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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第六章

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第百五八話 ちょうだい

「選定勇者だぁ!?」

「まあそんな感じの称号を世界からたまわったんだよ」



 なぜシルヴァン家に入り、あまつさえその当主に簡単に会えたのか。まずは、その理由を語って聞かせていく。

 はじめは驚いていたゼインだったが、話が進むほどに苦しそうに胸を押さえていた。高齢なだけにブラットも心配になってしまう。



「えっと……大丈夫? もしかして、どっか体が悪いのか?」

「いや……そうじゃねぇよ。ただちょっと、しんどくなっただけだ……」

「しんどく? やっぱ具合が──」

「だからちげぇって。お前があまりにも俺が失ったもの、失った以上のもんを持ってるもんだから、心がしんどくなっただけだ。

 こういうのも嫉妬って言うのかねぇ……たく、まさかこんなガキ相手にな。自分が情けなくなってくるぜ」

「それは……」



 ゼインがあのまま何事もなく強くなっていけば、間違いなく今でも傑物として名を知られる大人物となっていたのは間違いない。

 それだけの栄光を彼は、つかめたはずなのにつかめなかったのだ。


 そんな彼にとってブラットの話は、未来へ向かって無数に広がっていく可能性に満ちた人生で……より失ったものを彼に突きつけ思い起こさせる。

 それら心の痛みが胸をズキズキと圧迫し、肉体にも影響を与えてきていた。


 そのことに気が付いたブラットは、さすがに無神経だったかと顔を曇らせる。

 だがそんな顔をさせていることに気が付いたゼインは、自分の中で渦巻く感情を振り払うように『鬼討ち』を再度ラッパのみであおって、無理やりにでもブラットに笑いかけた。



「気にすんな。もうどうにもなんねーんだからな」

「逆にヨルムンから取り返すこととかできないのか?」

「今更、奴から取り戻したところで、もう手遅れだろーよ。

 アイツの若さを保つために、今この時も俺の才能が食いつぶされてんだぞ。それどころか、もう俺の分は使い果たして、別の誰かさんの分で若作りしてるかもしんねーぜ」

「ああ……確かまだその種も持ってたんだっけ」

「そういうこった。どんだけ持ってたのかまでは知らねーが、アイツは老いを恐れていたからな。それを止めるためなら、他人のことなんてどうとも思わねーだろうさ。

 自分の息子にだって、世間にバレない自信があるなら平然とやってたかもな。

 だからお前も、アイツにできるだけ近づくんじゃねーぞ。どんな手を使って同意を取ってくるかも分からねぇ、狡猾なやつでもあるんだ」

「うーん、でもこのまま泣き寝入りってのもモヤモヤするなぁ。いつかどっかで痛い目に合わせてやりたいけど」



 弟子として(まだ本人に何も言ってないが)、自分の憧れた剣術を生み出した師の才能を台無しにした男をのうのうとのさばらせておくのも嫌な気分がしていた。

 単純にブラット自身が、そういう卑怯者が嫌いという面もあるのだが。


 だがその言葉にゼインは苦笑し、酒を呷りながら手を横にぱたぱたと振った。



「やめとけやめとけ。相手はラーゼンブル王国の大貴族様だぞ。

 お前の場合は本当に才能を見せ続けられるのなら、鑑賞の対象になって手を出して来ねーかもしれないが、それでも自分の保身のためならなんだってやんだろうからな。

 俺のことは気にすんな。貴族に目ぇつけられたら厄介だぞ」

「でもオレ、外交に強い大貴族様と親しかったりするんだよねぇ。いざとなったらその人に泣きつけば何とかしてくれるかも」

「外交っていうくらいだから、よその国の貴族か。どこの貴族様だよ」

「えっと隣国のアルヒウム王国の貴族で、名前はエルヴィス・フォン・ティンバーレイクって言うんだけど知ってる?」

「えるう゛ぃす、ふぉん、てぃんばーれいく? どっかで聞いた──ってまさかティンバーレイク侯爵家のエルヴィスか!?」

「へぇ、先生って侯爵家だったんだ。上級貴族ってのは知ってたけど。てか、やっぱそんなに有名なの?」



