第百六一話 BMOからのお知らせ
今日中にはできそうだと進化を控えたHIMAこと葵と下校中のこと。いつもよりソワソワしている彼女をからかいながら色葉が、いつもの道を歩いているとその情報がネットワークを通じて舞い降りた。
「やっぱりきたっ!」
「え? どうしたの? 色葉」
「次の期間限定イベントの告知がきたんだよ! これを待ってたんだ、私は!」
零世界にいかずBMOに集中していたのは、もちろんプレデターの情報が集まっていなかったから、無駄に時間を進めて強くさせたくなかったからというのもあるが、そろそろ来るのではないかと巷で囁かれていた期間限定イベントの開催を待っていたからというのもあった。
「これで上手くいけば、また必要なアイテムもゲットできるはず!」
「今回はどうするの? ソロでやったりとか?」
「うーん、分かんない。さっちゃんは今回どうするんだろ」
「治樹さんたちは今回も変な攻略をしていくだろうから、たぶんついていけないよね。
サチをメンバーに入れると、治樹さんたちに弱体化ついちゃうだろうから検証どころじゃなくなっちゃうし」
「付いて行けたとしても、治兄と一緒にやりたくはないけどねぇ。絶対に面倒な手段ばっかりやろうとするだろうし」
妹にそんなことを言われてしまっているが、実際に前の海賊のイベントでは一番条件が面倒な、ほとんどの人が条件が分かっていてもスルーしてしまうような名前付きエンディングをこなしているので、同行するのもそれ相応の忍耐が必要になってくる。
色葉も同じことをしたり面倒なことをし続けるのはそこまで苦痛というわけではないのだが、微妙に治樹とは苦行のベクトルが違うのだ。
「まあそれは今日、相談でもしよっか。私が進化したら、二人に見せるつもりだし」
「だね。けど、また私とさっちゃんが組むってなったら──」
「当然、私も一緒にやるよ。私だけ、のけものなんて嫌だからね」
「前にも言ったけど、クランの人たちとかは大丈夫なの? 連続でエースを失うことになるわけだけど」
「まあそこは大丈夫だよ。そんな縛りの強いクランじゃないし、私以外も優秀だからね。
それにこの前は私が名前付きエンドを取ったから、それでクランに大幅に貢献してランキングも上がってたし」
クランとは関係ないプレイヤーとパーティを組んでも、葵が所属しているクランまでも別扱いされるわけではない。
なので葵が好成績を残せば、それはクランのためにもなるというわけである。
前回の場合はクランのメンバー一人だけリソースを割いただけで、名付きエンド分の功績が反映されたのだから結果を見れば最高の結果だったといえよう。
「けど前は運が良かっただけで、また名付きのエンディングに入れるかは正直絶望的だと思うよ?」
「それでも別にいいよ。ゲームは楽しめれば、それが一番なんだから。色葉とサチと遊べるなら何だっていいの」
「まあ、そっか。ちなみに次の期間限定イベントは『卵と密猟者』だって」
「みたいだね。PVEだと卵を守る側に自動的に振り分けられるみたいだけど、PVPだと密猟者側になることもできるらしいよ」
「なるほどね、次のマップはモンスターと人が共存してる世界なんだ。普段とはまた違って面白そう!」
「本編マップだとモンスターは基本的に敵でしかないからね」
【テイマー】や【ネクロマンサー】なんていう職を取得し、モンスターを味方にして戦う。または家畜として飼育したりする──なんてことはあるが、次のイベントマップは特殊な職に就いていなくとも仲良くなれるモンスターというものが存在するようだ。
「もしかして仲良くなったモンスターを連れて帰ったりとかは──」
「──それはさすがに情報を見る限り無理っぽいよ。
最初にちゃんと書いておくところを見る限り、そういう期待を持たせないようにしてるんだろうし」
「そっかぁ。ちょっと残念。けどそれでもいいから早くやりたいね、色葉」
「うん! できるだけポイント稼いで次のプレデター対策アイテムを──ってのもあるけど、それ以上にめっちゃ楽しみ!」
いろいろと零世界では大変なこともあるが、それらは少し脇に置き、次のイベントも目いっぱい楽しむぞと色葉は期待を胸に帰宅した。
HIMAの進化報告を待ちながら、BMOにダイブしたブラットがいつものように筋トレに励んでいると、突然メッセージが目の前に表示された。
《【ロロネー流剣術】の取得条件が一つ満たされました》
これはっ──と急いで職業選択一覧を確認してみれば、以前は【──────】と条件すら記載されていなかった秘匿箇所が【修行で開眼する】という文字に置き換えられ、なおかつ達成済みのマークが上から被せるように表示されていた。
