BMO
仮想現実と呼ばれるバーチャルな世界で、現実世界にいるかのように仮想の体に入り自由に行動できる技術が開発されてしばらくの時が経った。
今ではその技術は民間企業にまで導入され、一般人もその恩恵にあずかれるようになってきている。
民間企業への導入当時その中の一つとして、バーチャルな世界で冒険すると銘打ったゲームの発表もあった。
これには空想小説や映画などで描かれていたようなことができるようになるのかと、ゲーマー以外も期待に胸を膨らませプレイできるその日を心待ちにした。
──しかし、その期待は見事に打ち砕かれることとなる。
脳や精神への負担と安全性から法律により、あまりにも現実から、そして今の自分からかけ離れた世界、存在になることが禁止された。
それは性別はもちろん顔の形、身長や体型、運動能力や環境に至るまで現実に即したものでなければ、遊ぶことができないというもの。
そのせいで、せっかくバーチャルな世界に来ているのに現実とほぼ変わらない世界観でしか遊ぶことができなかったからだ。
ゲームの中で魔法を使うことなどできないし、空を飛ぶこともできない。
ゲームに出てくるかっこいい技を颯爽と繰り出すこともできないし、肉体もどんなに上方修正しても現実の自分に毛が生えたレベルでの動きしかできない。
敵として出てくるキャラも、ドラゴンなどもってのほか。空想生物を登場させることは禁止されていたので、現実にいる動物などしかでてこなかった。
たしかに現実ではためらうような危険な遊びも容易にできる。
本来なら特殊なライセンスが必要なことも、仮想現実の中なら無許可で自由にできるのは魅力であり、そこを絶賛し心から楽しめる人も大勢いた。
現実で肉体を鍛えることでバーチャルでの肉体も動かしやすくなると運動する人も増え、逆に健康的だと言う人までいるしまつ。
けれどだ。あのゲームの世界に入り込み、派手な魔法や技を繰り出して、凶悪なモンスターを倒して冒険する。
そんな夢を見ていた中二心を抱えた者たちからすれば、「違う、そうじゃない」──と言いたくなるのは致し方ないことではなかろうか。
だが転機が訪れた。
日本が誇る大企業『Eight Waves』──通称EW社が、現実からどれほどかけ離れていても、そのバーチャル世界の時間を現実より早めたりしたとしても、脳への負担もなく、現実に仮想現実を引きずることもなく、安全にバーチャル世界を楽しめる技術を開発。
科学的にも安全性が証明されたとあって、その技術を導入したものに限り国も規制の緩和を容認した。
さらにEW社はもともとゲーム事業にも手を伸ばしていたため、その技術をふんだんに使った、まさにファンタジー世界を夢見た者たちが望んでいたフルダイブ型VRMMORPGの制作を発表した。
その名は『Become Monster Online』──通称BMO。
直訳してしまえば、オンラインで化け物になる──である。
このゲームの一番の特徴としてあげられるのは『進化システム』。
これはざっくりと言ってしまえば、人間はもちろんのことエルフやドワーフ、獣人などの創作物で有名な種族から、ゴブリンやオークといったモンスターなど、さまざまな選択肢から初期種族を選ぶことができ、それらの種族となって仮想世界を冒険していき、特定の条件を満たすことでさらに上の種族へと進化することができるというもの。
さらに進化先も進化条件も複数用意されており、プレイヤーの行動次第で同じ種族を選んだもの同士でも全く違った姿かたちへと成長していくのだ。
その進化先によっては現実と変わらない人からはじめても、これまでの仮想現実の常識を大きく覆し、現実の情報など一切無視した人型ですらない化け物にだってなれてしまう。
