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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第六章

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第百五六話 ゼインの過去

 次の日のこと。英傑たちと修行だとリストを開けば、そこにゼイン・シッドの名前が復活していることに気が付いた。



「えーと……これは頭が冷えたと思っていいのかな。

 というかこんなにあっさり元に戻るんだ。内心一度消えたら──とも考えてたんだけど杞憂でよかった」



 今回のケースではゼインの方も大人げなかったと考えるようになったことで起きたリストの復活で、あれらくらいのことなら、いつまでも怒っていられるような性格でなかったというのも大きい。

 もしもゼインという人物が根に持つタイプなら、最悪一生リストに復帰しないなんてことも充分にありえたのだ。



「まあ、どうせ今は挑んだところすぐに殺されちゃうんだろうけど。さて──やっていこう」



 一度消えて再録されたゼインを選択しても以前までの記憶はちゃんとあり、殺されても予想していたことなので驚きもしないままに他の英傑たちとの修行も無事に終えた。


 それから早雲オススメのお酒『鬼討ち』を倉庫から出し、手持ちではなくカバンの方に収納してからユフィンの町のポータルへと飛んだ。


 相変わらずシルヴァンの町とは真逆で、のんびりとした雰囲気の街並みを歩き道場に辿り着く。



「おっ、最近来てなかったけどどうしてたんだ?」

「ちょっとやることがあってね。通っていい?」

「ああ、いいぞ」



 早雲とのやり取りからまずないとは思っていたが、あの喧嘩で出禁になっているということもなく、いつも通り門番と軽く挨拶を交わし門をくぐる。

 喧嘩別れした相手に会いに行くということで、少し気まずさもあったが今更引けるかとずんずん進む。そして──。



「よう、ゼイン」

「お、おう。ブラットか」



 ブラットは既に覚悟を決めて来ているので堂々と、ゼインはまさかまた会いに来るとは思っておらず少しだけほっとした顔を見せてくれる。

 彼も彼なりに、あの別れ方は後味が悪いと感じていたのだ。



「まあ座れや」

「ん。ああ、それとこれ手土産な」

「ありがとよ。今日は何を持っ────おまっ──これっ!?

 ……マジかよ、子供が買えるようなもんじゃないだろう。早雲から貰ったのか?」

「いいや自分で買ってきたんだよ。それを勧めてくれたのは早雲さんだけど」

「──チッ。あの後、道場に戻るふりしてそっちに行ってたのか。

 にしてもあのバカ、ガキになんてもんを選ばせてやがんだよ。それを買えちまうお前もお前だが」

「オレの方はちょっとどかんと稼げたときがあってね。そっから出したんだ。言っとくが二本目はもう無理だぞ」

「お前みてーなガキにそこまでたかれるかよ。ったくよ、俺が言うのもなんだが、あんま無駄遣いすんじゃねーぞ。戦士にとってケチれねー装備は、どれもたけーんだからな」

「分かってるよ」



 珍しく大人らしいアドバイスをするゼインに、たぶんそういうことで彼は苦労したことがあるんだろうなとブラットも素直に受けとり縁側に座り込む。

 無言で出されるお煎餅に手を付けると、ブラットは隙を見て彼から鬼打ちを一度取返し強引に蓋を開けた。



「あ、おいっ!」

「ほら」

「お、おう」



 そして彼の持つ酒杯を出させ、そこへブラット自ら鬼打ちを注いでいった。これはなんだか今呑まずに、後でゆっくり一人で呑もうという気配がしたからという意味もあっての行動だ。



(あんなに高かったんだから、ちゃんと私の前で口を滑らしやすくしてもらわなきゃ困るんだよ)



