第百四話 先生
学徒の職業を選択し学校へ行くのはいいが、どの学校に行き、どの教師に教えを乞うのかというのも、実はBMOにおいては重要だったりもする。
細かいことだがBMOの中にいるNPCの教師たちは、皆それぞれ教え方に違いがあり、自分に合っていない教師の下に行ってしまうと、入学費用だけ取られて無駄に時間を過ごすはめになりかねないからだ。
「その点、オレは先人の知恵が使えるからありがたいね」
だがそういった学校や教師の情報も有志たちが細かくまとめ、攻略情報の一つとしてプレイヤーたちに公開してくれていた。
なんなら性格診断をした上で、『あなたには、○○学園の○○先生があっています!』なんていう親切なアドバイスまで攻略サイト上で受けられたりもする。
筋トレをしながらもブラットはそれらを使い、すぐに自分が行ける範囲内にある学校の教師という条件の中から、これだという自分に合いそうな人物を見繕っていた。
「まずは王都を目指さないとだから、二つ町を進めないとだめだな」
一町や二町もその領土内に収める、アルヒウム王国。
その王都にある『王立アルヒウム学園』の魔導学科に所属する教師の一人に、『ラタータ』というNPCがいる。
その人こそブラットが教えを乞おうとしている教師の名である。
ラタータの授業の特徴は、とにかく進行速度が速く、講義中の質問も受け付けず、テストの範囲も広く他よりも難解。
それだけ聞くと最悪な教師のようにも感じられるが、その授業に付いていけるのなら、その評価は逆転する。
講義の内容が速く、一度の試験の範囲も広いということは、それだけ早くスキルを覚えていけるため、聴講や試験の必要回数が他よりもぐっと減る。つまり大幅に時間が短縮されるのだ。
さらにテストが難解なのは厄介に思えるが、そのおかげでラタータの下で学徒を修了したというのが実績になり、【魔導学士】に上がる際のRPが軽減される。
さらにラタータのような教師の下で優秀な成績を修めた上で修了できれば、【魔導学士】になってすぐ講義などを受けなくても初期スキルをいくつか貰えるので、スタートダッシュが速くなる。
「それに三次進化しなくても、ラタータから【魔導学士推薦状】を貰えれば二次進化のオレでも飛び級入学ができるようになる。
これは是が非でも、がんばっていい成績で学徒は卒業したいね」
本来『学士』以上の職業は、三次進化以上でないと取得できないようになっているが、厳しい教師の下で優秀さを見せつけられれば、その制限を解除できる。
そうすれば【並列思考】など、あれば絶対に優位に立てるであろうスキルも二次進化の内に取れてしまうというわけだ。
「そのためにも、まずはコイツを倒さないと」
王都までの道を、まだブラットは開通させていなかった。
なので三町の次の町『アガーテ』から『ポイジャー』という町を経由し、『王都アルヒウム』に向かう必要がある。
さっそくアガーテに飛んで役所でエリア解放クエストを受注。
周りから進化したブラットを見てギョッとするような視線をいくつも投げかけられるが、気にせず突き進み──今現在、ポイジャーの町へ行くためのエリア解放ボスが、ブラットの前に現れた。
敵は『スリーピー・マッシュ』と呼ばれるキノコのモンスター。眠りの状態異常が付いた、あらゆる攻撃を得意とする。
「ポゲー」
「胞子がうざいな」
周囲に眠りの粉をまき散らし、無策でそれを吸ったり皮膚や粘膜に付着すれば、たちまち眠気に襲われてしまう。
「なら────よいっしょ!」
「ポゲ?」
魔刃を【扇刃】にして大きく広げ、団扇のように扇いで風を起こす。
眠りの胞子は軽いので簡単にその風で散っていき、その隙にブラットは一気に肉薄する。
「はぁっ!」
「ポゲーーー!?」