もちろん条件を満たす必要こそあれど、何に進化するかはプレイヤーが好きに選択できるので現実的な人の姿を維持したままプレイもできるが、それでも仮想の肉体は現実離れした力を持った化け物へと進化していく。
また性別も無視して男性が女性に、女性が男性になることだってできてしまうし、手の平サイズの小人から見上げるほどの巨人になることさえ可能だ。
今までは、これらすら絶対にありえなかった。
さらに敵として出てくるモンスターも多種多様。
現実ではありえない存在──ゲームで定番のスライムやゴブリンからはじまり、悪魔や天使、鬼や竜までなんでもござれ。
まさにファンタジー世界への旅を夢見ていた者たちの理想郷が、そこにはあった。
そんなこともあってベータテストへの参加申し込みがはじまる頃には、世界中から申し込みが殺到しサーバーがパンクしたほどだ。
やがて抽選によって厳選された一握りのプレイヤーだけが先行体験を許され、その新しい仮想現実の幕開けに一足先に踏み入れた。
選ばれなかった者たちはプレイ初日からネットを通じてその体験談を、悔し涙を浮かべながら隅々まで見ていったという。
評判はベータテストからほぼ全ての人が大絶賛。ベータテスト終了時に行われたアンケートによる満足率は、余裕で九〇%越え。
「これだよ、これ!」「やっと俺たちの冒険がはじまる!」などなど、多数の好意的な意見がネット上に大きく広がった。
しかし一つだけプレイヤーたちが、なんでこれを実装した?という疑問や批判の声を寄せた項目があった。それは難易度選択だ。
このゲームは仮想現実の世界で自分の体となる仮想体──つまりキャラクターをクリエイトする前に、まずは自分がどんな種族ではじめたいかを選ぶことができる。
そしてその後に、その種族の中でもどういった血筋の存在として生まれるか──『血統』を選ぶことになる。
その血統の選択によって大きくプレイ環境が変わり、以下のような5つの難易度としてゲーム内に反映されることが選択画面に記述されていた。
第一血統──『王族種』。難易度『Very Easy』
とりあえず仮想現実世界でのMMORPGを体験してみたい人におすすめ。
進化ルートはほぼ一本道で難しいことを考える必要もなく、取得経験値も多いのでレベルもガンガン上がり、ただレベルをあげていくだけでどんどん進化していく。
初期ステータスが高く敵の行動パターンも少ないので、序盤の敵は最初から相手にならないだろう。
ただし進化先の選択肢は最も少なく、種族が変わるような特殊な進化は望めない。最終的に特殊な技能がない平均的な種になるだろう。
のんびりと世界を練り歩くだけならこの種でも問題ないが、他難易度を選んだプレイヤーとのPVP、やりこみ要素である高難易度ボスを倒すのは難しいので、隅々まで楽しみたい人にはお勧めできない。
第二血統──『貴族種』。難易度『Easy』
手軽にこのゲームを楽しみたい人におすすめ。
王族種ほどではないが、こちらも進化ルートは限られているので難しく考える必要はなし。取得経験値も多めに設定されている。
全ての進化条件も、王族種と同じくレベルを上げるだけで事足りる。
初期ステータスも高めで敵の行動パターンも少ないので、序盤の敵ならすぐに全て蹴散らせるようになるだろう。
進化先の選択肢は少ないが、王族種よりは少しだけ多く存在する。
けれどこちらも種族が変わるような特殊な進化先はなく、そこまで特殊な技能を有することもない、王族種よりは多少個性を持っている……程度のキャラクターになるだろう。
のんびりと世界を堪能したり、他のプレイヤーより上を目指さずまったり遊ぶだけならこの種でも問題ない。
しかし王族種と貴族種以外の難易度を選んだプレイヤーとのPVP、やりこみ要素である高難易度ボスを倒すのは難しいので、隅々まで楽しみたい人にはお勧めできない。
第三血統──『一般種(普通種)』。難易度『Normal』
迷ったらこれ! 運営おすすめ!
