第百七三話 卵の欠片
棚からぼた餅的に一気に、このイベントマップで重要そうな情報を手に入れることに成功したブラットたち。
受付で報酬を貰い持っていくものと預ける物を選択してから一度、今回の話を整理するためにロビーのソファに腰かけ、空腹度を満たす食事をしながら通話で会議していく。
『そう言えばだけどさ。内部的に赤と同じ階級って言ってたけど、赤の人しか行けない所に黄色の私たちがいたら変に思われたりしないの?』
『そこはまあなんか言われても、特別に許可されたと言えばいいんじゃないか?』
『えーと…………あったよ。手引書に例外処置について書いてある。
簡単なお使いとかで、下の階級の人が上の階級の人の地域にいくこともあるみたい』
イージスにおいては自己都合の利用はできないが、簡単な雑用を上から頼まれた場合、一時的に下の隊員が区域外に出られるようになる。
そういった下の隊員への頼み事はそれほど珍しくもないので、ブラットたちが本来なら赤バッジの隊員以上の階級でなければうろつけない支部にいても不思議ではない──とNPCたちは思ってくれるようだ。
いちいち歩くたびにNPCからやいのやいの言われては面倒なので、四人は普通に活動できそうだと安堵する。
『それでさっそくなんだけどさ~。いきなり先に行くよりも、まずはここで情報収集とせめて反対サイドの森の探索もしておきたくな~い?』
『それはありますね。でもさすがに今の私たちが、最初の町と同じように別れて森に行くのは危険な気がしますし、全員で固まってやった方がいいと思います』
『またあのでっかいトロールさんみたいなのが出てきたら、私一人じゃパンダさん守れないからね』
『それもあるし資料室の情報だって、いきなりD級クラスまで閲覧できるようになったから、調べる量も四人でやってもいいくらいだろうさ』
今回は全員で資料室に行って情報収集。その後に最初に行った方向とは逆サイドに【お宝発見】の効果も期待しつつ探索しようという話に決まった。
『次に行く町なんかは、情報を集めながら各々行きたいところをリストアップしていく感じでいいかもしれないね』
『天ちゃんのその意見にさんせ~。それじゃあ食べ終わったら、さっそく行動開始といこうじゃないの』
時間は待ってはくれない。限られた時間で最高の結果を掴み取るためにも、手早く情報整理しながら食事を済ませた。
とりあえず時間を区切り四人で手分けして資料室で情報をあさり終えると、ブラットたちはさっそくトロールミイラが眠っていた知の神殿があったのとは逆の方角へと歩いていく。
前のときと一番の違いは、知の眷属であるαモンスターたちが積極的に近寄ってきてくれるようになったところだろう。
今も白いカラスのαモンスター──『シロカラス』が四羽ほど向こうからやって来て、何か困ったことはある? この森で何してるの? とコミュニケーションをはかってくれる。
「今この森を探索してるんだけど、この辺りで珍しい物とかないか? あんまり森では見ないなっていうようなやつとか」
「カァ~~? カァ!」
「おっ、ついに知ってる子、発見じゃん!」
ブラットの問いに知ってるかも!という感情が伝わってくる。
ここまでの道中では、この問いには分からないばかりで、そういう子には美味しい木の実などの森で暮らす者ならではのご当地情報を聞いたりしていた。
しかし今回は珍しい物に心当たりがあるという。喜び勇んでブラットたちはシロカラスたちの後を追いかけつつ、途中襲ってくるβモンスターを駆逐し先へ進んだ。
道中はかなり巧妙に草木に隠された細い道など、明らかに運営サイドに見つけにくいように偽装された痕跡がいくつもあり、四人の期待も高まっていく。
本来ならそういうものを見つける専門の職業やスキルが必要なほどの隠し方なのだが、シロカラスたちはそういうものを見破るのが得意で、ブラットたちを的確に導いてくれた。