【狼爪斬】、【魔刃】、【雷撃】と流れるように攻撃を叩きこみ、相手に動く隙も与えぬままにHPを削っていく。
結局そのまま苦戦することなく倒し切り、三つのドロップアイテムを拾って先へと急ぐ。
『スリーピー・マッシュ』は耐久が高めのモンスターだったのだが、それを感じさせない火力で強引に突破した形だ。
『ポイジャー』の町のポータルを解放してから、今度は王都へのエリア解放ボスの討伐クエストを受注し、駆け足で道中を踏破していく。
はじまりの町ともいえる一町がある国なので、他よりも弱めに設定されてはいるが、それでも王都のエリア解放。
アルヒウム国内のエリア解放クエストの中ではニ、三を争う難易度の敵が出てくる。
ちなみに一番は、ぶっちぎりで炎獅子だ。
「あいつやっぱおかしいよ、なんであんなところにいるんだ」
いつもコテンパンにやられている炎獅子に恨み節をこぼしながらも、いよいよ王都が目前に迫ってきたところで演出が入る。
「キィィィィ────」
「リブ・ハイバットの亜種か。面白そうじゃん」
鋭く尖った肋骨の先端が体から飛び出した、その身だけで一メートルはあるオオコウモリ。
サーベルタイガーのようなナイフのように長い牙を持ち、お付きの一回り小さなリブ・バット六体を引き連れ迫って来る。
「こっちは忙しいんだ。とっとと片付けさせてもらうぞ!」
「「「キィィイィィイ!」」」
リブ・バット系は機動力が高く、空中を飛び回りながら、その肋骨を自在に伸び縮みさせ、触手のように操り刺してくるモンスター。
さらに噛みつかれれば【出血】のダメージが付き、すぐに回復しなければ長時間HPが減り続けてしまう。
ハイバットはさらに三半規管を狂わす【超音波】や、風系統の斬撃魔法まで使いこなす上に、普通の種よりも速い。
そして今回出てきたのはその亜種──強化版と言っていいだろう。
「はぁっ!」
「キィッ──」
「でやっ!」
「イッ──」
しかし今のブラットは絶好調。前までならもっと苦戦していたであろうコウモリたちを圧倒していき、次々とドロップアイテムに変えていく。
そして最後の一匹だけになったメインディッシュ──リブ・ハイバットと飛行戦を繰り広げ……。
「【雷壁】!」
「ピギィィィ──」
「でりゃあっ!」
「ィ────────」
軌道を予測した先に雷属性の壁を発生させ、リブ・ハイバットは真正面からぶつかり痺れだす。
その隙にブラットは最後のとどめに【魔刃断頭】を使いながら、その首に向かって【雷刃】を振り抜いた。
致命的なダメージを受けたオオコウモリは、声にならない絶叫をあげながらデータの粒子となって消え去った。
「ふぅ。これなら群れ込みでも、猫の首領のほうが強いな」
三つのボスドロップアイテムと雑魚のアイテムもカバンの中へと収納し、ブラットはもう視界に入っている大きな王都の門を目指し駆け足で向かった。
王都はさすがというべきか、これまでの町も綺麗だったが、その中でも群を抜いて賑やかで美しい街並みをしていた。
「王都見学だけで一日過ごせそう……──って、そうじゃない。
せっかく急いできたんだから、今日中に入学手続きくらいは済ませておかないと」
ついつい町中を散策したい欲求に駆られるが、ここまでの道中でもそれなりに時間を使ってしまっている。
人の良さそうな顔をしたNPCのおじさんから、王立アルヒウム学園の場所を聞き出し、目移りしそうな賑やかな市場も鋼の心でスルーして、王都の中央にある立派なお城から少し離れた場所にある、巨大な学園施設を発見した。
「あれだっ」
相変わらずプレイヤーたちから好奇の視線を向けられる中、解放されている学園の門をくぐり、『入学希望者はこちら』と書かれている看板に従ってレンガ調の赤い学園の内部へと入っていく。
入ってすぐにある広いエントランスでは、どこぞの会社の受付嬢のようにカウンター越しに見目麗しい人種とエルフ種の女性がニコリと笑いながら挨拶をしてきてくれた。
