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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第六章

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第百五九話 受け継がれるもの

「おめぇなぁ……。俺の剣術に目を付けるのは、なかなか見どころがあるんだろうよ」

「だよな!」

「けどブラット。お前はまだガキだから分かんねぇのかもしれねぇが、剣術ってのは茶菓子や酒みてーに、ほいほい人にくれてやれるようなもんじゃねーんだよ」

「んなこた分かってるよ。でも才能は無くしても、記憶までは無くしたわけじゃないんだろ? だったら教えることはできるんじゃないか?」

「そりゃまあ記憶は無くしちゃいねぇよ。もう何年も使ってねぇって言ったって、俺が当時の全てを使って編み出した剣術なんだからな。嫌でも頭に焼き付いてるさ。だがなぁ……」

「え? 何か問題でもあるの? 自分の剣術を後世に残したいって言ってたじゃん」

「あーなんつーか……早雲、説明を頼む」



 それなのになぜ渋るのかというブラットの質問に、ゼインはあれこれと返答を考えるのが面倒になり早雲に丸投げすると、お酒に逃げた。

 早雲も慣れているのか、気にせずブラットへと向き直った。



「いやな、ブラットくん。ゼインはなにも、いじわるで言っているわけではないのだ。

 ただ先ほど自分で言っていたように、ゼインは人に教えるのがそもそも上手くない。何故なら彼は感覚で強くなっていくタイプだったからだ。

 だがその剣を完全に理解できているのは本人だけであり、なおかつゼインはもうそれを再現することは不可能。もちろん私にもだ。

 やはり口だけの説明には限界があるだろう。ああしろこうしろと横から口出ししただけで、見たこともない剣術を想像しながら覚える。これは説明が上手な人物から教えを受けても、相当な難易度だろう……というより余程簡単な剣術でない限り不可能だ。