「ここは遺跡の名残……かな?」
「元の形が、どんなだったかも全然分かんないけどそうっぽいね~」
数本だけ折れた状態で残る石柱、崩れた石壁、地面にぽつぽつと残る石床の残骸。石で作られていたであろう遺跡跡地とでも言うべき光景が、そこにはあった。
さらにそれだけでなく、ここでお宝発見の加護が発動する。
「こっちっぽい?」
「うん、もう少し先に行った…………この辺、この下だ」
「そんじゃあ、ちょいと穴を掘ってみましょうかね~」
「お願いします、ランランさん」
ランランの杖で地面をザクザク掘っていくと、ところどころ錆びついた鉄の大きな箱が埋まっていた。
「お、重いな……」
「あのときの滑車が残ってるし使ってみる~?」
「それがいいかもしれませんね」
「そんじゃあ、くっつくのは私に任せて!」
見た目相応の重さだったので、綺麗に土を払った天板にしゃちたんが張り付き、適当に周辺の物を利用して設置した滑車を使って三人で引っ張り上げていく。
ボゴッっと低い音を響かせながら、見事その鉄の箱は地面の底から取り出された。
だがまだ障害が残っている。鉄の箱にはカギがかかっていたのだ。当然それを開けるカギなど持っていない。
「カギがかかってるね。なら~~」
「おっ、パンダさんピッキングとかもできるの?」
「うんにゃ~、開かないなら溶かせばいいんだよ。メルティングってやつだね~。ちょっと待ってて~」
幸いカギも錆びついたただの鉄。形状も複雑ではない。弱体化した今のランランでも、そこまで難しいものではなかった。
鉄を侵す毒のイメージで手早く手持ちの素材を使い溶解液を錬成すると、専用のスポイトで鍵穴を上にした状態でポトポトとそこへ垂らしていく。
「溶けてきた! すごーい。でもくさーい」
「あんまり吸わないでよ~スラちゃん。有毒ガスだからね~」
「ええっ!? もっと早く言ってよ! てかブラットとHIMAはもう離れてるし!」
「いやだってなぁ?」
「うん、明らかに気体の色がヤバそうだし」
ジュウジュウと音を立てながら内部が溶かされていき、カギとしての機能が失われていく。
「これ普通に敵にかけるだけでも効果あったりしないのか?」
「これは鉄特化だから、アイアンゴーレムとかにならけっこう効果あるかな~。けど生物系には大した効果ないよ。
せいぜいヒリヒリするくらいじゃないかな~っと、御開帳~~」
カギが完全に壊れたことを確信すると横になっていた箱を戻し、ランランがその蓋を開きにかかる。
錆びついた蝶番が音を鳴らしながら、箱はその内部を四人にさらす。まず目に飛び込んできたのは赤い布。その布に何かが包まれ保管されているようだ。
丁寧に布を開き中を改めれば、そこには一枚の折りたたまれた紙。大きなゴブレット。そのゴブレットが置けそうな窪みがある木製の台。刃が潰された銀の短剣が四本。金色のベルが一つ入っていた。
「なんか変な儀式でもできそうなセットだな」
「うーん……実際にそうなのかも。皆、これ見て」
折りたたまれた紙を開いたHIMAが、皆に見えるように広げて持つ。
そこには中に入っていた物を置く配置図が方角付きで描かれており、さらに用紙の右隅には『正しき場所で福音を鳴らせ。心清き者には幸いを──心悪しき者には災いを──』と文字が書かれていた。
「私たちは心清き者ってことでいいのかな?」
「悪しき者っていう自覚はないし、たぶんこれはここまでのイベントの中での行いで決まるんじゃないかな?」
「BMOの本マップだと悪魔だって普通に良いNPCもいるしな。種族も関係ないだろうし、それで合ってると思う」
「それでいくと私らは、けっこう善人プレイしてるよね~? αモンスターもいじめたりしてないし~」
「むしろ可愛がってるよ! ね、カラスちゃん」
「「「「カァ!」」」」