適度な進化難易度に適度な初期ステータス、適度な取得経験値量。強すぎず弱すぎず、ほどよい歯ごたえを楽しめる。まさにノーマルな血統。
進化先の選択肢も王族種や貴族種よりもずっと多く存在し、進化ルートによっては初期の種族の面影すらないような特殊進化先も複数存在する。
自分のやりたいようにのびのびプレイしていれば、きっと自分に適したキャラクターになっていることだろう。
またある程度進化先を見越してステータスを厳選していくことで、より強いキャラクターへの道が開かれる。
第四血統──『劣等種』。難易度『Hard~Very Hard』
難易度が高くても強いキャラクターを目指したい! という人におすすめ。
最初期は弱く、序盤の敵にすら苦労する。さらに取得経験値も少なめなので成長も遅い、まさにハードモードな血統。
さらにより自分の望む進化先を厳選していくと、進化条件の難しさはまさにベリーハードの領域に。
敵の行動パターンも一般種以上の血統よりも増え、戦闘の難易度も上がってしまう。
ただし! そこまでやりこんでいくことで、一般種以上の血統では到達できない非常に強いキャラクターへの進化先が開けてくる。
この難易度で極めていくことができるのなら、ゲーム内でもトップクラスのプレイヤーへと至ることも可能だろう。
第五血統──『モドキ』。難易度『Hell』
運営非推奨!! 絶対に選ぶべからず。ゲーム内設定的に項目を設けているだけ。
初期は全ての生物において最弱にして、進化条件は鬼畜という言葉でも生ぬるい。
経験値の取得量も最低で、進化するまで劣等種以上の難易度を選んだプレイヤーと共闘すると全てそちらに経験値やドロップアイテムまでも強制的に持っていかれてしまうので(後で受け渡しも不可)、他難易度を選択したプレイヤーに協力してもらうことすらできない。
敵モンスターの行動パターンは劣等種よりもさらに増し、その難易度もより高くなる。
一度選んでみるのもいいが、すぐに後悔することになるだろう……。
ただもし万が一、億が一、この難易度で進化をなすことができたのなら……、それがどんな進化先を選択しようと間違いなく、そのプレイヤーは最強の一人として数えられるようになることは間違いない。
※注意※
運営サイドはこの難易度を選ぶことを絶対に推奨いたしません!!
またこの難易度については、批判も意見も全て受け付ける気はありませんし、この難易度に手心を加えることも今後絶対にありえません!!
もしこの難易度を選ぶというのなら、その点を全て理解したうえでプレイされたものと、こちらは認識いたしますのでご注意ください。
つまり難易度が高ければ高いほど、ゲームを進めるのが難しく進化条件も難しくなるが、最終的に強くなれるよ──ということ。
なのでその理論で言えば第五血統である『モドキ』で進めていくことができれば、第四血統以上のプレイヤーよりもスペックの高いキャラクターになれるということになる。
なのでベータテストでは、どうせなら最強を目指したいと『モドキ』の血統を選択するプレイヤーが多数現れた。
その中には他作品で名の知れたプロゲーマーも何人かいて、とにかくこういうゲームならば自信があるという猛者も挑戦していった。
だが難易度地獄は伊達ではなかった。
そもそも最初期の最弱モンスターにすら歯が立たず、一撃当てられるだけで死んでしまう。
何十という死を乗り越えて最弱モンスターの行動パターンを全て記憶し、一撃も当たることなく1体に対して数十分殴り続けることでようやく倒すことができても、経験値はほぼあってないようなもの。
一レベル上げるだけで、とんでもない時間と労力を要求されるのだ。
最初に少し触るだけで、運営サイドはこの難易度でプレイさせる気はないんだなと嫌でも理解させられる。
挑戦したプレイヤーたちの中には激怒し、注意書きに批判は受け付けないと書かれていたにもかかわらず、長文の抗議文を何通も送り付けた者もいたほどだ。
であればそもそも設定云々があろうとも、項目に入れなくてもいいのでは? 選べるせいで時間を無駄にした。なぜわざわざ、そんな難易度を選べるようにしているのだろう。実は裏道があるのではないか?
そんな疑問や批判が運営へと寄せられることになったが結局、本サービス開始になってもそれらに対しての解答は一切されることはなかった。
もちろん、注意書きに書かれていた通り、一切の手心も加えられることなく。
かくしてBMOは、そのような疑問を残したまま世界初のファンタジー要素を取り入れた仮想現実型VRMMORPGとして、世界中の注目を集めながらサービスを開始した──。