 そんな打算を含んでいると知ってか知らずか、ゼインは一度煙管から煙を大きく吸い込んでから吐き出し、味わうように口を付けていった。

 沈黙が続く中ブラットは、お煎餅の味に舌鼓を打ちながらどう切り出そうか考えた末に、もう一気に核心をついていくことに決めた。

 ここまでの少しのやり取りの中で、またケンカになっても彼とならまた仲直りすることもできるように思えたからだ。



「なあゼイン」

「なんだ?」

「昨日シルヴァン家の当主に会ってきた。ヨルムンっていう──」

「お前っ!!」



 案の定、それだけ口にすると彼は怒りを露わに胸ぐらを掴んできた。これでは前の再現でしかないが、今回は予想ができていたのでブラットは冷静だ。



(ヨルムンと会ったことを後で、何かの拍子に知られる方が不信感を抱かれるに決まってる。

 だったら自分からさっさと言うしかないよね)



 一番ダメなのは怒らせるより、不信感を抱かせることだろうとブラットは思ったのだ。しかし今回は、前以上にゼインが怒っているような気がした。



「前にも言ったよな!? お前には関係ねーって!! こんな老いぼれに関わらず、自分のために行動しろって!!」

「大丈夫。ゼインと関係があるだろうってことは、一切気づかれてないはずだ」

「んなこと聞いてねーんだよっ!! 早雲からなんか聞いたのか? 俺に同情でもしてんのか? だったら、お前には関係ねーんだからすっこんで──ぐっ」



 彼の言葉を遮るように、ブラットからも彼の胸倉をつかみ上げる。



「だからこっちも言ってるだろっ! これはオレのためにやってるって!

 全然全くこれっぽーーーっちも、お前のためなんかじゃない! 自惚うぬぼれんな!!」

「なっ──」



 酷い言い方だが半分は真実。まさかそんな返しが来るとは思っておらず、ゼインの手が緩んだ。

 その隙にブラットは彼から逃れ自分も手を離すと、ドスンと座り直してお煎餅をバリッと齧った。

 そんな傍若無人とすら思える行動にゼインは口をパクパクとさせ何か言おうと葛藤していたが、結局何も言うことがとっさに出てこず、彼も同じように座ってさらに酒をあおった。



「ったく、なんなんだよ、お前はよぉ……」

「強くなるために日々頑張ってる若者だよ」

「口の減らねーガキだな、まったく。…………んで?」

「んで? ってなんだよ」

「どういう手を使ったか知らねーけど、わざわざ俺の前でそう言うってことは本当にアイツのところに行ったんだよな? どう思った?」



 ここでいうアイツとは、ヨルムンのこと。ブラットはようやく場が整ってきたことに手ごたえを感じながら、嘘偽りのない感想を口にしていく。



「周りで言われているように、絵にかいたような善良な貴族って感じだった。

 話していても子供相手にも丁寧で見下した様子もなかったし、いろいろと親切にシルヴァン家やその剣術について語ってもくれたよ。そういえば、愛剣まで持たせてくれたりもしたっけ」

「は? アイツが? 自分の剣を? お前に? お前いったい何もんだ……?」



 ここでようやくゼインにもブラットは特別な何かがあると察し、ただの才能ある子供というだけだった見方が変わっていく。

 そのことを感じながらも、ブラットはあえて無視したまま話を進めていった。



「ただ一点、あのヨルムンって人。異様に若かった。その息子にも会ったけど、あれはヨルムンの方が肉体的には若いでしょ絶対」

「……よく分かったな。あの見た目じゃ、普通の奴は気が付きづらいんだけどな。良い目をしてる」

「そりゃどうも。それで思ったんだけど、あれは確実に若さを保つために何かをしてるんじゃないか?