ずっと側で好奇心旺盛な視線を向けていたカラスにしゃちたんが問いかければ、ブラットたちの評価はかなり高かった。
道中、資料室で得た情報をもとに好物を上げたのもポイントが高かったのかもしれない。
「じゃあ、やってみるか? いいこと起きるみたいだし」
「物は試しにやってみていいかもね。何が起きるんだろ」
「私は可愛くて善良なスライムだしね! きっといいことあるに決まってるよ!」
「私はBMOの本マップの方じゃ、けっこうえげつない実験とかもしてたから自信ないな~」
「そっちはたぶん関係ないだろうし大丈夫だろ」
ということでさっそく儀式道具を四人で持って、配置図を確認していく。
方角はランランが適当に作った方位磁石で確認し、ゴブレットの台を中心に銀の短剣を北東、南東、南西、北西の方向に地面に突き立てる。短剣はよく見ると微妙に柄の形が違うので、そこも気を付けながら精確に。
そしてゴブレットを台の上に乗せ、金のベルをブラットが持って南の位置に立つ。
「じゃあ鳴らすぞ」
こういうのは選定勇者なんていう、いかにも心清き者が持っていそうな職業持ちがやった方がいいという理由でブラットが選ばれた。
チリンチリンと安物のちゃちな風鈴のような音を響かせ────何も起きなかった。
「えぇ……なにこれダメじゃん。壊れてんのかな?」
「壊れてる感じはないけど……。保存状態は悪くなかったし」
「あの布には防錆防腐効果とか付いてたからね~。中身に問題はないと思うよ~」
「となるとこの『正しき場所で福音を鳴らせ』っていうところが鍵になってるのかもしれない。
ここはもとは遺跡だったんだよな? ならこの遺跡のどこかに正しき場所があったのかもしれない。ちょっと探してみよう」
いかにもな遺跡跡なのだから、儀式を行う場所があったのでは? という至極まっとうなブラットの意見を取り入れ、シロカラスたちにも手伝ってもらいながらあちこち見て回った。
「カァ!」
「見つけたのか! さすがだ!!」
「カァ~~~♪」
それらしき場所を見つけてくれたのは、シロカラスの内の一匹。
ありがとうと優しく頭を撫でながらお礼を言い、さっそくその場所を確かめてみれば、ゴブレットの台がぴったりはまる溝。短剣が差し込めそうな穴が見つかった。
嫌らしいことにかなり見つかりにくい場所にあったのだが、そこはシロガラスの高い観察眼で見破ってくれたようだ。
地面を覆う土や砂を《エアクッション》のスキルで綺麗に吹き飛ばせば、南方向の位置に薄っすらと消えかかっていたが、鐘のシンボルが刻まれているのも確認できる。
ブラットたちは改めてここで間違いないと確信し、もう一度手伝ってくれたシロカラスたち全員に好物の木の実を渡してから儀式に入っていく。
一度やっている上に、ご丁寧に場所まで指定されているので手早く準備を済ませると、ブラットが金のベルを持って定位置に着く。
「それじゃあいくぞ──あ」
「綺麗な音……」
「さっきと全然違うじゃん」
「これが正解ってことで良さそうね~」
失敗したときの安い風鈴のようなちゃちな音ではなく、リーン──リーンと福音の名に相応しい、心が澄み渡るような音が鳴り響く。
遠くでβモンスターらしき悲鳴が聞こえ、近くにいるシロガラスたちはうっとりとその音色に耳を傾ける。
そして──何も入っていなかったゴブレットから、光り輝く水が溢れ出る。
いつまで続ければいいのか分からないので、ブラットはその光景を見つめながら一定のリズムで鐘を鳴らし続けた。
すると最後にピカッと一段大きくゴブレット自体も輝くと、やがて水も溢れなくなり光も止んだ。
「終わった……のか?」
「みたいだね。今のところ不幸にはなってないみたいだけど、幸せになった人はいる?」
「ぜんっぜん、どっちも感じないなぁ。けどあの演出で何もないってさすがにないんでない?」
