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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第六章

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第百五五話 ヨルムン

「なんでも剣で知られる我が家に、選定勇者殿は話を聞きたいとのことだったが、あっていますかな?」

「はい。私は魔剣を使うのですが、剣と名のつくものを使う以上剣術とは切っても切り離せない関係にあります。

 そこで勇猛果敢に敵を薙ぎ払い、数多あまたの侵略を退けた歴史と剣術を持ったシルヴァン家の話を聞き、是非お話だけでもと思ったんですよ」



 ブラットはお世辞もあったが、純粋に歴史あるシルヴァン家の剣術というのにも興味があった。

 ゼインもここの生まれだというのなら、その剣術の延長線上にあるのかもしれないし、そうでなくとも多少は影響を受けているだろうからとも。


 理由はどうあれブラットの好奇心は本物だったこともあり、ヨルムンは冷やかしなどではないと感じ、鼻息を荒くして上機嫌になっていく。



「おおっ! 世界に選ばれた選定勇者殿が、脈々と受け継がれ続けたシルヴァンの剣にご興味を。これは光栄ですな!

 お望みというのなら、いろいろと話して差し上げましょう」

「ありがとうございます」

「シルヴァンの剣の始まりは、祖グリムント・フォン・シルヴァンが──」



 さてどんな話をしてくれるのかとブラットが耳を傾けると、まずはじまったのはその剣術の歴史。

 正直その辺りにはまったく興味はなかったが、ノリノリで語るヨルムンにそこはいいですとは言えず、欠伸あくびをしないように表面上は真面目ぶって「なるほど」「そんなことが」「それは凄いですね」を使いまわして乗り切った。


 歴史の講釈の後にようやく知りたい、シルヴァン家の使う剣術の具体的な内容について語られはじめる。

 それによればシルヴァン家の剣術は、大剣を一本ずつ左右に持って戦うという豪快極まりない二刀流の流派。



「私の場合は、この二つの剣を持って戦っておりますな」



 執事に厳重に箱に入れられた普段使いの剣を持ってこさせ、ブラットの前で取り出し、振りはしないが実際に戦う時の構えを見せてくれる。



「とんでもない筋力ですね。まるで小枝のように持ってるじゃないですか」

「はっはっは、我々は種族的にも腕力に恵まれていますからな。これくらいは朝飯前ですよ」



 一本だけでも成人男性ほどの長さを持つ幅広の剣を片手で平然と持っている時点でとんでもないが、彼はこの状態でさらに両手に持った剣をガンガン振り回して相手をぶった切っていくというスタイルの戦い方をする。

 この流派はそもそも筋力のない者お断りの、種族を選ぶ剣術だったようだ。



(だからゼインは直剣の二刀流スタイルだったのかな?

 あの若い頃のゼインなら持てないってことはないんだろうけど、大きければ強いってわけでもないし、この人たちの体格なら大剣でもしっくりくるけどゼインの体格じゃ取り回しづらいだろうし、あのくらいの剣がちょうどよかったのかも)



 だが基本のスタイル自体は豪の剣なので、これがゼインの剣術の根本に根付いているのは間違いなさそうだ。

 そんな考察をしながら真面目にヨルムンの話を聞いて、それぞれの構えの意味などを覚えていく。

 ──と、その真剣な態度と選定勇者の称号効果による好感度補正が彼の心を動かし、普段ならば絶対に他人に対して口にしない言葉をブラットへと投げかけた。



「よければ持ってみるかね? 実際に使われている剣に触れてみることで、より理解が深まることもあろう」

「え? いいんですか?」

「うむ。その真剣さが気に入ったのだ」

「ありがとうございます。では……お借りします」



 後ろで執事が驚愕の表情を浮かべるほどに、彼が愛剣を人に持たせるなんてことは絶対にありえず、日々のメンテナンスですら自分でやるほど大切にしている物。

 だがブラットにならと、さすがに二本は重いので右手の一本をゆっくりと差し出してくれた。



「お、おっも!? ──見た目以上に重いですね、この剣は……ぐぐっ」

「はっはっは、その剣は私専用でしてな。硬いモンスターや鎧相手でも、折れず曲がらず欠けることなく叩き切れるようにと特別な金属を使っておるのです。その分、余計に重くなってしまいましたがな。