「「こんにちは」」
「こんにちは。魔導科に入学したいんだけど、どうすればいい?」
「魔導科ですね。でしたらこの用紙に必要事項を記入して、左手の廊下をまっすぐ進んだところにある魔導科のカウンターに提出してください」
「ありがとう、お姉さん」
エントランス隅には筆記具のおかれた長机があり、同じような考えのプレイヤーたちが、そこで自分の学びたい学科の入学用紙に記入していた。
ブラットもその集団に混じって、名前やら得意な魔法、希望する教師などの項目を埋めていった。
「………………」
「──ん?」
全て書き終わりペンを置いたブラットは、ふと視線を感じて後ろへ振り向いた。
するとこちらをじ~~っと見上げる、緑色の宝石が付いた首輪をつけた二〇センチほどのリスと目が合った。
「こいつは…………精霊か?」
進化したことで『2』になった特性──妖精の瞳が、そのリスはただのリスではなく、魔力の体を持つ精霊のような存在だと見抜いた。
「…………」
「可愛いな。どうした? オレに何か用か?」
こちらと目が合ってもどこかに行く様子もなく、可愛らしい真ん丸な瞳で見つめてくるので、ブラットは用紙を手に握りしめたまましゃがみこみ、笑顔でリスへと近づいた──が、その瞬間。
「──チュゥ!」
「……………………え? ちょっ、まっ!!」
目にも止まらぬ早業でブラットの手から入学用紙を奪い取り、タタタタッ──と学園の庭に向かって逃げだした。
ブラットはそこで一瞬、追いかけるか追いかけないかの二つの選択肢の中で揺れ動く。
別に用紙なら受付に行ってまたもらえばいい。書き直すのは面倒だが、あのリスから取り返すよりずっと早い。
だがしかし、なんだか悔しい。リスにいいようにされたまま、引き下がっていいのか自分はと。
そしてそんな考えの途中でリスはある程度離れたところで立ち止まり、「お? 逃げんのか?」とばかりに逃げる側のくせにお尻を振って、こちらを挑発してきた。
「……上等だ、やってやるよ。待ちやがれ!」
「────!」
こうしてブラットと謎のリスの追いかけっこが幕を開いた。
「チュチュッ」
「なめるなっ!」
「チュッチュチュ~♪」
いつでも逃げられるぞとばかりに待ち構えていたリスに向かって、ブラットは全速力で駆け寄り手を伸ばす。
けれどすり抜けるように脇を抜け、リスは校舎の壁を駆け上がっていく。
「くそっ!」
ブラットも負けじと四枚の翼で飛行しながら、校舎の壁を足で蹴って追いすがる。
だが用紙を咥えて走りにくいはずなのに、風の抵抗を一切感じさせない素早い動きでリスとの距離が縮まらない。
ブラットはこのままでは無理だと、右目に付けていた眼帯を外し、【雌伏の心】のスキルを打ち切った。
ずっと軽い重りを全身に巻き付けていたような状態から解放され、本来のステータスと視界を取り戻し、溜めていた分のスタミナが解放される。
「逃がすかっ!」
速さではやや上回るも、相手は風の魔法を巧みに操り異次元の機動力で逃げ回る。
屋上まで登り切って走り回り、その後も校庭、体育館、教室──校舎内のあらゆる場所を追いかけるはめになってしまう。
しかしブラットもただ追いかけているだけではない。
その動きをつぶさに観察し続け、リスの動きの癖など一挙手一投足に至るまで全て脳内に蓄積させていく。
そのようにして一時間以上も追いかけまわしていたかいもあり、次第にブラットの手がリスに当たるようになってきた。
「なんか楽しくなってきたっ!」
「チュチュッ!」
ブラットの未来予知じみた動きと諦めの悪さに、リスのほうも辟易するどころか楽し気に学園内を走り回る。
だがついに──それも終わりの時がやって来た。
(悪いけど、これで終わりにさせてもらう!)
