第百六七話 危険人物
「むむ? ねぇ皆、何か感じない?」
「感じるね~。なんか特定の方向に髪の毛引っ張られてる気分」
「もしかしてこれ【お宝発見】の効果かもしれませんね」
「これお宝がありそうなところで使うんじゃなくて、パッシブスキルなのか。思ってたより便利なスキルだな」
森から町に帰っている道中で、さっそく【お宝発見】の効果が発揮された。
報酬の受取期限があるわけでもないので、ランランが言っていたような髪の毛が引っ張られているような感覚を頼りにブラットたちはその方角へと向かっていく。
「ここの下だ。見た目ではただの地面だし、【お宝発見】なしだと余程の豪運でもない限り絶対に見つけられそうにない」
「じゃあ掘ってみよっか~。何があるかな~っと」
「パンダさんの杖、便利だなぁ」
ランランはスプーン型の杖をスコップのように使い、反応のある場所を掘っていく。
調合時にはかき混ぜ棒として、戦闘時はラクロスのスティックのように投擲具として、そして穴を掘るときはスコップとして、同じ道具でこうも使いまわせるものなのかと、しゃちたんは穴を掘る彼女の後姿を見ながら感心していた。
「お、これかな。出てきたよ~。なんだろね、これ」
「見た感じは石ころにしか見えないが……」
「えぇ……それがお宝? 拍子抜けだなぁ」
「まあまあ、タダの石ころだって磨けばダイヤ……はなさそうだけど、このマップ特有の宝石かもしれないよ。しゃちたん」
「それなら全然オッケーだよ!」
現金なしゃちたんに苦笑しつつ、ランランに渡された乳白色の石ころを試しにブラットが手持ちスロットに収納してみれば、そのアイテムの欄には【???の化石1/6】と表示されていた。
「何かは不明だけど化石らしい。しかも六分の一ってことは、これ以外に欠片がどこかに五つある可能性が高い」
「ひょっとしたら完成させたら、すごい価値のある化石ってことになるのかもしれないね」
「お? 天ちゃんもそう思う? 私もこれはお宝って言うより、お宝の欠片なんだと思うな~」
「ブラットとHIMAたちは、資料室で化石の情報とか見てない?」
「あの時間内でざっとオレが見た限りだと、そういうのはなかったな。
モンスターの情報を優先してたってのもあるから、ひょっとしたらあったのかもしれないけど。HIMAは?」
「私もブラットと似たようなもんだね」
「それじゃあ、けっきょく今はよく分かんないままってことか~。
まあ大してイベントに関わってくることはないだろうし、集まったらラッキーくらいの気持ちでブラットしまっといてよ」
「分かった。いつ集まってもいいようにカバンに詰めとくよ」
ランランも社会人パワーでカバンの容量は最大まで課金して拡張しているが、彼女の方は錬金用の素材を詰めていくので、できるだけそれ以外の物は入れないようにしておきたいのだ。
それは事前に話し合って決めていたことなので、ブラットはその謎の化石の一部をカバンへとしまった。
その後は他にも化石はないか寄り道しながら、それ以外のお宝も探してみたが、結局それ以上反応はなかった。
そうして報酬をもらうためにイージスの本部に帰ってみれば、なぜか受付の近くでNPCのジムが待っていた。
「やあ! 君たち! 聞いたよ、凄い活躍をしたんだって? 入隊試験を担当した僕も鼻が高いよ!!」
「ありがとう、ジム。わざわざ、それを言いに待っててくれたのか?」
「ちょうどこっちに用事もあったからね。それに最初の昇級だし、お祝いもしてあげたくなったんだよ!」
「私たち昇級するんですか?」
「言ってただろ? 試験の成績が良かったから、上に上がりやすくなってるって。さらに君たちは今回のMVP部隊だ。それくらいするに決まってるさ。
報酬を貰うときに、一緒にバッジの色も変えてもらえるはずだ。ってことでほら、これを上げるよ!」
渡されたのは紙袋に一枚の用紙。紙袋の方はブラットに、用紙はランランに渡された。
「これはレシピかな~? へぇ、これほとんどのαモンスターが喜んでくれるエサなんだ」
「ってことはオレの持ってるこれの中身も?」
「ああ、その現物さ。ただし大抵のαモンスターたちに、八〇点くらいの満足度を与えるって代物なんだけどね。
簡易的に懐いてもらいたかったり、ちょっとしたお礼をしたいときなんかは便利だよ! 作るのもそんなに難しくないし、是非いろんなモンスターにあげて仲良くなってほしい」
「大好物ではないけど、好物ではあるって感じかぁ。ありがと、ジムさん!」
しゃちたんのお礼に対し、ジムは相変わらず爽やかな顔でウインクして返した。──と、そのようにして受付近くにたむろしていたせいで後ろから怒声を浴びせられた。