 なあに、それが持てずとも、もっと軽い大剣もあります故、自信を無くされぬ──ぬぅうう!?」



 そんなことを言われてしまうと、ブラットの負けず嫌いな心に火が付いてしまう。

 大剣一本ですらまともに持ち上げられなかったが、そこへさらに幽機鉱の翼を使ってゴーレムのような腕に変化させることで、なんとか両腕でなら構えることができた。



「もっ、持てましたよ」

「──す、素晴らしいっ!! それは私の息子ですら持て余す重さだというのに、その若さで持ち上げ、あまつさえ構えを取れるとはっ!」



 持ったまま強がりでしかないがブラットが不敵な笑みを浮かべると、ヨルムンから心の底から感動した拍手が送られる。控えていた執事も目と口を大きく開いたまま、自然と拍手をしていた。

 これは【補助翼・腕】による幽機鉱の力も大きいが、ロロネーの剣術の職業解放のためにと【極ダンベル】や【極ウェイト】による筋トレで、自身の筋力が関係するATKの評価をAまで上げ切っていたことも地味に効果を発揮していた。


 数秒ほど持ってみせ、ブラットが自らの手で持ち上げたままヨルムンに大剣を返却する頃には、彼はすっかりブラットへ心を開き切っていた。



「いやはや……良い物を見せてもらった。選定勇者になれる者とは、こうでなくてはならぬのですな。

 正直この私をもってしても、その才を羨ましいとすら感じてしまった。こんなのはアイツのときら──」

「──アイツ?」

「ごほんっ、いや何でもないのだよ」



 心が開かれたということは、心のガードも緩んできているということでもある。

 普段なら絶対に口を滑らせないはずのことまで、ついつい零れ落ちてしまう。

 ブラットはいい感じで話を持っていけてるなと、手ごたえを感じた。



「──そんなことより! どうでだろう! うちで本格的にシルヴァン流剣術を学んでみないかね!

 選定勇者殿なら今から基本を身に付けていけば、きっと会得することができると思うのだが!」

「え? あーそうですねぇ」



 強引な話題のずらしかただったが、ここで変につついて心の扉を閉められては困る。ブラットは、その話をまずは真摯しんしに検討していく。

 正直に言ってしまえば、ゼインの剣術のルーツかもしれないと思えば興味はあった。しかしあれほど馬鹿デカイ剣を振り回して戦うのは、さすがにブラットには合わないのではないかという結論にいきついた。



(それに近い剣術だった場合、シルヴァンの剣術に引っ張られて変な癖が付いちゃっても困るしなぁ)



 例え同じような剣術だったとしても、大剣と直剣では動きはどうしても変わってくる。

 そこで紛らわしい流派を中途半端に混ぜてしまうと、後にこんがらがって重要な場面でのミスに繋がる可能性すらあり得る。



(ただでさえ柔と豪の真逆の流派をあわせ持った五刀流なんて、絶対にややこしいことになる構想まで描いてるんだから、余計に考えることを増やすのは悪手だね。となると相手を不快にさせないように断らないと)



 すっかり向こうは乗り気になって、後ろの執事もシルヴァン流を会得しているから師にどうか──いやここは私自ら! などとヒートアップしはじめていた。

 こうなってはバッサリ切るわけにはいかず、ブラットは良い言い訳はないかと頭を働かせる。



「大変魅力的で素晴らしい提案ですが、他にも剣術はこの世には沢山ありますよね?