「チュッ!?」
相手の全ての動きを把握し、リスが様子を確かめるため一瞬こちらを見るタイミングを見計らい、ブラットは両目に嵌めていた【タコンタクト】の効果を発動させた。
効果はMPを消費し、目と目を合わせた対象に盲目効果を付与するというもの。
瞳孔がタコのシルエットの形に変化し、それを見たリスは視界が真っ暗になる。
これまでの動きから視界に頼った動きをしているのはわかりきっていたので、ブラットは完璧に捕まえられると判断できるそのときまで、ずっとこの手を隠してきたのだ。
急に目が見えなくなったことで慌てるリスに向かって、ブラットは海賊帽の効果で【バトルオーラ】を発動。
代償としてHPを消費しながら赤いオーラがその身を包み、身体能力が向上する。
飛行も混ぜて、これまでで最速のダッシュでリスに急接近して掴みかかり、風の動きを読んで逃げようとするリスの、その動きまで読み切って両手でがっしりと、その体を捕まえた。
「捕った!」
「……………………あらら、楽しかった鬼ごっこもこれで終わりね。ざんねーん」
リスを潰さないように掴みながら用紙を【変幻自在】による三本目の手で奪い返し、子供のように喜びの声をあげていると、突然そのリスが女の子のような声で話しだした。
「しゃべった!?」
「そりゃあ、喋るわよ。私はただの動物なんかじゃないんだから」
ブラットが驚いて手が緩んだ隙に体を引っこ抜き、ひらりと地面に二本の足で降り立つと、リスは毛並みを整えるように小さな前足で体を撫でつけた。
「まさか三次進化もまだのお子ちゃまが、この私を捕まえるとはね。なかなか見どころがあるじゃないの」
「はぁ、それはどうも?」
「さっきの紙を見る限りだとアナタ、魔導科に入ろうとしてるのよね?
ならラタータなんていう若造より、もっといい先生を紹介してあげるわ」
「え? 急に何をっ──!?」
言っているんだとブラットが言い切る前に、リスの首輪に嵌まっていた緑色の宝石が光り輝き、足元に大きな魔法陣が現れる。
「一名様、ごあんな~~い♪」
「はあ!?」
視界が一瞬で切り替わり、ブラットは気が付くと、リスと共に見覚えのない本だらけの部屋に転移していた。
「おや、リーズ。お客さんを連れてきたのかい? 珍しいね」
「ええ、面白い子を見つけたから連れてきたの。
あなたいっつも暇そうだし、魔導を教えてあげなさいよ。得意でしょ、そういうの」
「はははっ、私も別にいつも暇というわけではないのだよ?」
そしてその部屋の隅にある座り心地のよさそうな椅子に座っていたのは、小さな丸眼鏡を鼻に乗せ、分厚い本を片手に持ち、ロマンスグレーな雰囲気を醸し出すエルフらしき種族の老紳士──のNPC。
リスを『リーズ』と親しげに呼ぶこの老人は、それなりに高齢に見えるというのに体の芯はしっかりとしていて、全身の筋肉も衰えてはいない。
それどころか期間限定イベントで見たロロネーのような、圧倒的強者の風格まで感じられ、ブラットは思わず背筋を伸ばしてしまう。
そんな老紳士は苦笑しながらリーズから視線を外し、ピンと立つブラットを見て優し気な笑みを浮かべた。
「すまないね。驚いただろう、突然こんなところに連れてこられて」
「え、ええ、まあ……。それで、ここはいったいどこ?」
「ここは王城近くにある私の家だよ。おっと、自己紹介が遅れたね。
私の名前はエルヴィス・フォン・ティンバーレイク。日がな一日、本ばかり読んでいる老人だよ」
「ほら、やっぱり暇じゃないの! 私は風の動物精霊『リーズ』よ」
「えっと、オレはブラットだ」
「ブラットくんか、良い名前だね。それでなぜ、そのブラットくんはここに来る羽目になったんだい?」
「それは────」
ここでブラットはエルヴィスにリーズが用紙を奪ったところから、ここに来るまでの話を掻い摘んで説明していった。
「へぇっ! リーズを素手で捕まえたのかい? 凄いじゃないか! 逃げ足だけなら、どこに出してもいいほどだというのにね」
「最後にちょっとズルしたからよ! あれがなければ、もっと逃げられたもの!」
「言い訳はよくないよ、リーズ。どんな手を使おうと捕まった事実は変わらない。
それに聞いている限りだと、ブラットくん自身の実力もあってこそじゃないか。負けは素直に認めなさい」
「ふんだっ。認めませーーん、あんなの無効でーす。まだ勝敗は決してないんだから!」
リーズはふてくされたように頬を膨らませ、エルヴィスの座る椅子の下に潜り込んでしまった。
エルヴィスは温和な笑みを浮かべながら肩をすくめ、再びブラットを見つめてきた。
「ふむふむ。だがそうだね、悪くない、悪くないねぇ。
その若さでリーズを捕まえるだけの俊敏さ、観察力、切り札の使いどころの見極め。なかなかどうして面白いじゃあないか。
久しぶりに私も、教鞭をとってみてもいいとすら思えてきた」
「でしょー? エルなら気に入ると思ったのよ!