「テメェら邪魔だぞ!! どけっ」
「──っ」「きゃっ」「わぁっ」
ちょうど進行方向に立っていたブラットとHIMA、ランランが、野太い男の腕で乱暴に払われてしまう。
しかし転びそうになったところを、ちゃっかり躱したブラットが受け止めて事なきを得る。
完全に不意打ちだったのに避けたブラットに、その男の鋭い視線が向けられるも、何か言う前にジムが四人を守るようにその男の前に立ちはだかった。
「おい、君!! 危ないじゃないか!!」
「ああん? 人の進行を妨げてるテメェらが悪いんだろうが。なあ? ジムくんよぉ? 分かったらどけっ」
「ぐっ──君というやつはっ!! 言い方とやり方というものがあるだろう!!」
その男は近づくなと言われていた、あのガラの悪い連中の筆頭──ガストン。正義感にかられ文句をつけてきたジムに軽く蹴りを食らわせる。軽くと言っても大きな鬼の脚力だ。それでも相当な威力を持っている。
しかしジムだって、伊達に赤のバッジをつけているわけではない。ガストンの蹴りを何とか立ったまま受け止め、今日こそはもう許さんとばかりにさらに突っかかっていく。
ガストンは面白いと闘気を漲らせ、あわや一触即発状態。ブラットや周りが止めるべきかどうか悩んでいると、また別の人物が割って入ってきた。
「何事だっ!!」
現れたのは、ブラットたちは覚えていないが実は総代の挨拶の際、彼の近くにいた小人種の老魔法使い。
身長はブラットよりも小さいが、少なくともガストンよりも強そうだ。
彼も自分が敵わないと分かっているのか、露骨に嫌そうな顔をして舌打ちし、馬鹿にするようにヘラヘラと笑った。
「──っち、なんでもねーですよぉ、副総代殿。おら受付! さっさと報酬を出しやがれ!」
「は、はいっ」
「揉め事は困るよ、ガストンくん」
「俺じゃねーよ。そこの馬鹿が絡んできたんだ。それで? まだなんか用があるんですかね、副総代殿? 俺は次の任務で忙しいんだが?」
「……ない。ほら、もういけ」
「そうさせてもらうよ」
老魔法使いは副総代、イージスという巨大な組織のナンバー2の男。そんな彼にも最後まで横柄に対応し、悔しそうに怒っているジムを鼻で笑いながら報酬を大きな手でひっつかみ去って行った。
「副総代! いつまであんな奴を野放しにしておくつもりですかっ!! 町の評判だって少しずつ下がっているのを、あなたならばお気づきでしょう!?」
「おちつけ、ジム。落ち着くのだ」
「しかしっ──」
「いいから落ち着け。まだその時ではないのだ。けれど──その時は近い、とだけ言っておこう」
最後の言葉はジムにだけ聞かせるように小さな声で、けれど間近に立っているブラットたちにも聞こえる音量で副総代はそう言い放った。
ジムは隠すべきことだと理解し、目を丸くしながらも小さく頷いてわずかに口角を上げた。
「それはついに、あいつが捕縛されるということでいいんですね?」
ジムのその小さな声に対しての副総代の反応は、小さく笑うだけ。だがそれでジムは納得し、副総代から離れて敬礼する。
「失礼いたしました!」
「いや、いい。君のイージスを思う気持ち、αモンスターを愛する気持ち。私は痛いほど分かっているつもりだ。ではな──君たちも、他言は無用だ」
ブラットたちにもそう言ってきたので、ここは大人しく頷いておいた。すると満足したようにニッコリ笑い、小人種の老魔法使いの副総代は立ち去って行った。
「それで? HIMAは、いつまでブラットに抱き着いてんの?」
「え? あははっ、ちょっと驚いて忘れてたな~なんて」
「というかHIMAもあいつの腕が来てたの気づいてなかったか? 躱せただろ」
「いや、そこはあれだよ。敵になるかもしれないんだし、油断させようとしたんだよ」
「なるほど……そういう手もあったな。オレはなんか睨まれてたし」
「いやぁ~その子はそういうんじゃないと思うけどな~」
「パンダさん、HIMAに何を言っても無駄だよ。ブラットにもね。その子はその子で、にぶちんさんだから」
「みたいだね~」
これ見よがしに抱き着いて嬉しそうにしている姿はどう考えても、ブラットが抱き留めてくれること前提でワザとガストンの攻撃を受けたようにしか思えない。
しかしそんなことを言ってもしょうがないと、ランランもこの三人の関係性がより分かった気がした。
「大丈夫かい? 四人とも」
「ああ、大丈夫。かばってくれてありがとう、ジム」
「お安い御用さ。けど恥ずかしながら、副総代が来なければ格好悪く地面にノされてただろうね。僕ももっと強くならないと……。
──おっと、そろそろ時間だ、行かないと。じゃあ、またね!」