 ゼインが他国の貴族にまで興味があるとも思っておらず、ブラットは知っていることに驚いた。



「有名なのってお前……このハルシオン大陸に住んでて知らねー奴の方がすくねーだろうよ…………。俺くらいの世代なら特にな。

 敵対すれば灰すら残らず消滅させられるって言われてた化物だぞ。若い頃いつか挑んでみてーと思ってた奴の一人だからよく覚えてる」

「あー……うん、そうだね。確かに、あれは灰すら残んないや」



 英傑召喚で最初に出会った若かりしエルヴィスの特大の一撃を思い出し、ブラットは遠い目をする。それに挑もうとしていたゼインも大概である。



「あん? 何言って──待て、というかさっき先生っつったか? どんな知り合いだよ。お前、実はアルヒウムの王族とか言わねー……よな?」

「言わない言わない。選定勇者なんてものにはなったけど、一般人だよ。エルヴィス先生はオレの魔導学の先生なんだ」

「まどーがく……? なんかややこしいこと言ってるが、要するに魔法の先生ってことでいいのか?」

「うんまあ、そんな感じ。もし貴族関係で困ったら、私に言いなさいって言ってくれてたから」

「そいつは……とんでもねぇお守りだな……」

「でももうおじいちゃんだし、家自体は息子さんがとっくに継いでるらしいけど? まだそんな凄い効果があるの?」

「その名前だけで、震えあがる貴族はこの国にも大勢いるだろうよ。特に軍閥ぐんばつ系の貴族はな」



 それにラーゼンブル王国と国土こそそれほど変わらないが、この大陸の美味しい場所は全ておさえ、資源に技術、軍事力など国力においてはアルヒウム王国が圧倒している。ハルシオン大陸の覇権を握る国家なのだ。

 そんな国の王家すら融通を利かせる人物が後ろにいて、手を出せる貴族はそうはいないだろう。



「なるほどな。そんなのが後ろにいるなら、多少無茶をしてもいけるってわけか。

 だが下手したら外交問題だし、戦争の引き金になるかもしれねぇ。軽率な行動だけはするなよ?」

「珍しく大人なこと言うね。けど分かってるよ。今なにかやろうとしたって、オレじゃあまだなにもできないだろうしね。

 やるにしても、もう少しオレが強くなってからかな」

「やる気満々じゃねーか……。あんま無茶だけは──」



 ──すんじゃねーぞとゼインが続ける前に、それを遮る第三者の声が部屋に響いた。



「──そのとき私にできることがあるなら、遠慮なく言ってくれ。喜んで手を貸そう」

「早雲さんっ!?」

「早雲!?」



 せまい畳張りの部屋。二人っきりで密談していたはずなのに、知らぬ間に部屋の隅には早雲が立っていた。



「驚かせて済まない。盗み聞きするつもりはなかったのだがな」

「ちなみに……いつからそこにいたんですか?」

「たしかゼインが『いいぜ、話してやるよ。早雲にも話してねー、俺の転落人生をな』と言っていた辺りからか」

「盗み聞きする気満々じゃねーか!!」

「ほぼ最初からじゃん……。というかそんだけ最初から、ずっとそこにいたんですか? 全然気づかなかったんですけど。どうなってんですかそれ?」

「なあに、人の認識の隙に滑り込んで、そこに居座っていただけだよ。ちょっとした隠し芸のようなものだ」

「アハハー……素敵な隠し芸ですね」



 超人にとっては隠し芸でも、常人にとっては暗殺し放題のとんでもスキルだ。さすがこの歳で、人生最大の力量を誇っているだけはある。



「……てことは、俺に何があったのかも聞いてたのか早雲」

「そのことについては、本当にすまない。この通りだ。許してほしい」



 綺麗に正座し土下座しようとする早雲の肩を手で押さえ、ゼインがそれを止める。



「はぁ……聞いちまったんだからどうしようもねーだろ。むしろシルヴァン家にすっ飛んでいかなかっただけよかったぜ」

「…………だがなゼイン。もしお前が望むなら、私はシルヴァン家だろうが、ラーゼンブル王国だろうが、この世界全てを敵にしてでもシルヴァン家を壊滅させてみせよう」



 憤怒の形相とはこのことか。凪いだ水面のような、音すらない無の戦い方をする早雲にしては珍しく、煮えたぎるマグマのような闘気をみなぎらせそう口にする。近くにいるだけのブラットですら、息苦しさを覚えるほどに。