 だというのに、さらに教え下手な人物の説明を聞いただけで会得できるほど、ゼインの剣は軽くない。分かってくれたか」

「あー……ようはゼインの頭の中にしかない、もはや今じゃ想像上の剣術を、本物を知らないオレが会得するのは無理だよと」

「まあそういうこった。お前の気持ちは嬉しいが、諦めてくれや。煎餅せんべいならいくらでもやるからよ」

「いやそれ早雲さんのだからね? けどまあ、そういう話なら絶対に無理ってわけでもないかな」

「「ん?」」



 やけに確信を持った物言いに、ゼインと早雲は顔を見合わせ首を傾げた。

 なぜゼインにこだわっていたのか、そこに辿り着く前に彼が体調を崩してしまったため、まだ【英傑召喚】の話はしていなかったことをブラットも思い出したのだ。



「じゃあ仮にゼインの本物の剣術を実際に見れて、安全にそれを自ら受けられるような環境があったなら、ここにいるゼインが教えることは可能だったりする?」

「ああ? あー…………うん。まあそんな夢みてーなことが本当にできんなら、もしかしたらできるかもしんねーな。

 んじゃあ、できるように言ってくれや。もしそうなら、お前に俺の剣をいくらでも教えてやるよ」

「……いいのか? ゼイン」

「いーんだよ、子供の夢を奪うのも可哀そうだろが」



 子供の妄想話だとでも思ったのか、ゼインは生暖かい目で安請け合いする。

 けれど早雲は勘がいいのか、ブラットはそんな訳の分からない唐突な妄想を口にするとは思えず、言質を取ったばかりに笑う子供を見て何とも言えない表情をしていた。



「言ったな? じゃあ明かそう──選定勇者になった者が得られる力についてな」

「あん?」

「やはりそうか……」

「その力の名前は【英傑召喚】。そもそもゼインが強いことを知ったのは、この力のおかげだったんだ」



 ブラットはBMOの世界観にのっとって、ゼインや早雲にも理解しやすいように【英傑召喚】について語って聞かせていった。

 早雲は選定勇者という存在に選ばれたとき何か力を貰ったと察したようだが、ゼインからはそんなものが本当にあるのかと疑われてしまう。

 しかしブラットに抜かりはなく、こういうときの証明にと持ってきていた写真を彼の前に数枚広げた。



「これはっ」

「マジかよ……」

「信じる気になってくれたようだね」



 それは録画データから、ゲーム内にアイテムとして静止画をプリントアウトしたもの。

 そこには若かりし頃のゼインと初めて出会ったときの光景が、克明に映し出されていた。

 腕を治す旅で手放したはずの二つの剣を背負い、恐いものなど何もないといった自信に満ちた表情で不敵に笑う若き青年ゼインの姿が、ブラットと一緒に。



「ちょっとした裏技を使うことで、こういう写真も撮れるんだ。

 ゼインの名前を知ったのも、【英傑召喚】っていう力で呼び出せる人物のリストに載っていたから。

 ゼインが強いのが分かったのも、ここで実際にゼインの技で完膚なきまでに消し飛ばされたからだ。

 そこでオレはゼインの剣に憧れて、それを自分で使えるようになりたいって思ったんだよ」

「……これは驚いた。けれどブラットくん、それならこちらのゼインに弟子入りすればいいのではないか?

 君を鍛えるために再現されたゼインなのだろう?」

「そう言われちまうと今の俺が複雑な気分になるが、まあそうだよな。どういうこったよ?」

「どういうも何も、こんな回りくどいことになったのは、このゼインのせいなんだよ!」



 呼び出された若きゼインが自身の修行をしたいからの一点張りでまるで話を聞いてくれず、ブラットの修行に全くならない方法ですぐに終わらさせられてしまうことを語る。

 ゼインは嘘だーといった顔で、早雲は渋い顔でそれを聞いてくれた。



「おいおい、いくら何でも俺はそこまで馬鹿じゃねーだろ。それじゃあまるで、ただの脳筋野郎じゃねーかよ」

「…………いや、ゼインよ。とても言いにくいのだが、あの頃のゼインなら充分ありえる……というか、その光景が目に浮かぶようなのだが……?」

「うん、もうまさに脳みそ筋肉お兄さんなんだよこれが」

「えぇ……? そんなことねぇと思うがなぁ」



 本人は何故か納得がいってないようだが、そんな押し問答に付き合ってる暇はないのでどんどん話を進めていく。



「ってわけで、実際にその技を見られる環境を用意することはできるわけだ。

 けど今のままだと、まるで修行にならない。そこでオレは考えたんだよ。本人なら昔の自分を説得する方法が分かるんじゃないかってね。

 そうすれば昔よりはまだ落ち着きがあって、時間も有り余ってる今のゼインには細かなアドバイスをしてもらう。

 ここにいるゼインより落ち着きもなく乱暴で、せっかちなゼインにはとりあえず自身の剣術をオレにうちこむなり見せるなりして、具体的なイメージをやしなわせてもらう。

 そんな感じで二人のゼインから教えてもらえるような環境が作れると思うんだ。

 二人からして、この方法でも絶対に覚えるのは不可能だと思う? 思うなら別のもっといい案を聞かせてほしい」

「……いや意外と、というよりしっかりと道筋を自分なりに組み立てていたのだな。

 確かにその体制が整えられるのであれば、何も知らないところから学ぼうとするよりもずっと現実的だ」

「俺が散々な言われようなのは気に食わねぇが、まあ、それなら絶対に無理って感じはしねぇな。

 とは言っても、最終的にはお前の才能次第だろうがな」

「そこはまあ、任せといてよ。忍耐力と我慢強さには自信あるから、かじりついてでも会得してやるさ」



 これが普通の子供ならゼインも早雲も、そう簡単にはいかないだろうと言いたくなるところではあるのだが、目の前にいる子供は既に選定勇者になるという実績を残してしまっている。二人とも無理などの否定的な考えが、ブラットに対して浮かんでこなかった。



「異論はなさそうだね。ってことでゼイン、さっき言ったこと忘れてないよな? これからオレが強くなるために、付き合ってもらうからな」

「あ、ああ……。さすがにこの状況で無しってのもないだろうしな。こうなったら、とことんまで付き合ってやるぜ」

「約束したからな。その代わりにってわけじゃないけど、ゼインが叶えられなかった天下無双の夢、オレがゼインの剣術も一緒に叶えてみせるよ」

「──はっ、少しだけ期待させてもらうとするさ」



 自分はもうその高みに登ることはできない。そう考えるたびに、ゼインの心に重くのしかかる暗い感情がいつも付きまとっていた。

 だがいつかブラットが、自分自身ではなくともゼインが生きた証──化身ともいえる剣術をそのいただきに連れて行ってくれるというのなら、それはそれで悪くないのかもしれない。

