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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第七章

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第百七二話 密談

 この世界では遥か昔、αモンスターの力を一方的に利用できないかという危険思想を持つ『ラスター』と名乗る団体が現れた。

 βモンスターは危険で、人間が扱えるものではない。さりとてαモンスターと対等の立場での共存は効率が悪い。

 αモンスターは穏やかな性格で、多くの種が友好的。そこに付け込めば、奴隷のように働かせ人類の繁栄に役立てられるのではないかと考えて。



「だがαモンスターもバカではない。むしろβモンスターと比べて知恵が回る。自分が利用されようとすれば気が付くし、怒りもする。

 そういう後ろ暗いことを考えているような者の周りには、最終的にαモンスターたちですら寄り付かなくなる」

「それだけ聞くと、ただの願望で終わりそうな話ですね」

「ああ、そうだな。そこで終わってくれれば、ラスターという団体も歴史の片隅でひっそりと消え、世は何事もなかったように過ぎ去っていくだけだったのだろう。

 だがそやつらは諦めず、なんとか利用できる方法はないかと考えに考え抜き、ついに邪法を編み出してしまった」



 意思や感情があるから思うように扱えないというのなら、意思がなければいいのではないか。だがそれらだけを狙って消すのは難しい。そんな考えの元、ラスターは死体に目を付けた。

 死んでいるのなら、そこに意志は存在しない。どう扱おうと怒ることもなければ、拒絶されることもないのではないかと。


 そうして生み出されたのが──。



「お前たちが見つけたという黒い水晶の珠、そしてモンスターに埋め込まれた対となる同じ黒い水晶の珠だ。

 片方の珠を持つものが、対となる方を埋め込まれたαモンスターをアンデッドとして蘇らせ、生前の力のほとんどを扱える状態で一方的に使役することができるという」

「え? でもオレがその対となるもう片方のを持ってましたけど、使役どころか思いっきり攻撃されましたけど」

「それはそうだ。ただ持っているだけでなく、起動時に決められた魔力の流し方でやらなければ、保有者を始末するようにとも組み込まれているのだからな。

 奪われて使われた際に働く、セーフティ機能のようなものと思ってもらえばいいだろう」



 モールス信号のような特定の間隔で魔力を小刻みに入れながら起動する必要があり、ブラットのように勝手に起動してしまった場合、不正なアクセスと判断され襲うようになっていた。



「オレのときは勝手にM──魔力が吸われて、勝手に起動したって感じだったんですけど?」

「それもセーフティ機能の一環だな。知らない者が勝手に触って対になる方へ近づけば、自動で魔力を吸って強制起動するようにもなっている」

「なにそれ、危ないな~」

「やっていることがやっていることだ。神経質なまでに隠そうとした結果、部外者は絶対に使用できないように、始末するようにしていたらしい」



 その技術は自分たちで独占したかったようで、部外者には絶対に渡らないようにあれこれギミックを設けてあった。



「なるほど。でもそれ死体だったとしてもαモンスターたちからすれば、酷い話ですよね。死後に好き勝手されるわけですし」

「当然ながら死体だからといって、もてあそぶのは許されざる行為だ。良き隣人たちに対しての冒涜ぼうとくである」

「けど死体でいいなら何故βモンスターを使わなかったんですか? そちらならまだ反発も少ないように思うのですけど」



 HIMAが今度は、そう質問を投げかける。



「ラスターたちも当然ながら、それも考えただろう。だがβモンスターというのは、根本的に人類の敵なのだ。たとえ死のうと、どんなもので操ろうとしようと、お構いなしに襲ってくる。死体であっても制御などできぬのだ。

 だがαモンスターたちは攻撃的なものも中にはいるが、その根底にあるものは純粋な精神。死すれば無垢な純粋さだけが、残るのだろう。

 ラスターはその無垢な心を利用することで、死体の制御を成し遂げたということだ」



 だからこそαモンスターである必要があった。そのためあちこちで死体を拾い集めるところからはじまり、だんだんとそれはエスカレート。利用したい獲物を見つければ、殺して操り組織の奴隷として操った。



