒は最大に。HIMAとしゃちたんが前に立ち、ランランとフリーの守り手としてブラットが中央に陣取り神殿の中へと入っていった。


 大きさとしてはそれほど大きくないので、中に何かいればすぐに気づかれる。薄暗い神殿の隅にいた大きな影が、四人に気が付き長い体をにゅうっと伸ばす。



「シャーーーーー!!」

「待って! 私たちは敵じゃないよ!」

「シーーーー」



 かなり気が立っているようで、しゃちたんが敵意はないと発光しながら触手を二本あげ、イージスのバッジも見せてみるも、疑いの眼差しは止めてくれない。

 それ以上こちらが近づけば噛みついてやると言わんばかりに、シーシーと威嚇の声を上げて聞く耳も一切持ってくれない。


 しかしここでもフリーがまた、不思議なことをやってみせた。

 体を薄っすらと虹色に輝かせながら、ブラットの頭の上から飛び立ちダイジャの目の前まで飛んでいく。



「シャーーーー!!」

「危ないぞ! フリー!!」

「フリ~~♪」



 フリーどころかブラットたちでさえ丸呑みにできそうな大きな口をガバッと開き、パタパタと近づくフリーに怒りの声をあげるダイジャ。

 そんな状況にブラットたちが慌てて止めようとするも、フリーはいたってマイペースに近寄っていく。


 ブラットたちはダイジャを止めようと思わず動きそうになったのだが、その前にダイジャの警戒や怒りがいぶかしむようなものに変わり口を閉じた。



「………………シャーー?」

「フリーフリー」

「………………シ~~?」



 ダイジャの鼻先まで近づくとフリーは、友人にでも接するかのようにペタペタ触りだす。ブラットたちは大丈夫なのかとソワソワしっぱなしなのだが、お構いなしに。

 ダイジャもダイジャで触られることに抵抗はないのか、されるがままに「……何だコイツ?」と加護もなく感情が伝わらないはずなのに、困惑している様子が伝わってくる。


 だが結局はフリーに押し切られたかのように、自身もモヤモヤしたものを抱えていそうな雰囲気でダイジャは伏せるように床にとぐろを巻きなおす。



「フリーーーフリーーーー!」



 大人しくなったのを確認すると、フリーはブラットたちのほうに振り向いてバタバタと体を動かしジェスチャーで何かを伝えようとしてきた。

 見る限りでは、ご飯を食べるような素振りだ。



「フリーは、お腹が空いてるのか?」

「フリィィィイ」

「フリーじゃなくてダイジャの方?」

「フリー!」



 それ! と答えを出したHIMAに右前足をびしっと指示した。

 そしてそのままジェスチャーで、食べさせてあげて欲しいと一生懸命訴えかけてくる。よくよくダイジャを観察して見れば、大きさのわりに細く痩せているような印象を受けた。

 そこでブラットたちは、手持ちやカバンから惜しみなくダイジャが食べられそうなものを出していった。



「シヤァーーー?」

「ああ、食べていいよ。お腹空いてるんだろ?」

「シャーーー!!」



 積まれた食料を前にダイジャははじめこそ遠慮がちに食べていたが、よほどお腹が空いていたのかペロリとその全てを平らげてしまう。

 量が量だけにブラットたちとしても決して安い出費ではなかったが、フリーがそうしてほしいというのなら仕方がない。この四人はフリーに対しては、どこまでも甘いのだから。


 それにダイジャは感謝の証として、加護を授けてくれたのだからむしろお礼を言いたいくらいである。



「シャーー」

「お~、このダイジャの感情が分かるようになった~」

「名称こそ【心の眷属の恩人】だけど、効果は【知の眷属の友】の心の眷属バージョンって思っていいみたいだね」

「さすがに大眷属ではなかったみたいだけど、いきなりそれは高望みだろうしねぇ」

「なんにしても心の方も繋がりが一つできたと思えば、三大天関係のイベントもちゃんと進められたってことでいいはずだ。

 改めて加護をありがとう、ダイジャ。けどなんだって、そんなにお腹を空かせていたんだ? ダイジャくらいの強さがあれば、そこらで狩りもできただろうに」



 ハッキリ言ってダイジャはあの猿の親子よりも強い。ブラットたちでも勝ち切るのは無理だろうと思える程に。

 この森の外にいたβモンスターくらいならば、簡単に飲み込めるくらいの力はあるのだ。



「シャーーーシャーシャー」

「フリーーーフリイィーー」



 ブラットのそんな質問に対しダイジャは感情で、フリーはジェスチャーで、その理由をどうにかこうにか教えてくれる。


 それによればここ最近、ダイジャは嫌な予感がしていたという。

 ダイジャの嫌な予感は毎晩見る夢によるスキル由来のもののようで、的中率もかなり高いというのもあって、ここから離れることができなかった。

 理由はもちろん、尻尾の先で今も抱えている自身の卵を守るため。


 だから余計にブラットたちが来たとき、全力で警戒していたというわけだ。

 もしもフリーがいなければ今こうして気軽に接したり、食べ物を受け取ったりなんていう関係にはならなかっただろう。



「フリーのおかげだね! けど嫌な予感かぁ……。それって、たぶん外にいたアイツのせいだよね?」

「だろうね~。けどあの黒いのが別の組織に移っただけみたいだし、安心もできないだろうけど~」

「スパイダーの人たちは、何に使う気なんだろう?」

「分からないけどあのとき、あいつはセンチピードのNPCに対して外道って言ってなかったか?