 例えばそうだな。人の力を吸い取って、寿命に変えるとかそんな方法とか」

「──お前っ」



 ゼインは慌てた様子で周囲を見渡し、誰もこちらの会話を聞いていないことをよく確認してから酒ビンを持って煙管を懐にしまうと、ブラットの肩を叩いて離れの部屋の奥を親指でクイッと指さした。



(こっちに来いってことね)



 ブラットは頷きながら立ち上がり、ちゃっかりお煎餅の入ったお皿を持ったままゼインの後に続いて誰もいない離れの奥にある小さな畳の部屋に入っていった。

 座布団もないので、そのまま畳の上に二人で胡坐あぐらをかいて向かい合う。



「……さっきの話、誰かに話したか?」

「いいや、ただの思い付きだったし当たればいいかなくらいの気持ちで言ったんだけど、その様子だとあってるっぽいな」

「……はぁ。そこまで知られちゃあ、逆に隠しておくのも危険だな」



 酒杯からではなくゼインはやけっぱちになったかのように、ビンに直接口を付けてラッパ飲みで鬼討ちをゴクゴクと飲むと口を乱暴にぬぐった。



「いいぜ、話してやるよ。早雲にも話してねー、俺の転落人生をな。お前、早雲からどこまで聞いた?」

「えっと……」

「別にあいつにキレたり文句言ったりもしねーから早く教えろ。どうせ俺のことを何かしら、あの後聞いたんだろ?」

「……分かった。オレが聞いたのは──」



 ゼインが道場破りとして早雲のいるとこへやって来て、早雲を助け両腕を失い彼のいる場所から去った所。そして物乞いになったゼインと再会し今に至る、というところまでを掻い摘んで説明していった。



「それで全部か? 俺がいなくなってた間のことを知ってる様子はあったか?」

「これで全部だし、早雲さんもそれ以上は知らないっぽいよ」

「まあだろうな……。何があったか知れば、アイツの性格なら俺のためにシルヴァン家に突撃しかねないからな」

「そんなにやばいことされたのかよ」

「まあ、俺が不用心で馬鹿だったってのもあったんだろうがな」



 そう言って皮肉気に笑うと、ゼインは腕を無くし早雲と別れてから何をしていたのかを話しはじめた。



「別に腕がなくたって、大抵の奴はそれでも倒せた。

 だから道中出くわす程度の雑魚相手なら、そこまで困ることもなかったんだ。けどよ、また腕を腐らせた奴みたいな化け物を相手にするなら、どうしたって剣がいる。

 それに俺の夢──天下無双の存在にも剣がなけりゃなれやしねぇ」



 だからこそゼインは必死になって治す方法を探した。

 お金は適当にその辺にいるモンスターを狩れば稼げたので、そこまで困窮することもなく、最低限の生きるため以外の費用全てを治療の可能性があるものに片っ端からつぎ込むような生活を送っていた。



「けど、どうしても無理だった。あの化け物が最後に魂まで全部使った呪いは、そんくれー強力だったんだよ」



 そうして治療方法を探し歩いて各地を巡り、気づいた頃には十年以上の時が経っていた。

 天下無双の戦士を目指すなら、そんなところで無駄に人生を浪費している暇などないというのに。



「上には上がいることを俺は知っていた。一番強かった頃の俺よりつえー奴を見たことがあったんだ。少なくともソイツを超えねぇ限り、天下無双なんて名乗れねぇってずっと思ってた。

 だが時間は残酷だ。時が経つほどに体の感覚が少しずつ削れていくような感じがした。

 その頃になると寝て起きたら、どれだけ弱くなってるか恐くなって……情けねぇ話だが眠れなくなる時すらあった。

 だからいよいよ頭がおかしくなっちまったんだろうな。最悪の選択をしちまった」

「最悪の選択……っていうと、もしかしてシルヴァン家を頼った……とか?」

「ああ、そのまさかだよ……。そもそも俺とシルヴァンとの関係は良くなかった──」



 ゼインはヨルムンから聞いていた通り、キツネ獣人の女性の使用人と当時の領主との間にできた子供。

 だが剣の才能はピカイチで、純然たる貴族の血だけを引いた腹違いの兄たちが必死に磨いてきた技術を、あっという間に追い越してしまった。

 彼の父親は家を継ぐ資格がないゼインに追い抜かれた、将来シルヴァン家を背負って立とうという正式に認められている子供たちに激怒し、より訓練は過酷になっていく。けれどそれでもゼインは簡単にその先を行き、終わりのない辛いしごきの日々を兄たちは味わうことになる。