 なのでそれらを見聞きし今よりもっと見識を広げてから、これだという自分の剣を見つけたいのです。ですので今日のところは……すいません」

「な、なんだ……そうか。……だが、まあそうですな。選定勇者殿はまだ子供。今は見識を広げるほうが大事だというのも分からなくはない。

 それに才能もずば抜けているのでしょうから、その先にはあらゆる選択肢が広がっているのでしょうしな。今回は諦めましょう」

「すいません。ですが興味を引かれたという言葉に嘘はありませんよ」

「うむ、それは分かっているつもりだとも。あれだけ真摯に私の話から、強さを磨くための学びを得ようとしていたのですからな。

 だがもし見識を広げた後、やはりシルヴァンの剣をと思ったのなら、すぐに私のところへ来てほしい。

 できる限りのサポートをして、一流の剣士へと育ててみせましょうぞ!」

「はい、そのときは是非。ああ、そういえば一流の剣士という言葉で思い出したんですけど──」



 上手く勧誘を回避し、なおかつ相手の友好度も高い今だと、話の流れをできるだけさりげなく本来の目的へと繋げていく。



「──ゼインという大剣ではなく、直剣を使う方もシルヴァン家にはいたと、シルヴァン家について教えてくれた知人から聞きました。

 やはり私のような体つきですと、そういうアプローチでのシルヴァン流も視野に入れておきたいのですが……その方は今もまだご存命でしょうか?」

「…………いや、愚弟なら死にましたよ」

「ぐてい……? 愚弟!? 弟さんなんですか!?」



 どうみても目の前のヨルムンの方が若々しいが、弟というからには彼の方がゼインより年上だということ。

 いくら見た目で年齢が分かりにくい人型の昆虫人間だとしても、それはさすがに想像していなかった。

 嘘でしょ!? あんた何歳なのさ!? と口から思わず出そうになりながら、ブラットは椅子から腰を浮かすほど驚いてしまう。


 ヨルムンもヨルムンで、なぜこんなことを言ってしまったのかと表面に焦りが出てしまうほど慌てていた。

 ここでも選定勇者の称号効果による、好感度の上昇で妙に話しやすい存在にブラットがなっていたのも大きかったのだろう。



「あっ──う、うむ。ただアレ……いや、あの者は父が手を出した使用人の子でしてな。正式には、シルヴァンの者というわけではないのだよ」



 ここラーゼンブル王国の貴族において、養子にでもとらない限り正妻や側室の子でもない限り実子扱いはされない。

 なので使用人の子の身分は使用人。その貴族の子とはみなされないのだ。



「で、でもシルヴァン家の者だと、数十年前に発表していたとも聞いているのですが……。それに今、ヨルムンさん自身が愚弟って……」

「あ、ああ……そのだな、父が結果を出したら養子にすると約束し旅に出していたのだ。そこでヤツは実際に結果を出して、養子に迎え入れられた──というわけだ。

 優秀な子ならば、使用人との子であろうと養子として迎え入れる。別に貴族の間でも珍しいことではない」

「あ~そうなんですね! 納得です」



 もちろん納得などしていない。ブラットに嘘を見破るような高度な知識や能力はないが、それでも発する言葉の音域がほんの少し高くなり、わずかに早口になっていたこと。

 さりげなく顔を手で触ったりと挙動がよく観察していなければ分からない程度だが、乱れていたことに気が付いていた。


 これまでのBMOによる経験で磨いてきた観察力が、こんなところでも役に立ち、その言葉は嘘だろうと自然と理解できてしまう。

 だがここで納得せずゼインの話を続けようとすれば、いよいよ本来の目的に気付かれてしまいかねない。



(本当に死んだと思っているのか、それとも生きていることに気が付いていないか。そのことも分からないのに、変な情報を渡すのは絶対にダメだ)