「やった! やっぱりこれで良かったんだ!! 開眼したかどうかは実感ないけど」
残りの未達成項目は【三次進化以上】のみ。あと一度進化し、三次進化に到達すればブラットはこの職業を取得できるようになったということ。
職業を取得したら、すぐに達人クラスの技術が得られるわけではないが、職業スキルを覚えるたびにゲームシステムの補助で再現できるようになるので、より素早く技を自分のものにできるようになっていく。
「それでいくとゼインの方の剣術は、まだ開眼してないってことなんだろうなぁ」
二人のゼインから弟子入りを認められたことで、ブラットの取得可能職業の中に【ゼイン流剣術】が追加されていた。
だがロロネーのものと同じように、まだ条件が未達成で取得できない状態で、内容は【三次進化以上】と【流派について造詣を深める】の二項目。
こちらは特に文章も隠されておらず、おそらく内容からして若きゼインの方の技を見て、年老いたゼインに説明を受けていけば達成されるとブラットは考えている。
「ってことでこのダンベルやウェイトの、こっちでの役割は終了かな」
ロロネーの開放で手に入れた宝箱に入っていた、【極ダンベル】に【極ウェイト】。
これを使って筋力を鍛えることで物理攻撃力を上げる効果もあったが、ブラットはもっぱらトレーニングの効率化の効果があったため使い続けていた。
実際にその効果は絶大で、本来であればまだ達成条件は三分の一も満たされていなかったはずなのに、まだ三次進化すらしていない身で達成してしまうほど。
ブラットはそれらのアイテムを使うことで、下手をすれば四次進化までいってようやく達成していたかもしれない長い期間を大幅に短縮していたのだ。
だがその役目も終わったことで似たような条件が出てこない限りブラットは、このトレーニンググッズを零世界に持っていくつもりでいる。
「むこうで重り以外の効果が付くかは微妙なとこだけど、グリードとかは喜んで使ってくれそうだしね。さてそれじゃあ──」
トレーニングをする必要がなくなったので、いつもより早めに切り上げ【英傑召喚】マラソンをし、終わればエルヴィスのところで勉強、次にゼインのところへいって──。
「この技はだな。こう腕に力をガッとこめて、全身の力をこうグッと乗せる感じでだな」
「……教えるのやっぱ下手だなぁ」
「うるせぇ! もっと腰入れて剣を振れ!」
「わかりました──よ!」
「そーじゃなくて、もっとこうギュンとだな」
「ギュンってなんだよ……」
さすがに道場近くの離れの縁側で修行していては早雲の邪魔なので、許可を取って早雲が静かに剣を振るい感覚を研ぎ澄ませたいときに使っているという、本来なら道場の門下生でも立ち入り禁止となっているあの竹林の奥深くでやることになった。
そこでブラットは老人の方のゼインと、あれこれ言い合いながら少しずつその剣術についての理解を深めていった。
そしてゼインの体力の問題もあり、剣術の修行もひと段落。次はどうしようかと課金拠点でアイテム整理をしていると、ついにHIMAからメッセージが飛んできた。
「お、無事に終わったみたいだね。それじゃあ、見に行ってみますか──って、うちで見せるのかい。別にいいけど」
いちおう中身が女であることは伏せているので、HIMAが所属する女性限定クランで女性しか内部に入ることもできないクランの拠点にブラットを呼ぶのはまずい。
伏せていないのであれば、個人情報の欄から中身が女性であることを提示し証明することもできるが、わざわざこのためだけにそれをしようとも思えない。
そこでブラットの見せ拠点の方で、お披露目したいと言ってきたというわけである。
もちろん拒否する理由もないのでOKを出し、見せ拠点に移動してから見る予定になっていた人たちへ招待コードを送っていく。
送ったのは本人であるHIMAに、しゃちたん、はるるん、サクラと変わらぬメンバーだ。
既に次の進化に向けて動きはじめていたしゃちたんに、そのアドバイスをしていたはるるんとサクラが見せ拠点にやってきた。
三人が来たことをHIMAに伝えると、最後にHIMAが見せ拠点の小さな庭に現れた。
「どうかな?」
「「「「おぉ~~!」」」」
現れたは、やはり可愛い系のゆるふわお姉さんアバター。そこはHIMAのBMOにおけるキャラのコンセプトでもあるので譲れない。
身長は数センチほど伸び、ふわふわと柔らかそうなオレンジの髪は少し赤みが増していた。