 そう考えた瞬間、彼の心の闇が少しだけ晴れたようにゼインは感じる。


 そして早雲も世捨て人のようになっていたゼインの心境が変わったことに気づき、二人に見られぬよう一筋の涙を流した。これで友も前に進めるだろうと。



「まああれだ。俺の剣術さえあれば、天下無双なんてあっという間だろうしな。

 そうだ。この際、魔法の勉強もやめちまえ。俺の剣だけに集中したほうが天下無双の近道ってもんだ」



 実にしんみりとした良い空気が流れていたのだが、ゼインの一言でガラリとその雰囲気が吹き飛んだ。



「は? やだよ。さっきも言っただろ、ゼインの剣術〝も〟って。

 俺は他にももう一流派覚えたい剣術もあるし、魔導学だってここまで身に付けるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。捨てるなんてとんでもない」

「うむ、やはりそうか。魔導学については初めて聞くが、剣術というのはあの一番形になってきていた三刀流のものか?」

「そうそう。ロロネーっていう人が編み出した剣術でして、めちゃくちゃ綺麗なん──」

「ちょ──ちょっと待てぇい! おまっお前! 俺の天下無双(予定)の剣術だけに飽き足らず、他の剣術もだと!?

 しかも魔法も齧りますってか!? そんなあれこれやって、身になるわけねぇだろ!!」

「まあ……私もそれは気になっているのだがな。普通はそのどれか一つでも形になれば、御の字であろうに。

 だが伊達だてや酔狂などではなく、本気なのだろう?」

「もちろん! オレは全部ひっくるめて、一つの形にしてみせます。

 そして早雲さんも、若い頃のゼインも、若い頃のエルヴィス先生も、全員オレが超えてやりますよ」



 譲る気のない固い意志をそこに感じ、早雲ですらその若さと力強さに嫉妬しそうになった。

 ゼインもこりゃ何言っても無駄だと、半ば呆れながら残り少ない鬼討ちをチマチマとすする。



「だからそのためにも、ゼイン。昔のゼインを説得できそうな何かを考えてくれ」

「聞く耳を持たない若いころの俺の説得ねぇ」

「それも一瞬でとりあえず話を聞こうと思うやつじゃないと、オレが殺されるってことも念頭においといてほしい」

「注文多いな!? …………けどまあ、そうだな。そういうことなら、一つ効果がありそうなのが一つある」

「ほんとに!?」

「ああ、まずは──」




 秘策を授かり、ブラットはゼインと早雲と別れ課金拠点へと帰ってきた。

 時間的に【英傑召喚】が使えるようになっている。準備は既に調っているので、ブラットは若きゼインを選択して呼び出した。


 いつものように光がゼインの形になっていき、ブラットを捕捉する。やれやれだと肩をすくめ、いつものようにブラットを適当に殺そうと足に力を込めた。

 その瞬間を見計らって、ブラットは大声でこう叫んだ。



「マルタ・シッド殺害の犯人!!」

「──っ!?」

「知りたくないか? ゼイン・シッド」



 ゼイン自身が、これならいきなり言われても反射的に体が止まるはずだと教えてくれた言葉。

 マルタ・シッドは姓がゼインと同じことから分かるように、彼の母親のフルネーム。

 ヨルムンにあの種を使われるまでは彼女の死の真相を知ることができず、若かりし頃はふとした瞬間に、ヨルムン以外の兄たちの顔を思い出しては誰がやったんだと殺意を胸に考えてしまうくらいには気になっていたこと。