慌ただしいままにジムはそれだけ言うと、本部の外へと出て行った。
「ジムさんがいたのは、今のイベントを見せるためでもあったのかもしれないね」
「もうすぐって言ってったよね~。ってことは、捕縛イベントとかはじまるのかな?」
「ふふん、そのときは私の目がキラっと火を噴くよ」
「火というか光線だろう、しゃちたんの場合。あ、お姉さん、これ報酬の受け取りカードね」
「はい。承りました。凄いですね、初任務でゴールドなんて」
受付のお姉さんにカードを渡すと、すぐにベアコング騒動の報酬を受け取れた。
さらに「おめでとう」の言葉と共にバーコードリーダーのようなものをバッジに当てられ、緑から青──Fランクのバッジに色を変えてもらった。
「じゃあランクも上がったことだし、報酬を確認していこうか」
それぞれ入っていた報酬は、なかなかに嬉しい装備やアイテムの数々。
中でもブラットの当たり報酬は、クマの頭蓋骨を模したスカルのシルバーアクセサリー──【剛腕熊の指輪】。
効果は嵌めた指のほうの腕力を一瞬だけ増強してくれるバフアイテム。一瞬という制限とクールタイム一〇秒の制限はあるが、ST消費もなしにノーリスクで使えるのは非常に便利。
(しっかしまた中二病臭いアイテムを……。そろそろワザとなのかと疑いたくなってきたよ。
けどこれなら、衣装とは被らないし零世界で使えるからいっか)
HIMAの当たり報酬は、一見クマの可愛らしいぬいぐるみ。
けれどその実態は、ぬいぐるみ部分が持ち手となり口から収納式の簡易的な短槍が飛び出すという仕込み槍──【ダミーベアランス】。
性能的には弱体化されたHIMAでも、そこそこ使えるかな程度。本マップにいるHIMAには無用の長物だろう。
だがこの仕込み槍は本イベント限定の装備らしく、コレクションアイテムとして彼女は喜んでいた。
しゃちたんの当たり報酬は、【スライム熊手】。
スライムボディに一〇センチほどのクマの手の形をしたクリスタルを収納することで、触手をクマの手の形にして、さらにその手の力も若干上がるというスライム専用装備。
そして最後にランランにとっての当たり報酬は、【剛腕熊の胆嚢】などといった内臓系の調合、錬金素材一式。
見た目はかなりグロい品々だが、これでようやく一段上の毒が作れそうだとランランは怪しく笑っていた。
それぞれ他にもあった雑多な品々は、すぐに使えそうにないのでイージスの受付に預かってもらう。
また受付の付近にいて邪魔だと絡まれても困るので、本部のロビーにあるソファーに四人向かい合って座り人心地つく。
「これでとりあえず緊急クエストが終わったわけだが、次はどう動く?
オレはイージスのポータルを使って、別の支部に行ってみるのもいいと思ってる。せっかくその特典が使えるわけだしさ」
「自分で行って解放しなくても使えるポータルがあるって、かなり便利だしね。
あるかもしれない捕縛イベントはちょっと気になるけど、私もここにずっといるよりいろんなところを見て回りたいな」
「私もブラットと天ちゃんに賛成かな~。この辺は初期地点だけあって、生えてる植物も初級レベルばっかで物足りないんだよね~」
「私もさんせー! いろんなとこ行ってみたい!! それでどこってのは誰かある?」
イージスに入ったことで、各イージスの支部にあるいくつかのポータルにここから飛べるようになっていた。
そこでブラットは資料室でスクショを撮っておいた、自分たちの階級で行ける範囲を示した大雑把な町のデータを四人で共有していく。
「それなら、ここなんてどうだ? 『カンパネラ』、今行ける範囲で一番歴史のある町だ。
モンスターの分布情報を見る限りだと、たぶん難易度も行ける範囲の中では一番高いと思う。
そういうところなら、隊員のランクも上げやすいはずだ」
「確かにランクはできるだけ早く上げて、行ける場所を広げておきたいよね。
それに古いって言うくらいだし、他にない伝承とか情報が手に入るかも……。うん、いいんじゃないかな」
「強いモンスター自体もそうだし、そういうのがいるところの素材は良い物が多いしね。そういうことなら異存はないよ~」
「みんなと一緒なら、私はどこだっていいよ!」
「じゃあ、決まりだな。町で最低限の物資を調えたら、さっそく出発しよう」
世界屈指の大国の王都というだけあって、イージス総本部があるこの町ではいろんな物が揃えらえるようになっている。
なのでベアコングの報酬でさらに金銭的余裕も出た今、今行ける範囲で最も難易度が高いであろう町に挑む準備を、ここで調えていくことにした。
次は火曜日更新です!