「その欲望はとどまるところを知らず、ついにラスターは絶対に触れてはいけない禁忌を望むようになっていく」

「禁忌……? って、まさか!」

「三大天を殺し、その力を持って麒麟様をしいし、その神ともいえる力をも手にしようとしたのだ」



 順調に潜伏しながら勢力を伸ばしていき、αモンスターの死体を兵器として利用した巨大な軍勢を作りあげ、その力を以て三大天へと戦争を仕掛けていった。

 相手は死体。操る魔力も対象に意思がないのでそれほど必要とせず、非常にコスパの良い疲れ知らずの戦士たち。

 なおかつ三大天側には、自らの眷属たちまでいるのだから精神的にも厳しかったのだろう。

 三大天の中でも最も心優しき『知の主ハヌマーン』が、その日この世から消え去った。



「……三大天でも勝てなかったんですか? オレたちみたいに、埋め込まれた水晶を壊せば何とかなったんじゃないんですか?

 三大天と呼ばれるくらいなんだから、凄いモンスターなんでしょう?」

「ああ、強いとも。麒麟様には及ばずとも、その強さは私でも届かぬどころか、αモンスターが束になろうと太刀打ちできない最強のモンスターだ。だがな……気づていてしまったのだ」

「気づいた? いったいなにを……」

「その邪法が、どれほど悪辣あくらつなものだったかをな。

 アンデッドとして蘇ったモンスターたちは、解放されたとき蘇ってからの記憶を有したままアンデッドとして活動することができるようになるのだ。

 自分たちが命令されたとはいえ、仲間や家族までも殺した記憶をな。解放されたとき真っ先にそのモンスターたちは、絶望と悲しみにさいなまれたという。

 そしてその悲しみの感情が、知の主ハヌマーンをより苦しめその手を鈍らせた」

「……最悪だ」



 思い返せば知の神殿で戦ったトロールミイラも、解放され意識が完全に覚醒した瞬間、こちらまで苦しくなるほどの深い悲しみや後悔、絶望の念を抱いていた。ブラットたちに謝罪とお礼をしてすぐ、自害したくなるほどの。

 それほど彼らは無垢で純粋な存在なのだ。


 あのときトロールミイラから感じた悲しみは、はるか昔に自分がやってしまった所業に対してのものだった。

 それに気が付いたブラットたちは、思わず胸がギュッと苦しくなった。



「ラスターは三大天の内の一体をも手中に入れ、さらに勢いづいた。

 同じように他の二体もと行動を開始したが……そこまでされれば、さすがの麒麟様も黙ってはいられなかったようだ。

 その日、怒り狂った麒麟様が俗世に降臨なされた──」



 本来なら人とは違う天界と呼ばれる神域に暮らし、三大天に認められし者だけがそこに行くことが許され、拝謁を賜ることのできる大いなる存在──それが麒麟。

 そんな存在が天から降りてくることなど、まずありえないことなのだが、その日だけは違った。


 麒麟は天から降り立つと、ラスターたちもろとも死の軍勢も消し飛ばし、大地には隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターができあがる。

 そして残党がいるであろう場所にも向けて、次々とそれほどの一撃を打ち込んでいき、たちまち人間界は穴だらけになったという。

 地上に残っていたαモンスターたちだけは安全な場所に隔離された状態で、攻撃地点の近くにいた人類には無関係な者だろうがお構いなしに鉄槌が下されていった。



「正直、そのときに人類は見放されていてもおかしくはなかったと私は考えている。

 だが麒麟様は慈悲深くも最後には許してくれた。穴だらけになった大地も元に戻して下さり、その矛先がそれ以上人類に及ぶことはなかった。

 だが最初の一撃目で空いた穴だけは戒めとして残し、『次はない』と全ての人類に告げ天へと戻ったのだ」



 その後、不思議なことに地上にはその黒い水晶の珠の作り方も名前も残ってはいなかった。

 そして人々は二度とこんなことを起こさないよう、イージスの元となる保護組織を立ち上げた。

 人とαモンスターが正しい距離を保ち続けられるようにと。



「今では、ここまで詳しいことを知っている者はほとんどいない。せいぜいその昔、麒麟様に盾突たてついた愚か者が過去に人類を滅ぼしかけたことがある程度のことしか知らぬだろう。