金色だった瞳は赤金色に変化し、はかなげで可愛らしい童顔な顔立ちは少しだけシュっと大人びた気はするが、そこまで変わった様子はなく可愛らしいまま。
頭の上に浮かぶ金色の天使の輪はチリチリと火の粉を散らせるようになり、白翼の部分の羽根が、よく見ると白い炎で構成されるようになっていた。端に向かうほどオレンジ色に透けた膜のようになっている翼部は変わっていない。
やはりHIMAもしゃちたんと同じく、今のコンセプトを崩したくないと言っていただけあって、よく見れば変わった部分も多いが、ぱっと見はそこまで顕著な変化はないといえる進化だった。
「進化したら炎耐性がカンストして無効化から吸収になって、自分の炎を自分で吸収して自己回復できるようになったんだよ。すごくない?」
「えー!? じゃあ死なないってこと!? 不死身じゃん!」
「けど火を生み出すのにもMPやらSTは消費するんだろうし、吸収したら攻撃にもならないんじゃないか?」
「ブラットの言う通りだね。だから死にづらくはなったけど、不死身ではないんだよ、しゃちたん。ずっとは火を出し続けられないからね」
「そういうことかぁ」
しゃちたんが納得している横で外見を観察し、どういう特徴を持つのか考えていたはるるんも会話に加わってきた。
「だが火を使う相手なら、相手の攻撃で回復なんてこともできるだろうし便利そうだ。それにただの炎使いなら、HIMAの爆撃で倒せるだろうしな」
「でもその分、水や氷の耐性が下がったりとかはしてないの? HIMAちゃん」
「それがですね。むしろちょっとだけ耐性が付きました。水は蒸発させて、氷は溶かすからってことかもしれません」
「さすがは劣等種の中でも選び抜いた進化種というだけはあるなぁ」
モドキの方が強さの上昇量は上でも、劣等種でもこだわって進化すればかなりの強化が見込めるというお手本のような進化だった。
全体的に耐性が増え、炎に対する力がグッと増していた。純粋な身体能力も言わずもがな、である。
「あの期間イベントで手に入れた【シウテクトリの像】を使った神殿のイベントが、けっこう良い査定はいったみたい」
「ふむふむ、やはり期間限定イベントのアイテムを使った、こっちのマップでのイベントは、かなりのアドがとれるというのは間違いなさそうだな」
そのはるるんの言葉を聞いて、ブラットは確かにと心の中で頷いた。
【絶脈の雫】が手に入る切っ掛けとなったのも、期間限定イベントで手に入れた【オシリスの包帯】を使ったからこそなのだから。
けれどその件に関しては、ランランとの契約で内緒になっているので口には出さない。
その後もいろいろとデモンストレーション的に進化したことで覚えた種族スキルを見せてもらい、HIMAの進化の話題が落ち着いたところで告知されたばかりの期間限定イベントの方へ話が移っていく。
「えー! 期間限定イベントがあるの!?」
「いやなんで、しゃちたんは知らないの? 全体告知で情報流れたじゃん。はるるんもサクラさんも知ってたよね?」
「もちろんだ」
「もちろんよ」
「もしかしてしゃちたん、ゲームのお知らせ情報の通知をオフに設定してるんじゃない?」
「え? あーそうかも! ゲームの情報とか知りたくなったら見ればいいじゃんって感じで……こういうことがあるならオンにしとこっと」
ゲームのシステム情報をいじっているであろうしゃちたんに、そのままブラットは質問を投げかけていく。
「それでしゃちたんは、どうする? 今回はソロでやってみたい? それとも誰かと組む予定とかある?」
「全くないね! あとソロはちょっと寂しいなぁ……なんて。ちらっちらっ」
夢かわスライムが、仲間になりたそうにこちらを見ている。
なんて幻のロゴが見えそうなほどに、見事に誘いたいけど迷惑だったら嫌だしなぁという感情が透けて見えていた。
これはこちらから誘ってあげなきゃ可哀そうだろうと、ブラットとHIMAは笑いそうになるのをこらえながら、彼女に「また一緒にやる?」と全く同時に話しかけた。
すると──。
「やる!」
という元気のいい言葉が、しゃちたんから返ってきた。
スライムボディがぷるるんと嬉し気に揺れ、はた目から見ていてもとても可愛らしく、思わずブラットたちの口角も上がってしまう。
「じゃあ、次の期間限定イベントで『Ash red』再結成だ! どこまでやれるか分かんないけど頑張るぞー!」
「「おー!」」
「ふふふっ、可愛いなぁ。三人とも」
「そうか? ちょっと青臭すぎて俺は見てて背中がムズムズしてるぞ」
なにやら失礼なことを言っている人物もいたが、三人はワクワクしながら上機嫌で気にすることはなかった。
次は土曜更新です!