 下手をすれば今のゼインが殺されるかもしれない。そうブラットは考えたからこそ、納得したと見せかけたのだ。


 ヨルムンは相当な実力者であることは分かるが、それでもブラットが毎日戦っている英傑たちとは比べ物にならない一般基準での強い人でしかない。

 彼と縁を結んだところで、あのリストに名を連ねることはないだろう。


 なので早雲が彼の近くにいれば滅多なことはないとは思うが、それでも四六時中一緒にいるわけではない。

 酒を見繕いにふらりと目の届かないところに行ったとき、今のゼインならヨルムンでなくとも余裕で殺せるほど弱いのだから。



「しかし、となるとですよ? ヨルムンさんとは微妙に流派も違うでしょうし、その使われていた剣術についても詳しくはありませんよね?」

「うむ、そうだな。私も自分の剣術と向き合うので精一杯で、そこまでは残念ながら……な」

「ですよね。直接戦ったわけではないですが、それでもヨルムンさんからは並々ならぬ力を感じます。

 やはりその領域に立つには、それほどストイックに自分の剣術と向き合う必要があるのですね。参考になります!!」

「おおっ、そうなのだ! さすが選定勇者殿は慧眼けいがんであらせられる。既にそこまで分かるようになっておられたか」

「いえいえ、私なんてまだまだ修行不足ですよ。けどいつかヨルムンさんとも手合わせできるほど強くなりたいです!」

「はっはっは! それは楽しみですなぁ。そのときを首を長くして待っていますぞ」



 ブラットは少しあからさま過ぎたかとも思ったが、やはり選定勇者の称号効果が強すぎた。

 それでもあっさりと疑惑の壁を通り越し、ヨルムンの閉じようとしていた心の扉を押しとどめる。

 それからは無難にすごし、ヨルムンによる強くなるための秘訣や修行時代の話、シルヴァン家の家訓や風習などを聞いて、彼から怪しまれることなく話し合いを終えることに成功した。



「名残惜しいが、今日はここまでだな。おっと最後に私の家族にも会ってもらえないだろうか。

 息子や孫も選定勇者殿を一目見てみたいと言っておって……どうだろう?」

「ええ、もちろん。ここまで快く話してくれたヨルムンさんの頼みです。無碍むげになんてできませんよ。遠慮なんてしないでください」

「そうかそうか。おい──」

「かしこまりました」



 執事に「おい」と言うだけで、彼は部屋から出てヨルムンの家族を連れてくる。

 そこで軽く挨拶と自己紹介、握手を交わしブラットはシルヴァン邸を後にした。

 それでも最後まで気を抜かず、ポータルから課金拠点に戻ったところで大声で叫んだ。



「絶対におかしい! あのヨルムンって人!!」



 それまでに疑念はあったのだが、彼の家族と会ってより確信が持てた。

 なぜなら彼の息子とも少し顔を合わせたが、どう見ても同年代……むしろヨルムンよりも年上にすら感じた。

 表面の甲殻や肌の質感、立ち居振る舞いから感じる体の芯の力強さ。ブラットの驚異的な素の観察眼が、そのどれをとっても息子の方からより老いを感じた。

 ヨルムンの妻は種族がカミキリムシ系統の昆虫人間であったが、そちらからは更に強く、ゼインと同じかそれ以上の老いを感じることができた。


 ヨルムンは好感度補正で心のガードが緩んでいたのと、種族的にブラットでは分かるまいと高をくくっていたようだが、見た目では分かりづらくともブラットならばある程度の歳を人型昆虫の人類であっても察知できるのだ。



「なんであの人は、あの人だけはあんなに若いんだ? それに若さと言えば──」



 ゼインと喧嘩になったとき、彼はブラットの若さにも嫉妬していた。



「──若さをヨルムンに吸い取られた? だからゼインも怒ってるとか?

 いやでもだったらゼインはもっとおじいちゃんだよね、だって早雲さんと同年代なのは間違いないんだから」



 なので若さを吸い取り、彼が若返ったという線は可能性が低い。今のゼインは年相応の姿なのだから。

 だが何らかの方法で若さを保っていないと、あれはさすがに不自然が過ぎる。



「──っ! もしかして…………ゼインの強さ?

 だってそもそもおかしいんだ。あれだけ強かったんなら、腕がなくても戦いようはあったはず。

 そうだよ、あんなに弱くなるなんていくらなんでも不自然だ──」



 老いたとはいえ、体を鍛えるのを止めたとはいえ、ブラットが近づいても気づけないほど感覚が鈍るだろうか。

 ゼインよりもさらに老いているエルヴィスであっても、ブラットが簡単に足音を隠した程度の気配など目を閉じていようと絶対に察知できる。

 それでこそBMOという世界に、英傑だと認められるほどの人物というもの。


 だというのに今のゼインはあまりにも弱すぎる。あの若い頃のゼインのまま生きていれば、例え腕がないまま現代に至ろうとも、今でもブラットを蹴り殺せる程度の強さはあっただろう。


 考えれば考えるほど、ヨルムンという存在が怪しく思えてくる。



「この考えが正しいのなら、ゼインから別の話を引き出せるかもしれない。

 数日経ったし、そろそろあっちも頭が冷えてる頃だよね。明日にでもお酒を持って、ゼインに会いに行ってみよう」

次は火曜更新予定です!

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