 少なくとも、あいつのやろうとしていたことに嫌悪感は抱いていたみたいだけど」

「そこなんだよね~。危険そうなのは確かだったけど、狂人って感じのヤバさは感じなかったし~」

「意外と話はできそうな感じだったよね」



 とりあえず直近の危機は去ったかもしないが、まだ警戒は必要だろう。ということはちゃんとダイジャに伝えておいた。

 それからブラットたちは、一つ気になっていたことをダイジャに問いかけてみることにする。



「なあダイジャ。ダイジャはフリー──この子のことを知っているか?」

「シーーー?」

「知らないみたいだね。じゃあどこかの心じゃなくても、他の三大天の眷属だったりとかは?」

「シーー」

「これも違うっぽいねぇ。けどじゃあ、なんでそんな知らない子を信じようと思ったの?」

「シーーー? シーシーーーー」



 しゃちたんの最後の質問への答えは、あくまで感情同士のふんわりとしたものではあった。

 けれどそれでもできるだけ的確にそれを言葉に表すとすれば──「フリーという存在は何かは全く分からない。けれど絶対に悪い存在ではない。それだけは何故か断言できたから」というものだった。



「ふ~ん、じゃあ麒麟様に関わる子ってことはないの~?」

「シシシーーーー」



 帰ってきたのは「分からない。けれど違うとは思う」という曖昧なもの。

 しかしここでブラットたちが注目したのは、絶対に違う存在であると断言されなかったことだ。

 もしかすれば麒麟が関与し生み出された、三大天とは異なる特別な個体である──という可能性もあり得るのかもしれないとブラットたちは結論付けたのだ。



「それなら心の神殿への道を、眷属でもないのに開けたりとかもできるだろ」

「ってことはフリーさえいてくれれば、神殿への道がありそうな所に行けば無条件でいけるのかもしれないよね。けど、そうなるとイージスには……」

「報告したくないよね~。下手したらフリーを取られちゃうかもしれないし~」

「ええ!? そんなの駄目だよ!」



 イージスも入れないことを気にしており、麒麟や三大天に会いたいという者もごまんといる。

 そんな組織に道が閉じられた今でも無条件で、それでいて中を守る眷属に対しても穏便に事を済ませることができるフリーは、かなり重要な存在となるのは間違いない。



「だけどオレたちと離れるのはフリーも嫌だよな?」

「フリー!!」



 そんなの絶対嫌!と、ブラットの顔に張り付いた。ブラットはそれを優しく剥がして自分の頭の上に乗せ直してみれば、甘えるように体をこすり付けてくる。



「だよな。そうなると無理やりってのはないと思う。仮にもαモンスターの良き隣人でいるため~とか言ってるような組織なんだから」

「でもそれはそれで私たちがあちこち他の人のために行かされて、イベント攻略どころじゃなくなっちゃいそうではあるよね」

「私たちも組織の一員だし、上からのお願いという名の命令を片っ端から突っぱねることもできないだろうしね~。

 こういうとこは、組織に属する煩わしさを感じちゃうよ~」

「うむむ……。じゃあどうするの?」

「黙っていよう。何か言われてもフリーは途中で保護して懐いた、ただのαモンスターで押し通せばいい。

 どっかから攫ってきたわけじゃないし、もとは化石なんだから親が返してって文句を言いにイージスにくることもないだろうしさ」

「大昔に絶滅したなんちゃらかんたらだ~!って展開にならないとも限らないけど、考え過ぎてもしょうがないしね~」



 イージスと縁を切るにしても、支配の黒珠のことを知ってしまったブラットたちが簡単に抜けられるとも思えない。

 そこでとりあえずはイージスに所属しながら、こちらの行動を邪魔されないように組織にフリーの特殊性を隠すという方向に話は決まる。


 そして話が落ち着いたところで、最後に心の神殿というのならと天井を見せてもらった。

 するとそこにはしっかりと知の神殿では巨大な猿がいた場所に、天にまで届きそうな大きな龍のようなヘビが描かれているのを確認できた。



「シーーーー!」

「またね~」



 外でセンチピードの男から聞きだした情報が正しければ、おそらくここの地下にトロールミイラと同じような存在が埋まっているはずだ。

 けれど事故でもなく故意に無理やり掘り起こし、また悲しい目に合わせるのは望むところではない。


 フリーも何か地下にあることは分かっているような素振りはみせはするものの、何もできないというように悲しい顔をしていたが、ブラットたちとてどうしようもできないのだから放置するしかない。



「いずれちゃんと、誰も悲しませない解放する手段とかも見つかるといいんだけどな」

「そうだね。けど今は、眠らせておいてあげよう」



 そうしてブラットたちは心の神殿を後にして、今度こそイージスの支部に帰還を果たした。

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