「…………ん~~? ね~、ゴブレットの中になんか入ってるよ~」
「「「え?」」」「「「「カァ?」」」」
さりげなく混じっているシロカラスたちはさておき、ブラットたちもゴブレットの中に視線を落としてみれば、そこには黄金に輝く石が入っていた。
福音を鳴らした人が良いのではと、皆に視線で促されるままにそれをブラットが最初に手に取ってみる。
「うわっ──なんだっ?」
触れた途端にブラットの体から以前お宝発見で見つけた【???の化石1/6】が飛び出して、その謎の黄金石とくっつき融合していく。
何が起きているのかは分からないが、もうこうなっては成り行きに任せる他ない。しばらくその光景を見守っていると、完全に黄金石と化石の欠片は融合を果たした。
「見た感じだと化石の欠片が虹色に光るようになっただけ──おお?」
「どったの? ブラット」
「なんかこれ持ってると、他の欠片がどこにあるか分かるぞ」
「え? ちょっと貸してみて──ほんとだ」
HIMAに渡してみれば、残り五つの欠片がどちらの方向にどれだけ離れた場所にあるのか、彼女も漠然と把握できるようになった。
「それを持ってると他の欠片の位置が分かるようになったってのが、今回の幸せ効果ってことかな~?」
「正直もっとすごい効果を期待してたんだけど、まあそんなもんか。アイテム名とかは変わってるのかなっと………………あれ?」
アイテム名を確かめるためにスロットに入れてみれば、そこには【???の化石1/6】ではなく【???の卵1/6】という表記に変わっていた。
「マジか……。これ化石から卵の欠片に変わったっぽい」
「え? ってことは、残りの欠片を集めたら一個の卵になったりするってこと?」
「バラバラになった卵を集めたら元に戻るってのはわけ分かんない理屈だけど、BMOならありえそうだしね~」
ランランが身も蓋もないメタいことを言っているのも気にせずに、しゃちたんがその宝石のような目をキラキラ光らせ声をあげた。
「ねぇねぇ! みんな! それってさ、もしかして麒麟の卵なんじゃない!?
だってそんなに綺麗な虹色に光ってるんだもん! ぜったい、ただの卵じゃないよ!!」
「麒麟の……? 昔何かの拍子に無くして化石になってたのを、オレたちが掘り起こしたとかそんな感じならありえる……のか?」
「聞いてる限りだと麒麟はそんなドジなイメージないけど……ただの卵じゃないってのは私も思うかな」
「麒麟じゃないにしても三大天とか、それに近い凄いモンスターとかもありえそうだしね~。じゃなきゃ、とんだ見掛け倒しになっちゃうし」
「だよねだよね! だからさ、ブラット、HIMA、パンダさん! いろいろ金ぴかライオンさんとかに頼まれたりとかしてるけど、まずはその卵の欠片探しを優先してみない?」
三大天へ会い、その先にいる麒麟に会う。これがおそらくこの期間限定イベントの攻略の絶対条件だろう。
となると確証のないそれ以外のことに時間を割く余裕があるのかと言われれば、正直微妙なところではある。だが──。
「──普通の攻略ルートを他のプレイヤーたちと同じように普通になぞったところで、今のオレたちに攻略できる見込みは少ないしな。
うん、オレもこの卵にかけてみたい!」
「だね。こういう賭けにも勝てないようじゃ、どだいイベントクリアなんて無理な話だし。私もしゃちたんに乗った!」
「私も卵が何なのか気になるからね~。場所だって大まかに分かるみたいだし、そこまで手間じゃないでしょ。
ってことで、私もスラちゃんの意見に賛成かな~」
「じゃあ決まりってことでオッケー?」
「ああ!」「うん!」「おっけ~」
こうしてブラットたちは密猟組織に三大天、麒麟やらはひとまず隅に置き、謎の虹色卵の欠片探しを優先してみることにした。
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