 だがそんな彼が話を聞いてすぐに飛び出さなかったのは、最初にゼインが早雲を巻き込みたくないと言っていたからに他ならない。でなければとうの昔に、ヨルムンを切り刻みに向かっていたことだろう。たとえ大罪人の汚名を着せられようとも。



「あのな。お前を助けようと思ったのは俺の意思だし、あの時の行動を今でも悔いちゃいねぇ。

 だから、いつまでも罪の意識なんて持たなくても──」

「──それだけではないっ! 友だからだ!!

 なあ、ゼイン。お前の弱みに付け込み、全てを奪い去った男を、私は絶対に許すことなどできはしない!!

 だから言え! 言ってくれ!! ヨルムンを討てと!! お前のためならば、この藤崎早雲。例えどうなろうと後悔などありはしない!!」

「ったく。落ち着けっての!!」

「ングッ!?」



 鬼討ちのビンを強引に彼の口に突っ込み、その体内にお酒を流し込んでいく。

 早雲ならばかわせたはずなのだが、熱くなっていたからか、それともゼインの行動だったからか、素直にそれを受け入れ飲み下す。



「──プハッ。ゼイン、今は酒など……」

「今こそ酒を呑め。お前はそれくらいがちょうどいい。それとも俺の酒が呑めねーってのか?」

「オレがあげたお酒なんだけどね」

「うるせー。もう俺が貰ったんだから、俺のもんだ」



 どこからともなく酒杯を取り出し、そこへ注いだお酒を早雲に手渡すゼイン。早雲も出されたからには断れず、受け取って口にグイっと流しこんでいく。



「あのな。お前は俺と一緒に修行していた、あの頃のただの早雲じゃねーだろが。

 門下生もいて、家族だっている。お前の汚名がそいつ等全員にも広がるんだぞ。馬鹿なこと考えんじゃねーよ。

 早雲が願ってたように、お前の育てた奴らがそっからまた多くの不幸な目に遭うやつらを助けられるんだ。それすら無にするつもりかよ。俺はそんなことされても嬉しくねーぞ」

「だがそれはっ、あんなことがなかったなら、お前が助けられたであろう人の分はせめて救えるようにと、ただの贖罪しょくざいからはじめたに過ぎないんだっ」

「……そんな考えで道場なんて開いたのかよ。しかも……俺に再会する前からずっと?」

「ああ、あれだけの力があれば何だって退しりぞけられた。

 その後、救えた人々の数は計り知れないはずだ。私はゼインの腕どころか、そんな助かっていた人たちの命まであそこで落とさせてしまったようなものではないか!