 その詳細な資料も全て我らイージスが厳重に隠し持ち、その技術の発想すらできないように心がけている」



 黒い水晶のような珠。これだけでも、そこから逆算して生み出してしまう者がいるかもしれない。

 そう考えたからこそ、ここまでその物体の情報を隠している。──というのが彼らがブラットたちを殺すとまで言った理由だった。



「あれ? でもそこまで隠してたのを、今回見つけてしまったんですけど。なんでそんなものが残ってたんですか?」

「分からない。だが特別に思い入れのある存在だけは、三大天が目覚めぬよう何らかの処理をして永遠の眠りにつかせていたのかもしれぬ。

 悪戯に解放させてしまっても、いらぬ苦悩を負わせるだけ。かと言って操る側の珠を壊せば暴走するだけ。

 ならば死体を誰にも見つからないよう、自身の神殿の地下に安置した──というのも考えられるだろう」



 麒麟に消し飛ばされず予備戦力や切り札として残されていた、埋め込み済みの死体は別の場所に残っていたのではないか。

 そして、それらについての処理を麒麟は三大天に任せた。

 そのうちの一体を、今回ブラットたちは見つけてしまったということなのだろうと総代は納得を付けた。


 そんな彼に、HIMAがおずおずと手をあげ質問の意志を告げると、顎をしゃくられ許可をもらった。



「あの……もう一つ気になっているのですけど、その死んでしまった知の主は今はいないんですか?」

「ああ、そのことか。安心するといい、ちゃんと後継は育っていたようで、当時の知の主の子がそのまま継いだそうだ。今はその子の、そのまた子孫が知の主ハヌマーンの名を継いでいるのだろう」

「まさかの世襲制……。三大天と言っても不死ではないんですね」

「そりゃあそうだろう。あの麒麟様とて不死ではないのだからな」

「そうなんですか!?」



 これには質問したHIMAだけでなく、ブラットたちも驚いた。神と崇められる存在なら、何億年でも生きられると思っていたのだ。

 だが実際にこのイベントマップで神のような存在とされる麒麟は、一万年に一度卵を産む。

 そして孵化した子が充分に育つと知識を継承させ、自らは死を迎える──というサイクルを送っているらしい。



「へ~、それで実はその一万年に一度は、今年だとか言ったりはしないですよね~」

「よく分かったな。その周期はまさに今年ではないかと言われている。だからこそ、より三大天も警戒しているのかもしれぬな」



 冗談めかしたランランの問いかけに、総代は真面目な顔でそう言い切った。

 今回のイベントのテーマは『卵と密猟者』。その卵とは、もしや麒麟の卵のことなのかもしれないとブラットたちは思い至る。



「でも普通は人間じゃ行けない所に住んでるんですよね? そこにいるなら、麒麟──様も、安全なのでは?