ラタータなんかより、あんたが教えたほうが絶対にこの子は伸びるわ!
曲がりなりにも私を捕まえたんだから、中途半端なんて許さないわよ」
「ラタータ? ああ、あの子か」
エルヴィスはあの子というが、プロフィールではラタータは四十過ぎだったはず──とブラットは首をかしげた。
「学園の教師なんだけど、エルヴィスさんの知り合いなのか?」
「知り合いも何も、彼は私の元教え子だよ。
そうか、彼に教わるのも悪くはないだろうね。彼も今や、優秀な教師なのだから。
けれど君のその大きな才能を、私の手で伸ばしてみたいとも思ってしまった。
どうだろう。学園には私から取り計らっておくから、私の元で学徒として魔導を学んで見る気はないかな?
もちろん君の当初の目的通り、ラタータくんの元で学びたいというのなら止めはしないけれどね。どうだろう」
「………………」
ラタータという教師を攻略情報でしか知らないブラットだが、どう見てもこの目の前の老人の方が格上だというのはわかる。
たとえラタータを指導していたというのが、ホラだったとしてもだ。
(いや、待って……? エルヴィス・フォン・ティンバーレイク……?)
だいぶ彼に教えを乞う方へ天秤が傾いてきたとき、ふとその名前に心当たりがあることを思い出す。
(たしかそう、魔導博士以降のイベントで出てくる人じゃなかった?)
教師を選んでいるときの攻略情報の中で、最高学位の【魔導博士】になったときのイベントも流し見ていた。
そしてそのときに見たのだ。彼の名と、目立つ設定を。
(現在の肩書は確か、王立アルヒウム学園の名誉教授。
だけどその前は、アルヒウム王国──つまりこの国の魔法騎士団団長だった……とか書いてあった気がするんだけど……)
本来彼がプレイヤーの前に顔を出すのは、魔導博士になった後。そこでようやく彼に、教えを授けてもらうイベントが発生する。
だがそこでも軽く教えてもらえる程度で、彼から自発的に教えようとはしてくれない。
どこでどんなフラグを立ててこうなっているのかは知らないが、この機を逃すのはゲーマーじゃないと、ブラットの直感が告げてくる。
「オレに魔導を教えてください! エルヴィス先生!」
「はっはっは、じゃあ決まりだね」
「私のおかげなんだからね、ブラット。ありがたく思ってちょうだいよ。
エルがまともに教えるのなんて、今じゃ王族くらいなんだから」
「えっ──」
少しばかり衝撃的な言葉をリーズから聞いて固まっている間に、エルヴィスが椅子から立ち上がってブラットの目の前までやって来た。
老いてなお内に秘める力は底知れず、思わずブラットは息を飲む。
「よろしくね、ブラットくん──いや、ブラット」
「はい、よろしくお願いします!」
「うん、元気があってよろしい。
…………あー…………ところでさっそく聞きたいことがあるのだが、いいかな?」
「はい、答えられることなら」
「じゃあ聞くんだが……、君はなんでそんな奇天烈な格好をしているんだい?
ブラットのいたところでは、そういう格好が流行っているのかな?」
「うぐっ…………、それは聞かないでください…………」
「あ……ああ、うん、わかった、気を付けるよ。深い事情があるんだね、きっと」
「ええ、深いかどうかは知りませんが……」
次は火曜更新です!