 だからこそ、それには及ばずとも一人でも多くの人が助かるようにと私は──」

「お前なぁ……それはさすがに背負い込みすぎだろ。真面目どころの騒ぎじゃねーな、おい」



 自分の流派を築き上げ、その道場を建て広く門下生を集めていた理由がそれだったのかと、ゼインはどこか呆れたように口を開いた。


 確かにあれほどの剣の力があれば、助けられる人もさぞ多かったのだろうが、そんな可能性まで罪を広げてしまってはきりがない。

 ブラットもさすがにそれは飛躍ひやくしすぎなように感じ、ゼインに同意するように小さく頷く。



「確かに俺も魔伐まばつ流じゃねーが、魔伐流の理念は師範から受け取ってたぜ? だから目の前で助けを求める声があれば、俺は迷わず助けてただろうさ。

 けどよ、俺が一人いて助けられるやつなんてたかがしれてんぞ? それに俺は自慢じゃねーが、人に教えるのも上手くねぇ」



 ブラットが大きくそこで頷くと、コツンとゼインに頭を殴られた。



「だからよ、もうお前の方がよっぽど人を救ってると思うぜ。お前とお前の育てた奴らがな」

「それにその育った人たちが育てた人たちも、また早雲さんの剣で沢山の人を救ってくれると思うよ。

 そうやって未来にどんどん繋がっていけば、結果的にとんでもない数の人を救ったことになるんじゃない?」



 犠牲者の可能性すら考慮に入れるなら、その逆もしかりだ。ブラットの言葉にゼインは手を打って笑った。



「おっ、いいこと言うじゃねーか。ってことだから、お前はここで最後まで道場やって大人しくしてろ。分かったな?」

「う……うぬぅ。分かった……、今はそういうことで納得しておこう。

 だがブラットくん、もしもシルヴァンに一矢報いるときは、私が必要なら遠慮なく使え。分かったな?」

「うん、分かりましたよ。やれるかどうかも、やるかどうかもまだ分からないけど、もしそのときがきて早雲さんの手が必要なら頼らせてもらいます」

「──ったく、ほっとけって言ってんのに分かんねー奴らだなぁ。……けど剣術か」

「剣術がどうかしたのか? ゼイン。今からでも鍛えたいというのなら、私も手を貸すぞ」

「いやいや、もうどうしたって無理だよ。それにもう剣を握っても、むなしくなるだけだ」

「ゼイン……」



 悲しそうな顔をする早雲に、ゼインは自分の手に向けていた視線を戻しお酒を呑んで誤魔化ごまかす。



「そんな暗い顔すんなっての。ただ早雲の剣術はブラットが言ったみてーに、未来に続いてくんだろ?

 けど俺の剣術は、けっきょく大して日の目を見ることもなく終わっちまったんだなぁって思ってな。

 もう少しだけこの世界に、俺の剣を見せてやりたかったぜ──なんてな。意味のねぇ話さ。

 昔を思い出しちまったせいで、感傷的になっていけねぇな」



 カカッと笑い飛ばすように、またお酒に手を出すゼインを見ながら、ブラットはこれはチャンスなのでは? と目を光らせる。



「なあゼイン。やっぱゼインも早雲さんみたいに、自分の剣を受け継いでくれるような人がいたら嬉しかったか?」

「ああん? まだこの話、続けんのかよ」

「いいからいいから、答えてくれよ」



 大好きな鬼討ちで酔っているおかげか、いつもなら邪険にするような話題でも一度考えてみるゼイン。



「そりゃあ……まあ、な。もしも俺が天下無双の剣豪になれたなら、その剣を誰かに継がせるってのも考えたことがねーわけじゃねぇ。

 弟子なんてがらじゃねーが、天下を取れる剣を俺一代で終わらせるってのはもったいねぇ気がしたし、俺という存在がいたってのをこの世界に永遠に刻めたのかもしれねぇ。

 そうしたら、俺も生まれた意味があったんだって思えそうな……いや、なんでもねぇ」



 自分がいなければ、母は幸せに生きれたかもしれない。

 だが自分がいなければなしえない、どでかいことをやってのければ、母も浮かばれるのではないか。

 そんなことが頭をよぎったようだがゼインは最後まで言わず、恥ずかしくなったのか顔をそむける。


 だがそんな彼に、ブラットはニコニコしながらにじり寄って顔を合わせていく。



「そうかそうか。やっぱりゼインも、自分の剣が後世に残るのは嬉しいのか」

「な、なんだよ、おめぇ。ニヤニヤと気持ちわりーな」

「気持ち悪いとは失礼な。でもそんなゼインを見込んで頼みがある。高いお酒を散々呑んだんだから、もちろん聞いてくれるよな?」

「……………………なんだよ。言ってみろ。聞くだけ聞いてやらぁ」



 胡散うさん臭い笑顔のブラットにゼインは一瞬聞こうかどうか迷ったが、気にはなったので酔いに任せて聞いてみることにした。



「ゼインの剣術、オレにちょうだい♪」

「「…………はぁ?」」



 何を言うのかと楽しそうに耳を傾けていた早雲ですら、そのブラットの言葉に目を丸くする。

 言われた本人──ゼインも、こいつ何言ってんだと言わんばかりに胡乱うろんな視線を、満面の笑みを浮かべるブラットへと送った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 邪な兄が欲する選定勇者の剣の師という名声を奪い、己の剣術を継承する……考えようによっては良い意趣返しになりますな ただまあ上手くいっても早雲氏にも思うところは色々出そうな気もしますがw
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