 そんな本人しか知らない、当時の何も考えずに強くなるために邁進まいしんしていたゼイン、唯一の心の隙間を突いたのだ。

 案の定、いつもならとっくに殺されているはずなのに、ゼインは殺気を押さえブラットの目の前までツカツカと歩いてやってきた。



「……なんでそれをお前が知ってる。テメェ、実はシルヴァンの者か?」

「全然違う。生まれたのだって、アルヒウム王国だしな」



 プレイヤーがアバターを作り最初に生まれ落ちるのがアルヒウム王国の一町こと『レクーア』なのだから、間違いではないだろう。



「じゃあどうやって」

「未来のゼインから聞いたんだよ。未来のゼインは、誰が殺したのか知ってるんだ」

「未来の俺? あーもう、わけわかんねーな! つまりお前は、その真実を知ってるってことでいいんだな?」

「それで合ってる。それで? 聞きたいのか、聞きたくないのか、どっちだ?」

「………………聞きてぇ。知れるもんなら、誰がやったか知っておきてぇ。それで誰なんだ?」

「教えてもいいが、一つ条件がある。オレはゼインに真実を教えるから、ゼインは俺にその剣の技をちゃんと見せてくれ」

「……前に言ってた強くなるための修行ってやつか」

「そうだ。見せるだけでいい、細かいことは未来のゼインに教えてもらうから」

「また未来の俺か。そんなに技が見てーなら、そっちの俺に見せてもらえばいいだろうが」

「そっちのゼインは、もう剣術が使えなくてね。無理なんだ。それに相当なおじいちゃんだしね」

「剣術が使えねぇだと……? 情けねぇ奴だな、未来の俺ってやつは」



 未来の俺と今の俺がまったくイコールで結ばれてないことに、ブラットは改めてこのゼインから的確なアドバイスはもらえそうにないと悟る。



「……けどまあ、分かった。お前のその答えに納得できたんなら、俺の技を毎回ちゃんと見せてやる。リクエストだって聞いてやらぁ。それでいいな?」

「いいよ。交渉成立だ」



 少々脳筋が過ぎる男ではあるが、卑怯者ではないし根は真っすぐだ。約束を交わした後に、やっぱりやめたということはない。



「ゼインの母親を殺したのは──ヨルムンだ」

「なんっ…………だと? そんなはずは──」



 ブラットはそれ以上じらすことなく、彼にその真実を淡々(たんたん)と伝えていった。

 はじめはあのヨルムンがそんなことをするはずないと、ブラットが嘘を言っているとすら思ったようだが、彼の本性や未来の自分がされた仕打ちを聞かされ段々と理解できていく。

 ゼインも本能的に、ヨルムンのおかしさに気が付いていた。それでも実際に世話になっていたこともあり、脳が無意識的に否定していたようだ。



「それが真実か……」

「信じられないなら、ダメ押しに手紙も預かってる。

 こっちは未来のゼインからの手紙、こっちは未来の早雲さんからの手紙だ」

「早雲からも? …………確かに、俺のきったねぇ字に早雲のばかみてーに綺麗な字だ」



 手紙には二人からもブラットの言葉は真実であり、手助けをしてやれという内容がしたためられていた。

 ここまで来てようやく、彼も心の底から納得してくれたようだ。



「俺の手紙だけなら、そっちの俺が騙されてんじゃねーかと思うところだが、あの早雲まで騙されるとは思えねぇからな。

 にしても……アイツだったのか。俺はお袋のかたきに恩を感じて生きて来てたってわけか。ははっ、ほんと笑えねーぜ……チクショウが……。

 ……あー、お前は確かブラットとか言ったか?」

「うん、オレの名前はブラットだ。はじめて名前を呼んでもらえた気がする」

「そうだったか? まあいい。そっちの俺は天下無双には届かなかったが、それをお前に託すとまで言ってやがる。

 ならお前にはそれくらいの見込みがあると、俺も早雲も思ってるってわけだ。

 面白れぇ。約束したってのもあるが、俺も興味が出てきた。いいぜ見せてやるよ、俺の技を。そんでそれを全部盗んで、できるもんなら俺を超えてみやがれ」

「そのつもりだ。いつか絶対、ゼインを倒してやる」

「──いいな、お前。気に入ったぜ。けどそしたらまた俺がお前を倒して、さらにその先にいってやるだけだがな! はははっ! 面白くなってきたぜ!!」



 こうしてブラットは、ようやく若かりし頃のゼインの協力を得ることに成功したのだった。



(ここまで長かったぁ…………。苦労した分、絶対に会得してやるんだから!)

次は火曜日更新予定です!

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[気になる点] これもしかしてヨルムンはこのまま放置で終わりですか?
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