 兄たちは父親には逆らえない。となるとその怒りの矛先は、ゼインに向かってしまう。

 家を出ようともしたが、ゼインの才能が有用なことも分かっていたので父親は絶対にそれを許さず、ほとんど母親を人質にとるような形で強引に家に繋ぎ止めてきたのでそれもできなかった。

 ゼインが家を出れば、間違いなく彼の母親は悲惨な末路をたどることになるのは分かり切っていたから。



「前の当主も良い人だったって話らしいけど……本当はそんな人だったのか」

「ああ、俺からすれば外面だけは良いクソ野郎だったよ」



 そんな日々を送っていたゼインだが、唯一一人だけ嫌がらせをしてこない兄がいた。

 その名はヨルムン。ゼインを他の兄たちのように目障りな存在とは思わず、武人として超えるべき壁──ライバルとして扱っていた。

 ゼインには敵わないからと彼の母親にちょっかいを出そうとする、他の兄たちをいさめてくれることすらあったという。



「だから俺は、あいつだけはシルヴァン家の連中の中で唯一信用してたんだ」



 ゼインのシルヴァン家での生活は、唐突に終わりを告げる。

 母親が死んだのだ。死因は毒殺。用法を間違えなければ薬にもなる毒薬を飲んで死んだそうだ。犯人は不明で、シルヴァン家はろくに調べることもなく自殺と断定。

 だがゼインの母親は自殺をするような人ではなく、どんな苦境に立たされようとも常に明るく前向きであろうとする人だったこともあり、ゼインはそれを信用しなかった。

 何より絶対に世界で一番強くなって、こんなクソみたいな家から一緒に出ようと語る彼の言葉を、最後の最後まで信じてくれていたのだから。


 となれば犯人は、嫌がらせをしてきた奴らの誰かに違いないとゼインは考えた。



「ぶっ殺してやろうと思った。あいつら全員──だがそんなことをしたら俺は全員殺す前に誰かに殺されちまう。

 死んじまったら俺は世界で一番になれねーし、そんな無駄な死に方をすることもあの人は望まねーはずだ。

 だからそれはぐっとこらえて、俺はクソ野郎──親父に次の手を打たれて縛り付けられる前に家を脱出することを決めた」



 だがそうすることを当然ながら父親は察していたため、逃げ出そうとする前に先手を打って出られないように何人も見張りを付けられた。

 屈指の剣の才能を持っているとはいえ、まだ子供。当時のゼインでは、その包囲網を抜けることは不可能だった。

 まだ自分はここにいなくちゃいけねーのかと、彼は絶望しかけたという。



「けどそんとき家を出るために手を貸してくれたのも、ヨルムンだった。

 見張りの情報を流したり、俺が出るときにはそれとなく注意を引き付けてくれたり、しばらくの路銀に俺に合った剣まで用意して逃がしてくれたんだ。

 こんなことは言いたかねぇが、あいつがいなかったら俺は雁字がんじがらめにあの家に縛り付けられたままだったかもしれねぇな」

「でもそんな家に、また帰ることを決めたと」

「ああ、もう本当にそれくらいしか思いつかなかったんだよ。あそこは昔っからある貴族で、あちこち繋がりも広い。権力もあって金もある。普通に俺が探したんじゃ見つからねぇ方法の一つや二つ、絶対に見つけられるだろってな。

 それにだ。クソ親父は既に引退して、ヨルムンに代が変わったっていう話も聞いてたからな。

 アイツがトップなら、そうそうわりーことにはなんねーんじゃねーかって打算もあった」

「んー……なんか今のところ、シルヴァン家自体はアレだけど、ヨルムンに悪い印象はないんだけど。むしろ良い人じゃね?」

「だろうな。俺もあんなことがなかったら、あんなことを知らされなければ、今でもアイツだけは兄と思ってただろうよ。

 けどな、そもそもが間違ってたんだ。アイツだったんだよ、俺の母親を殺したのも──」

「──は?」

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