 なんでそんなに三大天が警戒するんです?」

「これは極秘のことなのだがな、神域は生まれたばかりの子には厳しいのか、卵が孵化するときはこっそりと地上に降りてくるとイージスが持つ古文書には書かれていた。

 もしそれが本当だとすれば、今年のどこかで麒麟様がお子を孵化させるため、どこかの地上に卵と共に降りるのではないかと考えているのだ」

「さらっと極秘とか言ってましたけど、よくよく考えてみればめっちゃオレたちに話してくれますね? なんか恐くなってきたんですけど」

「察しが良くて助かる。お前たちは知の大眷属に認められた存在だ。ならば信頼できると考え、ここまで話した。

 そこでだ。お前たちには極秘の任務……というほど大仰なものではないが、頼みたいことがある」

「頼みってことは断ってもいいってことには……」

「ならん。ここまで話したのだから、通常の隊員には話しづらいことをやってもらう」

「上級の隊員を安易に動かせば、怪しむやからも多い。そういう意味でも君たちは最適だと思うのだ」



 副総代までそう言ってニッコリ笑う。できれば自分たちでこなせる範囲だといいなと願いながら、ブラットたちは腹を決めた。



「分かりました。それで頼みたいこととは?」

「近頃なぜか密猟組織が、積極的にαモンスターの卵ばかりを狙う事件が頻発している。なにか良からぬことを企んでいるのは間違いないが、それが何かは不明だ」

「自分たちで孵化させて育てて、さっき出てきたラスターみたいに利用しようってことは?」

「生まれたばかりであろうと、αモンスターを完全に意のままに操れることはない。誰かを傷つけろなどと言われても、死んでもしないだろう」

「となると確かに謎ですね。でもそれをオレたちで調べろと? 相当ヤバそうな連中なんですけど」

「できる限りでいい。それらしい人物を見かけでもしたら、すぐにどこかの支部から我々宛てに報告してくれればいい。

 特に三つある巨大な密猟組織の中でも、蜘蛛のシンボルを身に着けた『スパイダー』と呼ばれている組織が、一番なにを考えているか分からない。

 他二つはまだ行動が読めそうなところもあるのだが、本当にここだけは不透明なのだ。

 だからできるなら、スパイダーの情報を集めてほしい。これもできる限りで結構だ。そしてもう一つ──」

「まだあるんですか……」

「まあそう言うな。お前たちは今、唯一三大天への道を持つ隊員なのだ。是非その三体と出会い、麒麟様にお会いして伝えてほしい」

「麒麟様に会うこと自体ハードルが高そうなんですけど……まあ、いいとして、いったいなにを伝えればいいんですか? 総代」

「あなたがこの地に降りて、その卵を孵化させるのなら。我々もあなたとそのお子を全力で守る用意がある。是非そのときは、頼ってほしいと伝えてくれ。

 余計なお世話だろうが、念のためにな。別に聞き流されても構わん」

「まあそれなら……」



 守らせてと説得して来いと言われたらさすがに躊躇ちゅうちょするところだったが、会えたときに一応(たず)ねる程度なら手間もない。



「分かりました。会えるかどうかはまだ分かりませんけど、会えたのならそう伝えておきます」

「そうか助かる。ならばこのときをもって、お前たちには中級隊員の赤──D級に昇格してもらう」

「お~二階級特進だ~」

「ただし内部の権限だけだ。バッジの色は一つ下の黄色にさせてもらう。周囲に怪しまれないようにな」

「そんなことできるんですか?」

「本来ならできん。だが総代である私ならば、それくらいできる。バッジを貸せ」



 大人しくバッジを渡すと総代は自分の虹色バッジに触れ、なにやらブツブツ呟きながらブラットたちのバッジをいじくりはじめる。

 すると下級隊員を示す青色バッジが中級隊員を示すジムの一つ下──黄色に変わっていった。



「見た目は黄色だが、実際には赤と同じ権限を持っている。

 ただし情報やいける場所を制限しているのは、それだけの実力がなければ危ないからだ。もしも赤でしか行けない場所に行くのなら、気を付けていけ」

「分かりました」



 順に渡されたバッジを四人全員が受け取ると、先ほど総代から頼まれた内容がクエストとして表示され、自動的に受諾された状態に変化して消えた。



「話は以上だ。絶対に他言はするでないぞ。

 そしてスパイダー。やつらだけは本当に気を付けろ。狂人の集まりだからな、子供でも容赦はしない」



 念入りにスパイダーという密猟組織の恐ろしさをかれながら、ブラットたちは退出すべく席を立った。

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[一言] 犯人は永遠の責め苦を与えて反抗心など消え去り、只々消滅を望んでもなお許されぬようにしてください。
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